その1 盛岡〜三戸

1.1 淡々とした朝

4月26日午前4時起床。
うー、ほとんど2、3時間しか寝られなかった。
半分寝ボケた状態で家を出る。
肩に背負われているのは去年九州をともに旅したMTB。
夏の東北行もこいつだったから3回目の長距離ライドになる。
今まで1回の旅行でおジャンになるものばかりだったことを考えれば こいつの丈夫さ はすごく頼もしい。

上野には5時すぎに着いた。
ホームでしばらく待つと6時ちょうど発の盛岡行きが滑り込んできた。
輪行袋に入れたMTBを一番後ろの座席と壁の間に押し込まなければならない。
あちゃ、一番後ろの席とられちゃった。まあいいや。
「すみません、こいつここに入れさせてもらっていいですか?」
口調は丁寧だが目で威嚇しつつ返事を待たずに輪行袋を押し込む。

自分は後ろから3列めに座れた。
朝食代わりのカロリーメイトを一気食いするとすぐに眠りの世界に入った。
この新幹線は優秀で、途中は大宮と仙台にしか止まらない。
何にも邪魔されることなくひたすら寝た。

1.2 盛岡駅前にて

盛岡8時30分着。
駅前のちょっとしたスペースを見つけて自転車を組み立てる。
今回は途中で小奇麗な格好をしなければいけないイベントがあるので、 Gパンやら襟のついたシャツやらを運ぶため少し荷物が多い。
夏にテントを運ぶために買った車載用バッグがあるからずいぶん楽だ。

今回がいつもと違うのは寒いということだ。
いつもならTシャツ、チャリパンで済むところが上着が必要となる。
目立つようにと買った蛍光の黄色のウィンドブレーカーを羽織った。

例によって証拠写真をとらなければならない。
あ、あのおばさんでいいや。「すみません、シャッターを…。」
「いや、私はそういうの苦手だから…。」ふぇーん。
あ、あそこに暇そうに座ってるおネエさんがいいや。
カシャッ 。どうもありがとう。
ついでに4号線への行き方を聞くと妙にドギマギした調子 だった。

1.3 チンタラチンタラ

まずは2日間で青森駅に着くのが至上命令だった。
盛岡から青森へは4号線に沿っていけばちょうど200Km。
今日は100Kmも行けばいい。
まったく急ぐ必要はない。

しばらくは広い歩道が続いていたのでそこを走る。
20〜25Km/hくらいのペースでゆっくり走った。
せっかくだからいろいろ見て回りながら行こう。
…………な、ない。
看板を探しても地図を見ても、見て回るものがない。

すぐに街並が消えると同時に歩道がなくなる。
松林の向うに広い農場だか牧場だかが見えるようになった。
どうやら農業試験場や農業大学が近くにあるらしい。

左に目をやると農場の向うにはまだ中腹まで雪を残した岩手山の姿が見える。
なかなかの雄大な景色に思わず脇道に入ってその姿を写真 に収める。

1時間ほど進んだ頃だろうか。
ときどき見えていた案内につられて石川啄木記念館へ寄る。
どうやら宝徳寺といって啄木の生家にあたるらしい。
肩にサングラスをかけ、チャリパンに蛍光色のウィンドブレーカーという、 およそ文学に興味があるようには見えない姿 で啄木の生い立ち記録を見物した。

1.4 田園を行く

腹減った。11時を回ったところだ。
本当はわんこそばでも食べようか と思っていたのだがそんなものやってる店が全然見当たらない。

しかたないので開店したてのラーメン屋で スタミナラーメンライス大盛りを食べるが足りない。

バナナを求めてコンビニに入る。
バナナは売ってないので[まるごとバナナ]にした。
バナナだけよりケーキ部分があるだけ今の腹具合にはちょうどいい。
バナナパワー・改!

しっかし本当に何もないなー。
しまいには広〜い畑の真中を道が通っているだけのところが多くなる。
両脇に何も遮るものがなくなっておりからの強風がまともにくる。
ペースがガタ落ち。15Km/hがせいぜいになってきた。
うーん、バナナパワー・改不発。

平らな道に向かい風のパターンがもっとも辛い。
中学生の頃、友達と富士山麓の朝霧高原まで サイクリングしたときのことを詩にして地元の文集に載ったが、 そのテーマは「楽なくだりより大変なのぼりの方がいい」というものだった。
だけどそれは登り切った後に壮快な下りが待っているからである。
誰が報われない苦労 を好んでするものか。

そんなことを考えながらひぃひぃと漕ぎ進む。
ふと眼前を見上げると何やら奇妙な形をした崖 が見えた。
どうやらこの辺りは石灰質の土地のようだ。
改めて道沿いの川を見てもそう確信できた。

1.5 イッコニコサンコーン

もはや後輪のギアは最低にしてある。
だんだんうんざりしてきた。
何でこんなにペダルが重いんだ。
中途半端なダイエット で体重は落ちずに体力だけ落ちたかなぁ。
どのくらい漕いだか、ふと[4号線最高地点]の看板 発見。
ずっと登っていたのか。
あまりにゆるい坂だったために気づかなかった。
標高たったの458m。
やはり4号線は平だったということだ。

峠を越えたところでちっとも楽にならない。
下りだというのにほとんどペースが上がらない。
やがて一戸町に入る。
ここから一戸、二戸、三戸と進めば青森県に入れる。
これらは決して「イッコ、ニコ、サンコ」と読んではいけない。
「イチノヘ、ニノヘ、サンノヘ」と読むのが正しい。

消耗は激しい。
幸い歩道のあるところが多いので フラフラしながらも何とか危ない目に合わずに進める。
ほとんど周りを見る余裕などなくなっている。

1.6 三戸の宿

3時になってまだ90Kmくらいだが宿を探すことにする。
三戸駅前の旅館に決めた。
宿が決まれば、と地図に載っていた城山公園に行ってみる。
ここには樹齢800年の杉があるらしい。
行ってみるとどうやら城跡が公園になっているらしい。
ここの城も城の例にもれず山の上にある。
消耗し切った私にはやや辛かったがそれでも登ってみる。

頂上にはもう葉桜になっているのに花見をしている人たちがいた。
その奥に件の古木 発見。
満足して宿に向かう。

ようやく宿につき、部屋に入るとそのまま1時間ほど意識を失う。
「お風呂はいれるよ」の声で気がつき、精いっぱいの力で体を起こす。

風呂からあがると入口そばのソファー でご主人と話をした。
このご主人のなまりがすごい。
助詞は判別不可能なので名詞と動詞を何とか聞きとって 文脈から意味を推測して返答してその伝わり具合を確認する。
どうやら会話になっているようだ。よかった。

6時には夕食を食べ、それから朝まで気を失った。
思ったより消耗していたらしい。