朝なので1回のお代わりで勘弁しておいてやって、
窓から外を見る。
まったく、天気予報と女の子の「そのうちね」は当てにならない。
相変わらずテレビの天気予報では「午前中は雨」を繰り返している。
イコジになってない?
またひとつ選択があった。
218号をそのまま行くか、445号に乗り換えて熊本市を目指すかだ。
445号を行けば熊本まで40Kmほど。
だいたいお昼くらいには熊本に着く計算だ。
ここである考えが頭にひらめく。
445号を行こう。
445号を行くにあたっては不安がなくはなかった。
地図には[ブラインドカーブが多い]と書いてあるのだ。
歩道があればいいがないときは車道を走ることになる。
当然事故の危険が増えるわけだ。
気をつけて行こう。
しかし、実はブラインドカーブをさらに恐くするものがあったのだ。
それは長々と続く下り坂だった。
高千穂の辺りが一番の頂上だったのだろう。
そこからはほとんど下り坂だった。
昨日の高千穂から矢部までの道がそれほど恐くなかったのは
あまりカーブがなかったためだ。
矢部町からの御船川に当たるまでの20Kmほどの道は
クネクネと曲がりくねっていて、
しかも歩道のある部分が少ないと来ている。
更に悪いことに定期バスが通るのだ。
後ろを見つつ、車が来るたびに止まってやり過ごすようにした。
いつもは登った見返りとしての気持ち良さを提供してくれる下り坂だが、
ここまで続かれると神経が持たない。
快感も度が過ぎると体に悪い。
やがて御船町に入り御船川に沿うようになると平坦な道になった。
やっとひと安心。
5kmほどいくと道が広くなってきた。
街が近い証拠だ。
歩道をずっと走っているうちに川沿いの土手に誘導された。
445号からは離れてしまうが、
この川沿いに行けばいずれ3号線にぶつかる。
それに土手の道はアップダウンが全くないし、
車も人もほとんどいないから
下りで使った神経を癒すにはちょうど良かった。
ふと土手に自転車が何台も放置されているのを見た。
ところで岡山でもそうだったけど、
ぼちぼち正午だ。
ダイエーを見つけて入る。
服を買うためだ。
これから訪問するところはさすがにTシャツ、チャリパンではまずい。
緑のタンクトップと白の短パンを買う。
これなら自転車を漕ぐにも邪魔にならないし、
見た目も[ちょっと暑がりの観光客]ってところだろう。
トイレで着替えて外に出る。
今まで必ずといっていいほど向けられていた
妙な視線がなくなったような気がする。
金崎さんに電話。
少しのやりとりのあとに、
「今熊本市なんですが、せっかく来たので
九州東海大に顔出そうかと思うんですが。
汚い格好だけどいいっすかね。」
「向うも喜ぶんじゃない?」
訪問決定。
尾前さんを呼んでくださった。
あらら、コーヒーまで出してもらっちゃって。
「池田さんは自転車やられるって聞いてましたけど
ひとりでご旅行ですか?東京から?」
「まさか、まさか。小倉まで新幹線で来て、そこからです。」
「あぁ、小倉からならそんなに遠くないし。」
「でも延岡からグルッと回ってきて今北上中なんです。」
「へぇ、何日くらいで?」
「今日で4日目ですね。」
「これからどういう予定で?」
「特に決めてないんですけど、明日は博多に行くつもりです。
今日は行けるところまでって感じですか。」
「ここから福岡は結構ありますよ。太宰府まで高速で100Kmくらい。」
「げっ。福岡をなめてたかな。」
こんな話をしながら30分ほどの雑談。
「阿蘇の方には?」
「いえ、高森に行こうと思ったんですが高千穂峡を見に行ってたら
あの坂道でしょう?ちょっと行く気なくしちゃいまして。
高森にいってれば阿蘇観光ができたんですよねぇ。」
「じゃぁ、今からバスで阿蘇まで行くってのはどうです?
40分くらいですよ。」
おっ、まだ時間も早いし40分くらいだったら行ってみようかな。
「今からだと1時20分は間に合わないから2時20分かな。」
ちょっと待って、1時間に1本しかないの?
「帰りって何時くらいのになります?」
「5時かなぁ。」
「ちょっと時間がもったいないですねぇ…。」
熊本に泊まってしまうと博多に行けるかどうか分からなくなる。
太宰府まで100Kmという話を聞いてますます弱気になってる。
「それでは私はそろそろ…。」
富田さんはもうひとりの女の人とカウンターにいらした。
「あ、もう行っちゃうんですか?」
「えぇ、福岡が実は遠いというのに気づきまして。」
あまり仕事の邪魔をしても悪い。
でも富田さんともう少しお話したい気もちょっと。
「腕とか真っ赤ですねぇ。」
「えぇ、焼けちゃってお風呂につけられないんですよ。」
ツンツン。
突然富田さんが私の腕を指でつっ突き出した。
こらこら、突くな突くな。
かつてはもっと筋肉もしっかりしていたんだけど、
今はタフさだけが残っているだけだ。
こんなことを思いながら直線の道をひたすら進む。
下校中の小学生の集団に会う。
あぜに生えてる雑草の葉っぱや茎を使って無邪気に遊んでる。
これだよ、やっぱりガキ^H^Hお子様はこうでなくては。
電車で見つけた変な人相手にクイズで遊んでるようではいかん。
結局山鹿市についたのは午後5時に近くなっていた。
サイクリングロードの終着地点に[← サイクリングターミナル]の
看板がある。
最初はこれが宿泊場所とは気づかず、他の宿を探していた。
しかし、連休の狭間の平日というのにどこもいっぱいだ。
タウンページをめくっていて[サイクリングターミナル]の文字を発見。
え、ここって泊まれんの?
「すいません、先ほど電話した池田ですが。」
「はいはい。あら、東京の人かい。昨日来た人も東京だったね。」
ここの人には自転車で旅行する人は珍しくないらしい。
まさにここはサイクリストのオアシスですな。
どうやらサイクリングターミナルとは競輪の収益金を使った施設で、
本来は車で遊びに来て、自転車を借りてサイクリングする、
というものらしい。
ま、でもときには私のような馬鹿が
自転車で乗り付けることもあるのだろう。
全国に同じような施設があるらしい。
東北や北海道には結構たくさんあるな…。
むむむむ。