その8 大洗〜東京

8.1 6号線へ

5月3日19時大洗に降り立つ。
組み立ては慣れたもんだ。
パンク修理に再度挑戦してみたが、やはり穴が見つからない。
めいっぱい空気を入れて出発したときには辺りはすでに暗くなっていた。

予報では今日の夜、関東地方は雨とのことだ。
今のところ雲は薄く、降り出しそうな気配はない。
このまま降らずにすめばいいが。

大洗には去年友達とドライブに来たことがあるが、道なんか覚えてない。
しかも荷物が増えるのが嫌だったので関東地方の地図は持ってない。
6号線に乗りさえすれば後は一本道のはずだ。
船で鹿野君にちょっと見せてもらった地図の記憶を頼りに進むつもり。

大洗港を出たところで早くも破綻。
左鹿島、右水戸ってどっちにいったらいいんだ?
南に向かうわけだから左でいいはず。
だが、地図の記憶に鹿島の文字はなかった。
下手すると鹿島の方に行くと銚子の方面に連れてかれてしまわないか?
右にする。

看板が出ていても知らない地名のものばかりだ。
関東の地図も持ってきとけばよかった。
お、こっち行けば6号という看板発見。大きな通りに出る。

しばらく走るが一向に6号線らしきものは見えない。
コンビニでバナナを買うついでに聞いてみる。
「この道をまっすぐ行って15分くらいのところで交わってるよ。」
って、そんな簡単な説明をするのに私のメモ帳に書きやがって。
いやどうもありがとう。

道が暗い。
付けているライトの性能が悪いこともあるがよく見えない。
対向車が来るたびにヘッドライトで路面が見えなくなる。
しかも歩道にはやけに植え込みが多く、普通に走っていてもぶつかりそうだ。
傾斜も風もまったくないにもかかわらずスピードは15km/h程度。
やがて6号線との合流が見えた。

6号線は4号線に負けず劣らず平らで直線だ。
ありがたいことに歩道がちゃんとしているのでそこを走る。
灯りも明るく走りやすい。
これが恐怖 の始まりである。

8.2 暗闇

やがて街灯の灯りはなくなった。
頼りはさっきから心細さ爆発の小さい光を投げかけるライト。
歩道がないところも多くなるが、路側帯が広いので助かる。
黄色い蛍光色のウィンドブレーカーが目だってくれることを祈る。

「死亡事故多発」
「茨城県交通事故死ワースト1位」
といった看板が不安感をかきたてる。
5号線、36号線が危ないといわれていたが、 実は夜の6号線が一番危なかったのだ。

しかしライトが暗い。
まるで点灯してないみたいだ。
…って点灯してないよぉ。

ぶん殴るとしばらくついていたがすぐにご臨終を迎える。
電池を新しくしても変わらない。
電球がいかれてしまったようだ。
困った。

妙に植え込みが多くたたでさえ危ない歩道を灯りなしで走らなければならない。
全神経を路面に集中して走る。
つくばのあたりでセブンイレブン を発見。
中で非常用の懐中電灯を買う。
Gパンの裾止めに使っていたマジックテープで固定。
いい感じに仕上がる。

8.3 雨

さすがに疲れてきた。
ほとんど休みなしに漕いできた体は暗闇に神経をそがれてまともな状態じゃない。
歩道の植え込みに何度も突っ込みそうになる。
ライトがなかったら確実に突っ込んでいたことだろう。

やがて大きな橋にさしかかる。利根川だ。
やっと茨城脱出。
このころから今までじっと耐えてきた空が泣き出す。
雨対策はバッチリだ。
後輪に取り付けたバッグに雨よけカバーをつける。
水分を一切吸わないシャツとウィンドブレーカーの組合せで体も大丈夫。
タオルを頭で海賊巻きにして準備完了。

メガネにつく水滴が対向車のライトに照らされてキラキラ。
自転車を止めて水滴を拭くことが頻繁になる。
ブレーキは濡れて「ギギギギギーー」とすごい音。
夜中の1時にはちと問題な音だ。
遠慮がちなブレーキングになる。
完全静止はある程度スピードがゆるまったところで飛び降りておこなう。
これはもはやサイクリングではない。

8.4 逃げ場のない道

6号線は歩道もなく、路側帯もない場所が多いようだ。
車道はでこぼこしていて転びかねない。
この夜中に車は自転車の存在など予測しない。
転んだらそのまま昇天確実だ。

幸い、歩道がない場所は並行して走る道がある。
遠回りになるが命には替えられない。
橋をくぐり、ラブホテルの脇を通り、あぜ道を通って切り抜ける。

どのくらい来ただろう、 広い歩道を走っていたところで突然歩道がなくなる。
左に道があるので例によって回避。
しかし、全然見当違いの方向に向かっている。
ついには来た方向に戻されるようになって回避をあきらめる。

しかし回避しないにしてもここは路側帯は狭いし、カーブしてるし、 道もでこぼこしている。
十分注意しなくては。
後ろを振り返る。車が来た。止まる。
もう一度振り返る。しばらく来ないようだ。
思い切って車道に飛び出す。

「踏め踏め踏めーーー!」
疲れ切った体に鞭打って精いっぱいペダルを踏む。
後ろから車が来たとしても横に回避は不可能。
このカーブで車が自転車を認識できるかどうか怪しいものだ。
車来るなと念じつつ、車道の真中をとにかくつっ走る。

数百メートル走ったところで歩道に戻る。
フゥッとひと息。
何とか生きてる。

8.5 その果てに

取手のあたりだろうか。
夜中にもかかわらず行列のできているラーメン屋発見。
興味をそそられたが濡れねずみの状態で行列に加わることを考えあきらめる。
6号線沿いならいずれ改めて来ることもできよう。

柏あたりになって道が都会じみてきた。
男女入り混じった高校生の集団が走り回ってる。
こんな夜中に楽しそうでいいのぉ。

松戸から江戸川を越えるとだいぶ落ち着いてきた。
距離からして家に2時くらいに着く予定でいたが、もう3時近い。
4時を回るのは確実だ。

疲れた。腹減った。
家に着いたらヨシギュウで特盛でも食べよう
そんなことしか頭にめぐらなくなっている。

雨はすでにやんでいる。
荒川を渡る。
明治通りとの交差点。
この道を走れば自動的に家に着くんだ。

やがて見慣れた風景が現れる。
なんだか分からないが心を満たすものがある。
そういえば自転車に乗って帰ってきたのは初めてだったな。
不思議な感覚だ。

5月4日午前4時すぎ、総距離840kmの旅を終え到着。
留守電にはお帰りのメッセージ。
嬉しさも達成感も超越した感情がこみ上げる。
無事に着いてよかった…。

おしまい