エミリオをバッドの拳が振りぬく。 紅葉ルウシィのキックが、蒼燐のダブルキックが飛ぶ。 ソーニャは叫んだ「やめて!」 「うちがそんなものつかうか!」バッドは転がっていくエミリオを叱りつける。 /*/ それは当初は、平和な小笠原の一ページとなるはずであった。 /*/  風呂あがり、浴衣に着替えた紅葉ルウシィ以下一行は、 リワマヒ国の蒼燐が配るコーヒー牛乳を楽しみつつ、 花火を見物に天文台まで向かった。 能動式レーザー天体望遠鏡「たんぽぽ」は、 小笠原の天文台にて放置されている巨大レーザー砲だ。 人類史上最大最高の出力を誇るそれは元来、黒い月を観測するために 建造されたものであったが、今はその放熱板を広げ、一行が花火を見るための 露台となっていた。 「落ちて怪我しないでくださいよー?」「気をつけてくださいね?…?(おろおろ)」 世界忍者国の緋乃江戌人、紅葉国の結城玲音が心配する中、 一行は花びらのような放熱板の上に乗った。 「うぉ、高いなぁ」「いい眺めだね」 紅葉国の神室想真が下を覗く。それに声をかけるのはakiharu国の阪明日見だ。 紅葉国藩王、紅葉ルウシィは縁に立って 「おー高い高い」 などとひとり高度を満喫していた。風にはためく浴衣も似合うルウシィであった。 「下に居る皆も早く来てよ?!」「落ちないように気をつけてねー」 そう声をかけるのは世界忍者国のソーニャ・モウン艦氏族デモストレータと FEGの川原雅だ。 「はいはい、そう急かさないで下さい・・・。」 マイペースを保ち登ってくるのは世界忍者国の緋乃江戌人。 「う…登らないと駄目ですか…」しり込みする紅葉国の結城玲音に対し、 たんぽぽの上から神室想真が声をかける。 「ゲリラなんだから、これぐらい楽だろう?」 「そうですけど〜……」 全員が一列に並んだ頃、最初の花火が上がった。 正面より受ける爆発音とまたたく閃光。露台の高さもあってか、興奮する一同。 「わはは猫の旗を立てろー」紅葉ルウシィはもう酔っ払っていた。 普段は高空で響く花火も、心なしか間近に感じる。 花火があがる。上がる歓声。 「たーまやー」「た〜まや〜!」「たまやーー!」「かーぎやー」 「そういえば、『たまや』と『かぎや』ってどういう意味なんですか?」 ソーニャがたずねる。 方々から答えがあがる。 「昔、日本にあった花火屋さんの名前・・だったかしら」川原雅が答えた。 「へえ」エミリオは感心した。 星を残しながら散っていく光の花々。 「綺麗ですねぇ……」結城玲音がつぶやく。 「登ってきたかいがありましたね」阪明日見はうなづき返した。 「花火は物悲しいな」 皆が花火に見とれる中、傑吏がひとりつぶやく。 もとより誰に聞かせるでもなく、皆も傑吏をそっと…… 「詩人なんですねー!」 そっとしておかないのが斉藤奈津子であった。 嫌味で返す傑吏だったが、これも奈津子にはまるで通じない。 落ちかける傑吏。蒼燐がつかむ。 一同は乾いた笑いを残しながら彼の兄を思い、 傑吏は盛大にため息をつくのだった。 花火が上がる。ひとつ。またひとつ目前に上がる。 花火を見ながらソーニャは思い出した。 「………そう言えば確か後一人来る予定の人が居た気がするんだけれど………」 あたりを見回す。 エミリオは花火そっちのけで、ソーニャを見ていた。 すれ違う視線。 そっと二人から離れる神室想真。 「そういえばバッドさんお誘いしたはずなんですが……」蒼燐が言う。 「黒の方…どこかで見ました…?」結城玲音は思い返すが、思い出せない。 さもあろう。 その顛末であったかは別稿にゆずるが、一行は祭りに来ていながら 縁日に繰り出すこともなく、 あのキチン質によろわれた平たい黒いもの、の対策ばかりしていたのだから。 ともあれその頃バッドは縁日でコロッケを売っていた。 「かれんちゃんにコロッケ屋を持ってきてもらいましょうか」笑顔で言うルウシィ。 「了解・です」たんぽぽから飛び立つかれん。 そのまま高度を保って直進し、直進、、、 爆発。 かれんは花火に撃墜された。くるくるとおちていくかれん。 「きゃー!かれんちゃんー!!」「キャー」「た、たすけにいかないと」 二人の時間に気を取られ出遅れたエミリオとソーニャをおいて かれんを助けに向かう一同だったが、 歩いてくる、エプロンをつけた巨漢の男に担がれたかれんを見る。 「派手な迎えだな」巨漢の男、バッドは売れ残ったコロッケを皆に振る舞いに来たのだった。 歓声をもってこたえる一同。近寄るルウシィ。 が、かなり昔に、愛を殺した男に金の林檎は効かなかった。 笑顔のルウシィにはそれがなぜなのか、分からなかった。 皆の手にコロッケが回る。 「はい、エミリオ。コロッケどうぞ」 ソーニャの差し出すコロッケを、やや紅潮した顔をしながら手に取るエミリオ。 かじる。ほおばる。 エミリオを見つめるソーニャ……。 「いいゴキブリの味がするね」 そう答えたエミリオだった。 凍る空気。 携帯でICBMを呼ぶ千葉。エミリオとの距離を詰めたバッドはエミリオを…… /*/ 事態が落ち着いたのは神室想真が千葉の携帯電話を奪い、 千葉をルウシィが拘束してからだった。 慣れた様子でかれんちゃんを治療、いや修理するサーラ先生。 「ふー、いい仕事した」つぶやく紅葉ルウシィ。 「エミリオ、大丈夫?」ソーニャと緋乃江戌人はエミリオを介抱する。 結城玲音はかれんの心配をしていた。「かれん様は治りますか…?」 「ガガガ」 直らないかれん。「音声ガイダンスにしたがって再インストールしてください」 首を少し傾げるサーラ。騒然とする一同。 「音声ガイダンスにしたがって再インストールしてください」 「音声ガイダンスにしたがって再インストールしてください」 「ついに私の出番ですね」斉藤奈津子が立ち上がる。 あわてる一同。 斉藤の医療の(逆の意味での)腕の確かさは皆知っていた。 「いえ、まだ此処は私めに」緋乃江戌人が止めようとするが。 「万事この斉藤におまかせください!」 「キャー!」「きゃー!かれんちゃん!!」「なんとっ!?」 「や、やめ…っ!?」「わぁ…;」 斉藤は3回転した後、45度チョップ。 「ぴー」かれんは変な声を上げる ・ ・ ・ 「あ。すみません。気を失っていました」 状況が分からず困惑するかれん。 素直に喜ぶ斉藤。 一同が奇跡だ、旧型テレビだうちの高神と一緒ださすが日本製だと口々に言う中、 サーラは遠くで体育座りして全ての自信を失っていた。 /*/ いくつもの花火があがっている。轟音、また轟音。 スイトピーと蒼燐、神室想真、阪明日見がサーラをなぐさめる様子も、 川原が千葉の100の携帯を全部捨てる仕草も、 ルウシィが千葉を上段回し蹴りでたんぽぽから落とす姿も。 すべては美しく彩られた光と音に照らされ、うたかたの夢のように、 宵闇へと消えていった。 最後の花火があがっていった。