計測の話し
メールマガジンに移行 目次(該当箇所へジャンプします) 7.「トレーサビリティ」の話し 6.「測定結果が合う? 違う?」の話し 5.「4にまつわる」話し 4.「品質マネジメントシステム要求事項」の話し 3.「かたより」と「ばらつき」の話し 2.血圧測定の話し 1.人間の「いい加減?な感覚」の話し
7.「トレーサビリティ」の話し  トレーサビリティ(traceability)とは何でしょうか? 最近、食品問題とかで「この肉はどこ の誰が生産したのだろう? 安心して食べられるのかな?」のような問題が話題になっています。  トレーサビリティとは、「跡を尋ねることができる、突き止められる、遡(さかのぼ)ることが できる、つながりがある」ということです。JISの計測用語では、次のように定義されています。  計測用語(JIS Z 8103:2000)  トレーサビリティ  「不確かさがすべて表記された切れ目のない比較の連鎖によって、決められた基準に結びつけら   れ得る測定結果又は標準の値の性質。基準は通常、国家標準又は国際標準である。」  計測用語(JIS Z 8103:1990)  「標準器又は計測器が、より高位の測定標準によって次々と校正され、国家標準・国際標準につ   ながる経路が確立されていること。」  正確な計測を確保するには、計測器(計器、測定器、標準器などの総称)の精度が保証されてい なければなりません。○g,○cmという数値を見ても、それを計った計測器(A)が正しくて、 その計測器(A)が、より上位の(より正しいと信頼できそうな)標準(B)につながっていなけ ればなりません。  口先だけで「この値は正しい」と言っても、証拠の提示を求められれば、計測器(A)の現品や、 その成績書を開示できるように準備しておく必要があります。計測器(A)の成績書には、その計 測器(A)の検査に用いた、より上位の計測器(B)が記載され、より上位の計測器(B)の成績 書も保管しておくのが良いでしょう。これの連鎖で、最終的には国家標準又は国際標準につながる ことが望ましいわけです。これが必須な(厳しく要求される)場合もあります。  スーパーで買った肉のパックにシールが貼ってあり、そのシールに、何やら色々とコードや記号 を表示していると仮定します。そのコードや記号を調べれば、どこの誰が生産したか、出荷年月日 は何時か、農薬等は使っていないか、病気に汚染された経歴は無いか、適切に保管されていたか、 等々の本当の情報が分かれば、消費者はさらに安心できるでしょう。物(分野)によっては、国家 標準や国際標準が無いものもありますが、上流・源流に遡って調べようと思えば調べられる体制が できていれば、社会全体にとって良いことだと思いますが、いかがでしょうか。 BACK
6.「測定結果が合う? 違う?」の話し  A食パン会社では、全国の工場で作られるパンの質量を同じにしよう(バラツキを少なくしよう) という話になり、東京本社で、質量の標準となるパンを1個作りました。その標準パンを、東京で の測定データ(規格100±1gに対して100gであった)と共に、北海道のB工場と九州のC 工場に順番に送り、それぞれの工場で標準パンの質量を測定しました。  B工場とC工場ではそれぞれ、製造するパンの質量を測定する、専用の質量計(計量法に基づく 定期検査を実施)を持っています。各工場で製造したパンが、規格で規定した質量になっているか どうかを質量計で測定し、規格から外れていれば、パン製造機を調整して、規格に入るようにして います。  東京本社での標準パンの測定データと、B工場・C工場での標準パン測定データが同じであれば、 特に大きな問題は無いと思いますが、違って(規格から外れて)いた場合、どうすればいいのでし ょうか。B工場での標準パンの測定データが98gだった場合、質量計を疑えばいいのでしょうか。 質量計が正しい場合は、パン製造機を調整して、できたパンの質量計での測定結果が100gにな るように、パン製造機を合わせ込む(調整する)のでしょうか。  「同一の測定条件下で行われた、同一の測定量の繰返し測定結果の間の一致の度合い」これを繰 返し性といいます。「測定条件を変更して行われた、同一の測定量の測定結果の間の一致の度合い」 これを再現性といいます。測定には、この他にも、実に様々な不確実な要因があります。真の値と は、(いるとすれば)神のみぞ知る値で、実際には求められません。「不確かさ」という概念があ りますが、私達が知ることができるのは、例えば95%位の確率で、この値が○〜○gの範囲にあ るだろう、ということだけかもしれません。安易に質量計を疑ったり、パン製造機を調整するのは ちょっと待て、と言わねばならないのかもしれません。  余談ですが、地球の重力加速度は、場所によって多少違います。平地で1kgw(推奨しがたい 単位、重量のこと)のものは、富士山の頂上では約1gw軽くなります。北海道で1kgwのもの を九州に持っていくと、約1gw軽くなります。質量(重量÷地球の重力加速度)測定一つをとっ てみても、「計測」とは簡単ではなく、単純に「測定結果が合う、違う」と議論できるものではな いようです。長さ、電気、温度、物理・化学測定の場合は、この事例とは別の複雑な問題があるよ うです。 BACK
5.「4にまつわる」話し  いわゆる普通の人が、4の「品質マネジメントシステム要求事項」を御覧になって、その意味が 理解できるとすれば、その人は相当な国語力の持ち主だと思われます。  ISO(International Organization for Standardization)とは、国際標準化機構のことで、 製造業に限らず、旅館、役所、等々、この国際品質保証規格を取得しようとする所が増えています。 下記の4の話しは、その中でも、物作りの基本となる計測・計測器に要求される項目です。原文は 英語で、日本語に翻訳されたものが日本工業規格(JIS)になっています。JISは、工業標準 化法に基いて制定される国家規格です。  さて、英語圏においても、言葉の微妙なニュアンスが伝わりにくい場合がありますし、当然、解 釈が分かれる場合もあります。その英語が日本語に翻訳される訳ですから、分かりづらくなるのも 当然だと思います。10人いれば、10とおりの解釈があると言われています。解釈にも、色々な タイプがあるようです。以下は一例です。細目こだわり型、過剰管理要求型、迷惑解釈型、シンプ ル解釈型、経験押付け型、あるべき論型、業務改革指向型、非効率解釈型、恫喝解釈型、……。  JIS Z 8103 の計測用語によれば、「計測」とは、「特定の目的をもって、事物を量 的にとらえるための方法・手段を考究し、実施し、その結果を用い所期の目的を達成させること。」 となっています。多くの企業(製造業)は、品質(商品品質、消費者品質、技術品質)で勝負する ことになるのですが、これらの品質の良さが客観性・妥当性を得るには、計測が必要になります。 品質は、計測抜きには語れません。  企業が利益を得るためには、物をつくらなければなりません。物をつくることの基本は「計る」 ことにあります。より良い品質をつくり込んで、利益を得るためには、何よりも「正しい計測」が 基本となります。計測の道具の精度が正確でなければ、とても品質を保証することはできません。 この方面の仕事に携わる方は毎日、計測データに埋もれ、試験や実験をするにも、色々な計測デー タを頼りにしているはずです。計測データ無しには、仕事が全く進まないほど重要なものであるに もかかわらず、計測器から出てくるデータは何の疑いもなく信頼して、鵜呑みにしていませんか?  計測とは、このように非常に重要なものです。日本が、技術・物づくりで世界をリードするには、 計測をしっかりとしなければなりません。この大事な計測、計測器、計測(管理)システムに、下 記の4のような要求をされるのは、ある意味で当然のことだと思います。要求事項の詳細は、あな たの身近にいる、その方面に詳しそうな人に聞いて下さい。なるほど! と思われることでしょう。 BACK
4.「品質マネジメントシステム要求事項」の話し ISO9001 2000年度版要求事項 7.6  監視機器及び測定機器の管理  定められた要求事項に対する製品の適合性を実証するために、組織は、実施すべき監視及び測定 を明確にすること。また、そのために必要な監視機器及び測定機器を明確にすること(7.2.1参照)。  組織は、監視及び測定の要求事項との整合性を確保できる方法で監視及び測定が実施できること を確実にするプロセスを確立すること。  測定値の正当性が保証されなければならない場合には、測定機器に関し、次の事項を満たすこと。 a) 定められた間隔又は使用前に、国際又は国家計量標準にトレース可能な計量標準に照らして校   正又は検証する。そのような標準が存在しない場合には、校正又は検証に用いた基準を記録す   る。 b) 機器の調整をする、又は必要に応じて再調整する。 c) 校正の状態が明確にできる識別をする。 d) 測定した結果が無効になるような操作ができないようにする。 e) 取扱い、保守、保管において、損傷及び劣化しないように保護する。  さらに、測定機器が要求事項に適合していないことが判明した場合には、組織は、その測定機器 でそれまでに測定した結果の妥当性を評価し、記録すること。組織は、その機器及び影響を受けた 製品に対して、適切な処置をとること。校正及び検証の結果の記録を維持すること(4.2.4参照)。  規定要求事項にかかわる監視及び測定にコンピュータソフトウェアを使う場合には、そのコンピ ュータソフトウェアによって意図した監視及び測定ができることを確認すること。この確認は、最 初に使用するのに先立って実施すること。また、必要に応じて再確認すること。 BACK
3.「かたより」と「ばらつき」の話し  日本工業規格(JIS)の計測用語では、「かたより」とは「測定値の母平均から真の値を引い た値」、「ばらつき」とは「測定値の大きさがそろっていないこと。また、ふぞろいの程度。」と 定義されています。  ゴルフ(私は、やりませんが)を例に挙げれば、打球がホール(真の値)にはなかなか近付かな いが、打球が落ちる位置が大体一定している場合は「かたより」はあっても「ばらつき」が小さい と言えるでしょう。また、打球がホール近辺に落ちるのだが、落ちる位置がまるでバラパラで定ま らない場合、「ばらつき」が大きいと言えるでしょう。ゲートボールの場合も、似たようなことが 言えると思います。ここでは、(ゴルフやゲートボールの)原因と対策にはふれません。  計測の世界でも、「かたより」と「ばらつき」は、程度の違いはありますが存在します。計測器 自体にも両者は存在しますし、計測器を使う人間、測定環境等によっても、計測の結果は大きく異 なってきます。ですから、計測器の指示値、計測結果の「鵜呑み」はしないほうが良いと思います。 また、測定する時は、できるだけ誤差が少なく、信頼性の高い結果が得られように、人間系・計測 環境等の問題にも十分気を付けないといけないと思います。  「かたより」と「ばらつき」を、人間が持つ思想・良心の問題に当てはめて考えてみると、どう なるでしょうか。右・左、保守・革新等の問題は別にして(そもそも、人間の思想の世界に、唯一 無二の真・善が存在するのでしょうか?)、「かたより」は「頑固」、「ばらつき」は「信念が乏 しい」と表現(他の表現も可)することもできると思うのですが、皆さんはどう思われますか。 BACK
2.血圧測定の話し  血圧も、健康のバロメーターです。高血圧の人、低血圧の人、通常の人、と色々あります。その 日の体調、精神状態、ストレス等によっても血圧は変化します。血圧の測定結果を見て、「えっ? こんなはずでは? 値がおかしい…」と感じた人もいるでしょう。  血圧計(家庭用のデジタル式が一般的ですが)も計測器です。少し専門的になりますが、計測器 とは、日本工業規格(JIS)の用語で「計器、測定器、標準器などの総称」と定義されています。 計測器には誤差が付き物ですし、計測(測定)の仕方によっても結果が異なってきます。また、計 測には、系統誤差、偶然誤差、不確かさ、正確さ、精密さ、繰返し性、再現性、等々の問題が必ず 伴います。  家庭で血圧を測る時に、上記のような小難しいことは考えないと思いますが、「こうすれば良い のではないか」と思うことをお伝えします。説明書に書いている注意書きを守って使うのは当然の こととして、最低3回測って、単純平均することをお勧めします。1回のみの測定結果で安心した り心配したりするのは、ちょっとどうかな?と思います。もう1回測った時に、先程の結果より値 が高かったり、反対に低かった場合、どれが正しいのか分からなくなるのではないでしょうか。  例えば、下の値(3回)が「60,70,80」だった場合、単純平均すると、(60+70+ 80)/3=70になります。計測に上記のような様々な問題があっても、「ああ、私の血圧(下) は大体70位だなぁ」という目安は得ることができます。データを3個とって単純平均すると、そ の平均値は統計(学)的にも意味を持つ(一応、信頼ができる)ようです。  1回のみの計測で一喜一憂しないよう、お互いに気を付けたいものです。 BACK
1.人間の「いい加減?な感覚」の話し  スーパー等での肉の「代金」と、肉の質量を測定する「秤の精度(誤差)」との関係のお話しを しましょう。お金の話は、誰でも興味があるはずですから……。  1gあたり1円の肉(パック)を100g(100円)買い、秤の精度(誤差)は±1%だと仮 定します。とすると、肉のパックには100gと表示していても、実際には99g〜101gの範 囲(最小で99g、最大で101g)にあることになります。  レジでお金を支払った時、釣銭が1円でも少ないと、殆どの人が「釣銭が足りない」と言うでし ょう。でも、肉が本当に100g(100円分)あるかどうか、考えたことはあるでしょうか。実 際には、いちいち確かめる(自分で測定する)こともできない(難しい)のですが……。  取引・証明に使う秤(計測器)は、計量法により定期検査をしているのですが、絶対的に正しく はありません。むしろ、ある程度の誤差を許容しています。スーパーの肉コーナーの秤が100g を表示していても、99g(99円相当)かもしれませんし、101g(101円相当)かもしれ ません。「1g位、多くても少なくても、どっちでもいいや」でしょうか。  99円のものを100円で買ったら、客は1円損をしますが、スーパーは1円得をします。反対 に、101円のものを100円で買ったら、客は1円得をしますが、スーパーは1円損をします。 支払い金額につながる質量測定結果の妥当性は、レジでは確認しにくいのですが、このような問題 はどうでもいいのでしょうか。客もスーパーも損をしないようにするには、どうしたらいいのでし ょうか? BACK