而今   ISSN 1348-351X    禁転載
日本国民誌 創刊1997年04月18日 2010年09月01日現在  第298号発行
クリックすると、該当記事へジャンプします。 第110号  子供を不幸にする方法 第107号  町工場から世界へ 第104号  なぜ中国人は日本人を憎むのか 第102号  ヤンキー、ここにあり 第 93号  死の静けさの国 第 91号  天下の大患 第 25号  北朝鮮に深甚なる感謝を表す 中村勝範博士語録 BACK
中村勝範個人誌『而今』(第110号、2002年8月10日)第1頁より、全文引用 子供を不幸にする方法                                    中村勝範  イエローハット・吉田松陰神社大会の二日目の夜の座談会で、躾・教育の問題がでた。その時も 私は発言したし、閉会式の中の総括(「而今の使命」)の中でもこの問題につき論じた。  私の考え方が厳し過ぎると受けとった人がいたらしいが、私としては、親として祖父母として子 や孫を躾・教育する上の当然のことを述べただけである。  あの時、話しきれなかったことに多少附加するが、次のようなことを述べたのだった。  ここにいる方々は、ほとんど子育てが終わっている。わずかな人がいま子育て中である。  子供を育てる最大の要点は子供が将来、自立した人間になるように育てることである。自分一人 で、人間として立派に生きることができる基盤をつちかってやることである。  そのためには甘やかしてはならぬ。  我々の世代の者の中には、若いころは青年らしい熱い理想に燃えていたのに、結婚するやたちま ち理想は消え、食うこと、寝ること、観光旅行しか考えない者がいないわけではない。  孫ができると、孫が自立できる人間に育つことにいささかの考慮もなく、泣けば菓子をあたえ、 それでも足りなければいたずらに玩具を買ってやる。孫が少し成長すると貯めた小金や年金の中か ら、無闇に金をあたえる。  そのようにして育った子供はわがまゝ放題に育ち、やがて中・高校生になると、祖父母、あるい は両親を脅してでも金をとり、悪に使うようになる。あげくのはては鉄格子の中へ放うりこまれた り、その前に親や祖父母に暴行を加えるようになる。  今日、いたるところに溢れている青少年の犯罪は甘やかされた家庭から発生したものである。必 然の結果であっていささかも不思議はない、我々の年代の者の孫育ては余程注意しなくてはならぬ、 ――と。  以上簡単に述べたが私の持論であり、『正論自由第十五巻――某国の教育、教育の再建』にも書 いてある。ところで恥ずかしながら、つい最近に知ったことであるが、いまから二百五十年ほど前 の大思想家ジャン・ジャック・ルソーは、その名著『エミール』の中において次のように述べてい るとのことである。   「子どもを不幸にする確実な方法はなにか、それをあなたは知っているだろうか。それはいつ   でもなんでも手に入れるようにしてやることだ。すぐに望みがかなえられるので、子どもの欲   望はたえず大きくなって、おそかれはやかれ、やがてあなたがたの無力のためにどうしても拒   絶しなければならなくなる。ところが、そういう拒絶になれていない子どもは、ほしいものが   手に入らないということにより、拒絶されたことをいっそうつらく考えることになる」  二世紀半前のフランスはのどかであった。つらく考えるようになるだけである。いまの日本では 拒絶された子供は凶悪犯罪行為に走るか、親祖父母を殺す。子供をそのようにさせたり、殺された かったならば甘やかしなさい――と、私は大会でいった。どこが厳しいのか。(7・29) BACK
中村勝範個人誌『而今』(第107号、2002年6月12日)第1頁より、全文引用 町工場から世界へ                                    中村勝範  「教えられた書物の数々」の中で述べたことであるが、小学生の頃、大人の大衆雑誌の附録本『 考えよ、そして偉くなれ』は、折にふれて何十回も手にした。多分、私の読んだ書物の中で、この 通俗的な偉人小話集ともいうべき百頁そこそこの小型本以上に私の活力源となったものはない。  敗戦前後に手に入れたアメリカの偉人小話集『成功の哲学』もよく読んだことも前述の連載の中 で述べた。私はこれらの偉人物語を、すべて、丸ごと信じた。書かれているように、努力すること、 不撓不屈であること、正直であること、己に負けなければ誰でも成功者になれると信じて疑わなか った。  いまでも疲れた時や意気沈むた時など二、三頁の成功者の物語を読めばたちまち英雄のように気 魄浩瀚(こうかん。広大)となる。  矢谷長治画伯へのインタビューが載った『到知』本年三月号には、より凄い三鷹光器会長中村義 一氏へのインタビューがあった。『到知』を読み出して以来、この雑誌でこのインタビュー以上に 私を昂揚させた記事はない。  編集者によるイントロの三分の二を掲げる。「見かけは小さい町工場。/しかし、アメリカNA SAに採用された特殊モニターカメラや/ナノ単位まで計れる計測器など/世界最高レベルの製品 を次々とつくり出し、/この不況期にもこなしきれないほど/仕事が殺到しているという三鷹光器」。 インタビュアー自身が話を聴いていて感動している息づかいが、この短文にこもっている。名文で ある。  三鷹光器は従業員三十人の小工場である。中村会長は小学校中退である。昭和五十三年に打ち上 げられたスペースシャトルの観測用特殊カメラは世界中探しても、ここの製品しか基準に合うもの はなかった。  しかし、もう宇宙ものはやめたという。小学校中退のオヤジの町工場でNASA用の製品をつく らせることはなにごとだと、まわりからじゃんじゃんいわれて、それなら一流大学卒の技術者や技 能オリンピックに出たような人間がわんさといる大企業でやったらいいでしょうと、さっさと引き 上げたのである。  「われわれ中小企業はそういうふうにいつも頭を踏みつけられて生きているんですよ」、畑の脇 に生えている雑草は、車が通って踏みつけられても、翌朝にはまた伸びてる、あれと同じだ、叩か れても叩かれても伸びるのだ、と会長はいう。  脳神経の手術は従来、頭蓋骨を切ってパカッと蓋を開けてやって、骨がくっつくのに半年もかか った。それをこの小工場では、頭に小さい穴を開けるだけですむ手術顕微鏡を開発した。痛みは少 ないし、一週間で退院し、仕事ができる。  世界トップの仕事を開発しつづけるので、日本国内はおろか外国からも注文殺到で応じきれない。 入社を目ざし優秀な学生がこれまた殺到するが、入社試験はおもちゃ屋で売っている模型飛行機を つくらせて、墜落したら駄目。採用できるのは三十人に一人しかいない。不器用では役に立たない。 学歴や資格を持つ者は使いづらい。素直な人間が一番いい。この会社で最高の給料取りは中卒の部 長である。七十歳の会長の睡眠時間、一日四時間。(6・3) BACK
中村勝範個人誌『而今』(第104号、2002年4月30日)第1頁より、全文引用 『なぜ中国人は   日本人を憎むのか』                                    中村勝範  いまから十数年前に一人の中国の青年が日本のある大学院へ入学した。日本の文部省より多額の 奨学金を貰い、日本人は留学生を支援し、優しかった。日本人大学院生よりも「ずっと優遇」され た。「充実かつ快適」であり、自分が日本に住む「外人」だと思ったことはなかった。  京都、奈良の古都に遊び、日本の文化・歴史を理解し、日本精神に魅せられた。もっとも大きい 影響を受けたのは司馬遼太郎の多くの書物であった。とりわけ『坂の上の雲』から受けた印象は絶 大であった。たとえば秋山好古・真之の兄弟が四国から上京し、共同生活をした時のエピソードは 感動的であった。  二人には茶わんが一つしかなかった。毎日の夕食時、兄はこの茶わんで酒を飲んだ。  飲み終わった後、待ちかねる弟が同じ茶わんで飯を食った。日露戦争で兄は陸軍、弟は海軍の軍 人として消すことのできない偉業をなしとげた。明治日本人の「大きな使命感に燃えながら心清く 生きていく」姿に大きな感銘を受けた。青年は徹底的な「親日家」になった。  しかるにたまたま中国へ帰国するとそこで展開されているものは「日本憎悪」、「日本悪魔像」 の教育とマスコミの大嵐なのである。中国人には日本人と日本の歴史に対する真実が、まったく伝 えられていない。  「日本民族を消滅させよう!日本人にはろくなもの無し、日本人は劣等民族である、日本の女を やっつけてしまおう!大和民族を滅ぼそう!」、「日本列島が沈んでくれれば、私ははじめて安心 できるだろう。どうして日本人という低レベルの動物が存在しているかが私にはわからない。それ は絶対、神様がつくったもののなかの不良品である」等の文字がインターネットに乱舞する。  一昨年の一月、大阪で、いわゆる南京大虐殺の嘘を検証する集会が約四百人により三時間行われ た。これに対し中国共産党機関紙『人民日報』が、「日本の右翼勢力が南京大虐殺否認反動集会を 開く」と書くと、十三億の人口もつ中国のすべての新聞が独裁党の方針にしたがい、じつに半月間 にわたり、連日、同一論調をかかげ暴風雨のごとき日本叩きの大キャンペーンを展開した。こうい う大嘘が中国人に昼夜をとわず、年中浴びせられているために中国人は日本人を地球から抹殺した いと考えるようになるのである。  中国共産党はなぜデマを絶えずばらまくのか。かつての留学生はいう。中国においても共産主義 の信頼は失われてきている。これを放置すれば共産党独裁体制は崩れる。崩壊を防ぐためには日本 は中国を侵略しようとしているぞという嘘をつくことにより、分散しそうな中国人の心を結集しよ うとしているのだという。  石平と名乗る中国人元留学生の書『なぜ中国人は日本人を憎むのか』の要点紹介である。出版社 PHP研究所 一、二〇〇円                                       (4・10) BACK
中村勝範個人誌『而今』(第102号、2002年3月20日)第1頁より、全文引用 ヤンキー、ここにあり                                    中村勝範  二〇〇一年九月十一日。  同時多発テロ事件のあった日である。テロリストたちに乗っとられたアメリカの民間航空機四機 のうち二機がニューヨークの世界貿易センタービルに、別機がペンタゴンに突入した。  残る一機がペンシルバニア州ピッツバーグ郊外に墜落した。ここではニューヨークやペンタゴン のように人命もビルも被害をこうむらなかった。私には、なにもないところに墜落したことが、初 めからわからなかった。  ブッシュ米大統領は二回の演説で私の疑問をある程度あかしてくれた。  大統領は九月二十日の演説で、トッド・ビーマーという乗客の一人がテロリストに飛びかかって いったとその勇気をたたえた。トッドさんと、夫を失ったその妻リサさんの英雄的行動については、 かつてこの欄で書いた。  昨年十二月十一日、ブッシュ大統領は「テロ三か月の追悼会」での演説で、いま一人の乗客の勇 気をあきらかにした。  「ジェレミー・グリックの……」と、三十一歳であった乗客の名をあげて、大統領は、  「……勇気と自己犠牲こそが、このホワイト・ハウスを救ったようだ。ここで改めて敬意を表す   る」 と、演説した。  ジェレミー・グリックさんは乗っとられた航空機の中より妻リベラさんに携帯電話をかけた。犯 人たちは「アラー・アクバル(神は偉大なり)」などと叫びながら乗客の一人をナイフで刺し殺し、 コックピット(操縦室)を占拠していることを話した。  ジェレミーさんは、リベラさんから世界貿易センタービルに別の旅客機二機が突っ込んだことを 知らされた。自分のとるべき行動を決めていたジェレミーさんは、  「今からコックピットの犯人に立ち向かう。恐らく生きて帰れないだろう。エマーソンをたのむ。   君は素晴らしい人生を送ってくれ」 と告げた。エマーソンとは生後三か月の娘である。  リベラさんは素晴らしい人生を送るようにと別れの言葉を送ってきた夫に、  「あなた、戦って!」 と叫んだ。ジェレミーさんは先述のトッドさん、その他の乗客二人と共にコックピットに突入して いった。  リベラさんは、「生きて帰れないだろう」と、今生の最後の言葉を送ってきた夫に、死なないで とか、だめよそんなのとか、生きて帰ってとか、一人では生きていけないとか、あるいは、わぁっ と泣きだすのではなく、とっさの間に「あなた、戦って!」の一言を発した。こんな場合、日本の 妻は、リベラさんのような言葉をもっているだろうか。  アメリカ人は、日本人と同様に「民主主義」の世界に生きているといわれるが、そうだとしても 次元がまったく違う。(3・17) BACK
中村勝範個人誌『而今』(第93号、2001年9月30日)第1頁より、全文引用 「死の静けさの国」                                    中村勝範  ドイツの人道援助の緊急医師団の一員として十八か月、北朝鮮で仕事をしたノルベルト・フォラ ツェンの書『北朝鮮を知りすぎた医者』(草思社)を読んだ。その書を紹介する。  彼は一九九九年七月に空路北京から平壌へ入った。機内は北京の免税店の土産袋をさげた北朝鮮 の共産党幹部たちでいっぱいだった。共産主義国では党、軍、官僚の幹部は特権階級でなんでも手 にいれることができる。幹部たちは高級なホテルやレストランで豪華な宴会をするだけではない。 ウェートレスたちは権力者たちの「慰安婦」である。いつでもこれらの幹部の「紳士」たちは女性 たちを性的に自由にすることができる。  一般人の住む世界は地獄である。平壌を除く地方都市では食糧品店はからっぽであり、人々は痩 せ細り、ぼろをまとっている。病院の患者の六〇パーセントは栄養失調である。  病院には薬、医療器具、手術器具はほとんどないか、あっても古くて錆びている。トイレや洗面 所もほとんどないため病院の中庭や裏庭は排泄物だらけである。石鹸がなく、水道から水が出ない ため、夏にはサルモネラ菌腸感染の温床になる。菌は排泄物まじりの泥により病院中にばらまかれ、 入院患者に食事を運んでくる家族によってあたりの住宅地から地方全体に広がってしまう。  一般国民にとり、冬に電気、水道が止まっても生活に影響はない。もともと電気、水道がないか らである。崩れそうな小屋の中で生きているかれらは薪にするため周辺の木は大小にかかわらず伐 採してしまう。したがって雨が降ればたちまち洪水が猛威をふるい、少し雨がないと大旱魃となる。 北朝鮮における「天災」といわれるものはじつは人災である。日常生活は石器時代に戻りつつあり、 じじつ石斧が使われている。  すべてが深い雪に埋まっている都市の中で金日成主席の巨大な像の前の広場だけには冬は存在し ない。昼も夜も、終日休まず女性や生徒たちが箒で掃くからである。北朝鮮人は主席を頂点とする 支配層を恐怖しており、その恐怖を口にすれば本人はもとより、家族も消えてしまうのである。  労働者、農民は絶望的である。アルコール依存症の蔓延により疲労で心身がぼろぼろになる“も えつき症候群”でおおわれている。  フォラツェン医師がこの国を追放されたのは、オルブライト前米国務長官に随行してきた記者た ちのうちの数人を、外国人には決して見せない病院内や炭鉱街、庶民の暮らしぶりを北朝鮮当局の 監視の目を逃れて見せたからであった。また路傍に虐待して殺されて、すてられていた兵士を医師 自身がたまたま見てしまったことも原因であった。  北朝鮮はいまなお二〇万人の無実な北朝鮮人を強制収容所に不当に投獄し、二〇〇万人以上を餓 死させ、四五四人の韓国人、一〇人以上の日本人を拉致している。  朝鮮とは「朝の静けさの国」を意味するが、その実態は死の静けさの国である。                               (9・17読了、9・21記) BACK
中村勝範個人誌『而今』(第91号、2001年8月20日)第1頁より、全文引用 天下の大患                                    中村勝範  日本の大新聞社で中国の実態をあるがまゝに伝えているのは古森氏が属する産経新聞だけである。  中国が「残虐なる日本軍」を悪意に満ちて誇大に宣伝するのは、今日の中国に日本を凌駕(りょ うが。すぐれていること)する精神的物質的なものが無いからである。  中国人に自信が無いのは恥ずべき共産党独裁国家であり、したがって精神的に誇れるものがなく、 物質生活においても、これまた低劣だからである。  首都北京の経済、社会の基盤建設は過去二十余年間に日本の政府開発援助(ODA)に徹底して 負っていた。たとえば交通機関としては国際空港と航空管制システム、北京へ乗り入れる鉄道建設、 地下鉄網等から、電力通信関係では発電所、光ファイバーの長距離電話網等、環境では上下水道、 浄水場、環境保存センター、さらに医療、福祉、防災等の資金が日本から投ぜられた。世界史上、 これほど外国から巨大な援助を受けた国は他にない。しかし中国の指導者はこのことを市民国民に 知らせていない。  以上のようなことは北京だけに限ったことではなく、中国全土の都市に及んでおり、日本はOD Aで二〇〇〇年までに約三兆円ほどの金を供与した。これに加えて旧日本輸出入銀行はこの間、三 兆三千億円もの援助をしている。日本は計六兆三千億円以上の援助をいまだにつづけているが感謝 の言葉をほとんど聞かない。中国人は礼儀を知らないのではない。中国の指導者が日本からは最大 限にぶったくればよい、国民に知らせる必要もないという方針なのであるから、国民は日本の援助 を知らないのである。ついでにいえばアメリカ政府は、中国に経済援助はただの一ドルたりともし ていない。人権抑圧の軍事大国に援助をどうしてできようか。  米国の中国軍研究家は、中国軍にとっては、有事に主力の兵器や部隊を最大最速で遠方まで移動 する必要があるが、その手段としての高速道路や軍需工場が、日本政府の対中援助で建設されてい ることを日本人は考えたことがあるだろうか、と首をかしげる。日本の政府、政治家、学者、ジャ ーナリストの中には、そのことを知っている者もいるが、かれらの多くは中国の手先であるため、 真実を語らない。したがって古森氏が『日本再考』に書いているような日本人の血を吸いとる中国 の実態を日本人の九割以上の者は知らない。この点に無知な日本人は六兆円以上の金を吸い上げら れてなお足らず、中国へ行き、泥棒に追い銭を与えるという愚挙をくり返している。その中に、多 量の血を吸いとられた日本民族は貧血状態になり倒れかねない。  いまから約百五十年ほど前、吉田松陰は「天下の大患はその大患たる所以を知らざるに在る」 (狂夫の言)といった。現代日本人は、目前の大患に気づいていない。無知は人権を抑圧し、周辺 諸国に脅威を与えている軍事大国中国の共犯者である。(7.22) BACK
中村勝範個人誌『而今』(第25号、1998年9月12日)第1頁より、全文引用 北朝鮮に  深甚なる感謝を表す                                    中村勝範  北朝鮮は十数年以上も前から秘密工作員を日本へもぐりこませ、日本人を十数人もさらっている (拙著『正論自由・第六巻』一二九〜一三九頁)。しかし、日本の政府、政党、マスコミは、この 事実を誰にもわかるように公然と論じないために、日本国民の大多数の者は知らない。  また、戦後、北朝鮮人と結婚し、こおどりして北朝鮮へ行った元日本人妻の本当の姿も知らない。 彼女たちは北朝鮮において抑圧と貧困にあえぎ、半世紀を過ぎても一度も里帰りができないのであ る。あまりにも気の毒であるというので、上げ膳、すえ膳で里帰りを援助した日本人に対する彼女 たちの言葉は、恩を仇で返すものであった。こうなることは当然であるが、日本人にはそれを事前 に考える力がない。  日本はまた北朝鮮の食料不足を人道的に援助するという。この国に人道主義が通用するというの であるから驚きである。北朝鮮は共産党独裁の国家である。共産党は人道主義などというものはブ ルジョワの価値観であって共産主義者には三文の価値もないとしている。この点について、われわ れと彼らとは全く世界を異にするのである。  北朝鮮の食糧不足は天災のもたらしたものではない。人災である。共産党が政権をとった国では 北朝鮮に限らず、いかなる国においても食料不足が生じることも常識でなくてはならない。  日本の北朝鮮に対するさまざまな援助は、この国において飢餓線上をさまよう人びとを救済する ことなく、いたずらに独裁者の力を強化するだけである。その上に、援助は北朝鮮の軍備を急速に 拡大するために使われ、やがてその銃口は援助国に向けられるのである。このことは拙著『正論自 由』のすべての巻においてのべているように共産主義の理論と歴史から明々白々である。  日本人はお人よしではなく、無知なのである。無知は独裁者の力を一段と強化し、弱者を一層苦 しめる。無知は独裁者をますます横暴にし、近隣への迷惑を甚大にする。無知者は極悪非道の共犯 者である。  日本の北朝鮮への援助は、いつなんどきでも、日本のいかなる地点をも攻撃できるミサイルとな って返礼された。いずれ北朝鮮が核武装し、日本を脅す事態になっても不思議はない。日本の頭上 を超えて試射されたテポドン一号は、無知な日本人をいささか目ざめさせる効果はあった。北朝鮮 よ、ありがとう、とする所以である。('98・9・3) BACK
中村勝範博士語録 陸沈 賢愚の源 薫習 BACK