さて、出かけるか。
昨夜の天気予報では29日に雨が降るらしかった。
今日は延岡まで行っておかないと29日からの山ごえが辛くなる。
急ぐことで気持ちが焦って事故を誘発するのを一番恐れていた。
すでに出ようと思っていた時間より30分以上オーバーしている。
「あまりゆっくりしてると延岡に着くのが6時になっちゃうから…。」
しかたない。
ご両親にはただ泊めてもらうだけの格好になっちゃった。
私ってば、すげぇ失礼な奴。
ごめんなさい。
犬飼町を抜けて野津町に入る。
そこらの看板には江戸町人と思われる人を書いた絵の下に、
[吉四六の里] と書いてある。
吉四六ランドなるところもあるらしい。
残念ながら10号線からは離れていたので行けなかった。
吉四六といえば一休さんと同様トンチで知られた人だが、
果して実在の人かどうか怪しい。
でも里があるってことはいたのかなぁ。
もっとも、一休さんも実在したことはしたけど、
「とんち小僧としての一休さん」はいなかったらしいし、
よく分からないや。
え、入場料とるの?800円?うーん。
「でこぼこないな、ものは落ちてないな」
つぶやきながら無事に抜けた。
あとは佐伯市にさしかかるまでの下りになる。
10Kmくらいそのまま下っていった。
と、自転車の異常に気づく。
妙にハンドルが切りにくいぞ。
見ると前輪のタイヤが押し潰されていた。
パンクだ。
やはりあのガタガタ道が効いたか。
でもパンクくらいならすぐに直せる。
あそこの自転車屋の軒先を借りよう。
今日は日曜日。自転車屋も休みらしかった。
さて困った。自転車屋は出かけていていないらしい。
「あのバイク屋ですけど今日開いてますよね。
「もうすぐお昼だから戻ってくるとは思うんだけど。
ときどきパチンコに行ったりしとるからなぁ。」
なにぃ。やめてくれぇ。
このパンクが直らんことには一歩も先に進めん。
とりあえず待ってみることにする。
…待つこと30分。一向に戻る気配なし。
おばさんの勧めにしたがって勝手に店を漁る。
でも見たこともないバルブのアダプタを見つけることなど
ほとんど不可能に近かった。
ガラガラ漁っていると MTB のものと同じ形式のバルブを発見!
?でも待てよ。この道具箱にはプラグとかも一緒に入ってるぞ。
ひょっとしてバイクの道具なのでは。
ってことは…。
期待をこめて店先の50ccバイクを見る。同じだ!
そうか、バイクと同じバルブだったんだ。
そのときおばさんが男の人を連れてきてくれた。
「この人車屋さんだけど何か分かるかも知れないから。」
「分かりましたよ!これバイクと同じでした。」
興奮して報告する。
車屋が店の空気入れにバイク用のアダプタをつけてくれた。
空気が入る!
これでパンクが直せる。あとは手持ちの道具でOKだ。
「見直したか。」
車屋がおばさんに言った。
10数年前には小さな町でこの美女の奪い合いがあったことだろう。
このおじさんも参加者の一人だったんだな。
ひとり勝手に想像してニヤリとしながらパンク修理に勤しむ。
無事に穴も発見でき、修理も終りかけたころ
高校生くらいの男の子がスポーツドリンク片手に近付いてきた。
「これ息子なの。」
おばさんがいう。え!こんな大きな子が?
「あなたと同じ大学生の娘が2人いるけど遠くにいるから…。」
えぇ!大学生の娘が。
この人の娘ならさぞや美しかろう。
連絡先でも聞いておけば良かったかな。
と、眼下の鉄道を特急列車が通過していった。
なんと真っ赤な車体の一部に緑をあしらったなかなか派手な列車だ。
周りの雰囲気に全然合ってない。
もっとも、山道を走るサイクリストのために
デザインするわけではないのでどうでもいいんだけど。
それにしても長い。
ずーーーーーーーーーーーーっと登ってる。
12、3Kmくらい来たころだろうか、
これまで以上の勾配の坂が現れてついに自転車を降りて歩いた。
すこし登ったところに宇目ドライブインなるところが見える。
おそらくあそこが峠だろう。
婆「シシ脅しかなぁ。いのししが近付かないように。」
あらら、議論が始まっちゃったよ。
「なんか、よく分からんですな。どうもありがとうございました。」
適当にまとめてその場を去った。
どうやらまだ話し合ってるらしい。
仲のよろしいことでなによりなにより。
1Kmくらい歩いたろうか。やっと宇目ドライブインに着いた。
弥生町で1時間30分も使ってしまったために、
もう午後2時近い。
遅い昼飯になってしまった。
ししラーメンなるものを食べる。
ししといってもライオンの肉が乗ってるわけじゃなくて、
さっきも出てきたいのししの肉が使われてるわけですな。
味は普通のドライブインのラーメンだった…。
それよりも気になったのが赤い豆腐だ。
「これ何ですか?」
「あ、これはシソ豆腐といって、うちにしかないんですよ。」
梅のドレッシングをかけて食べるという異色の豆腐。
これは美味しかったな。
それにしても大分の道は恐いところが多い。
路側帯の線はあいかわらずデコボコがついているし、
歩道がないところも少なくない。
宗太郎の辺りまで来てもうすぐ宮崎入りというころ、
「ウウ〜〜」とパトカーの音が。
でも一向にパトカーは現れない。ん?また同じ辺りで同じ音。
川を見ると川幅が広くなって釣りや水遊びをする人が増えた。
やがて北川町に入る。
北川町はほたるの里と銘うって町興ししているらしい。
たしかにこのきれいな川ならばホタルもいようというもの。
集落があったので国道から外れてちょっと寄り道する。
みると川のはしからはしまで紐を渡して、
そこにたくさんの鯉のぼりをつけてるのが見えた。
「あの鯉のぼりは何ですか?」
立ち話しているおばちゃん2人を捕まえて聞く。
「あぁ、あれは去年初節句でもったいないからって今年も…。」
え、ってことはあれ個人の持ち物なの?
北川の集落を抜けてしばらく行くと念願の川に行ける道を発見。
南国の太陽を受けていささかバテ気味の体を冷やしに川に向かう。
川では足をつけて本を読んでる人や、子どもを水遊びさせている人などがいる。
私も靴を脱いで水につける。
汗だらけの顔を洗う。
峠ごえが思いの他速く行けてしまったので、
途中の1時間30分のロスにもかかわらず
4時前にして延岡につけそうである。
ひょっとして佐藤さんちをあそこまで慌てて出なくてもよかったのでは…。
足を冷やしながらしばし河原で横になる。
体のどこにも痛みはない。
水泳もしばらくお休み、サッカーも最近参加できてない、
体重は10Kgも増えてる。
こんな状態で始めたが結構できちゃうものだな。
謎を残しつつ宿探しの心配を始めたころ、
ビールの酔いも手伝ってこの日は早々に寝た。
休みの日は早寝早起きなのだ。
明日は午後から雨らしい。なるべく早く出よう。
いよいよ10号とはおさらばして高千穂を目指す。
地図によると今日の宇目峠を越えるキツさがあるように見える。
日に日にきつさをますなぁ。