トラウマ?2

少し時が経ち、やがて私は中学生になりました。
今でもそういった科目があるのかどうかは知りませんが、男子は技術科、女子は家庭科の科目がありました。

技術科では、セル(CDs)の事も習います。
セル(CDs)とは、光を当てると電気抵抗が変化する素子の事です。
夜(暗く)になると自動的に電源のON/OFFが行われるのは、タイマーで動かしていない限り、その素子を使って制御している事が多いのです。

その一例として、公衆電話ボックスの天井に小さな穴が開いていて、そこを塞いで光を遮ると、昼間の明るいときでも蛍光灯が点灯します。
逆に、夜間、懐中電灯でそこを照らすと蛍光灯は消えてしまいます。

「公衆電話などで、機会があったら一度試してみて下さい」
学校の先生はこう言いました。

塾の帰り、私は用意した懐中電灯で公衆電話のセルを照らしてみました。
すると、学校の先生の言ったとおり、蛍光灯は消えました。
好奇心旺盛な私は、どのくらい懐中電灯を近づけたら反応するのかなど、様々な条件で試し始めます。

そこへいきなり、車で通りかかったガラの悪い男がいきなり私の首もとを捕まえ、警察に通報したのです。
「子供が公衆電話からお金を盗もうとしている!」と。
冷静に考えれば、確かに紛らわしい行為だった事は否定できませんが、懐中電灯以外に何も手にしていない状態で、お金が盗めるはずもないことは、よく見れば解るはずです。

その男ともめているうちに、多少の人だかりが出来てきました。
そこへたまたま偶然、さっき通っていた塾の先生が通りかかり、私の無実をその男や周囲の人に説明してくれました。

塾の先生のおかげてようやく現場から解放され、数十メートル離れたところでパトカーがすれ違っていき、現場に停車しました。
そう、さっきあの男が呼んだパトカーです。

現場に到着したパトカーは、当然の事ながら状況を確認し始めます。
すると、私を捕まえたあの男ではなく、野次馬の一人が「あの自転車の子供がお金を盗んだんだ!」と私を指さしたのです。
直接現場を見たわけでもなく、後からのこのこと見物にやって来た単なる野次馬のくせに、私を警察官の前で犯人呼ばわりしたのです。
お金を盗んでもいないし、未遂どころかそのつもりも全然ないのに、周囲の「大人」によって、私は犯人に仕立て上げられてしまいました。

その野次馬の言葉を聞くと、パトカーはいきなり急発進してきて私の行く手を遮り、私をパトカーの中に押し込めようとしました。
警察官は、最初っから私を疑っているわけで、何をどう説明しても相手にしてくれません。

「学校の技術の時間に習ったことを試しただけです。」
そう主張しても、警察官は「学校の先生がそんな事教えるわけないだろう!」と言うのです。
「だったら学校の先生に確認して下さい。」「その必要はない。確かに、おまえがやったんだな?」こういう不毛なやりとりがしばらく続きます。

本当に、学校の先生から「機会があれば試してみて下さい」と言われ、本当に純粋な気持ちでセルの働きの勉強をしただけなのに、どうしてこういう目に遭わされないといけないのでしょう?
それもこれも、「大人」が「子供」の私を、偏見の目で見ている事が発端であり、全てなのです。

やがて、パトカーにも塾の先生が駆けつけて事情を説明してくれ、ようやく私はパトカーからも解放されました。

念のために説明しておきますと、この警察官の行いの中で、何が私を失望させ、不信感をつのらせたのかと言うと、最初から私を疑った事ではありません。
あの状況下では、警察官はとりあえず野次馬の言葉の真偽を確認する時間などなく、とりあえず私のところへ駆けつけるしかなかったのだということくらいは、子供の頃の私だって理解できますから。
私が問題にしているのは、一人の子供に対して複数人で威圧的に接し(百歩譲ってそれは職務上しかたがないとしても)、私の言葉を一切信じてくれなかった事と、疑いが晴れても一言も謝ってくれなかった事です。
警察は、被疑者の言い分など聞く必要がないという規則でもあるのでしょうか?
誤解や誤認(つまり、冤罪)が発生した場合、謝る必要などないという規則でもあるのでしょうか?
規則は無いとしても、そういう不文律的なものはあるのかもしれませんね。
いずれにせよこの時の大人や警察は、一人の子供の心に大きな傷跡を残しておきながら、おそらくはその事にさえ気づかずに、今となっては忘却の彼方となってしまっているのでしょう。

塾の先生への感謝の気持ちはもちろん大きなものがあります(これについては、別の機会に詳しく書きます)が、それとは別に、
「大人も信用できない、警察も信用できない。」
「大人も警察も多人数で、一人の子供に対して平気でよってたかって無実の罪を着せようとする。」
「大人や警察は、自分の間違った判断・行動で人に迷惑をかけても謝らない。」
「大人や警察がそのつもりなら、それに対して従順である必要など全くない。」
「自分を守るのは自分だけだ。」
こういう想いがより一層強くなって行きます。

<このお話はまだ続きます。>