最終回 「5日目 -- そして神戸」

月が変わって5/1。
入念なストレッチの後に下阪元の宿を出たのは7:30。
湖畔を走る。
琵琶湖には朝の早いボート部員が
ひと練習終えて休憩しているのが見える。

10数Km走ってやっと国1に戻る。
京都まではあと20数Kmになっている。
すでに無いも同然の距離だ。
だが京都に行くまでには小さな丘をいくつか越える必要がある。

登り坂にさしかかった頃、
これまで必死に耐えていた空がとうとう泣き出した。
それほど大ぶりではない。
荷物から手早く防水カバーを取り出すと、
バッグにかぶせた。
体に着るカッパはなくても、
荷物にかぶせるカッパはちゃんと用意してあるのだ。

再びバッグを背負うと、エイヤッと漕ぎ出す。
脚にはここまで私を運んで来た力は見られない。
これしきの登り坂でヘたるようなことはなかったのだが…。

さすがに降りて押すまではいかなかったが、
歩道をフラフラと、
まるでおじいさんが重い自転車に乗ってるみたいな動きだ。
おかしい。ここまではひと晩寝れば完全復活していた脚なのに。
やはり昨夜お風呂に入った後に出かけたりしたのが
いけなかったかなぁ。

そんなことをボゥッと考えながら坂を登る。
どうも左ひざの靱帯が痛み出しているようだ。
私ももう若くないな。
靱帯は一度痛めるとなかなか直らない。
筋肉と違って常に引っ張る方向に力がかかっているからだと
勝手に解釈している。
少なくとも、切れたら放っておいても直らない。

ともあれ、これまでになかった種類の変調にとまどいつつも、
坂を登り、下り、また登りしているうちに
京都に近付いてきた。

ふと前のバス停にとまっている路線バスを見ると、
一面にお姫様の絵が書いてある。
うーん、京都の路線バスってお茶目。

おそらく最後の下り坂だろう。
ほとんど頭は真っ白状態だった。
重力に任せて落ちるように下っていく。
35Km近く出ている。

京都についたらひと休みして
その後の方針を決めよう。
大阪に寄るか、神戸に直接行くか。
この脚では明日も漕げるかどうか分からないなぁ。

そんなことをボーーッと考えている、その時だった。
1台の原チャリが私の右をスッと抜いていった。
そして、その原チャリは突然減速しながら左折体勢に入ったのだ!
私の進路を塞ぐ格好で原チャリがほとんど止まるようにして振り向いている。
まるで私が見えていないようだ。

く、近すぎる。10mもないぞ!
このスピードではブレーキを入れても止まれない。よけるしかない。
すばやく、しかし確実にブレーキレバーを握る。
むむ、いつもより減速が少ない!
雨のせいか!

雨で濡れたタイヤでブレーキが効かず、
そのままガードレールに突っ込んでいった記憶が
一瞬甦ってすぐ消えた。

やばい、ぶつかる!
そう思った瞬間、
原チャリが少し前に出たのか、
ミリ単位の差で原チャリの後部をすり抜けることができた。
ほとんどかするかかすらないかのすき間だった。

ふぃーー、危ない、危ない。
京都を目の前にして今までの苦労が水の泡になるところだった。
不思議に原チャリには怒りは湧いてこなかった。
いつもならとてもここには書けないような罵声を浴びせるところだが:-P。
ふ、おれも大人になったな。

ひと睨みして先へ進む。
道が広くなった。
直角の交差点が増えた。
京都に入ったようだ。

GW中の日曜日らしくまだ8:30を過ぎたばかりだというのに
人が出ている。
なぜかカップルが多い。
(なぜかじゃないか^^;)

9:00前には京都駅前についた。
ここで買いものをしよう。
今まで泊まるたびに絵はがきを探していたのだが、
なかなか見つからなかった。
ここなら買える。家田さんに送る約束してたんだよな。
9:00にデパートが開くまで待って、
絵はがきを買った。

さて、雨もやんだし先へ進もう。
ここから行く道は2つある。
1つはこのまま1号を行って大阪まで。
もう1つは別の国道(175だったかなぁ)を通って神戸まで直接行く道。

大阪で食い倒れるのも魅力だが、
今日が限界のような気もする。
なんだか周りを見る観察眼も曇ってきているようだ。
さんざん迷った挙げ句に結局神戸に向かうことにする。
予定より1日早いが、友人に電話して泊めてもらおう。

お昼近くなってお腹がすいてきた。
めぼしい食べもの屋は見当たらない。
ん?あれはフジヤレストラン。
よし、入ろう。
すでに格好は全く気になっていない。
最後の燃焼のためにパスタを注文。

燃料補給が完了して、すぐに出発。
あいかわらずペースは上がらない。
20Km/h前後で一定している。
信号で止まったりするので、
平均では15Km/hいかないだろう。

そうこうするうちに西宮まであと10数Kmまで迫った。
また1台のロードレーサーに抜かれる。
ハンドルがよくトライアスロンとかで使われている、
前に飛び出てスキーの滑降のような形で走れるようになってるやつだ。
さすがに早い。

信号で追い付いた。
「どちらからどちらまで?」
「東京から神戸まで。おたくは?」
「岡山を目指してるんですけど、今日は西宮で泊まるつもり。」
「どこスタート?」
「名古屋。昨夜は水口に泊まった。」

また一人バカ発見。
不思議と気があってしばらく一緒に走る。

「水口というと、今日鈴鹿ごえしたんじゃないんですか?つらかったでしょ。」
「いや、それより京都の手前が…。」

そんなもんかな。
まあ、鈴鹿峠のボディーブローのような6%の連続が、
あとの京都に響いたに違いない。
私は京都は少なくとも自転車から降りてない。

連れができてからこれまでのスローペースが嘘のように
スピードが上がる。
30Km/hがコンスタントペースになってきた。
向うとしては私に合わせてペースを落し気味にしてるくらいだろうが、
私には自分でも信じられないペースになった。
ひざの痛みはとうに忘れている。
うーん、体育会系の血が燃えてきたぜぇ。

西宮まであと数Km。
少し前を進んでいた連れが突然止まる。
ん?どうしたんだ。
身振りで先に行けといっている。
「パンクした、先行って。」

これだからチューブラは駄目だっての。
(ただ単に高い自転車が買えなかっただけの私:-P)
しかたない。
「じゃね。」
とあまりにあっさりと別れた。
別れはあっさりがいい。

西宮まで来れば神戸は目と鼻の先。
友人はその先の明石にいる。
電話した。
「悪いんだけど、予定より1日早く着きそうなんで、
  今日泊めてくれる?」
2つ返事でOK。ラッキー。
国道2号をひたすら西に進む。

神戸は歩道が広い上に自転車専用の通行帯があって、
なんの気兼ねもなく走れる。
こうなってるのはここの他には名古屋城に向かう道だけだった。
(名古屋は必要に迫られてなんじゃないのかなぁ)
どこもこうしてくれるとありがたいのに。

と、明石までもう少しというとき、
海岸に巨大な建造物を発見。
がむしゃらになってた私の心に好奇心を浮き上がらせた。
明石海峡大橋。
世界最大の吊り橋になるそうだ。
ついでに海を眺める。
ただ静かに波が打ち寄せている。

なぜか少しほっとした気持ちになって再始動。
その後どのくらい漕いだろう。
17:00になろうとする頃、
JR明石駅の文字発見!
ついに到着した!
長旅の疲れも、ひざの痛みも、
すべて忘れてしばし達成感に浸る。

しかし、感傷的な気分になるほど若くない。
すぐに現実に戻って後処理をする。
やろうと決めて、実行して、達成した。
それだけのこと。

あらかじめ存在を聞いていた明石駅前の銭湯に入る。
体を洗ってから湯ぶねに向かう。
うぎゃぁーー、入れない。
見ると、手も脚も日に焼けて真っ赤。
ほとんど火傷だな、こりゃ。

しかたなく5秒ほどつかるだけで風呂から上がると、
用意してあった普通の洋服に着替える。
近くで買った小さなディバッグに必要なものだけ詰める。
自転車も分解して輪行バッグに入れて、宅急便。

すっかり観光客モードに変身した私は
その後は宴会、徹夜でゲーム大会の後
(何と両極端な…。)
佐賀に里がえりするという友人の車に便乗して、
九州旅行に繰り出すこととなる。

しかし、今思うとよくやろうなんて気になったものだ。

    最終日 7:30〜17:00 走行距離121Km (計705Km)

                                                        おわり

#拙い文章を最後まで読んでくださって、
#ありがとうございました。