フィールド・ノート…1999年3月

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3月13日…《番外編》ある「元テレコマー」

フィールド・ノートを更新していないこの2週間、ぼくの周りではいろいろなことが起こっていた。カウンターの回り方が妙に速いのも、その影響だろうと思う。一部で事実とはかけ離れたことが書かれていたりして、ぼくの方にも言い分はあるのだが、事態が完全に収束した今、改めて言うべきことではないだろうと思う。また、この世には「言えないこと」もたくさんあるのだ。ともあれ、ぼくはこの一連の騒ぎが楽しかったし、勉強になったと思っている。ご心配、ご迷惑をおかけした方には、ここでお詫び致します。(なお、ここに書いてあることが全く理解できない、という方は、どうぞこの段落を無視して下さいませ。)

さて、今回は《番外編》である。なぜ番外編か? それは、「面接」の相手が男性だからである。彼と知り合ったのは約半年前、某社会学者系BBS(名を伏せた意味なし)で彼のテレクラに関する書き込みを見たぼくがメールを送って以来の付き合いだ。彼とは不思議と経歴や考え方に共通する点があり、まあ言ってみれば意気投合したという感じで、こちらの悩みを聞いてもらったり、逆にこちらが相談に乗ったり、という関係だった。また大学が同じ(彼は現役学生だ)であることもあって、ぼくには彼がサークルの後輩であるかのような感覚も生まれていた。

ぼくはこの日の昼間、パソコン通信での出会いを描いた森田芳光監督の「(ハル)」という映画を(もちろんビデオで)見ていた。映画の中でヒロインは最初、自分が女であることを隠している。だがもちろん、待ち合わせの本郷三丁目の駅でぼくを待っていたのは、紛う方なき男子学生(しかも反町にクリソツ)であった(笑)。近くの居酒屋に行く。ネットでの出会いとは言え、今までのやり取りの中で本名から何から全部話してしまっている。違和感などない。話したことも今までネットで話してきたのと同じような内容だった気がする。ただ驚いたのは、彼がぼくのことを「思ったよりもスポーツマンタイプ」だと評したことだ。そんなことを言われたのは生まれて初めてだ。おそらく、ネットでの印象がそれほど弱々しかったということなのだろう。

さて、彼は現在は引退しているものの、元「テレコマー」だ。ハマっていた時期は、一昨年くらいからの約1年。彼はテレコミをやるに当たって、一つのポリシーを持っていたという。それは、「絶対に会わない」というものだ。ぼくのリンク先のテレコミ系サイトを読んでいるだけでは、彼のような「テレコマー」の存在は決して浮かび上がっては来ない。会わないのなら何のために、と訝る向きもあるだろう。だがぼくには、彼の心情が何となく理解できる。決して交わることのない男女の人生が、電話回線の上だけで一瞬交わる。そこにしか見えてこない真実。

さて、直接会ったことで、ぼくと彼の関係は何か変わっただろうか? 何も変わりはしない。今までどおりだ。そんな気がする。ネットでのコミュニケーション、なかなか悪くないと思う。

3月22日…24歳OL、ユー・ガット・メール

最低でも7時は過ぎるものと覚悟していた休日出勤が、思いのほか早く終了した。大手町駅に午後5時過ぎ。せっかくの空いた時間だ。ぼくは久しぶりに渋谷へ向かった。いつもの店の一室に席を占めたのは、午後6時15分前のことだった。

1本目の電話は、出るといきなり年齢を尋ねられた。27歳です、と言うと、「あの、先程池袋でお約束した方じゃないですか?」と訊く。詳しい事情は分からないが、池袋のテレクラで話した男が、渋谷に移動するから後でそちらにかけてくれ、と言っていたらしい。どちらにしても援助希望なのでパス。2本目は19歳、やはり援助希望。パス。

その後しばらくAVタイムと読書タイムが続いた。あと5分だけいて帰ろう、と思っているところに3本目がかかってくる。24歳の派遣社員で自宅から。声や話し方の雰囲気は悪くない。テレクラには比較的慣れているようだ。自己紹介の段階から、会話は彼女のペースで進んだ。「身長と体重を教えて下さい」「誰かに似てるって言われますか?」「血液型は?」「誕生日は?」…。互いの自己紹介がおおよそ終わると、彼女は言った。「気に入りました」。

「もしかして、優柔不断って言われない?」と彼女が訊く。確かにぼくは優柔不断だ。だが今までの会話の中では、そういう部分はほとんど出ていない筈だ。「あのね、あなたと同じ血液型で、同じ年齢で、同じ星座の男を知ってるんだ。その人がそうだから…」。よく聞いてみると、それは今の彼氏のことだった。いや、彼氏と言っていいかどうかよく分からない。ケンカ中なのだ。

彼との付き合いは約半年。とても忙しい人で、職場に泊まることもしばしば。休みの日もデートできない。平日に終電で彼女の部屋に来て、泊まっていくことがたまにある程度だ。まあ、それはいい。彼女は彼女で休みの日は(男友達も含め)友達と遊びに行ったりするのだし。ケンカの原因は些細なことだった。言い合いになり、彼が「オレ達やっぱり合ってないな」と言い出した。悪いことに、ケンカの直後に彼女は長い旅行に出かけてしまった(別にケンカが原因で旅行に行ったわけではない)。そして、帰ってきてからもなかなか連絡しづらく、仲直りができないまま1ヶ月が過ぎてしまった。

「本当はね、普通の友達同士みたいに、思ってることさらっと言えたらいいのにって思う。付き合ってると、なんでこうやってこだわっちゃうのかな…。思ってること何でも言えて、お互いのことをしばったりしない、友達みたいな関係がいいのに。難しいよね」。彼女は本当は仲直りがしたいらしい。でも向こうは忙しいし、こちらから電話して謝るのもうまく行かない。たぶん彼女は彼から折れて欲しいのだと思う。仕事が忙しくても、彼の方から連絡をくれて、「ちゃんとやり直そうよ」と言って欲しいのだろう。

「(このまま別れてしまうかどうかは)私次第だと思う。どうせ付き合っててもそんなに会えないんだし、他にいい人がいたらいいんだけど…」。いちおうぼくのことをアピールしてみる。電話番号は教えてもらえなかったが、代わりに(?)メールアドレスを教えてもらう。テレクラでメールアドレスを交換するのは初めてだ(とはいえ、本当に届くかどうかは分からない。彼女の携帯端末は故障中だし、もらったばかりのパソコンもダウンしてしまい、OSを再インストールしなければならないのだ)。

最後は映画の話。「私はよく一人で映画見るんだけど、この間はユー・ガット・メールを見たの。私はけっこう気に入って、もう一回見てもいいなって思ってたんだ。で、彼の会社に電話したとき訊いてみたら、彼も一人で仕事の後、オールナイトの映画館で見たんだって。あのさ、もしかして別の女の人と見に行ったのを隠してるんじゃないかなあ…」。ぼくは、それは考え過ぎだよ、きっと、と言っておいた。「そうだよね、考え過ぎだよね」と彼女。ちなみに彼女はメグ・ライアンに似ていると言われたことがあるそうだ。


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