マルシン・ハンバーガー


ま〜るしん、まるしん、はんばぁぐ。

覚えてらっしゃいますか?

知ってらっしゃいますか?

大昔にテレビコマーシャルで流れていたこの名曲を。

 コドモの頃、お菓子の不二家の象徴といえばペコちゃんではなく、ポパイでした。日曜日の夜には、不二家提供のそのアニメを観てから布団に入ったものでした(ちなみに、TBSテレビのこの枠はのちにオバQになる)。この、超有名なアメリカ漫画の脇役キャラで、いつももぐもぐ何かをパンに挟んだ物をたべながら歩いているオヤジがいました。おとぼけで憎めない、ウインピーというそのキャラ自体は、あまり印象の強いものではありませんでしたが、当時(昭和40年頃)のコドモにとって、わからなかったのは彼がいつも食べているもの・・・サンドイッチのように四角くない、丸いパンで肉と生野菜の上下を挟んだ食べ物・・・実物を見たこともなく、「食べながら歩く」という習慣もなじみがないその未知の食べ物こそ、いまや国民食の一つとなったハンバーガーだったのです。
 

 それまでもおそらく都心の洒落た店や、横須賀や厚木の米軍基地周辺などには「ハンバーガー」を売る店はあったのでしょうが、そんなことはつゆほども知らない下町の、半ズボンの小学生がはじめてハンバーガーを口にするには、なお数年の時間が必要でした。手に入らなければ入らないほど、あきらめるのではなくむしろ逆に、あの謎の食べ物への思いはつのるばかりでした。
そんなある日、3歳年上の(当時小学校高学年)兄がどこからか情報を仕入れてきました。


「あの食べ物は、ハンバーガーといってハンバーグをコッペパンに挟んで食べるんだ。アメリカでは屋台で売っていて、おでんや焼き芋のようにみんなあるきながらたべるのさ・・」とのこと、売ってないものは作るっきゃないとばかり、兄弟で仲良く制作することにしました。ここで困ったのは、中に入れるハンバーグです。母親がハンバーグを作っているところを観たことはあっても、材料といい、作り方といい、小学生だけではなかなかうまくいきそうにありません。しかし「そうだ、あれがある」と気がつくにはそんなに時間がかかりませんでした。

 
 当時の実家は、家業が忙しくしばしば晩ご飯の支度すらできない日があったため、ふくろ麺の箱買いなどインスタント食品の買い置きがあるのが常でした。そんな備蓄食品の中でも人気があったのが、ミミちゃんマークのマルシンハンバーグで、いつも数パックは冷蔵庫に装備されていました。白いビニールのパッケージをぺらぺらと簡単にむくと、中から白いラードに包まれたハンバーグが出てきます。フライパンさえあれば、油を引く必要すらなく3分でできてしまうという優れものでした。当時のコピーに「お子様でも簡単に作れます」というのがあったかと思います。
 学校から帰ってきたものの、おやつもなく、また両親ともに仕事が忙しく、夕方5時過ぎても二人ぼっちのある日、実験は決行されました。マルシンハンバーグと付け合わせの生野菜(レタスということは知らなかったためキャベツをちぎって挟んだ)にウスターソースをかけたものを、ふつうの食パンではさんで完成です。


「もぐもぐ・・ハンバーガーってうまいね」
「うん、ポパイも食べてるのかな」
「ファンタグレープと合うね」

 などと会話したかどうかは、なにせ40年近く前の話で記憶にありません。しかし、ただのおやつにしてはあまりにヘビーで、晩ご飯が食べられず結局兄弟二人ともひどくしかられたことだけははっきり覚えています。

 日本マクドナルドが第一号店を銀座三越の一階で始めたのが1971年7月、追って翌年にはロッテリアも開店し、世の中でハンバーガーが普及した頃にはすでにワタシは中学生になっていました。
 なかなか自宅の近くにはハンバーガーショップができず、やっとお茶の水にマクドナルドができた時、すでに本物を食べたことがあるという友達をさそって、よく晴れた日曜日にわざわざ30分ほど電車に乗って、チーズバーガー+ポテトを食べにいったのが本物を食べた最初でした。牛肉100%のその味は・・所詮ギョニソ(まるはの魚肉ソーセージ:これもルチン・フードだったなぁ)に毛の生えたような、濁った日本の空を思わせるマルシン・ハンバーガーとは似ても似つかないもので、当時はやっていたアルバート・ハモンドの「カリフォルニアの青い空」を思わせる味でした。今、40代以上のヒトならたぶん誰もが持っているであろうワタシの「ハンバーガー初体験」はこのようなものでした。

 大塚のボンカレー(さらにククレカレー)、カップヌードル(さらにカップスター)、やめられない、とまらない、それにつけても・・・は・・・など、今に続くインスタントやらスナック菓子やらのジャンクフーズが発売されたのが70年代、これらの食品を食べるたびに多感な厨房の頃 (-_-) の記憶がよみがえってきます。