前回に引き続きキング・クリムゾンです。このシリーズは次回まで一応続く予定です。それで、「太陽と戦慄」「暗黒の世界」「レッド」の三部作を一気に紹介したいと思います。
さて、この「暗黒の世界」は「太陽と戦慄」に次ぐキング・クリムゾンの7枚目のオリジナルアルバムで、前作からいうと、ジェイミー・ミューアが脱退し4人になってからのアルバムということになります。このアルバムは、ある意味キング・クリムゾンの即興を司っていたジェイミー・ミューア脱退後ということで即興が弱くなったところがあるのですが、このバンドはそれを逆手にとって構築と即興のバランスの妙を聴かせるアルバムに仕上げたのです。そこら辺をこれから簡単に書いてみましょう。
このアルバムは6曲がライブ録音をスタジオで加工した曲で、残りの2曲がスタジオのみで録音されたものです。しかも、ライブ録音の曲は2曲を除き全てライブ中の即興演奏に名前を付けたものです。つまり6:4で即興が多いという割合で、これが当時のキング・クリムゾンの状況でした(詳しく知りたい方は、キング・クリムゾンのライブ録音ばかりを集めた4枚組BOXセット「ザ・グレート・ディシーヴァー」を参照して下さい)。しかも、これは即興とはいってもジャズのそれとは違いますし、ロックでの即興(例えばクリームとか)とも違います。つまり、新しい形の即興を提示してくれています。そして、それらがスタジオの中で作り上げた音と絶妙な具合で混ざり、どちらにも偏りすぎないとてもバランスの良いアルバムだと思います。ライブテイク使用部分のオリジナルの録音(「ザ・ミンサー」を除く)は後に「ナイト・ウォッチ-夜を支配する人」というタイトルのライブアルバムに収録されましたが、それを聴くとなおさらこのアルバムの完成度が分かります。
さて、このアルバムの収録曲の一口解説をしていきます。1曲目の「偉大なる詐欺師」は、エレクトリックヴァイオリンとエレクトリックギターのユニゾンによる強烈なリフから始まるハードロックナンバーです。マハヴィシュヌ・オーケストラからの影響をうまく消化して血肉に出来た証拠の曲です。2曲目の「人々の嘆き」は、最初はちょっと暗めの静かな感じで始まって、ドラムのフィルに導かれて強烈なハードロックに変化します。ギターの裏で隠し味的に響くエレクトリックピアノ(もしかしたらメロトロンのピアノの音色かも・・・・・・。判断が付かない・・・・・・)がジャズロックファンの魂を揺さぶるでしょう。3曲目の「隠し事」は完全な即興で、どちらかというとロック的な即興です。手数の多いドラムと、これでもかという位ヘビーなベースリフを基調としてそこに強烈なギターが乗ってきますから、ジャズから借用したロックのインプロヴィゼーションの一つの完成系をそこに見て取っても良いでしょう。次の4曲目は、「夜を支配する人」です。分厚いメロトロンのイントロから、ひたすらスローでメローなコーラスに背筋がぞっとする雰囲気が味わえます。AOR的なノリを持ちながらも、ここまで静寂感漂う雰囲気に出来るのはさすがキング・クリムゾンといったところです。次の5曲目は「トリオ」です。ドラムレスのトリオ演奏の即興です。メロトロン、ヴァイオリン、ベースで作ったこの曲は、ベースはフォーク的な感じなのでしょうが、結果としてまさに究極の美に仕上がっています。ヴァイオリンの東洋的なフレーズとそれをなぞって追いかけるメロトロンの絡みが聴き手を幻想の世界へ誘います。6曲目は「詭弁家」です。「隠し事」と同じく非常に力強いインプロヴィゼーションです。はねるようなジョン・ウェットンのベースが非常に耳に残ります。7曲目の「暗黒の世界」は、これまた完全な即興ですが、印象としてはエレクトリックなフリージャズというか、とにかくそういった雰囲気で、感覚的には聴くものを暗黒の世界へ持っていくのに十分なエネルギーを持った曲です。最後の8曲目の「突破口」は、これもインプロ作品かと思いきや、ほとんどが事前に構築された構成力の非常に高い曲です。最初はギターのアルペジオから入ってヘヴィーなテーマへ移行して次々と変化するという構成は「太陽と戦慄、パート1」と同じですが、あの曲の持っていたジャズロック気質がかなり硬質になり、力強さの目立つ曲になっています。徹頭徹尾飽きさせない構成力を持った曲ということが出来ます。
1曲目2曲目以外は全てライブに加工という形ですが、ある意味、キング・クリムゾンのジャズロックバンドとハードロックバンドとしての両方の魅力を一番バランス良く配置したアルバムといえます。
Created: 2002/07/16
Last update: 2003/12/02
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