会社法 レポート 正論じゃろん? 04
2005年04月30日付 読売新聞大阪本社版より(四国の実家にて、JR脱線事故記事を記述)  「甲南大4年四家高志さん(21)(川西市)はお別れ会と告別式が29日、あった。 四家さんはスキー・ジャンプの有力選手だった。告別式には東京や長野、岐阜県など全国 約20大学からジャンプ仲間約50人が集まり、祭壇にはスキー板や大会のゼッケンが飾 られた。  『四家高志、ただ今より天国に向かって大ジャンプを行います』。出棺の際、父親がそ うあいさつすると、仲間たちが声を上げて泣いた。」
注意:商法条文は、1997年以前の内容に基づきます。また、特定の団体を非難等する    ものではありません。 コーポレイト・ガバナンスとは何か。会社法とコーポレイト・ガバナンスとの関係につい て、あなたの考え方を示しながら論じなさい。 (1997年以前に執筆)  コーポレイト・ガヴァナンス(corporate governance)とは、企業(会社)の支配(統 治、管理)のことである。具体的には、企業は誰のものかという観点より議論される問題 である。  日本経済は1980年代後半、日銀の超低金利政策を一つの発端として、バブル景気に突入 した。銀行預金利子が低いことにより、預金よりも株式、土地等に投資するほうが得策だ というマネー・ゲーム(money game)が広がった。値上がりを期待した投機的行動により、 金(マネー)が株や土地に投資され、高収益を上げるようになった。このことが消費行動 等を刺激し、生活物資が過剰となった。  生産すれば販売高が増えるため、企業も長期的視野を欠いた販売拡大にとらわれ、増産 のための設備投資を続けた。実体以上に資産価値が膨張したのであるが、もともと実体以 上の価値があるはずがなく、企業収益は頭打ちとなった。浪費と言っても過言ではない行 動をしていた消費者にとって、自らの欲する商品はもはや無くなり、企業側としても大量 の商品在庫と過剰設備を抱えた。  1990年代に入ってのバブル経済崩壊後、目先の利益拡大のための計画性に乏しい設備投 資等、明るみに出た企業不祥事の原因は、日本企業ではチェック・システム(企業経営の 監査体制)が機能していなかったことである。故に、チェック・システム機能回復のため、 現在の株式会社制度を建前どおり活性化させるべきであるという、コーポレイト・ガヴァ ナンス議論が必要となってきた。  日本でも、会社は制度上は株主のものであるが、実態は従業員、債権者、経営者、株主 という順位であると言っても過言ではない。日本では、本来の会社所有者である株主を軽 視した会社経営が行われてきたとも言える。  会社の中でも代表的存在である株式会社においては、株主総会が会社の機関では最重要 である。株主総会で、会社経営を行う取締役が選任される。取締役は取締役会を開き、会 社の重要業務に関する意思決定をし、代表取締役や他の取締役の職務執行を監督する(商 法第二六〇条)。  また、会社機関には監査役がある。商法第二七四条では、監査役の取締役に対する職務 執行監査権が規定されている。監査役は、取締役の職務執行が合理的で適正であるかどう かを監視する機関である。  以上のように、会社機関は株主総会、取締役会、監査役の三つの機関よりなる。すなわ ち、国の機関で言えば、立法機関である国会にあたるものが株主総会、行政機関である内 閣にあたるものが取締役会、司法機関である裁判所にあたるものが監査役である。  ところが実際の会社経営においては、立法機関である株主総会の役割が低く、形だけの ものとなっている場合が多い。株主にも色々な(自然)人、法人がある。株売買差益によ る儲けだけを目的とする株主、株配当だけを目的とする株主、純粋に会社経営に参画しよ うとする株主等がいる。  大会社ともなると、株主の数も膨大であり、度々株主を召集して会社経営方針を決定す ることは、現実的には不可能である。実際は、会社経営方針決定は取締役会に任せられて いる。商法第二三〇条ノ一〇では、株主総会の権限は会社の基本方針(商法又は定款に定 める事項)の決議である旨が規定されている。  株主総会は株数に応じて発言権が与えられるため、株数の少ない個人株主は現実的には 発言機会が無い。法人の大株主(多数派)が自らの都合に合わせて総会議事を進行するこ とが多い。これが、形骸化した、俗に言うシャンシャン株主総会であり、数十分程度で終 了する場合が多い。しかも、蛇足ながら総会屋対策のためか、殆どの企業が同一時期に株 主総会を開く。これは、現実の会社経営にあっては、株主総会の役割が低くなっていると いうよりも、殆ど機能していないに等しいことを意味する。  日本では、関係(監督)省庁からの天下りを除いて、取締役を社外から迎え入れること はまず無く、殆どの場合、その会社の従業員の出世の結果として取締役になる。建前上は、 取締役は株主総会にて選任されることになっているが、実際は代表取締役社長が取締役を 選任し、株主総会で承認(追認)する場合が多い。会社の経営方針決定は、取締役会が業 務報告を行い、株主総会にて経営方針を追認するパターンが多い。  監査役については、商法第二七四条にて取締役の職務執行を監査する旨規定されている。 監査役制度の変遷に伴って、その権限が強化されつつあるが、現実には監査機能(司法機 能)を十分に発揮しているとは言い難い。総じて、日本の株式会社においては取締役会の 力が絶大で、株主総会、監査役の力はまだまだ弱いと言える。  大会社においては、大株主が法人の場合が多く、株の持ち合い制度も一般的に行われて おり、相互の経営に干渉しない風潮があることも一因と考えられる。  会社法とコーポレイト・ガヴァナンスとの関係で、私なりの会社のあるべき姿を述べる と次のようになる。  まず、株に関しては、個人株主の持ち株数(持株比率)をもっと増加させることが必要 である。これには、大株主である法人が所有している株(法人株)をもっと市場に流通さ せることが必要である。少数株主にも、もう少し権力が与えられる制度の構築、会社経営 内容の株主へのディスクロウジャー(disclosure)拡大が必要と考える。会社組織の末端 に至っては、株主が知り得ない、想像もできないような大小の不正、無理・無駄、マナー・ モラルの低下、会社の私物化等が往々にしてある。真面目な株主に対しては、背信行為と 言っても過言ではないほどの実態が現場に見受けられることがある。監査役権限強化は勿 論のこと、企業倫理委員会なる機関でも設置して、組織の末端まで厳しく取り締まる必要 があると考える。「会社は誰のものか」という意識は、組織の末端に行くにつれて希薄に なる。  次に、取締役会に関しては、社外の取締役をもっと起用し、取締役会を活性化させる必 要があると考える。社外と言っても、関係(監督)省庁の天下り取締役では活性化どころ か、中央しか向かない馴れ合い経営の域を脱し得ない。会社においては通常、従業員が出 世(人事考課基準が不透明な場合が多い)して取締役になる訳であるが、(平)取締役に なっても、常務、専務、副社長、社長、会長という出世を意識し、株主ではなく、上を向 いた業務をする傾向が強い。しかも、トコロテン式に昇格していくのが普通であるような 状態では、取締役会の真の活性化はあまり期待できない。商法改正を含め、経営トップに 真に遠慮無くものが言える取締役を送り込める体制を構築すべきであると考える。  最後に、監査役に関しては、監査役権限の一層の強化が必要であると考える。商法特例 法第一八条により、監査役の内、一人以上は就任前五年間会社の取締役でなかった者でな ければならない旨規定されている。これは経営側と一線を画すものとして評価できるが、 経営者にとって都合が悪いと思われるような人でも監査役として迎え入れる度量の広さが 会社全体に無いと、監査役の監視機能強化はあまり期待できない。勿論、監査役にも相当 の資質、より厳しい自覚が要求されるべきであるが、より強力な司法機関としての監査役 を構築すべきであると考える。  米国では、株主の利益を高めることが最優先とされ、一株当りの利益の上昇、株価の上 昇が経営の最大課題とされているようである。日本においても基本は同じであると考える が、低成長、業績低迷の中で、経営の巧拙が今後一層問われるようになる。  株主による経営チェック強化と経営活性化を図るためには、会社法の更なる見直し(強 化)と、不透明で分かりにくい日本企業の経営制度の抜本的改革が必要であると考える。  企業の所有者は株主であるが、企業の社会における存在意義、その社会に与える影響等 を考えると、もっとグローバルな観点からコーポレイト・ガヴァナンスを議論してもよい のではないかと考える。企業が主役である法人資本主義とも言える、日本経済の在り方を 根本的に見直す必要があると考える。                                     以上 参考文献 若林政史『日本的経営の制度化を考える 株式会社はどうなるか』(中央経済社、1994年) 橋本寿朗『日本企業システムの戦後史』(東京大学出版会、1996年) 山崎広明 橘川武朗『日本経営史4 「日本的」経営の連続と断絶』(岩波書店、1995年) 佐高信『会社は誰のものか 企業の世襲と独裁批判』(社会思想社、1990年) 補記 勉強の記憶に基づいてレポートを作成。直接引用文は特に無し。                                     以上