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即興ソング集   橘 恭子



  [up]



    たのしい今宵に



  ゆくりなく

  口をついて出た

  暗くさみしい夜だと



  はなやかなシャンデリア

  さんざめくルージュ

  リキュールグラスが輝いて

  腿に置かれた手

  耳にささやかれる誘い



  たのしい今宵に

  からっぽの胸がつぶやく

  暗くさみしい夜だと



     










  up]





    バンバン ババン



  うつりのわるいテレビを

  亭主はバンバン叩く

  女房は飢えて泣く子を

  バンバン叩く

  バンバン ババン



  爺さんは年金もらえず

  婆さんは介護保険払えず

  ふたりで棺桶叩く

  バンバン ババン

  みんなで叩く

  バンバン ババン














  [up]





    平凡なブルース



  平凡な親たちから

  平凡に産まれて

  へその緒

  千歳飴

  平凡な記念アルバム。



  平凡な相手と恋して

  平凡な結婚式

  子供は三人

  みな出ていって

  戦争もなく

  家庭の危機もやり過ごし

  平凡な老後。



  平凡な生涯、

  そんなしあわせみたことないぜと

  スリルサスペンスに生きて

  いまじゃ死ぬまでムショ暮らしの

  おいらが唱う

  平凡なブルース。














  [up]





    みかん



  みかんを落した

  おりあしく坂道で

  ころころはずみつき

  飛んでいくみかん



  曲ってきた車が

  みかんをひいた

  八百屋の車でおわびにと

  十個もみかんをくれた



  腕にかかえた

  みかんはうれしいが

  なぜか気になる

  ひらたく飛び散って

  つぶれたみかん







  






  [up]





    静かに、そっと



  統制は

  気づかれないように

  静かに、そっと

  始まり、しだいに

  浸透していく



  あなたが自由を感じるとき

  統制は始まっている



  ほんとうに自由なら

  感じるより前に自由なのだから



  










  [up]





    愛の葬儀



  霊柩車が

  道をまちがえ

  遅れて着いた



  わたしたちは順番を後にされて

  長い待ち時間をすごした

  郊外の火葬場で



  庭園のそこかしこに

  骨になる前の亡霊が

  さまよっている



  わたしたちの亡霊は

  どこにも見えない

  なぜなら

  わたしが愛の亡霊だから
















  [up]





    恨 み



  この千年の恨みを

  いかに晴らすべきか



  この千年の恨みを

  いかに思い知らせでか



  都の橋の

  人柱となりて

  橋を守るべきか

  崩すべきか



  この千年の恨みに

  尽きせぬ苦悶

  いかに解きあかさんや



  










  [up]





    抒情的な暮らし



  夢がくしゃくしゃもつれて

  朝のシャンプーも髪くしゃくしゃ

  気分くしゃくしゃ

  電車でもみくしゃ

  ドレスもくしゃくしゃ

  お化粧もくしゃくしゃ

  電話のコードもくしゃくしゃで

  お仕事もくしゃくしゃ

  お昼のおそばもくしゃくしゃ

  しわくちゃもみくちゃ

  もつれもつれて

  彼とふたりでくしゃくしゃ  

  希望の大恋愛

  くしゃくしゃ くしゃっ!














  [up]





    愛の武蔵小金井



  小金井街道左に折れて

  緑少ない小金井神社で

  固く誓った

  お賽銭十円の

  ふたりの愛



  小金井駅前長崎屋裏の

  木造アパート真ん中の

  暗い部屋で西日に

  熱く燃えた

  ふたりの愛

  

  浮き草そよぐ野川の

  ちょろちょろした流れで

  肥った金魚を放したように

  気まぐれで手放した

  ふたりの愛



  アイアイアイ 

  ふたりの小金井

  愛の武蔵小金井

  誓って燃えて放した

  ふたりの愛

  アイアイアイ

  ふたりの思い出

  アーイー!













  
    by Shinjisan


── 1996〜1999 ──


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