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若年・中堅社員の活性化と人材育成

                                  井戸 和男

はじめに

 我が国の高齢・少子化が進展するなかで、社会経済の大きな変化による産業構造の変化や価値観の変化によって、雇用問題が年々大きくなってきている。雇用問題は、中高年社員だけでなはなく、若年層やバブル時代に大量採用された中堅社員についても、次のような理由でより大きくなってきているのである。

(1) バブル経済時代の大量採用
 企業は、バブル経済時代において膨大な設備投資を行い大量の新規学卒採用を実施した。これまで高度経済成長に大量の採用が行なわれ、第1次オイルショックをはじめとする数々の経済環境の変化によって人事労務管理上の課題が生じた。そのことが、現在においても、過去2回の調査研究でも明らかなように中高年問題として大きな位置を占めているのである。バブル期の大量採用社員は、今や30才前後となり、企業の中堅社員として働いているが「現状の課題と予測される課題」を明らかにすると同時に過去の経験を生かした対策を検討する必要がある。

(2) 若年層の意識変化と定着率の低下
 中高年の再就職の厳しさが大きな社会問題となっているが、新規学卒者についても極めて厳しい状況が続いている。他方では、難関を突破して入社した会社を退職していく若者が増加している。その割合は高学歴程低くなっているが、大学卒でさえ3年間で3割を超えている。このような状況によって、若年層の完全失業率が当然のことながら高くなっている。これからの若年社員の定着率を高めるための施策の充実が急がれるのである。

(3) 産業構造の変化と技術革新等経済環境の変化に対応した人材養成
 産業構造の変化によってビジネスチャンスが生じているなかで、我が国の企業創出率は米国に比して極めて低い。そのことはベンチャ−ビジネスに対する社会経済環境が整っていないことだけでなく人材育成上の課題も大きい。また、産業構造の変化により当然職務構造が変化するに伴っての人材育成や技術革新の進展による人材育成も大きな課題である。さらに、国際化の進展をはじめとする社会経済の変化によって、21世紀に期待される経営者や管理者の養成も従来とは違ってこなければいけない。このような認識にたって、今後の人材養成を抜本的に再構築していく必要があろう。

(4) 新しい日本型人事システムの構築
 既述した課題や問題意識だけではなく数々の課題が山積している若年・中堅社員を中長期に渡り活性化し育成していくためには、パッチワ−ク的な改善ではない新しい視点にたったト−タルの人事管理体系の再構築が不可欠となっている。企業における雇用の中核は長期安定雇用を中心に据えるなかで、活性化と人材育成が可能なシステムが我が国において望ましいとの観点にたって検討をすすめていくべきであろう。

1.バブル期大量採用による今後の課題と対策

 バブル期大量採用は、(表1)、(表1−1)、(表1−2)に見る通り大量の採用が行なわれていた。学歴別採用ランキングをみると現在そのことで余剰人員をかかえ苦しんでいる企業が多い。 

(表1)大量採用企業

(資料出所 リクルート・リサーチ「企業別採用状況調査」)

高校卒男子

順位 企業名 採用人数(人)
日本電装 1580 *1
トヨタ自動車 1533
日産自動車 1463
日本通運 1350
松下電器産業 900
豊田自動織機製作所 860 *2
東京電力 839
ダイエー 824*2
三菱自動車工業 735
10 シャープ 710
11 三菱重工業 623 *2
12 大日本印刷 620
13 近畿日本鉄道 613
14 マツダ 600
15 三洋電気 560
16 山崎製パン 550
17 アイシン精機 533
18 イトーヨーカ堂 530
19 ダイハツ工業 520
20 東日本旅客鉄道 502

(注)

*1 専修・各種学校含む

*2 専修・各種学校・短大を含む

 

高校卒女子

順位 企業名 採用人数(人)
そごうグループ 1230
ダイエー 959 *1
イトーヨーカ堂 911
松下電器産業 850
山崎製パン 800
丸井 766
三洋電気 755
トヨタ自動車 716
日本電装 640 *2
10 ニチイ 520
11 阪急百貨店 516
12 イズミヤ 509
13 高島屋 508 *3
14 コーセー 499
15 近鉄百貨店 419
16 東武百貨店 407
17 三越 382
18 西武百貨店 375
19 矢崎総業 371
20 西友 365

(注)

*1 専修・各種学校を含む

*2 専修・各種学校を含む

*3 高専・専修・各種学校を含む

 

短大卒女子

順位 企業名 採用人数(人)
三菱銀行 1200
住友銀行 882 *
松下電器産業 850
三和銀行 740 *
日本電気 700 *
山一証券 671
ソニー 630 *
第一勧業銀行 596
トヨタ自動車 531
10 日本信販 504
  協和埼玉銀行 504
12 松下電工 490
13 オリエントコーポレーション 377
14 野村証券 367 *
15 阪急百貨店 344
16 安田海上火災保険 362
17 日興証券 344
18 東海銀行 336 *
19 三洋電気 285
  高島屋 285

(注)

*1 専修・各種学校を含む


(大学+大学院)卒男子

順位 企業名 採用人数(人)
日本電信電話 1550 *
東芝 1200
日本運送 1170
松下電気産業 1150 *
日本電気 1140
三菱電気 1110
富士通 1000
シャープ 855 *
ソニー 820
10 キャノン販売 729
11 トヨタ自動車 715
12 CSK 682
13 三洋電気 665
14 積水ハウス 604
15 松下電工 590 *
16 日産自動車 588
17 そごうグループ 555
18 三菱重工業 550
19 大和ハウス工業 550
20 凸版印刷 540

(注)

* 高専を含む

 

(表1−1)業種別平均採用人数の推移(従業員数1000〜4999人)

資料出所 リクルート・リサーチ「企業別採用状況調査」

  1982 1983 1984 1985 1986 1987 1988 1989 1990 1991 1992
建設 96 76 58 51.3 68.7 69.0 84.8 100.3 120.5 129.7 128.2
食品 122 104 103 96.4 118.4 118.2 106.8 118.9 149.0 132.1 152.2
繊維 100 141 117 103.6 155.4 133.7 118.4 126.7 136.3 115.5 112.4
化学工業 104 102 90 96.0 110.9 102.4 93.4 110.5 123.8 130.0 122.7
ゴム・ガス・土石 70 67 71 98.1 99.2 67.4 62.7 98.7 109.8 94.7 101.6
鉄鋼 66 44 56 48.9 60.1 38.6 39.4 78.1 93.5 87.8 90.3
金属製品 106 86 81 74.9 138.5 108.8 97.6 115.8 122.9 138.5 108.3
機械 83 60 54 109.7 75.5 57.1 66.8 88.6 95.8 107.1 110.2
電気機器 123 87 116 107.7 113.6 80.2 85.5 101.9 123.7 126.3 126.0
輸送用機器 112 80 96 75.3 159.5 81.3 64.3 86.4 112.8 114.5 108.4
その他製造 94 86 104 163.6 84.2 74.1 91.4 122.4 147.8 143.6 114.7
自動車販売 164 139 136 166.2 158.6 170.4 225.8 277.0 27.0 262.8 232.6
百貨店・スーパー 245 163 173 126.2 166.0 155.4 160.1 152.2 161.3 153.3 209.4
商業 125 173 121 126.2 142.3 132.4 132.9 150.7 181.5 169.9 169.1
金融 183 121 161 153.1 151.7 134.3 148.8 155.6 183.1 193.0 192.4
保険・証券 213 161 237 226.4 236.6 311.7 237.5 262.4 252.3 250.0 184.0
運輸 - - - - - - - 71.1 80.3 75.6 84.1
サービス 133 132 141 152.6 186.6 150.8 151.5 156.7 164.8 179.0 178.4

(注)回収社のうち、採用人数不明の学歴がある企業を除いて算出している。1982〜1984年は小数点以下四捨五入。業種「運輸」は1989年より掲載。

 

(表1−2)業種別平均採用人数の推移(従業員数5000人以上)

資料出所 リクルート・リサーチ「企業別採用状況調査」

  1982 1983 1984 1985 1986 1987 1988 1989 1990 1991 1992
建設 270 214 184 171.7 217.0 229.1 244.2 302.5 374.5 469.8 474.1
食品 408 314 356 309.4 217.8 357.2 338.4 476.3 410.1 508.3 487.0
繊維 259 305 282 344.9 387.0 301.9 279.9 133.0 462.5 312.8 421.0
化学工業 20 223 186 203.6 119.4 203.9 246.7 274.4 487.2 388.2 377.8
ゴム・ガス・土石 149 151 149 252.0 356.3 258.3 299.7 454.3 57.5 214.0 387.3
鉄鋼 332 298 177 128.5 262.0 154.8 120.3 244.5 493.2 598.3 594.4
金属製品 671 989 1013 7710 446.5 439.5 150.5 263.0 627.0 360.0 502.5
機械 265 206 210 336.2 307.0 190.8 191.9 277.0 439.9 361.1 354.1
電気機器 1128 917 1203 743.7 859.9 605.8 441.6 590.0 818.6 793.4 676.7
輸送用機器 1130 679 397 4378 633.4 517.0 408.1 728.5 687.2 1005.9 919.3
その他製造 427 379 120 467.5 150.0 426.5 315.0 610.0 - 1066.7 304.0
自動車販売 - - - - - - - - 639.0 608.0 695.0
百貨店・スーパー 908 850 703 635.3 748.7 715.3 785.3 742.7 773.8 917.5 981.4
商業 420 324 246 305.5 344.7 249.0 241.3 302.7 374.7 386.7 451.5
金融 707 497 424 359.2 430.4 429.7 492.3 386.7 611.3 588.9 849.5
保険・証券 478 352 392 443.1 500.4 457.4 550.6 588.3 632.7 816.6 486.2
運輸 - - - - - - - 223.8 278.7 320.4 490.3
サービス 264 242 126 290.8 320.6 277.2 543.0 264.0 684.8 629.9 686.8

(注)回収社のうち、採用人数不明の学歴がある企業を除いて算出している。1982〜1984年は小数点以下四捨五入。業種「運輸」は1989年より掲載。

 

 30余年にわたり企業において実務経験をした筆者としては、何故高度経済成長時代の経験が生かされなかったかということに対して次のような理由があったと考えている。つまり、企業業績が向上しているときは、ライン部門の意向が強く反映している。従って、現状および短期的視点から人員不足の解消意欲が強いと同時に人員先行投入によって業績が伸張すると思いがちになるのである。(筆者の持論は、ライン部門の要求どおりにすれば企業はつぶれる)
 今後、バブル世代の活性化と人材育成が重要な課題となり、ト−タルの視点にたった新しい人事・労務管理システムの構築と運用が不可欠である。

2.若手社員の意識変化に伴う課題

 総務庁による「労働力調査」によると、就職浪人が3月に20万に増加し過去最多の32万人になった。さらに、24歳以下の失業率も11.3%と最悪になった。これは、就職浪人が増加しただけでなく、苦労してやっとの思いで就職したのに、(表2)に見られるような理由で3年も勤続しないで退職していく若者が増加していることによるものである。

(表2)転職理由
    1位  賃金・労働時間が不満だった・・・・・・・・・・ 31.0 %
    2位  仕事が自分に合わなかった・・・・・・・・・・・ 26.7
    3位  職場の人間関係が良くなかった・・・・・・・ 23.5
    4位  勤務先の将来性がないと思った・・・・・・・ 18.5
    5位  良い条件の仕事が見つかった・・・・・・・・・ 12.7
    6位  仕事を正当に評価してくれなかった・・・ 12.1
    7位  地元にUタ-ンした・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 11.6
    8位  勤務先が自宅から遠かった・・・・・・・・・・・ 10.1
    8位  社風が合わなかった・・・・・・・・・・・・・・・・・ 10.1
    10位  倒産、解雇、リストラされた・・・・・・・・・・・・・・・ 8.8
   11位  健康上の理由・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 6.5
   12位  結婚、出産、育児、介護等のため・・・・・・・・ 6.4
   13位  福利厚生等が充実していなかった・・・・・ 6.1
   14位  進学、勉強のため・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 3.9
(資料出所:平成11年日本勤労青少年団体協議会「勤労青少年に関する調査報告書」)

 若者の失業問題は、技能・技術の向上が期待できないことになるわけで、将来大きな社会問題になってくることは明らかであろう。
 若者が職場どんなときに“生きがい”を感じるかについては、(表3)の通り、この10年間変わらない。

(表3)職場における生きがい (%)

項目 平成11年 平成元年
仕事がおもしろいと感じるとき 35 37
自分の仕事を達成したとき 20 20
自分が進歩向上していると感じるとき 16 14
自分の仕事が重要だと認められたとき
仕事に責任を持たされたとき
仲間同志がしっくりいっているとき
その他

資料出所 平成12年社会経済生産性本部「新入社員働くことの意識調査」

 

 若者の定着率が低下していることは、職場で生きがいが感じられなくなってきていることが大きな理由うよるものと考えられる。次に大きな理由として考えられることは、「サ−ビス残業」や、「過度な残業時間」が(表2)のなかから読み取れよう。さらに、(表3)と合わせ、(表4)から読み取れることは、「職場の人間関係」が良くないことがあげられる。

(表4)これからの職場生活についての不安は何か (%)

項目 平成11年 平成元年
仕事がうまくやれるだろうか 44 50
職場の上司とうまくやれるだろうか
職場の先輩や仲間とうまくやれるだろうか 38 30
生活環境が変わったこと 11
その他

資料出所 平成12年社会経済生産性本部「新入社員働くことの意識調査」

 

 若年層の定着率の低下は、大企業においても見られのが特筆すべき特徴だと思おう。今後、人事労務管理の大きな課題として対策が早急に実行される必要があろう。

3.産業構造の変化と人材育成

 完全失業率は、バブル経済が崩壊して以来(表5)に見られる通り年を追う毎に上昇してきた。

(表5)年齢階級、求職理由別完全失業者(上段、単位万人)、完全失業率(下段、単位%)の推移

年齢計

   総 数  非自発的離職
失業者
自発的離職
失業者
学卒未就職 その他
1992 142
2.2
32
0.5
61
0.9
6
0.1
36
0.5
1993 166
2.5
41
0.6
69
1.0
7
0.1
39
0.6
1994 192
2.9
50
0.8
78
1.2
9
0.1
45
0.7
1995 210
3.2
55
0.8
83
1.2
11
0.2
50
0.8
1996 225
3.4
59
0.9
87
1.3
13
0.2
55
0.8
1997 230
3.4
54
0.8
95
1.4
12
0.2
59
0.9
1998 279
4.1
85
1.3
101
1.5
15
0.2
68
1.1

 

15から29才

   総 数  非自発的離職
失業者
自発的離職
失業者
学卒未就職 その他
1992 59
3.8
8
0.5
28
1.8
6
0.4
13
0.8
1993 69
4.4
9
0.5
33
2.1
6
0.4
16
1.0
1994 77
4.8
10
0.6
36
2.3
9
0.6
17
1.1
1995 85
5.3
13
0.8
39
2.4
11
0.7
18
1.1
1996 93
5.7
12
0.8
42
2.6
12
0.7
21
1.3
1997 95
5.8
11
0.7
45
2.7
12
0.7
23
1.4
1998 109
6.7
18
1.1
49
3.0
15
0.9
24
1.5

 

30から44才

   総 数  非自発的離職
失業者
自発的離職
失業者
学卒未就職 その他
1992 36
1.7
6
0.3
18
0.8
0
0.0
9
1993 41
1.9
9
0.4
20
0.9
0
0.0
9
1994 50
2.2
11
0.5
21
1.0
0
0.0
10
1995 50
2.5
11
0.6
23
1.2
0
0.0
12
1996 52
2.6
10
0.5
24
1.2
0
0.0
13
1997 65
2.7
10
0.5
26
1.3
0
0.0
13
1998 28
3.3
17
0.9
10
1.4
0
0.0
16

 

45から59才

   総 数  非自発的離職
失業者
自発的離職
失業者
学卒未就職 その他
1992 28
1.4
8
0.4
12
0.5
0
0.0
8
0.4
1993 33
1.6
11
0.5
15
0.6
0
0.0
8
0.4
1994 42
1.9
14
0.6
17
0.7
0
0.0
10
0.5
1995 45
2.0
16
0.7
18
0.8
0
0.0
10
0.5
1996 49
2.2
17
0.8
20
0.8
0
0.0
12
0.5
1997 50
2.2
15
0.7
19
0.9
0
0.0
13
0.6
1998 62
2.7
25
1.1
4
0.8
0
0.0
14
0.6

 

60才以上

   総 数  非自発的離職
失業者
自発的離職
失業者
学卒未就職 その他
1992 19
2.3
9
1.1
4
0.5
0
0.0
7
0.9
1993 23
2.8
12
1.4
4
0.5
0
0.0
6
0.7
1994 30
3.3
13
1.5
5
0.6
0
0.0
8
0.9
1995 30
3.5
16
1.8
4
0.5
0
0.0
9
1.0
1996 34
3.9
18
2.0
4
0.5
0
0.0
10
1.1
1997 34
3.7
18
2.0
4
0.4
0
0.0
10
1.1
1998 43
4.7
23
2.5
4
0.4
0
0.0
14
1.5

資料出所 総務庁統計局「労働力調査」より労働省経済課試算

 

 平成12年3月の完全失業率は、前月に引き続き現行調査開始以来(昭和28年)、最高の3.9%となった。完全失業数は、349万人で過去最高であった。これは、長期化している景気低迷が最大の原因であるが、産業構造の変化(表6)などに伴う職業構造の変化(表7参照)による職種ミスマッチ、能力ミスマッチ、年令ミスマッチなどによることなどにも注目しておかなければならない。

(表6)産業別就業者の推移と見通し
就業者数(上段、単位万人) 構成比(下段、単位%)

  1990 1998 2010
産業計 6249
100.0
6514
100.0
6455
100.0
第1次産業 451
7.2
343
5.3
250
3.9
第2次産業 2099
33.6
2050
31.4
1833
28.4
 建設業 588
9.4
662
10.2
617
9.6
 製造業 1505
24.1
1382
21.2
1211
18.8
第3次産業 3669
58.7
4085
62.7
4372
67.7
 電気・ガス・水道 30
0.5
37
0.7
43
0.7
 卸・小売・飲食店 1415
22.6
1483
22.8
1446
22.4
 金融・保険・不動産 259
4.1
257
3.9
281
4.4
 運輸・通信 375
6.0
405
6.2
415
6.4
 サービス業 1589
25.4
1902
29.2
2187
33.9

資料出所 1.1990,1998年は、総務庁統計局「労働力調査」による。 2.2010年は、雇用政策研究会の推計による

(表7)職業別就業者の推移と見通し
就業者数(上段、単位万人) 構成比(下段、単位%)

  1990 1998 2010
職業計 6249
100.0
6514
100.0
6455
100.0
専門的・技術的職業
従事者
690
11.0
844
13.0
973
15.1
管理的職業従事者 239
3.8
222
3.4
173
2.7
事務従事者 1157
18.5
1290
19.8
1390
21.5
販売従事者 940
15.0
928
14.2
846
13.1
農林漁業作業者 448
7.2
340
5.2
246
3.8
運輸・通信従事者 233
3.7
232
3.6
215
3.3
技能工、製造・建設作業者 1702
27.2
1634
25.1
1444
22.4
労務作業者 247
4.4
333
5.1
393
6.1
保安職業・サービス職業 535
8.6
654
10.0
774
12.0
作業者


資料出所 1.1990,1998年は、総務庁統計局「労働力調査」による。 2.2010年は、雇用政策研究会の推計による。
(注)職業計には、分類不能等が含まれているので、内訳の合計とは必ずしも一致しない。

 

 産業構造の変化は、今後もグロ−バル化、情報化、サ−ビス経済などの進展するなかで、引き続き起こることが予測されている。
 従って、今後種々のミスマッチを解消していくためには、官・学・民の協力のもとで、それぞれに見合った人材育成の対策が急がれる。

4.日本型雇用システムと人材育成の課題

(1) 日本型雇用システムの課題
 平成6年1月経済同友会の調べで、「新しい経営の方向について」のアンケ−ト結果は(表8)の通りであった。

(表8) 「新しい経営の方向について」 (%)

(A) Aに同意見 Aに近い どちらとも
言えない
Bに近い Bに同意見 (B)
国際的な経営スタイルを基本に
日本型経営の良さ(日本の独自性)
を活かしていくべきである
8.0 20.7 6.1 44.3 20.3 日本型経営を基本に、国際的な
経営スタイルで可能なものは
導入していくべきである
これからは終身雇用制度は大幅に
改めて行かざるを得ない
7.1 34.2 17.7 35.0 6.0 今後とも終身雇用制度は
基本的に維持して行くべきである

 資料出所 経済同友会「企業白書」平成6年

 

平成7年日経連は、日本的経営の基本理念である「人間尊重の経営」と「長期的視点にたった経営は国際的に通用する普遍的な考え方で今後とも守っていくべきだとしたうえで、これからの雇用形態を提言した。これまで通りの「長期蓄積能力型」、必ずしも長期雇用を前提としない「高度専門能力活用型」そして働く意識が多様化している「雇用柔軟型」の3タイプである。
 その後、極めて厳しい企業環境が続く中で中高年社員のリストラ自殺や過労死が社会問題となっている。「市場経済」主義の考え方が声高に叫ばれたりもした。平成12年1月、日経連は「人間の顔をした市場経済をめぐって」と題した労働問題研究委員会報告を行なった。「人間の顔をした市場経済」は企業経営においては「人間尊重」と「長期的な視野」にたった理念として実施され、企業で働く人が働きがい、生きがいを実感できるよう「多様な選択肢」を用意することによって実現できるとしている。 今後、企業の活性化と人材育成のためにはどうあるべきかの方向性を明確にしていくうえで大変参考になる報告といえる。

(2) 人材育成の現状と課題
 企業の業績が悪化すると、まず3Kといわれる経費が削減される。3Kは「交際費」、「交通費」そして「教育訓練費」である。バブル経済崩壊後、教育訓練関係団体の業績も厳しい状況にあることからも理解できるが、教育訓練費は相当の削減が行なわれた。このような状況や人事労務管理の今後の考え方を反映して(表9)に見られる通り、企業の人材育成に対する種々の考え方に変化が見受けられる。
 第1にあげられることは、人材育成と人事制度や処遇に密接に関連づけようとしていることである。第2に能力開発は個人の責任が強いとする考え方に移りつつあると同時に、OFF.J.T.からO.J.Tに重点を移す傾向が見られる。他方、社員教育はあくまでも自社内で行ない、自社内で人材を育成する考え方は継続していくとしているようである。

(表9) 企業の人材育成に対する考え方 (単位%)

項目 はい いいえ 無回答
人材育成の費用を重点的に配分していく 65.5 27.5 7.0
全体的な底上げ教育よりも選抜教育を重視していく 48.8 43.9 7.3
外部委託・アウトソーシングのウエイトを高めていく 29.6 63.9 6.5
必要な人材を外部から調達するウエイトを高めていく 39.2 54.5 6.2
今よりもOFF-JTのウエイトを重視していく 28.6 62.9 8.6
今よりもOJTのウエイトを重視していく 66.2 26.8 7.0
能力開発において個人責任のウエイトを高めていく 74.0 17.9 8.1
職能要件・能力開発要件を厳密・明確にしていく 57.9 34.0 8.1
社外に通用する専門能力をつける教育を重視していく 62.1 30.1 7.8
人事制度や処遇との関連づけをより密接にしていく 74.3 20.0 5.7
能力開発の責任・権限を事業部門に移管していく 36.1 55.6 8.3

資料出所 (株)野村総合研究所「職業能力開発および人材育成に関するアンケート」1997年

 

 ところで、リクル−トHRD研究所で行なわれた調査で「企業が求めるビジネスマン像」と「今後なりたいビジネスマン像」を(表10)のとおり比較対照してみると、今後の人材育成に対する課題のヒントが得られるといえよう。
 つまり、企業の求める人物像と社員が今後なりたい人物像とに大きな隔たりがある。社員が今後なりたいサラリ−マン像は、「高度な専門性を持ち、幅広い視野で考えられ、社外で多くの人的ネットワ−クを持っている人物」のようである。他方、企業が求める人物像は、「状況に柔軟に対応しながら、自ら問題形成をして目標に向って意欲的に行動できる人物」としている。  

(表10) 「企業が求める人物像」と「今後なりたいビジネスマン像」 (単位%)

項目 企業が求める人物像 今後なりたいビジネスマン像
目標に向かって意欲的に行動する人 79.7 (7) 40.3
自らが問題形成し提案できる人 64.4 (9) 37.3
状況の変化に柔軟に対応できる人 64.4 (5) 43.7
社外にも通用する高い専門性をもっている人 53.7 (1) 61.7
広い視点で物事をとらえる人 50.9 (2) 50.6
未知なものへのチャレンジ精神を持っている人 43.8 (6) 42.7
自律的に仕事をすすめられる人 43.8 (15) 18.8
上位者に対して自らの意思・戦略を明確にできる人 38.4 (4) 43.8
個性豊かで独創性を発揮できる人 33.1 (10) 34.9
情報に対する感受性が強い人 31.3 (12) 29.1
事業家(起業家)マインドが高い人 26.3 (11) 30.5
与えられた課題を確実に遂行できる人 26.3 (17) 14.8
一分野にとらわれることなく多方面に精通している人 20.6 (8) 38.8
社内外に多くの人的ネットワークを持っている人 18.9 (3) 45.8
伝統や例外にとらわれない人 17.8 (16) 15.9
物事を論理的にとらえられる人 17.1 (13) 28.5
効率を重視する人 14.6 (18) 13.0
人間関係を大切にする人 13.2 (14) 20.8
一生懸命仕事をする人 11.4 (19) 7.9
無回答 0.4 (20) 1.4

資料出所 (株)リクルートHRD研究所「能力・実力主義社会での働き方に関する調査」1997年
(注)複数回答−7つまで

 このようなこともあって、リクル−トHRDが実施した別の調査によれば「企業が行なう能力開発プログラム」に対して7割を超える社員が「不満がある」としている。

5.新しい日本型経営と人材育成

 大企業が陥りやすい最大の病気は、顧客最優先ではなく上司最優先であろう。社員の関心が顧客動向をはじめとする企業を取り巻く環境に向くのではなく、ややもすると企業内部に向いてしまいがちになるものである。やがて、企業活力が衰えてしまうことになる。
 このような大企業病を回避していくためにも、今後の人事課題にみられるとおり「社員の適性評価」が不可欠なのである。評価が適性におこなわれていれば、社員は安心して顧客満足に向けて仕事ができるのである。また、若年・中堅社員にとって、能力主義や成果主義にもとづき報酬が得られればやる気が高まることは当然である。そして、企業が社員の能力開発に熱心であれば、前章で述べたとおり、社員満足が高まることになる。(表11)・(表12に見られるとおり、「人材の育成を通して企業も成長する思想」が今後とも継続し、重視していくことによって企業と社員の一体感が増し社員満足につながっていくことになるのである。

(表11) 日本型経営の特徴的な人材に対する考え方で残すべきもの (単位%)

OJTによる人材の育成 63.7
人材の育成を通して企業も成長する思想 61.5
職場集団の持つチームワークの良さや相互の啓発 59.0
長期的な視点での人材の育成 55.7
ローテーション、転勤を重ねての人材育成 37.8
職場小集団を基礎とした改善や問題解決活動 35.8

資料出所 1997. 富士ゼロックス総合教育研究所「人材開発白書」

(表12) 今後の受講の際の重視度

  重視する どちらかというと
重視する
どちらともいえない どちらかというと
重視しない
重視しない
今の仕事に役立つ 59.6 26.6 7.8 2.3 3.7
社内での将来の仕事に役立つ 46.0 32.1 12.1 4.7 5.1
昇進・昇格に有利 11.4 19.4 40.3 11.4 17.5
社会的評価が得られる 16.0 30.7 34.9 9.0 9.4
自己啓発の目標になる 53.3 28.6 14.1 1.3 2.6
資格取得に直結する 37.3 36.9 16.1 1.4 8.3
転職に有利 26.2 28.5 25.2 7.0 13.1
独立に有利 18.4 19.8 34.0 12.3 15.6

資料出所 2000.専修学校職業人再教育推進協議会報告書

 つまり、社員は「現在の仕事に役立つ」と同時に「社内での将来の仕事に役立つ」ことを大きな目標として自己啓発に励んでいるのである。
 又、日本能率協会が「日本型経営の実態と課題」と題して2000年2月に行なった調査結果は、これからの日本型経営の方向性を展望していくうえで非常に参考になると思う。

(表13) ぜひ残したい特色・上位10項目  N=98

長期的視野に立った投資や意思決定(経営) 49
品質重視 35
現場・現物主義 32
信頼関係に基づく自主性尊重の日常管理 32
知識・スキルの共有 29
企業内組合と労使協調 29
終身雇用(長期雇用慣行) 25
企業内教育の重視など 24
ボトムアップ 16
開発リードタイムの重視 12

資料出所 「日本的経営の実態と課題」社団法人日本能率協会

(表13−1) 残したくない特色・上位10項目 N=98

年功序列賃金(いきすぎた・・・を含む) 55
横並び重視 27
形式的な取締役会・株主総会 24
言葉よりあうんの呼吸 17
専門家よりゼネラリスト重視 17
業界共通の利害は結束して守る習慣など 17
定期一括採用 13
終身雇用(長期雇用慣行) 12
改革より改善 12
共存共栄の系列 12

資料出所 「日本的経営の実態と課題」社団法人日本能率協会

 若年・中堅社員層は能力主義や成果主義は抵抗なく受け入れているばかりではなく、むしろ挑戦意欲の喚起につながっているのである。しかしながら、筆者も参加した「知的創造型労働と人事管理」の調査結果にもみられたが、報酬への反映は業界や企業風土なども考慮することが望ましいと思う。

 日本型雇用の最大の特徴である長期継続雇用については、経済同友会が平成6年に行なった調査結果と比較すると、日本能率協会調査結果でも長期継続雇用は存続すべきと考えている。
 従って、長期継続雇用を中心とした雇用システムが社員にとっても、会社にとっても望ましいといえるのである。

 さらに付け加えて言えることは、(表14)に見られるとおり、人材育成は長期的視点にたって社内で育成することを中心に考えているのである。決して、社外労働市場からの調達が中心でないことが企業格差を生じることにつながるといえよう。つまり、企業格差は人材格差なのである。

(表14) 社員が創造的に仕事を行う能力を高めるために社内で行う能力開発法 (単位%)

項目 割合
社内異動やローテーション等計画的な育成を行う 60.4
生産部門、販売部門など現場を経験させる 23.0
小集団活動・社内研究会・提案制度などを行う 25.3
全社的な一斉研修に参加させる 11.1
社内で行う専門的な知識・技能の研修に参加させる 34.8
資格取得など社員の自己啓発を支援する 42.9
日々の仕事を通じた育成 63.1
その他 2.1
特に重視していることはない 2.6
無回答 1.3

資料出所 (株)三和総合研究所「労働の知的集約化に関するアンケート」1995年
(注)複数回答である。

おわりに

 若年・中堅社員が今後ますます活性化し人材として順調に育っていくためにはどのようなことに留意すべきかについて若干の提言をすることによってまとめにかえることにしたい。

(1) 選抜と選択
 若年・中堅社員を活性化するためには、能力・成果主義にもとづく報酬だけでなく、適正な評価によって20代から男女の差別なく選抜をして計画的に人材育成を行なうことが大切である。同時に社員がライフビジョンとキャリアゴ−ルを実現することができるようにするため社員が選択可能な制度の充実が望まれる。

(2) 経営者・管理職の人間力
 能力主義・成果主義・適職主義にもとづく人事管理を行なうためには、経営者・管理職の人間力が今後ますます重要になってくるのである。つまり、人事管理のライン化が進展し“あの人の為なら”と思わせる人間的な魅力や“あの人に評価されるのであれば”と思わせる日頃から信頼されている人間関係が伴っている経営者・管理職の育成が大事なのである。

(3) カンパニ−・ロイヤリティと長期継続雇用
 社員のロイヤリティは、マネ−・ロイヤリティ、ジョブ・ロイヤリティ、ヒュ−マン・ロイヤリティ、とカンパニ−・ロイヤリティの4種類がある。最初、仕事に取り組む場合は、マネ−・ロイヤリティとジョブ・ロイヤリティが大切である。その後、仕事を通じて成長していくとともにチ−ムでより大きな成果を挙げていくためには、ヒュ−マン・ロイヤリティが重要となってくる。そして、長期にわたる時間が経過するなかで自己の成長と企業の成長が一体化することによってカンパニ−・ロイヤリティが生まれるのである。筆者の企業体験では、カンパニ−・ロイヤリティがなければ大きな責任が伴う困難な仕事は体をはって取り組むことは、とてもじゃないができないと思うのである。
 従って、長期継続雇用を中心とした雇用システムは企業の発展にとって極めて重要であると私は強く思うのである。
 最後に、「若年・中堅社員の活性化と人材育成」を推進するためには、生涯学習の視点にたち、社会経済の変化を的確にとらえ抜本的な学校教育の改革をはからねばならないことを付言しておきたい。

                                     以上