NINTENDO SPACE WORLD’97
SPACE WORLD '97 レポート
- 会場に到着し、全体を見回してまず感じたことは“完全に任天堂中心のショー”
ということである。無論、『NINTENDO スペースワールド '97』であるの
だから、任天堂中心であることは当たり前であり何の不思議もない。そこをあえて、
このように表現してしまうのは、想像以上にそれが極端であったためである。私だ
けではなく、その日その場にいたメーカー・問屋・小売・マスコミ等、多くの人が
そう感じたであろう。おそらくその後続くユーザーズデー2日間ではさらにその
印象は強くなり、来場するユーザーの多くもそう感じるに違いない。そして、会場
をじっくり見て回るにつれ、その印象はさらに強くなっていった。最後に山内社長
の講演で、今回のショーのコンセプトは山内社長自らの考えである事を強く感じ取
ることができた。
会場は任天堂のメイン商品で埋め尽くされ、サードパーティーの商品はほとんど
“おまけ程度”といっても過言ではない。さらに、もう一つ極めて特徴的と感じた
のが、売れる商品と売れない商品をはっきり区分していたことだ。まあ、メイン商
品を中心に添えて一番目立つようにアピールする事は、この手の発表会では当たり
前のことで、特に不思議ではないのだが、それにしても極端であると感じた。
“NINTENDO64ゾーン”では『ゼルダの伝説』『ヨッシーストーリー』
を中心に任天堂のソフトがずらりと並べられていた。唯一サードパーティーのソフ
トで任天堂ソフトと同等の扱いを受け、多く並べられていたのはバンダイの『64
で発見!!たまごっち』。その他のサードパーティーのソフトは、通路で区切られた
一角に詰め込まれていた。さらに、ゲームボーイに至っては“ゲームボーイゾーン”
ではなくその名も“ポケモンゾーン”。まさにゲームボーイのコーナーではなくそ
の名の通り『ポケットモンスター』の為のゾーンであった。ポケモン以外の商品は、
このゾーンの隅のわずかなスペースに追いやられているといった印象を受けた。し
かも、その中には来年の2月に発売予定の任天堂商品2アイテム『ドンキーコング
ランド2』『ワリオランド2』も含まれており、これにはさすがに驚いた。“ゲー
ムボーイはポケットモンスターの為にある”“ゲームボーイはポケットモンスター
があってこそ存在する”と言ったところであろうか。現実に、その要素は強いのも
事実だが、ここまで極端に表現していることに恐ろしく“ポケモン”への入れ込み
ようを感じた。
さらに、付け加えるならば、来年6月発売予定(当日の発表による)の『NIN
TENDO64ディスクドライブ』のメインもズバリ“ポケモン”であり、それを
中心としたアピールとなっていた。ディスクドライブだけでなく現状の『NINT
ENDO64』単体にもポケモンはいろいろな方法(音声認識システム)により絡
んでおり、まさにゲームボーイだけではなく“任天堂=ポケモン”と言う印象さえ
受けた。そして、その一連の“ポケモン”関連商品への力のいれ具合は、商品の出
来映えに現れていた。実際に展示こそされていなかったがコンセプトゾーンのステ
ージでは、その説明を多くの来場者が熱心に聞き入っていた。この“ポケモン”に
対する意気込みは、後述の山内社長の講演“エンターテイメント市場の展望”の中
で何度も繰り返し述べられていた。
会場を後にしてからではあるが、ゲームボーイのサードパーティーのコーナーで、
もう一つ気になった点が有り、今回のショーのコンセプトと関わっているだろう、
と思わせることがある。それは、ゲームボーイソフトでポケモンを除けば、最大の
期待作である『ドラゴンクエスト外伝』(来年3月発売,エニックス)が、陰も形
もなかったことである。これも先ほど記述したことと同じ用に、このショーが“ポ
ケモン中心”であることの意味を改めて感じさせるものであった。この“ドラクエ
(RPG)”については山内社長の講演の中にも重要な意味合いを持って出てくる。
この日午後3時より会場中央のイベントゾーンにて行われる、山内社長の講演に
は1時間以上も前から来場者がぞくぞくと集まり用意されていた席がどんどん
埋まっていった。講演が始まる頃には全ての席が埋め尽くされ、後方では席がとれ
なかった多くの人たちで埋まり、1時間あまりの講演を立ったまま聴く事となった。
やはり、任天堂山内社長の講演には日本国内だけではなく世界が注目しているので
あるから当然の事だろう。
今回の『NINTENDO スペースワールド '97』、なんと言ってもメインは
やはり任天堂山内溥社長の講演“エンターテイメント市場の展望”である。今後の
任天堂の方向性や、家庭用ゲーム機などエンターテイメント市場の将来を山内社長
がどうとらえているのか、その展望に非常に興味があり注目された。
山内社長は、現在のテレビゲーム市場は、急激に勢いをなくし始め、このままで
はテレビゲームこそなくならないものの、市場は低迷せざるを得ない状況であると
述べた。そして、今こそこのテレビゲーム市場を変えるべき時期であり、その役目
を任天堂が努めていきたいと語った。
まず、最初に『NINTENDO64』についての話があった。海外で高い評価
を受けながらも国内では評価が低く、対32ビット機(プレイステーション)で思
うような結果がでなかったことを認める発言をした。そして、その理由について周
りから“ソフトの種類が少ないからだ”とか“ロールプレイングゲームがないから
売れない”などと意見を頂くが、それは本当のエンターテイメント市場を知らない
人間がいうことで、そんなことが理由ではないとの考えである。現在、国内のエン
ターテイメント市場はもはや“TVゲーム中心ではない”とし、今後の娯楽市場を
どうしていくのかを考えていきたいと語った。
現在のゲーム市場が低迷し始めた原因を、ソフトの氾濫にあるとし、“面白くな
い”“難しい”“一般の方が遊べない”等こういった一連の『くだらないソフト』
が洪水の用に売り出され、この結果、市場にソフトがあふれかえった為だとしてい
る。あるハードメーカーメーカー(ソニー)が市場からソフトを引き上げたが、そ
の程度(山内社長自身が聞いた範囲)のことやっても、たいした解決にはならない
という考えだ。そのような処理ではなく、問題は“くだらないソフト”“ダメソフ
ト”があまりにも多すぎることにあり、ゲームの質を今こそ変えなければならない
との考えを示した。ゲームの質が変われば、ゲームソフトのタイトル数は今の10
分の1で十分であると何度も強調した。
前述の『NINTENDO64』国内での販売不振の原因は“タイトル数が少な
いから”“ロールプレイングゲーム”がないからなどという段階ではなく、低迷し
つつあるエンターテイメント市場を回復させる為には『育成』『交換』『収集』
『追加』の4つのキーワードが必要であると述べた。
『育成』とは、“たまごっち”がもたらしたものである。育てることを要求され
る→それがヒットの原因となる。しかし、ポケモンの育成とたまごっちの育成は内
容が違う。ポケモンの育成は闘うことによりモンスターを育てる。これに通信ケー
ブルは貢献した。現在コピーライターの糸井重里氏が作成中である『キャベツ』は、
育成ゲームではあるが“たまごっち”タイプでも“ポケモン”タイプでもない。そ
もそも、このようにゲームクリエーターというのは、こうでなければならない。育
成ゲームなど、まねゲームがたくさん出てきているが、そういったものは“ダメソ
フト”であり、市場に悪影響を与える。まねばかりしているソフトメーカー自体も
ダメだと語った。さらに、TVゲームでも育成ゲームが出てきているが、今のTV
ゲームでは育成ゲームは作れないとの考えだ。
『交換』については、ポケモンで初めて生まれ、これは今のTVゲームでは出来
ないことであり、通信ケーブルを使うことによって生まれたものである。通信ケー
ブルは、もともと対戦に利用する為に作られたが、“ポケモン”の開発者はもっと
もふさわしい使い方が“交換や収集である”ということを実証した。
また、“顔も見えない、声も聞こえないという通信ゲームではだめだ”と現在の
テレビゲーム市場が目指している通信ゲームをきっぱりと否定した。この理由とし
て、ゲームボーイの“顔も見える、声も聞こえる通信ゲーム”が子供達に熱狂的に
指示されたことを上げた。
『収集』そのものは今のTVゲームでも出来るが、集めるだけでは面白くない。
“交換する事により収集する”“交換に関連した収集”、それが子供に受けている
理由であるとの述べ、こういったことは今のTVゲームでは難しいとの考えを示し
た。
『追加』に関しては、現在ソフトの開発の遅れにより計画より3ヶ月発売が遅れ
た『NINTENDO64 ディスクドライブ』用ソフトの大きなポイントでもある。
ゲームボーイでは、今回のポケモン“幻のモンスターミューのプレゼント”がまさ
に追加の一つである。今までのTVゲームにもヒット作は有るが、どんな大ヒット
作でも3週間で終わる。売れるべき大半の数量が極めて短い期間に集中する。その
後全く売れない訳ではないが、その売れ行きは極端に減少する。この“短い期間だ
けのヒット作”と言うのが今までのテレビゲームの形であった。一方で“駄作”
“愚作”の“ダメソフト”がゾクゾクと発売され、売れ筋ソフトでさえわずかな期
間で終わる。どれだけ売れるかの判断は難しく、利益が無いことに加えリスクは大
きい。これが業界の崩壊に向かっている理由である。流通だけではなく、ソフト
メーカーも儲かっていない。『追加』はそのソフトを“長く遊んでもらう”と言う
ことにつながる。『NINTENDO64 ディスクドライブ』用のあるソフトに
次々とボーナスゲームとかキャラクターデータ等を自動販売機のようなもので供給
する。これにより違ったおもしろさを味わえ、これがまさに今までのTVゲームに
は無い魅力である。
任天堂はなぜ『ディスクドライブ』を発売するのか?。それは、このままでは
TVゲーム市場に伸びはないと判断したからである。新しいソフトには新しい発想
が必要で、そうでなければ目の肥えた今のユーザーを説得することはできない。
ゲームソフトの開発は、売れるための“ある仕掛け”“あるお膳立て”が揃ってい
れば売れる…と言うものではない。ヒットの為のお膳立てが全て揃っていても
“駄作”“愚作”は有る。もっと簡単に言えば“本当にいいソフトはそんなに作れ
ない”と言うことであり作れば作るほど“駄作”“愚作”は確実に増えていく。任
天堂は少数精鋭を言って来たがわかってもらえなかった。“RPG”の大ヒット作
(ドラゴンクエストやファイナルファンタジーの事)なんか有ってもだめで、どん
な凄いソフトと言っても3週間で終わってしまう。それに対し任天堂“ポケットモ
ンスター”も“RPG”だが発売以来1年9ヶ月たった今でも売れ続けている。
32ビット機(プレイステーションやサターン)のソフトは無数に発売されたが、
ポケモンは1種類。この無数のソフト対1つのソフト(ポケモン)の勝負に、子供
はどちらに軍配を上げたのかが今後の大きなポイントである。
“テレビゲームはタイトル数が多ければ寿命を縮める”“RPGは質的転換が必
要”ということだ。実際には『NINTENDO64』用ソフトにも“駄作”
“愚作”の“だめソフト”が有りそのソフトメーカーへのメッセージでもあるのだ
ろう。
『NINTENDO64 ディスクドライブ』と同時発売の“ポケモンスタジア
ム”はゲームボーイと結合する事で、ユーザーはゲームボーイを持って外で遊び、
家に帰って64ディスクドライブに結合して別の遊びをする。また、“ダービース
タリオン”(アスキー)はテレビゲーム用ソフトとして売られてヒットを飛ばして
来たが、それでも3ヶ月が限界である。これに対し、ダービースタリオンの開発者
は長く使ってもらえるソフトを目指し、ゲームボーイと結合したものを開発してい
る。つまり、山内社長はダービースタリオンはゲーム性から、今のTVゲームには
合っておらず、このような転換が望まれると語った。
今、まさに国内市場は開発の大きな転換期を迎えている。そうしないと国内の
娯楽市場は保持出来ず、着実に変化していかなければならない事を強調した。海外
に関しては、国内と比較すればまだいいが、娯楽市場が安定しているかというとそ
んなことはない。いずれ、海外にも転換の必要性が出てくる。任天堂としては、
ポケモンを世界の人に遊んでもらいたいと考えている。アメリカでもポケモンを発
売したいが、アメリカと日本ではユーザーの好みが違い、アメリカのユーザーが受
け入れる事が出来るように手直しをして、来年には“アメリカ版ポケモン”を発売
する計画が有ることを明らかにした。
山内社長は、再度念を押す様にTVゲーム市場は子供によって作られたことを強
調し、“面白くないゲーム”“分かり難いゲーム”“難しいゲーム”は必要ないと
語った。しかし、相変わらず“映画の様なゲームを作る”(スクエアの事)とか
“雑誌とタイアップ”だとか、映像や音声の垂れ流し(CD−ROMを媒体とした
大容量ゲーム:主にスクエアのソフト)など、“こんな事をやっていたらTVゲーム
の前途がない”と他ハード(主にプレイステーション)の傘下に入った大手ソフト
メーカー(スクエア等)を批判した。
さらに、山内社長は3年前にこのような事態を予測しており、雑誌のインタビュ
ーなどではっきりと“TVゲーム市場がなくなる”事を明確に提言していた。しかし、
そのときにはTVゲームに変わる物がなかったのだと語った。
これからの娯楽の流れは必然的に変わって行き、任天堂はこれに対し“ポケモン”
の成功を分析する。“なぜヒットしたのか?”“なぜ子供たちに受けるのか?”
そして、今や子供たちだけではなく中学生、高校生、大学生とその幅は大きくなって
きていることなども加味し、キャラクター商品等を含め幅広く相乗効果を狙って
アピールしくとの考えを述べた。
“ゲームボーイ ポケットカメラの発売”“NINTENDO64 ディスクドライブ
の発売”“64ディスクドライブ⇔ゲームボーイの結合による新しいソフトの発売”
これらは何らかの繋がりを持ちつつ遊びの輪を広げるなど、今までにない楽しみを
ユーザーに与えることが出来る。こうした全く新しい展開が今のエンターテイメント
市場には必要で、質のいいゲームのみ開発されれば、市場は回復するとした。
最後に、山内社長は任天堂がこのような試みが出来る、世界で唯一の企業であることを
自負し、自信を持っていると力強く語った。さらに、全力を傾けてこれに挑戦して
いきたいと述べ、この講演を終了した。
多くの来場者が注目する中、講演は約1時間にわたって行われた。これからの
新しい任天堂のあり方や、日本のエンターテイメント市場のあり方を、今までとは少し
違った方向から見直してみる必要が有るのではないかと、考えさせられる講演となった。
やはり、私たちもソフトメーカーより発売される新製品の善し悪しを評価し“駄作”
“愚作”を排除していかなければならないと感じた。何でもかんでも店頭に並べる時
代は終わったことを認識し、今後の営業のあり方を改めていく必要性を感じた。いい
ソフトをたくさん販売することがこの業界の発展に繋がるのだ。そうしていくうちに
“だめソフト”を作る“だめソフトメーカー”は自然淘汰されていき、このエンター
テイメント市場に良い結果をもたらすはずだ。山内社長の講演から、今までのように
リスクを背負うことにより、利益を得るやり方は受け入れられなくなっていくとの考
えを受け取った。
山内社長は私が尊敬する人物の一人である。そのカリスマ性に魅力を感じる人は私
だけではないだろう。毎回そうだが、山内社長の講演には多くのソフトメーカー、小
売を含めた流通関係業者の経営者クラスの人達が詰めかけ、1時間あまり真剣にメモ
を取ったり録音、録画等しながら、固唾をのんで聞き入っている。そして、その内容
は実名こそ出さないが、たとえ“ファイナルのスクエア”であろうが“ドラクエの
エニックス”であろうが公然と批判してしまう。当たり障りのない発言では無く、
明確な考えであるところに発言の重みを感じる。そんなところに大いに魅力を感じる
のは、私だけではないだろう。まさに、一言一句聞き漏らしたくないと感じる。山内
社長の講演を聴くのは今回で4回目だが、その講演の都度、聴くことが出来た事を良
かったと思う。
1〜2年前だったと思うが有る雑誌でスクエアの社長に対するインタビューが有っ
た。その中で山内社長と今後のソフトの方向性について意見が合わなかった事を話さ
れていた。具体的には映像や音声の大容量化を目指すスクエアとそれを否定する山内
社長、さらに流通に対する考え方(デジキューブ等)の違いである。結果的にスクエ
アは任天堂と決別し、ソニー(プレイステーション)のソフトを開発する事になり、
それに対するインタビュー記事であった。そのインタビューの終わりに、非常に印象
深い言葉が添えられていた。それは、“山内社長とは意見が合わなかったが、経営者
としての山内社長はたいへん尊敬しています”との事だった。
しばらく前から、山内社長の引退が話題になっているが、が今回の講演で健在ぶり
を発揮し、やはり任天堂には山内社長が必要だと感じた。引退と言っても次の顔は見
えてこないし、ダイエーの中内社長同様カリスマ性のある社長がやめると言うのはそ
の会社の存続にも関わる問題であると感じた次第である。
以 上
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