■新入社員を雇い続けるかどうかの見極めは、法定試用期間中に行う。
【事例】※内容は脚色してあります。

 Aさんは脱サラをしてコヒーショップを始めました。

 と言っても、最初は、どの位、忙しくなるかわからなかったので、接客業の経験のある奥さんと妹さんに頼み込んで店員となってもらうことにしました。

 はじめて、しばらくすると、その雰囲気が良いからか、結構繁盛するようになりました。

 そこで、オーナーであるAさんは、スタッフ増員の必要性を感じ、お店の前に「スタッフ募集」の張り紙を出しました。

 すぐに、応募して来たのはB君です。

 面接してみると、接客業の経験はなく、少し気弱そうであるけれども、真面目に見えました。

 「明日から来てください。でも、最初は試用期間だよ。」と口頭で伝え、採用することにしました。

 B君ははじめての仕事でもあり多少、失敗することもありましたが、まじめに仕事をしており、早くお店に貢献できるよう、教えられたことはノートにつけるなどして、がんばっていました。

 ところが、B君を雇ってから1ヶ月ほどして、Aオーナーの妹さんから、「以前、有名なCコヒーショップに数年勤めていたが、結婚して退職した友人のD子さんが、ここを手伝ってもいいと言っている。」と申し出がありました。

 Aオーナーは、この時、はじめて、妹さんから、「B君と妹さんは、あまり折り合いがよくない」ということも聞かされたのでした。

 それならば、B君に「最初は試用期間だよ。」と言ってあることでもあり、資金面のことも考えあわせると、どう考えても、B君には事情を話し、辞めて貰い、コヒーショップ勤務の経験のあるD子さんを採用したほうが得策であると、Aオーナーは結論を出しました。

 そして、Aオーナーは、今まで働いた分の給与をB君に渡しながら・・・。

 B君はAオーナーの突然の「悪いけど辞めてくれ」の申し出に「しばらく考えさせてくれ。」と店を飛び出していってしまいました。

 翌日も、B君からは連絡がなかったので、 Cコヒーショップに数年勤めていたD子さんに、「明日からさっそく来てくれ」と連絡しました。

 ところが、数日して、B君から「30日分の解雇予告手当を貰っていないので支払ってくれ」と電話がありました。

Aオーナーは驚き、言い返しました。

「最初は試用期間と言ってあるじゃないか!採用して1ヶ月位しかたっていないじゃないか!それに君は戦力になっていないよ。」

 しかしB君は引き下がりませんでした。「法律で決められているものですから。」
 気弱とばかり思っていた、B君の反撃に、Aオーナーはさらに驚きました。

 B君としては、必死でがんばっていましたし、Cコヒーショップに数年勤めていたというD子さんにだって負けないという思いがあったのです。

 それなのに簡単に「辞めてくれ」だなんて。

 一方、 AオーナーはAオーナーで納得いきませんでした。

 「なんで1ヶ月しか働いていない者に1ヶ月分の解雇予告手当を払わなければならないんんだ!」

 そしてAオーナーは、色々書籍で調べたりしていましたが、社会保険労務士である私に相談することにしました。

 私は次のようなアドバイスをしました。

「 14日間の試用期間をすぎて解雇する場合は、試用期間としていても、少なくとも30日前に解雇予告するか、30日分以上の解雇予告手当が必要なのです。」

「今後は14日以内に、解雇すべきかを判断して下さい。それで判断できないということでしたら、事情により3月〜1年間の雇用契約をするとよいでしょう。」

 Aオーナーは、もともと社会的ルールには違反しようとは思っていませんでした。

 Aオーナーは、自分の非を悟り、B君には、30日分の解雇予告手当を支払い、B君のよい点を指摘したり、今後のアドバイスもしました。

 そして、D子さんとも相談し、少し遅れはしましたが、D子さんとは、1年間の雇用契約を、きちんと書面にすることにしました。

 書面にすることによって、なあなあの関係が払拭できて、かえってよかったとAオーナーは思っているそうです。