【任せた責任者には労務トラブルを起こさせない。】 H1708 |
経営者の方によっては、法的な知識や経験が豊富な方がいます。 また、どちらかというと、トラブルに対し、経営者としての“勘”が働くようです。 ところが、雇われの身となると、こと労務に関しては、意識が希薄になるようです。 折角、その能力を見込み、任命した責任者が労務トラブルを発生させ、無用なエネルギー消耗させないようにしましょう。 その為には、ある程度の労務知識の提供や相談窓口を設けることが必要と思います。 【事例】 ※内容は全て事実と相違し、脚色してあります。 社員のA君はやる気満々。その実績が買われて、あるコンビニ、3号店の店長に抜擢されました。 社長の期待に応え、なんとか業績を伸ばしたいA君。 その努力のかいあって3号店の業績もあがってきました。 その3号店にパートタイマーとして勤務するB子さんは、おしゃべり好きな30代の主婦。 コミュニケーションが大事と、お客さんとも、よくおしゃべりをしていました。 もちろんパート仲間からも慕われていました。 そしてB子さんは、ブスッとしているけど、いつも一生懸命の店長を、少し好ましくも思い、自分がコミュニケーションの面でフォローしているという自負がありました。 一方の店長A君は、商品の品揃え、陳列や店を清潔にすることが大事と思っていましたから、おしゃべりが多いB子さんを日頃から「注意しなくちゃいかん」と思っていました。 ある日、近所のおばあさんとの話に夢中になってしまったB子さん。 レジ前に、いつの間にかたくさんのお客さんが並んでしまい、店長1人で対応しているのに、まったく気付きませんでした。 しばらくして、お客さんがいなくなると、激怒していた店長A君は、B子さんに、「明日からこなくていい!」と怒鳴ってしまいました。 店長A君は、怒鳴ってしまったことを反省しつつも「強く注意したのだ。B子さんのためでもあるのだ。それで退職しても仕方ない。」という思いでありました。 店長A君自身も何回か「明日からこなくていい!」と言われたことが有りますし、それで発憤したこともありました。 店長A君の激怒は、もっともな事ですが、自分がフォローしていたと思っていた店長にプライドを傷つけられたB子さんは、非常に感情的になってしまいました。 パート仲間に、泣きくじゃりながら、「店長ってひどいのよ。確かに私も悪い。けれど『辞めてしまえ!』はないじゃない。少し前に辞めたC子さんにもきっと同じことを言ったんだわ。女性をバカにしているわ!」と訴えるのでした。 このとき「明日からこなくていい!」は「辞めてしまえ!」になっていました。 日頃、B子さんを慕っていたパート仲間は5人は、「絶対許せない!こんなお店みんなで辞めてしまいましょう。」ということになりました。 5人の突然の退職申出に、ピーンときた店長は、「やめろ、やめろ!」とあっさり了承してしまいました。 どうやら一生懸命に仕事をする男性に限って、少し心がかたくなってしまうことがあるようです。 そして、もともと近所の主婦であるパート仲間。A店長の横暴さの噂が、さらに輪をかけ近隣に広まったことは言うまでもありません。 さらにインターネットが得意のB子さん。 インターネットで調べると、どうも不当解雇に相当する。解雇予告手当も貰っていない。 「でも店長や社長に、いまさら直接会うのは、絶対イヤ。」 そこで、やはりインターネット上で、内容証明を書いてくれるC行政書士を探し出しました。 C行政書士は、B子さん本人名で書くことを条件に、B子さんの「解雇予告手当請求の内容証明」作成を快く了承しました。 (当事務所では、初めてお会いする方の内容証明作成代行は行っていません。) ある日、突然、代表取締役あてに送られて来た「解雇予告手当請求の内容証明」にびっくりしたのは、社長。すぐさま3号店店長のA君を呼び出しました。 A君は「それに該当する事実はあったが、それほどのことだと思わなかった。」「最近、近所の主婦が来店しなくなった」「急にパートタイマーが6名辞めたので勤務シフトがきつく、募集をしたが、思うように集まらず、どうしたらいいかわからない」などうち明けました。 A君の行ったことは、社長には十分理解できました。もっともな事だと思いました。 そして、少し前までは、雇われる側から、この様なことで問題にされることもなかったのです。 この相談を受けた社会保険労務士の私は、「『辞めてしまえ』と言った訳でもないのだから、理屈のうえでは、すぐに解雇予告手当につながらない。裁判などで、その正当性を争うことは出来るが、会社の発展と社長の精神衛生を考えたら得策ではないのでは。まず、B子さんに納得してもらうことが大切だと思う。」と伝えました。 社長は、しばらく考えたあと、B子さんに電話をし、直接会って話しをすることにしました。 解雇予告手当相当額を支払うことになりましたが、B子さんは自分にも悪いこところがあった事を反省し、多少なりともA店長の考え方にも納得しました。 社長は店長会議で、今回のことを話しつつ、集まった店長たちに「今後、労務トラブルにつながる恐れがあるような発言はせず、問題があったら、すぐに社長と相談すること。社長と連絡が出来ない時は、他の店長に相談すること」を指示しました。 そして、問題意識をもってもらうためには、店長たちに、普段から、社長のほうから問題はないか質問したり、ある程度の労務知識をもってもらうことが必要と感じました。 しばらくして、このコンビニ3号店の業績は回復したそうです。 私は、このコンビニのカレーパンが好きで、その店の前を通るとつい、立ち寄り買ってしまいます。 |