〜クローデット工房〜
職人の想いのこもる人形たちのふるさと。
サイバーテクノロジー、バイオテクノロジー、メカニクス、あるいは人間世界の影に潜む人にあらざる者、肉体を得たAI。ニューロエイジにおいては人体と機械の境界が曖昧になりつつある。既に人間とほぼ変わらぬ外見を備え、人間とほぼ変わらぬ行動を見せるまで進化したドロイド技術においてもそれは同じだ。多くのドロイドやドローン、ウォーカーは高度にオートメーション化された大工場で大量生産されるが、人間自身の手によってのみ加えられるものも存在する。クローデット工房はそうした、職人達の手によって吹き込まれる魂を重んじた小規模企業である。
創設者のヨハン・クローデットはネオ・フランス行政圏のルテチアで小さな工房を運営する人形職人だった。彼に請われ、友人や精密機械製作の技術を持つ技術者たちが徐々に集まり、クローデット工房は高い技術を持つマイスター集団として認知された。
遠隔操縦したウォーカーで闘技場に臨んだ時に受けた精神傷と老衰により、ヨハンは家族のように愛してきたドロイドと弟子たちの間で息を引き取る。彼の生前からの信念を継いだ現社長のロジェは工房を各地に拡大し、小規模ながら独自色と開発テクノロジーを備えた、ネオ・フランスにおけるソフトボディ・クリエイターの有力株として基盤を固めた。さすがにニューロエイジ世界では全ての部品を一から手作りという訳にはいかないが、創設者の遺志はよく守られている。
ドロイドや時計製作のような独自色の活かせる分野では、未だに制作者独自の技術や手法といったものが多く存在する。クローデット工房にもそれは多く、職人技を学びに世界からやってきた徒弟はまずヌーヴの本拠地で門外不出の技を学ぶこととなる。幾らかの脱落者を出した後、一人前と認めらた者たちだけが、故郷なり定めた土地なりで支店を開く運びとなる。そのためどこの支社/支店も規模としては小さいながら、確かな技を持った個性的な職人が揃う、どこか家族的な雰囲気を持った工房である。
様々な外見と用途を持つ精緻なドロイド、室内インテリアに相応しいアクセサリーや精密な時計はブランド“Klaudette”として出荷数を押さえて売り出され、本物志向の個人層、特にヴィル・ヌーヴ全域やエール&ブリテンの富裕層に高い人気を博している。ヌーヴには自らの郷土にこだわり、日本企業の製品を好まない人々も多いのだ。購買者の意見を汲み取った完全オーダーメイドのドロイド/ドローンの評価は特に高く、伝統ある家を守る機械仕掛けの執事やメイド、番犬たちを買い求める由緒正しい貴族たちの間には、有栖川製よりこちらを選ぶ者も多い。限定生産された腕時計“クロノホイザー”“オルト・マキナ”コレクションは、ギュネー社の女性誌コランでも紹介された。大学生のジャネット・チェスナットをモデルに起用した前者は新支社のオープンした北米でも人気を博し、徐々に工房の名を認知させてきている。
ウォーカーそのものに関してはトライアンフ社の躍進が目覚しいが、様々な部品やオプションを製作するサードパーティの中の一社として知られており、機体のカスタマイズが過ぎて市販の一般部品が使えなくなってしまったプロには重宝されている。どうやらウォーカー自体も生産はするそうだが、あくまでオリジナルシリーズとして市販する予定はないようだ。
主に個人用途の受注が多いが、特定の施設に大規模に納入された例もある。例えば、N◎VA中央区を始めとするアミューズメントパーク“twiLite”で最近客の目を楽しませている機械仕掛けの竜たちは、工房製の機体に北米ジュノー社のトロン集合制御技術を用いたものだ。
今は亡き創設者ヨハンは口癖のように、「心を持って接した機械には魂が宿る」と言っていた。その精神は現在でも受け継がれ、オーダーメイドの人形たちは心を込めて作られる。そのため、顧客の素性は詳しくチェックされ、相応しくないと判断された場合――例えば完全に偽装した暗殺用ドロイドや、主の異常な性趣向を満たすための購入であった場合――は、工房側から注文を断ることさえあるという。
風の噂では、ヨコハマLU$Tにあるウォーカー闘技場コロッセオで、同工房のスタッフと共に、創設者の孫娘にあたる人物が工房オリジナルの機体で参戦したことがあるという。
しかし、ヨハンと生前親しくしていた人間たちの話によると、子供のいなかったヨハンは愛妻を亡くしてからは天涯孤独、可愛がっていた人形達の他に家族はいなかったという。どうやら、その娘は養子のようだ。
エイジス支社 オーダーメイド製作受付 トーキョーN◎VA支店長 創設者ヨハンの孫娘 |
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