正論じゃろん?(C) 35
男女共同参画社会 その1 ●日本国憲法(抜粋) 第11条 国民は、すべての基本的人権の享有を妨げられない。この憲法が国民に保障する基本的 人権は、侵すことのできない永久の権利として、現在及び将来の国民に与へられる。 第12条 この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力によつて、これを保持し なければならない。又、国民は、これを濫用してはならないのであつて、常に公共の福 祉のためにこれを利用する責任を負ふ。 第13条 すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利に ついては、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要と する。 第14条 すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、 政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。 第19条 思想及び良心の自由は、これを侵してはならない。 第21条 集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。 ●男女共同参画社会基本法 (平成十一年六月二十三日法律第七十八号) 最終改正年月日:平成一一年一二月二二日法律第一六〇号 男女の実質的平等の実現に向けて、男女共同参画社会の形成の基本理念として、男女の個 人としての尊厳、性別による差別的取扱いを受けないこと等男女の人権の尊重、社会にお ける制度又は慣行についての配慮、政策等の立案及び決定への共同参画の機会の確保、家 庭生活における活動と他の活動の両立、国際的協調の5項目を定めるとともに、国、地方 公共団体及び国民の責務を定めた。男女共同参画社会の形成の促進に関する基本的施策と して、政府の基本計画の作成、都道府県の参画計画の制定、国民の理解を深めるための措 置、苦情の処理、国際的協調のための措置等を掲げた。総理府に男女共同参画審議会を置 くこととした。 (河野 久「第145回国会の概観」ジュリスト1166号(1999.11.1)より転載) [株式会社有斐閣 法律学小辞典第3版] ●男女共学 旧教育制度にみられたように、男女別に学級構成を行い、あるいは男女別の学校を設け て、性別によって異なる教育機会や異なる教育内容を制度化することは、教育基本法の理 念に反するものである。これは、男女平等の憲法精神からみて当然のことであるが、男女 共学は単に差別否定を制度化しようとするものにとどまらない。 教育を通じて、男女の間には人間としての本質的な差異のないこと、両性は互いに尊重 し合い、その理解と協力が社会の発展の基礎となることを、人々に理解させていくために は、男女共学は必須のものである。特にわが国には、女性差別の思想、良妻賢母型女子教 育の理念、男子中心的な学歴主義の気風などが根強く残存しているだけに、男女共学が単 なる制度上の問題を超えて、内実の豊かなものとして進められる必要がある。 [株式会社自由国民社 図解による法律用語辞典] ●男女同一賃金 労働基準法四条は、使用者は、労働者が女性であることを理由として、賃金について男 性と差別的取扱いをしてはならないことを規定している。これは、かつて女性の社会的地 位が低くみられていた時代には、女性労働者の賃金が不当に低く定められていた例が多か ったが、男女同権・男女平等の思想が発展普及するとともに、賃金の上で、このような不 当な差別待遇を排除しようという思想の現れである。 右の原則には、男女が同じ仕事をしている場合には同一の賃金が保障されるべきという 同一労働同一賃金原則が含まれる。また従事する仕事は異なっていても、仕事に要求され る価値が同一であれば、同一賃金か支払われるべきという同一価値労働同一賃金原則が含 まれるかは争いがある。同一価値とは、責任・能力あるいは作業条件などである。労働法 四条は、女性なるがゆえをもって賃金を差別することが禁じられるのであって、能力など の差によって合理的な差別をするのは、差し支えないものとされている。 [株式会社自由国民社 図解による法律用語辞典] ●男女雇用機会均等法 男女雇用機会均等法は、わが国が国連女性差別撤廃条約を批准したのを受けて、旧勤労 婦人福祉法を改正して成立したものである。このため、募集・採用および配置昇進につい ては、事業主(使用者)の努力義務にとどまっており、また同法違反に対する法的救済も 不十分と指摘されてきた。 そこで平成九年の法改正により、<1>募集・採用、配置・昇進についても禁止規定とさ れること、<2>事業主による自主的な男女格差是正措置(ポジティブ・アクション)に対 し国が援助すること、<3>職場におけるセクシュアル・ハラスメントにつき、事業主が雇 用管理上の責任を負うこと、<4>法違反の企業名を労働大臣が公表できること、<5>妊娠 中もしくは出産後の女性に対する事業主の健康配慮措置が、現行の努力義務から法的義務 となることなどの重要な改正がなされている(<5>が平成一〇年四月一日、その他は同一一 年四月一日施行)。 [株式会社自由国民社 図解による法律用語辞典] ●男女同権 性別による法的な差別待遇を否認する原理。婦人参政権要求のためのスローガンとして 使われ始めた言葉。大正14年(1925)には納税要件が撤廃され,男子普通選挙が実現した が,女子に参政権が認められたのは,連合国総司令部の命令に基づいてのことであり,昭 和21年をまたねばならなかった。憲法14条は,性別に基づく差別を禁止するが,戦後の憲 法運用の場面で,男女同権が実現したとは一概にいえないと思われる。例えば,国籍法( 昭和25法147)は,国籍要件として,「出生の時に父が日本国民であるとき」〔国籍旧2 [1]〕と規定し,男系主義を採用していたが,その是正が行われたのは,ようやく昭和59 年になってからのことであり(法45),十分な遡及適用も行われなかったのである。女子 結婚退職制,若年定年制,男女別賃金体系などの労働の場における女子差別は,個々の判 例によってしだいに消えつつあるが,雇用機会のところまで法的メスが及ぶのは,男女雇 用機会均等法によってである。 [株式会社有斐閣 法律学小辞典第3版] 【学説(の一部)】 平等の概念 法の下の平等とは、法を執行・適用する行政権・司法権が国民を差別してはいけないと いう法適用の平等と、法そのものの内容も平等原則に従って定立されるべきだという法内 容の平等をも意味する。つまり、平等とは「他者との比較・区別において卑しめられ(つ まり、人格を害され)ないこと」である。 平等の概念には、絶対的平等、相対的平等、機会平等、条件平等、結果平等がある。 絶対的平等とは、各人の相違を無視して、人々を常に同一扱いしなければならないとする 平等観である。相対的平等とは、各人の相違を無視することではなく、等しいものは等し く、異なるものは異なる程度に応じて取り扱うとする平等観である。機会平等とは、各人 の相違(競争の出発点)の違いを無視して、機会さえ平等であれば(競争ができれば)、 結果的に不平等が生じても仕方がないとする形式的平等観である。条件平等とは、全員が 同じ(競争の)出発点につけるように条件が整えられるべきであるとする平等観である。 結果平等とは、条件を整えるだけでは不十分であり、結果(競争の出口)が平等であるべ きだとする平等観である。 【私見(の一部)】 男女平等 歴史的に女性は差別をされてきたが、女性は妊娠するため一般的に職業に制約がある、 行動の自由が限られる(強姦される恐れがある)、等の現実は直視すべきであろう。また、 男女の本質的差異(肉体的、生理的、精神的差異)は無視すべきではないが、意識を改革 し(妻・母としての女性の役割を男女共に再認識(正当評価)すべきであろう)、男性は 女性に対する差別意識を捨てて敬意と愛情を持ち、女性は被害者意識と無責任(女性だか ら、という言訳)を、より強い自負心と責任感に変えていくべきであろう。 ただ、今日では、社会の各分野への女性の進出が著しくなっており、男女を肉体的差異 から単純に区別することは難しくなってきている。男女平等の問題は、性別に加え、個々 人の能力・資質による区別の観点からも論じられるべきである。人間がそれぞれ異なる状 況にあることを認め、等しいものは等しく、異なるものは異なる程度に応じて異なる取扱 いをすることは否定されないとする相対的平等説(通説)においても、性別が合理的区別 となるのか否か、個別具体的に論じられるべきであろう。 また近年は、ジェンダーフリーなる言葉・運動が見られる。不当なジェンダー(生物学 的な性別を示すセックスに対して、社会的・文化的に形成される性別。:広辞苑より)差 別は許されるべきではないが、「男らしさ」「女らしさ」までをも否定し、何が何でも平 等であるという動きの背景には注視すべきであろう。 法の下の平等 憲法14条、労働基準法 4条、男女雇用機会均等法 2条、等により、雇用・賃金において は、男女による性的差別をしてはならないことになっている。しかし、現実においては、 男女同権の世の中とはいえ、女性はまだ不利な状況におかれる場合があるのではないか。 女性には妊娠、出産(育児)という大役があるが、これが、法人における女性の待遇を難 しくする一因となっている。少子高齢化問題ともあわせ、働く女性が出産しやすい社会制 度を構築することも急務であろう。 人間の社会的地位、収入、評価が学歴により決められている現代の学歴社会にあっては、 学歴は個人の能力等を判断する物差しの一つになっている。しかし、学歴とは学問を修め た経歴であり、大学を卒業したというだけでは学問を真摯に修めた証拠にはならないし、 合理的区別(優遇)をすべき理由にはならない。大学卒・高卒という表面的な違いだけで、 扱われ方に不合理な差別がある場合は問題である。 正当な理由が無くて(理由を知らされなくて)不利な扱いを受けた場合、人間は本能的 に不快感を感じ、時には憤るものである。法人における雇用・賃金・昇進等においては最 低限、条件の平等(例えば、適正な採用枠の確保、昇進試験制度の導入、等)が保障され るべきである。 参考文献(直接引用文有り) 芦部信喜『憲法 新版補訂版』(岩波書店、2000年) 小林節『増訂版 憲法』(南窓社、1995年) 渋谷秀樹・赤坂正浩『憲法1 人権』(有斐閣、2000年) 井上博道「基本的人権」(非売、2002年) 株式会社有斐閣 法律学小辞典第3版 株式会社自由国民社 図解による法律用語辞典 以上