ようやくここに来て一般的にいわれている大物に手を出すことにしました。それがこの、キング・クリムゾン「太陽と戦慄」です。キング・クリムゾンのアルバムは数多くあり、そのどれもがジャズフレーバーにあふれたブリティッシュジャズロックの名盤なのですが、キース・ティッペットやマハヴィシュヌ・オーケストラの影響をあからさまに表しながらも独特の路線を貫いた、ジャズロックの世界のみに留まらず、ブリティッシュロックの世界の名盤中の名盤のこのアルバムから紹介するのがまさにこのサイト流でしょう。
さて、このアルバムは1973年にリリースされましたキング・クリムゾン通算6枚目のアルバムで、2度めの大幅なメンバーチェンジの後の作品です。この時のメンバーはリーダーのロバート・フリップ(ギター、メロトロン)、ビル・ブラッフォード(パーカッション)、ジェイミー・ミューア(パーッカッション)、デイヴィッド・クロス(ヴァイオリン、メロトロン)、ジョン・ウェットン(ベース)でした。奇しくもジャズロックの名人奇人達が固まったようなメンバーで録音されたアルバムだけに、様々な要素がミクスチャーされた内容になっています。
たった6曲の収録なので、一曲ずつ一口解説していきます。1曲目の「太陽と戦慄パート1」は、二人のパーカショニストがパーカッションで空間を埋め尽くし、装飾の役割のキーボード&ギター&ヴァイオリン、リードはエレクトリックベースという、このメンバーならではの構成の曲と言えます。フリーキーなソロと、ハードロッキンな(を通り越してヘヴィー・メタリックな)アンサンブルのテーマが絶妙なタイミングで交差します。2曲目の「土曜日の本」は、一転してフォーキーな美しいメロディを持った小曲です。本当に繊細でちょっと触ると壊れてしまいそうな雰囲気の曲なのですが、ジョン・ウェットンの歌声が自信に満ち溢れているということもあって、意外と力強く聞こえるから不思議です。そして、3曲目の「放浪者」は、これまた美しいメロディを持った曲なのですが、デイビッド・クロスが、前衛ヴァイオリン奏者としての面目躍如を果たしています。それが、この曲でも力強いジョン・ウェットンの歌声と絡むと静と動の微妙な関係が目の前に構築され、それが有機的に私たちの耳に入ってきます。4曲目は、モノの見事なハードロックナンバーの「イージー・マネー」です。ジョン・ウェットンの力強い歌声が一番機能的に働いた曲でしょう。いつにも増してメロトロンが攻撃的ですし、パーカッションも大暴れしています。最後の2曲は一曲といって良い位のメドレーなので、一遍に紹介します。「ザ・トーキング・ドラムス」〜「太陽と戦慄パート2」で、パーカッションとベースが微妙なニュアンスのリズムを刻む中、ヴァイオリンのフリーキーなソロが段々と力強くなっていき、そこに途中からギターも割り込んできて、最高潮の地点で次の曲へ移ります。ヴァイオリンの断末魔の叫びに導かれてハードロッキンなギターリフと共に、このアルバムで一番有名な「太陽と戦慄パート2」が始まります。ギター主体の荒々しいパートと、ヴァイオリン主体の繊細なパートが交互に現れてオープニングナンバーの「太陽と戦慄パート1」より構成はかっちりしています。「太陽と戦慄パート1」は13分にも及ぶ長尺の曲ですが、こちらは6分足らず。かなり練り上げてコンパクトに纏めたように感じます。曲がフリーキーなジャズロックから、静と動のバランスを大事にするハードロックに変わったのだと思います。
以上がここの曲の一口解説でしたが、ここでアルバムの全体像を掘り下げたいと思います。このアルバムは冒頭でも書いたように、キース・ティペットや、マハヴィシュヌ・オーケストラの影響を隠していません。それは「太陽と戦慄」の2パターンでも分かるように、かなり乱暴ですが、パート1がキース・ティペット風、パート2がマハヴィシュヌ・オーケストラ風ということが出来ます。そのほかの曲のリリカルな面は、メロディ命男のジョン・ウェットンが持ち込んだモノでしょう。全体に漂うフリージャズ気質はデイヴィッド・クロスや、ジェイミー・ミューアの持ち込んだモノだし、硬質のジャズロックサウンドは残りのメンバーの持ち込んだモノでしょう。つまり、まさにメンバー全員の個性が等しくとはいいませんが出た作品といえます。
ということで、このアルバムはジャズロック、ハードロック、フォークロック等様々なロックに対応できる希有な存在のアルバムといえ、ジャズロックに興味があるのなら聴いてみて損はないし、ジャズロックしか知らない人でもそれ以外のサウンドへのアプローチの一歩にはなるでしょう。
Created: 2002/07/09
Last update: 2003/12/02
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