その2 別府〜延岡

2.1 失礼な奴

明けて28日。6時30分にセットした目覚しで起こされる。
昨夜は思わず Magic: the Gathering で熱くなってしまった。
初めてやったけどなかなか面白かった。

まだ起きようとしない体を布団の中でストレッチして起こす。
何年経っても忘れないボート部形式のストレッチ。
すぐに体が始動する。
昨夜佐藤さんのお母さんが出してくれたオニギリとカラアゲを 朝飯にして出かけようとすると、
「朝飯食べていきな」のお言葉。

まだ入る。せっかくだからいただいていくか。
そういえば佐藤さんの家の人とはあまり話をしていない。
ちょっと失礼 だったかも。
「今日はどこまで行くんだね。」
「延岡まで行ければと思ってますけどきつそうなんすよね。」
「それだけ太い脚なら大丈夫だろ」
みたいなことを話しながら暖かいご飯をいただく。

さて、出かけるか。
「食べてすぐ動くのもあれだからこっちで休んでけ。」
うーん…。

昨夜の天気予報では29日に雨が降るらしかった。
今日は延岡まで行っておかないと29日からの山ごえが辛くなる。
急ぐことで気持ちが焦って事故を誘発するのを一番恐れていた。
すでに出ようと思っていた時間より30分以上オーバーしている。

「あまりゆっくりしてると延岡に着くのが6時になっちゃうから…。」
しかたない。
ご両親にはただ泊めてもらうだけの格好になっちゃった。
私ってば、すげぇ失礼な奴。
ごめんなさい。

2.2 風連鍾乳洞

別府から大分はすぐだった。
まだ時間が早いし日曜日ということもあって
県庁所在地の割には人はまばらだ。

犬飼町を抜けて野津町に入る。
そこらの看板には江戸町人と思われる人を書いた絵の下に、
[吉四六の里] と書いてある。
吉四六ランドなるところもあるらしい。
残念ながら10号線からは離れていたので行けなかった。

吉四六といえば一休さんと同様トンチで知られた人だが、
果して実在の人かどうか怪しい。
でも里があるってことはいたのかなぁ。
もっとも、一休さんも実在したことはしたけど、
「とんち小僧としての一休さん」はいなかったらしいし、
よく分からないや。

野津を越えると少し登りになった。
やがて左に [風連鍾乳洞 ← 500m] の看板が。
500mくらいだったら寄り道 してもいいかな。
ひょいっと左折すると目の前にめちゃくちゃな勾配の登り坂が。
500m、500mと念じながら漕ぐとすぐに到着。

え、入場料とるの?800円?うーん。
見てくるのにどのくらいかかります?え、30分?
時刻は10時。
考えどころだったがせっかく来たので入ることにする。

せまい洞窟を少し歩くと広いところに出た。
おばさんが説明してるぞ。
見たことないほど大きな石筍や、
めずらしい板状の鍾乳(っていうのかなぁ)があった。
いやぁ、いいもん 見せていただきました。

2.3 意外に深刻な崩壊その2

風連鍾乳洞からしばらく行くとトンネルがあった。
トンネルは登りの終了を示す。
ほっとしながらも緊張しながらトンネルを抜ける。
去年はトンネルで事故ったために佐賀に行けなかった。
同じ轍を踏むわけにはいかない。

「でこぼこないな、ものは落ちてないな」
つぶやきながら無事に抜けた。
あとは佐伯市にさしかかるまでの下りになる。

それにしても道が悪い。
大分県ってあまり自転車で走る人がいないのかな
路側帯を示す白線には居眠り防止のためのデコボコがついてる。
たまに歩道があると思うとアスファルトがひび割れてがたがただ。
これで MTB でなかったらあっという間にパンクだろう。

10Kmくらいそのまま下っていった。
弥生町の市街地に来たらしい。
車の量も増え、いろんな店がでてきた。

と、自転車の異常に気づく。
妙にハンドルが切りにくいぞ。
見ると前輪のタイヤが押し潰されていた。
パンクだ。

やはりあのガタガタ道が効いたか。
でもパンクくらいならすぐに直せる。
あそこの自転車屋の軒先を借りよう。
今日は日曜日。自転車屋も休みらしかった。

さて、どこかなぁ穴は。
とりあえず空気入れよっと。
…ん?あれれ?
えっと…、このバルブは見たことないぞぉ。
しまったぁ。 MTB の空気バルブ ってイングリッシュでもフレンチでもないんだぁ。
さて困った。自転車屋は出かけていていないらしい。
このままではパンクが修理できない。
隣のタクシー会社で聞いてみる。
「このあたりに自転車屋ありませんか?隣は休みで…。」
5Kmほど先にあるらしい。
「パンクくらい自分で直せよ。」
ごもっとも。パンクは直せる。だけど空気が入れられないの。

2.4 女神出現

タクシー運ちゃんに教えられた通り5Kmほど歩くと
バイクも含めた2輪車を扱うショップが見つかった。
しかも開いているらしい。ラッキー。
「こんちはー。」
……あれ?
「誰かいませんかぁ。」
………おりょりょ?いないみたい。
おっちゃーーん、どこいったぁ。

さてさて、困ったぞ。
向かいのスーパーに行ってみる。
「すいませーん。」
30半ばと思しき女性(以下おばさん)が出てきた。
わぁ、きれいな人 だなぁ。
ってそんなこと思ってる場合じゃないでしょ。

「あのバイク屋ですけど今日開いてますよね。
店の人どこ行っちゃったか知りません?」
聞いても無駄と知りつつ聞いてみる。

「もうすぐお昼だから戻ってくるとは思うんだけど。
ときどきパチンコに行ったりしとるからなぁ。」
なにぃ。やめてくれぇ。
このパンクが直らんことには一歩も先に進めん。

とりあえず待ってみることにする。
…待つこと30分。一向に戻る気配なし。
おばさんの勧めにしたがって勝手に店を漁る。
でも見たこともないバルブのアダプタを見つけることなど
ほとんど不可能に近かった。

ガラガラ漁っていると MTB のものと同じ形式のバルブを発見!
?でも待てよ。この道具箱にはプラグとかも一緒に入ってるぞ。
ひょっとしてバイクの道具なのでは。
ってことは…。

期待をこめて店先の50ccバイクを見る。同じだ!
そうか、バイクと同じバルブだったんだ。
そのときおばさんが男の人を連れてきてくれた。
「この人車屋さんだけど何か分かるかも知れないから。」
「分かりましたよ!これバイクと同じでした。」
興奮して報告する。

車屋が店の空気入れにバイク用のアダプタをつけてくれた。
空気が入る!
これでパンクが直せる。あとは手持ちの道具でOKだ。
「見直したか。」
車屋がおばさんに言った。
10数年前には小さな町でこの美女の奪い合いがあったことだろう。
このおじさんも参加者の一人だったんだな。
ひとり勝手に想像してニヤリとしながらパンク修理に勤しむ。

無事に穴も発見でき、修理も終りかけたころ
高校生くらいの男の子がスポーツドリンク片手に近付いてきた。
「これ息子なの。」
おばさんがいう。え!こんな大きな子が?
「あなたと同じ大学生の娘が2人いるけど遠くにいるから…。」
えぇ!大学生の娘が。
この人の娘ならさぞや美しかろう。
連絡先でも聞いておけば良かったかな。

自分が大学生と思われていることを否定しきれずに
その場はそこまでだった。
パンクが完全に直ってから最後にもう一度お礼をいって去る。
返すがえすも連絡先を聞かなかったのは失敗 だった。

2.5 宇目峠

弥生町から先は山道をひたすら登ることになる。
赤松峠の比ではなかった。
地図を見ると等高線と道以外は何もないという、
まさに山道。

と、眼下の鉄道を特急列車が通過していった。
なんと真っ赤な車体の一部に緑をあしらったなかなか派手な列車だ。
周りの雰囲気に全然合ってない。
もっとも、山道を走るサイクリストのために
デザインするわけではないのでどうでもいいんだけど。

それにしても長い。
ずーーーーーーーーーーーーっと登ってる。
12、3Kmくらい来たころだろうか、
これまで以上の勾配の坂が現れてついに自転車を降りて歩いた。
すこし登ったところに宇目ドライブインなるところが見える。
おそらくあそこが峠だろう。

歩きながら左の崖下を見ると少し平になっているところに
木にタイヤをぶら下げたものが5つほど見える。
なんだろう
前から老夫婦が歩いてくる。きっと地元の人だろう。
「すいません。ちょっと聞きたいんですけど。」
道の反対側にいる2人に話しかける。
「あそこでタイヤが木にぶら下がってるのは何ですか?」
どれどれ?とばかりに渡ってくる2人。

婆「シシ脅しかなぁ。いのししが近付かないように。」
爺「子どもの遊び場じゃないか。」
婆「あんなところに遊び場なんか作らないわよ。」

あらら、議論が始まっちゃったよ。
「なんか、よく分からんですな。どうもありがとうございました。」
適当にまとめてその場を去った。
どうやらまだ話し合ってるらしい。
仲のよろしいことでなによりなにより。

1Kmくらい歩いたろうか。やっと宇目ドライブインに着いた。
弥生町で1時間30分も使ってしまったために、
もう午後2時近い。
遅い昼飯になってしまった。
ししラーメンなるものを食べる。
ししといってもライオンの肉が乗ってるわけじゃなくて、
さっきも出てきたいのししの肉が使われてるわけですな。
味は普通のドライブインのラーメンだった…。

それよりも気になったのが赤い豆腐だ。
「これ何ですか?」
「あ、これはシソ豆腐といって、うちにしかないんですよ。」
梅のドレッシングをかけて食べるという異色の豆腐。
これは美味しかったな。

2.6 川沿いの道

宇目峠を越えるともう下るだけだった。
やがて川沿いの道になる。
これから延岡まではずっとこの川と一緒にいくことになる。
つまりもう登りはないということだ。

それにしても大分の道は恐いところが多い。
路側帯の線はあいかわらずデコボコがついているし、
歩道がないところも少なくない。
宗太郎の辺りまで来てもうすぐ宮崎入りというころ、
「ウウ〜〜」とパトカーの音が。
でも一向にパトカーは現れない。ん?また同じ辺りで同じ音。

やがて現れたのはスピーカーだった。
居眠り運転防止装置らしい。
道の真中を走っていないと鳴る のであろう。
よっぽど居眠り運転が多いのだろうなぁ。

宮崎県に入ると道が一変する。
まず路側帯が普通のすべすべしたやつになった。
歩道もきれいに なった。
すこし安心して走れるようになった。

川を見ると川幅が広くなって釣りや水遊びをする人が増えた。
気持ち良さそうだ。
今すぐにでも飛び込みたい気分だ。
でも国道から川に行く道がなかなか見つからない。

やがて北川町に入る。
北川町はほたるの里と銘うって町興ししているらしい。
たしかにこのきれいな川ならばホタルもいようというもの。
集落があったので国道から外れてちょっと寄り道する。
みると川のはしからはしまで紐を渡して、
そこにたくさんの鯉のぼりをつけてるのが見えた。
「あの鯉のぼりは何ですか?」
立ち話しているおばちゃん2人を捕まえて聞く。
「あぁ、あれは去年初節句でもったいないからって今年も…。」
え、ってことはあれ個人の持ち物なの?

北川の集落を抜けてしばらく行くと念願の川に行ける道を発見。
南国の太陽を受けていささかバテ気味の体を冷やしに川に向かう。
川では足をつけて本を読んでる人や、子どもを水遊びさせている人などがいる。
私も靴を脱いで水につける。
汗だらけの顔を洗う。

峠ごえが思いの他速く行けてしまったので、
途中の1時間30分のロスにもかかわらず
4時前にして延岡につけそうである。
ひょっとして佐藤さんちをあそこまで慌てて出なくてもよかったのでは…。

足を冷やしながらしばし河原で横になる。
体のどこにも痛みはない。
水泳もしばらくお休み、サッカーも最近参加できてない、
体重は10Kgも増えてる。
こんな状態で始めたが結構できちゃうものだな。

さて、出発するか。
もう延岡は目と鼻の先だ。
…しばらく走ると変なものを発見した。
[自動精米機] だって。
10Kgを2分とか書いてある。
まさか宮崎ってお米を玄米でしか売らないの?

謎を残しつつ宿探しの心配を始めたころ、
一泊2000円の文字が。
迷わず自転車を止める。
食事は別らしいが、ビールを飲んでも合計3500円だ。
これは泊まらねばなるまい。

ビールの酔いも手伝ってこの日は早々に寝た。
休みの日は早寝早起きなのだ。
明日は午後から雨らしい。なるべく早く出よう。
いよいよ10号とはおさらばして高千穂を目指す。
地図によると今日の宇目峠を越えるキツさがあるように見える。
日に日にきつさをますなぁ。