フィールド・ノート…1998年9月

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9月4日…20歳、インテリアデザイナー志望のOL

この日は金曜日だが、ぼくは休暇を取っていた。休暇とは言っても、とくに出かけるあてもなく、やらなければならない用事もなかった。そして、ぼくにはこの日、どうしても女性と遊びたい理由があった。カラオケでもいいし、食事でもいいし、酒でもよかった。

入ったのは夕方近くだったが、会えそうなコはなかなかいなかったし、自宅からの、「彼が最近冷たくて」などの悩みを訴えてくる電話への応対も、それはそれで楽しいことであり、時間はむなしく過ぎてゆく。

結局、「本当は援助希望」という20歳のコと会うことになった。待ち合わせの東急本店(言い忘れたが、場所は東京渋谷である)にグレイのワンピースを着た彼女が現れた。テレクラ用語でいう「テレ上」というやつであろうか。やや小柄で、髪は黒く、今時の若い女性にしては地味なファッションで、ぼくには好感が持てた。

カラオケボックスで歌いながら話をする。テレクラには時々かける。援助もたまに。会社で手に入れたディズニーランドのチケットを買ってくれる人を探すために電話したのが最初だったそうだ。将来は(今の会社もその関係だが、)インテリアデザイナー的な仕事をするのが目標。

先月辺りまで、付き合っている、という程ではないがたまにデートをする相手がいた。テレクラで知り合った35歳の独身サラリーマン。慶大卒で勤め先も大手企業だが、たよりないタイプ。親元から会社に通っており、結婚相手が欲しいとも思っていなかったようだ。自分に対しても何を求めているのか最後まで分からなかった。その彼には誕生日プレゼントを買ってもらったりはしたが、肉体関係はなかったのだという。

ぼくが思うに、その彼は「恋愛」がしたかったのだろう。その気持ちはぼくにも何となく分かる。肉体関係を求めないあたりにも、それが現れている気がする。彼女にもそれは伝わっていたのかもしれない。でもそれは彼女にとっては困惑の元でしかなかった。彼は彼女にとっては本気になれる相手ではなかったし、むしろ援助交際と割り切ってほしかったのだ。

9月7日…22歳、超・高学歴大学生

4日に引き続いて休暇。月曜日のテレクラというのもオツなものである。

最初の電話はいきなり「その店の階段の下に10分後に行くから」と妙にハイテンションである。折角だから待っていると、やってきたのは「これがテレ下…かな?」という感じの女性。痩せていたこともあるし、あるいはあれでも「テレ中」というのかもしれない。正直、付き合いたいと思える相手ではなかったが、これも一期一会と思い、その場で少し会話してみると、なんと「実はわたし目的があってぇ…」などと言い出す。丁重にお断りし、店へ戻った。

次の電話は自宅からのお悩みコール。お馴染みの「彼が最近冷たくてうまく行っていない」というような話である。達人はどうか分からないが、ぼくはこういう場合話を聞いて、励ましてあげるのが精一杯である。切りぎわに「ありがとう。少しは元気出た」などと言われると、ああ良かったなあ、などと思ってしまう。一体ぼくは何しにテレクラに来ているんだろう。自分でもわからない。

3件目の電話がおもしろかった。22歳の学生と名乗る。少し話してみて、言葉づかいが丁寧なこと、話題にバラエティが富んでいることに驚く。「お父さまお兄さま」といった言葉がすうっと出てくる。「革命家には次男が多い」などという話も出てくる。大学生であるのは間違いないが、気になったので聞いてみた。「大学では何を専攻しているの?」「医学部医学科です。」ここまで聞けばもう十分。大学名は間違いない、あの大学だ。こんな女の子がいる大学は、T大しかない。つまりぼくの後輩というわけだ。(その後本人に確認。間違いなくそうだった。)

話はユング・フロイトからポルノ映画の撮り方、SM体験、初恋の話、医学の話など多岐にわたった。初体験は大学1年の時。相手は昔「お兄さま」の家庭教師をしていたことのある初恋の人。ことの後、彼は「君は一生ぼく以外の男性は知らずに過ごすんだよ」と言ったそうだが、そうはならなかった、というわけである。

周囲からは高校の時から処女ではないと思われていたという。実際フェラチオならしたことがあったというし、おそらく処女喪失の機会もあったはずである。しかし踏み出せないのが優等生の定めだったのかもしれない。これはぼくの想像。

今はステディな彼がいる。セックスの喜びを教えてくれたのは今の彼だが、絶頂感はまだわからない。感じるのは、たとえば鏡の前で自分が愛撫されている姿を見る時。肉体的な快感よりも、頭の中で感じているのだろう。そして、彼のことを愛しているのだが、別に気になる男性がいる。その男性のことを考えたときは、必ずオナニーをするのだそうだ。

彼女だけが一方的に話していたわけではない。最後の方はお互いの「ヰタ・セクスアリス」を語り合うような状態になっていた。ぼくは彼女と寝てみたいと思った。彼女も「あなたと寝てみたい」と言った。ぼくは「寝よう」と言った。「でも怖い。どんな格好をして行けばいいのかわからない。どんな態度をとったらいいのかわからない」。やはりそうなのだ。電話回線だけでつながれた、顔の見えない相手だからこそ、大胆にもなれる。母親が帰ってきた。彼女は電話を切った。

結局3時間以上話していたことになる。店には延長料金を払わなくてはならない。店員のお兄さんにも「ずいぶん長くお話されてましたね」と言われる。「話だけですよ」とぼく。確かに話だけだったが、実りがなかったとは思わない。現役学生の彼女の話についていくには、脳をフル回転させなくてはならなかった。(あの大学の学生は全員、衒学的な傾向を持っているのだ。)こういう頭の使い方をしたのは久しぶりだ。心地よい緊張感のある会話だった。

惜しかったと思わない、と言えば嘘になる。もう少し粘り強く交渉していれば、あるいは携帯番号(持っていれば)くらいは聞き出せたかもしれない。とはいえ、相手は結局はお嬢様である。一介のサラリーマンであるぼくが付き合える相手じゃない。

それにしても、何不自由ない暮らしをし、素敵な彼がいて、医学への道も開けていて、すべてが揃っているかに見える彼女は、何を求めてテレクラに電話をするのだろう。ぼくの心に解明できない謎として残った。

9月12日その1…27歳、幸せになりたい看護婦

土曜日である。この日もぼくは渋谷へ行った。2本ほど援助希望の電話をパスして、3本目くらいに取ったのがぼくと同じ27歳の女性からの電話だった。話をしているうちに分かったのだが、救急病院に勤める看護婦さんだ。元気な声で、病院でも先生方にかわいがられていそうである。

最初のうちは、「彼の仕事が忙しくて、なかなか会えなくてさびしい。愛情に疑問を感じる」という、これまでにもいろいろな女性から聞かされてきたような話だった。慰めたり励ましたりしながら話を聞いていくと、今の彼とはテレクラで知り合ったのだという。最初は遊びのつもりだったのが、彼女の方が好きになってしまい、がんばって落としたのだそうだ。でも、最近彼の仕事が忙しく、彼女も仕事柄、夜勤があったりと不規則で、当面会えない。それなのに、彼にはその埋め合わせをしてくれるような気遣いが感じられないということだった。

女の27歳は微妙な年齢である。そして、彼女は特に結婚願望が強いようだった。今の彼とは付き合って半年以上になるが、結婚の話になると逃げるようなところがあり、彼女にはその辺、焦りがあるようだった。彼女の家に泊まっていってくれたことも数回しかない。(彼は現在親元から会社に通っている。)「このまま付き合ってて、幸せになれるのかな…」

話はそこから介護問題に飛んだ。唐突なようだが、結婚→親との同居とすれば、避けては通れない問題である。看護婦としての経験から、たとえ実の親でなくても、「寝かせきり」のようなことはぜったいしたくないのだと彼女は語った。病院に連れてこられるお年寄りには、家でどんな扱いを受けているのかと思ってしまうような状態の人が多いらしい。

唐突に、今度は本当に唐突に話が下ネタになった。「いろいろまじめなこといったけど、あたし実はただのスキモノなんだ。」そこからの会話は、テレホンセックスめいたものになった。「さびしいときは、男の人の肌の温もりが欲しくなる。今日もそう。でも今日は生理だからエッチはできないんだ。家もそこからちょっと遠いし。そうでなきゃ、ぜったいあなたを(家に)呼んでた。」

この場は携帯番号を教えてもらって切る。その日の夜中、かけてみた。彼女は打って変わって幸せそうだった。当分会えないと思っていた彼が、家に来てくれたのだ。今まで食べさせる機会がなかった手料理も振る舞うことができた。生理だからエッチはできなかったけど、思う存分イチャイチャできた。

「でもあたしの浮気心は止まらないんだな」。彼女は22歳まで処女だった。本気で好きになった男性を、親友の女の子に横からさらわれたことがある。その後、勤め先の産婦人科医と数年間の不倫を経験した。いろいろなことを教えてもらった。結局別れたけど、今でもその先生には感謝している。たぶんいろいろな男性とセックスをするようになったのは、その別れの後なのだろう。

彼女は幸せになりたいのだ。愛する一人の男性と家庭を築く幸せ。いろいろな男性といろいろな経験をする幸せ。幸せにもいろいろある。ぼくは、彼女はきっと幸せになれると思った。

9月12日その2…20歳、世間知らずのお嬢様美大生

看護婦さんの電話を切った後、彼女の「あたしは今日はエッチできないから、他のコを探しなよ」という言葉が耳に残っていたぼくは、もうしばらくテレクラにいることにした。「エッチをさせてくれるコ」は見つからなかったが、またおもしろい電話を取ることができた。

20歳の女子大生。美術を学んでいる。友人からは吉野公佳に似ていると言われるが、どんな人か知らないのでよくわからない。テレクラへかけたのはこれが2回目。最近大学の友人たちの間でテレクラが流行していて、彼氏を見つけた子も2人いるのだそうだ。周りからしきりに薦められるのでかけてみたら、出た男が少し変な人だったらしい。普通に会話をしていたら、いきなり怒り始めたのだ。「こんなところへ電話してきて、遊び相手を見つけようなんて、何を考えているんだ」などと。彼女は滅多に怒ったりしないタイプなのだが、さすがに頭にきた。それでもいきなり切るのは悪いと思い「お話が合わないと思いますので、もう切ります」と断って切った。友人にその話をしたところ、友人は彼女自身よりも怒ってしまい、早速テレクラに苦情の電話をかけていたそうだ。「友達に薦めた私の立場はどうなるんですか」と。まあ、それでテレクラには懲りたような具合だったのだが、もう1度だけかけてみようと思ったのは、その友人がテレクラで見つけた彼、というのがマトモな人なので、次はいい人かもしれない、と考えたから。

この春から友人の紹介で付き合い始めた彼がいたのだが、趣味が合わなかったり、束縛しようとするところがあったので別れることにした。この夏はその彼のほとぼりを冷ます意味もあって、ずっと海外に行っていたとのこと。これがまたスケールが大きい。最初が米国。ラスベガスで大当たりし、数十万円儲かった。そこでそのお金を使って(親に言ってもそのくらいは出してもらえるが)次は豪州へ。ここでもカジノで大当たり。手元に170万円ほど残ったのだ。そこからがまた凄い。100万円は定期預金にし、残りはすべて阪神大震災の被災者を支援する団体にポーンと寄付してしまった。

とにかく話を聞いていると、お金には不自由しない身の上のようである。高校生のときも、親の実家のある秋田へ旅行しようと一人で上野駅に行ったとき、お金を盗まれて困っている出稼ぎの人に持っていた50万円(!)をあげてしまったことがある。その人からは今でも毎年大きなりんごの箱が届くのだそうだ。

その彼女、大学へ入ってすぐ、ストーカーに付きまとわれ始めた。車でいろいろなところへ付いてくる。何をするわけでもないのだが、当然気持ち悪い。親に相談し、探偵を雇って調べたところ、ストーカーは20代の東大生だった。まるきり知らない人だったが、たまたま映画館で隣に座ったことがきっかけで付きまとい始めたらしい。弁護士を立てて先方の親とも話し合い、結局そのストーカーはしかるべき施設へ入れられることになった。今でも施設で毎日彼女への手紙を書いているのだという。もちろん手紙は出すふりをして施設の人が処分しているのだ。そんなことがあって、彼女はしばらく物も食べられず、入院生活を送ったこともある。とはいえ、その事件のせいで男嫌いになるようなこともなく、無事立ち直った。むしろ人を疑うことを知らなかった彼女にとっては、いい社会勉強になったのかもしれない。「でも、その人(ストーカー)も可哀想なんですけどね…」。本当にいいコだ。「弁護士になりたい」と思ったこともあるそうだが、こんなに純では無理だろう。自衛隊に入りたいと思ったこともあるらしい(??)が、腕立て伏せもできないのではそれは無理。

あまり派手好きではない。前の彼もクラブとかそういうとこばかり連れて行くので面白くなかった。彼女は美術館をまわったり、古いお寺を見たりするのが好きなのだ。ぼくもそういうデートが好きだ。「ぜひ君と一緒に美術館に行ってみたいな」「わたしも行ってみたいです。あなたと行けたら楽しいだろうな」「今度行こうよ。連絡先とか教えてくれない?」「…やっぱり駄目です」。

T大の彼女(9月7日)と同じパターンだ。次に彼女からの電話を取った男は、彼女のことをデートに誘えるかもしれない。彼女は「(会話が)すごく楽しかったので、もうかけるのやめるかもしれないです。次にまた変な人だったら嫌だから。これでやめれば“楽しいもの”と思ったままでいられるから」と言っていたけれど…。

9月15日…28歳、人生に前向きなOL

この日の最初の電話は、「19歳。ちょっとお金なくてぇ。いつもはホテル行って3万なんだけどぉ、今日は時間ないから口で1万でどぉ?」もちろんお引き取り願ったが、口だけって場所はどこでするんだろう、とちょっと気になったりした。それだけでホテルに入るのはちと問題あるよなぁ。

それはそうと、この日話をしたのは28歳のOLさん。とても元気な話し方だ。無難に仕事の話から。今の仕事にはかなり不満があるらしい。明らかに自分より能力の劣っている男性社員のサポート的な仕事が中心では不満も溜まるだろう。転職も考えていて、最近は面接なども受けているが、やはり本気で転職するなら、まずは今の会社を辞めてからだと思っている。

付き合いはじめて半年になる彼とは、今とても順調だ。彼は来年には仕事を辞めて、米国・シリコンバレーに勉強に行ってしまう。それが半年になるか、2年になるか、まだ分からない。でも何も心配していない。自分にもやりたいことがあるし、彼にもやりたいことがある。お互いがお互いのために何かを犠牲にするのではなく、お互いの夢を尊重したいと思っている。もちろん、将来的には結婚を考えているし、子供ができた後も仕事ができるように、今から資格を取るための勉強を始めている。

テレクラにかけてくる女性は、ほとんどが何らかの不満や不安を抱えている。その他、純粋なヒマつぶしというケースもあるだろう。ただ今回の彼女は、そのどちらにも当てはまらないような気がした。強いて言えば仕事の不満があるのだが、それは彼に話せばいいことで、そのことでストレスを感じたりしている様子はなかった。もちろん基本的にはヒマつぶしだろう。でもただのヒマつぶしの場合でも、もう少しドキドキするような会話をしたり、「彼に内証で知らない男とHな話をしている」ことで刺激を受けたい、といった目的が感じられるものなのではないか。

自分の幸せは、友人には自慢しづらい。でも誰かに話して自分が今幸せであることを実感したい。彼女の前向きな話し振りからは、そういった目的しか読み取ることができなかった。とはいえ、不幸自慢と幸せ自慢のどちらが聞いていて楽しいかといえば、後者だ。ぼくは彼女の話を聞いていて、少し元気になれたような気がした。

9月19日…21歳、普通の女子大生に戻りたい

この日は土曜日。「土日の午後は厳しい」というのは一つの定説のようだが、確かに厳しかった。電話が鳴らないわけではないのだろうが、何しろ客が多いのでまわってこないのである。といっても土日が休みの普通のサラリーマンにとっては、土日の午後が主戦場になるのは致し方のないところ。

最初の電話は26歳のOL。普通に話をしていたのだが、ぼくが独身で親と住んでいることを話すと、突然怒り始めた。「いい歳した男が、一人暮らししてないなんてサイテー。そんなの男じゃない」。まあそれはそれで一つの見識だとは思うが、こちらにもそれなりに都合というものがある。いずれにせよ、話ができる状態ではないので切らせてもらったが、捨てぜりふに「バーカ!」などと言われて少々ムッとしてしまった。赤の他人との会話なのだからいろいろあって当然だとは思うが…。

気を取り直して2本目の電話。21歳の学生。電話を取ったのは午後5時過ぎだったが、今起きたばかりだという。聞けば、終夜営業の居酒屋でバイトをしているとのこと。今はまだ夏休み期間で、来週から学校が始まるらしい。

今は特定の彼氏はいない。本人いわく「性欲がない」そうで、男がいなくても仲のいい女友達がいれば今は十分、と思っている。ただその心境に至るまでにはいろいろあったようだ。「今まで男を選ぶのに“話がおもしろい”とか、そんなので決めてたけど、やっぱりそれじゃダメだと最近思うんだ。もっと性格とか、自分のことをどれだけ分かってもらえるかとか、そういうのが大事だと思う」。

テレクラで知り合った男と、その日のうちに関係を持ったこともある。「でもそういうのって、やっぱり初めからそういう風になっちゃうと、ちゃんとした付き合いにならない。そういう(すぐ寝るような)付き合い方は、もういい」。

話を聞いていると、マジメなのか遊んでるのか分からないようなところがあるコだ。口調は今時のギャル(死語)なのだが、話の中身は案外マトモである。その辺聞いてみると、高校の時までは全然遊んでなくて、「こういう風になった」のは大学に入ってから。別の話の中で、大学に入ってすぐに失恋をしたということも出てきたので、きっとそれも影響しているのだろう。突っ込んで聞かなかったので、失恋と「大学デビュー」との相関については、ぼくの想像の域を出ないが。

法学部の3年生だが、来年卒業できるかどうか怪しい。今年の前期のテストはほとんど受けなかったからだ。来年は就職なのだが、まだ自分が何をやりたいのかが分からない。今までの大学生活は、ほとんどバイトに明け暮れていた。今になってみると、もっといろいろ勉強もしておけばよかったと思う。大学1年の時はESSで活動したりしてた。今からでも、英会話とか通ってみようかと思っている。

最近、大学でもっと友達を作りたいと思いはじめた。バイト等の知り合いは、確かにおもしろい人たちだったけど、「自分のことしか考えてない連中」だった。その点、大学の同級生たちは「何ていうか、思いやりがある。人の気持ちを考えてる」。この夏、昔の彼のお姉さんの紹介で、キリスト教の教会に通い、そこで友達を作った。「やっぱり人間の質が違うと思う」。

想像するに、彼女の大学は、いわゆるハイレベルな大学なのだろう。高校の時はまじめに勉強し、大学に入って何があったのかはわからないが、同じ大学の同級生たちよりもかなり「遊んだ」。いろいろな(勉強以外の)経験もした。でももう3年も後半に入る。大学では、周りがそろそろ将来の目標などを固めはじめる時期だ。彼女にもその点、焦りが出てきた。遊ぶのはもういい。そろそろ普通の女子大生に戻りたい。

「わたし、純愛がしてみたい。」「じゃあ、ぼくとしてみる?」「…アハハ、と一応笑ってごまかしとく。」後日の再会を約して電話を切った。

9月23日…自称32歳、お見合いパーティ行こうかな

このサイトを開設して数日たったが、この日の朝の段階ですでにカウンターは700くらいになっていた。自分に照らして考えれば、訪問してくれた方がみな細部まで真剣に読むというわけではないとは思うが、やはり不特定多数の方の目に触れているのだと思うと少し意識が違ってくる。

この日は水曜日の祝日。あまりテレクラに適した日とは言いがたいような気がする。午後から渋谷へ行ったのだが、あまり芳しくない。かかってきても「お金がなくってぇ」というものばかりだ。余談になるが、夏以降、ぼくは18歳未満のコの電話をまったく取っていない。やはり例の条例が利いているのだろうか。あるいは、ぼくの行く店が「取り次ぎ制」(フロントが女性の希望年齢を聞いてから、ふさわしい男性客につなぐ方式)の店であるため、まわってこないのだろうか。女子高生たちは、「援交」するなら、付き合っているうちに「マジ」になりがちな若いサラリーマンよりも、体だけが目当ての中年サラリーマンをむしろ選ぶ、みたいなことを「SPA!」あたりの記事で読んだことがある。

それはいい。今日の話である。「取り次ぎ制」であるためもあって、ぼくの今までの電話の相手は、20代が大半である。したがって、「32歳です」と言われると少し対応に困る。学生や20代のOLに対する話のしかたは、今までの経験から、何となく自分の中にマニュアルのようなものができつつあるし、相手の目的も話しているうちに分かってくるが、年上、特に30代のことはまだよく分からないのだ。

しかもこの彼女、自称32歳ではあるが、声だけで言えば30後半、あるいは40代か? とも思われるような雰囲気。挨拶が終わったところで、「ここまではみんないいのよねぇ。『こんにちは、はじめまして』まではちゃんと言えるのに、そこから後は急にぞんざいな言葉づかいになる人が多くて」。

独身で仕事はしていない(??)らしい。今住んでいるマンションの大家さんに対する愚痴をならべる。適当に聞き流す。ぼくの言葉づかいは合格だったようだ。そのうち「お見合いパーティというのに申し込んでみようかと思っている」という話を始める。「でも行ったことないから、いろいろ不安で。どんな人が来るのかも分からないし。どんな服着ればいいのかもわからないのよね。ホテルのディナーパーティとは違うから、普通の服でいいっていうんだけど、あたしの持ってる服って美輪明宏みたいなのしかないのよ」。…どう突っ込んでいいのやら。初めから、何となくオカマっぽい声だなあと思っていたぼくは、ここで完全にやる気を失っていた。(実際にオカマだとは思わないが。)

「なんで申し込んでみようと思ったのかなあ。やっぱり寂しかったのよね」。ぼくは相撲(若乃花−千代大海という力のこもった熱戦)を見ながら適当に相づちを打っていたのだが、彼女としては、ここら辺で「逢おうよ」と誘ってほしかったらしい。そろそろ時間だからと切ろうとすると「じゃあ、あたしはどうなるの。ちょっとあなた、不安にさせるようなことしないでよ。今度のパーティでもせっかくいいなと思って話していた男の人に、最後になって『じゃ、ぼくはこれで。』って言われちゃいそうじゃない」。しまった。そうだったのか。彼女にとっては、「テレクラに電話する」=「逢える人を探す」だったのに、ぼくにはそれが分かっていなかったようだ。「まあ、アポだけとってすっぽかされるよりはいいけど」。

切り際には「また別な人を探そうかな。でも楽しかったわ」と言われる。それにしても、お見合いパーティに行くのが不安で、なぜテレクラで知り合った男と逢うのが不安でないのか。どこかで「30代で独身の女性(でテレクラにかけてくるような人)には、どこか問題がある」みたいなことが書いてあったが…。

9月26日…21歳、就職を控えて…「普通の」大学4年生

27日朝7時半。渋谷円山町のラブホテルの一室。ぼくの隣では昨夜逢ったばかりの女の子が寝息をたてている。こういう経験は、テレクラに通うようになって初めてのことである。だが、ぼくはいわゆる「最終目的」を果たしていなかった。直前で、体の一部が如意にならなくなったのだ。しかし、ホテルで起こったことを細かに書くことは、この日記の主旨に外れるような気がする。あるいはこの経験から、別の考察が生まれ、それをこのサイトで発表することもあるかもしれない。今ぼくの頭の中ではいろいろなことが渦を巻いている。しかしここでは、そこに至るまでの経過だけを書くことにしよう。

土曜日。いつもの渋谷のテレクラへ向かう。4時過ぎに部屋に入ってすぐ、1件目の電話が鳴った。21歳の大学4年生。今日は女友達と池袋で買い物をする予定で、待ち合わせ場所まで行ったのだが、ドタキャンされてしまい、急に暇になった。たまたまテレクラのティッシュをもらったので、自宅(三軒茶屋)からかけてみたのだという。

テレクラに電話したのはこれが初めて(後で本当は2回目、と訂正)。それにしては電話のしかたが慣れている感じ。聞けば、ここしばらく「テレアポ」のバイトをしていたのだそうだ。若い男性ならたいてい経験があるはずの、妙になれなれしいセールス電話だ。(注:いわゆる「テレクラのサクラ」とは別。)最終的にはその会社の商品を販売したり、入会の勧誘をしたりするために、会場に客を連れてくるのが目的である。コツは電話の相手と仲良くなること。

バイトはけっこう楽しかった。彼女と同じ大学4年の男子がセールス対象で、いったん電話がつながってしまえば後は世間話をしていればいい。最後に会場に呼ぶ(「アポを取る」)のはもちろんだが。いろいろな人と話すことはいい経験だった。ところがそのバイトを昨日急に馘になってしまった。理由はつまらないこと。卒業旅行の資金を稼ぎたかったのだが…。

大学の学部は理系。就職活動はキツかったが、何とか希望する業種に決まった。後は卒論だが、毎日実験でなかなかハード。土日以外、遊ぶ時間はない。同い年でカメラマンの彼がいるが、海外を飛び回っていてなかなか逢えない。大学時代は4年間ずっとサークル活動でアーチェリーをやっていた。最初は下手だったが、だんだん上達していくのが楽しかった。最終的にはかなりの腕前になった。

テレクラと言えば、小学生の時にテレクラに悪戯電話をするのが友達の間で流行ったことがある。「18歳」などと言って、アポだけする。で、行かない。「でも私はやっぱり怖かった」。

本当に普通の大学生のような印象だ。特に「遊んでる」感じもない。理系だから学校もサボれないし、サークルを真面目にやっていれば他の遊びに振り向けるパワーは残らないものだ。ぼくはこういう子と話す方が、「遊んでる」子と話すよりも得意だし、話していても楽しい。向こうも同じだったようだ。

1時間40分くらい話しただろうか。「ねえ、この後暇なんでしょ?」と彼女。おいおい普通はそのセリフはこちらから言うものじゃないのか。まあいい。「うん、暇。君も暇なんだよね。じゃあ、今から出ておいでよ」。アポを取る。「小学生の時みたいに、アポだけ取ってすっぽかすのはやめてね」「あ、それは絶対ないから」。

紺のキャミソール風の服に黒のパンツ、グレイのパーカーを着た彼女が現れる。ショートカットで、化粧も薄く、スポーティな雰囲気。電話での印象以上に普通の子だ。容姿も、テレコミ用語で謂う「テレ上」だろう。まず食事。パスタを食べる。就職活動の苦労話を聞き、社会人としての心得を説く。会計を済ませると、自分の分を出そうとする。ますます好印象。でもここは奢らせてもらう。

次にカラオケ。こちらの歌を頭でリズムを取りながら聴いてくれる。こちらが歌っているあいだに次の曲選びに没頭されると、歌っていても張り合いがないものだ。1時間楽しく過ごす。

食事・カラオケと来て次はお酒だ。飲むのは好きで、まあまあ強い。居酒屋に行く。何となくオシャレな店より居酒屋の方がいいような気がした。(それ以前にぼくはオシャレな店を知らないのだが。)酒も入って、お互い口も軽くなる。

テレクラに電話したのは、やっぱり寂しかったからだと思う。彼にはしばらく逢えないし、バイトもクビになったし、女友達の約束もドタキャンされた。だからかけてみた。純粋に暇つぶしのつもりだったのに、思いのほか話が合ったから、逢ってみたくなった。本当は前に一度かけたことがあったけど、その人は「中学出て働いてる人」で、私が大学生だとか言ってもあまり興味ないみたいで、「タレントでいうとどんなタイプ?」とかそんなことばかり聞いてきたのでつまらなくなって切った。そういえばぼくは容姿のことぜんぜん訊かなかったっけ。こちらの容姿もぜんぜん言わなかったし。

高校の時はそんなに勉強も得意ではなかったし、要領も良くなかったので、毎日勉強に追われてた。大学に入っても、授業とサークルとバイト(アーチェリーは金がかかる)が忙しくて、「遊んで」ない。今の女子高生とか見てると、少し羨ましくなったりする。あと半年で就職だし、少し「はじけて」みたい気がする。今こうしてることとか、彼には悪いと思うし、ぜったい言えない。でも仕事が忙しくて私のことを放っておいているのは、彼が悪い。

話は楽しかった。9時くらいに店に入ったはずだが、時計はすでに1時をまわっていた。彼女の目がトロンとしてきた。ぼくは店を出ることにした。「普通はこういうときホテルに誘うものなんだけど」「でもそういう気持ちないでしょ?」ずいぶん信頼されてるなあ。それとも今まで誘わなかったことに対する言葉か。「誤解しちゃダメ。どんな男でも、そういう気持ちはいつも持ってるものなんだよ」。…そして、この項の先頭へ続く。


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