前回に引き続き、ブラッフォードですが、ちょうど1980年発表ということで、ブリティッシュジャズロックの転換期におけるある種の限界と言ったら良いか、最終到達地点と言ったら良いか、そのようなアルバムなので、ちょっちょ一言紹介しておきます。
ブラッフォードのスタジオ録音盤2作目にして最終作のこのアルバムは、前段落でも書いたようにニューウェーヴ全盛の1980年に発表されました。サウンドは、それまでの彼らの作風からは一歩踏み込んだ作品となっているように思います。どう踏み込んでいるかというと、プロデューサーにロン・マロを迎えているということもあり、アメリカのフュージョン、とりわけウェザー・リポートあたりのニューヨークの音を意識したサウンドになっているということです。ジェフ・バーリンが自らボーカルを取り歌っている曲もあるので、非常に歌心に溢れた、表面的にはポップなアルバムとなっています。
しかし一筋縄でいかないのがこのバンドの面白さ。きちんと時代に対応したサウンド構築をしています。じっくり聴くとニューウェーヴの連中と何ら変わりない音をデジタル技術を最小限に抑えて人力で繰り出しているのです。このあたりは、このバンドが解散した後ビルブラッフォードがロバート・フリップらと組むディシプリン(後にキング・クリムゾンと改名)でも同じ事をしているので、彼らが唯一無二ではないのですが、妙にその後のビルブラッフォードの80年代のプレリュード的作品と取ることも出来るのです(1987年発表のソロ名義の「アースワークス」(実質アースワークスの1stアルバム)もウェザー・リポート風ということもあります・・・・・・)。つまり、再結成クリムゾンの持っていたアメリカンロック的というか、アメリカンフュージョン的な雰囲気は、何もエイドリアン・ブリューが持ち込んだだけではないのだと思うのです。
同じく、デイヴ・スチュワートにとっても、この後現在までバーバラ・ガスキンと組んで行っているポップデュオであるスチュワート&ガスキンのプレリュードと取れます。デイヴ・スチュワートはこのバンドの解散後それまでの自分のやってきたことを集大成して当時流行りのニューウェーヴサウンドを逆手に取ったようなサウンドでどんどんとヒット曲を連発する訳ですから、そういう風に見ていくと侮れません。デイヴ・スチュワートのアレンジャーとしての能力はハット・フィールド・アンド・ザ・ノースのことから分かっていますから、このブラッフォードを経てようやく開花させることが出来たと見るべきでしょう。そして、このアルバムが、彼のポップな面を開花させる原動力となったということが出来ると思います。
ということで、時代への呼応を見せた意欲的な作品であるとともに、その後のメンバーの活動の基礎となった作品でもあるのですが、その一方、結局これだけの野心作を作りながら解散せざるを得なくなってしまったのは、どんな風にこの作品を作ろうと、当時若者達がオールド・ウェーヴと揶揄してこき下ろしていたサウンドが根底に流れているのが分かってしまうサウンドだったからでしょう。それが、このバンドの限界点であると同時に、70年代型のブリティッシュジャズロックの限界だったのでしょう。つまりその後、そのオールドウェーヴ的な要素をそぎ落として(もしくは、パロディ化して)、再結成キング・クリムゾンやスチュワート&ガスキンは、80年代型ブリティッシュジャズロックとして再出発したのでしょう。過渡期ではなく転換期の一つの事例というか、ボーダーラインのアルバムの好サンプルとして評価するのが面白いと思います。
Created: 2002/06/23
Last update: 2003/12/02
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