『ア・ルア・イーの魔道書』
《色星の書》
色星は巡り、幾千の昼と夜が過ぎゆく‥‥
かつて、天空城ヴァタオナイアに住まいし十二と一柱の星の神々あり。
創造と秩序を司りし黒き剣の王ソダール。
白き翼で死と終末を運びし翼の王ティオール。
愛と契約を司りし銀の指輪の女王、美しきソダールの妻ギャルレイ。
天の裁きを担いし
知恵なる松明にて人を導く黄の賢者、
茶の獣の母、変化と幻を司りし
世界の外の狂気と戦う槍の龍王、
多彩なる混沌と魔族の母、
青き海の寛容なる父、
緑の大地の造り手、森の
無垢と反転を司りし銀の月の舞姫、
天の雷鳴なる灰の
そして、
天空の神々の影には生命が生まれ、地上に人の王国生まれたり。
されど剣の王の化身、神帝リアンドラは戯れに地上を征服し、影の王国を滅ぼす。
神の玩具となりし人の子らは復讐を誓い、蛇の大公ブーレイ、蛇姫オラヴィーらと交わり、その身を呪われし魔族へと変じぬ。
原蛇エセスと翼の王ティオール、そして龍王の率いし軍勢の力を借り、魔族の軍団の矛先は天空城に向けられん。
反乱によりて天空城は遂に墜ち、神ならぬ身には殺せぬソダールも、ティオールの鍛えた短剣により貫かれん。呪詛の言葉と共に、剣の王も天空城と共に堕ちん。星の神々は自らの星座へと逃れん。
かくて神々の天城紀は終わり、
蛇姫オラヴィーの心は翼の王ティオールの元。嫉妬に狂いし吐息の大公、翼の王を暗殺す。されども蛇姫の心は変わらず、二人は共に葦原(あしわら)の国へ。
冥界の死の門にてティオール曰く、“これよりは我が領土。死の安息の地なり。汝ら魔族の入ること、あたわず”と。故に魔族は不死の一族、死の王国へは旅立てぬ。
魔都ヴァランティアには十二と一つの塔、諸侯の集う影の都。
玉座にはオラヴィーが子、魔族皇帝オエン。並ぶはオエンの息子、蛇の公子アーラール。宮廷には名高き大公ら。
原蛇の子ら、夜の魔族によりし帝国の支配は一万の年を数える。
されど北天に輝く
率いるは破魔<(はま)の巨人、龍王の子ら、翼の王の軍。
対するは名高き三百余の魔族の諸侯。配下、魔獣を含め二十万の魔軍。
この戦こそ
苛烈を極めし戦は続き、永劫の魔族帝国も遂には滅びん。
叙事詩に歌われしは槍の侯爵シュトロア、盾の巨人レムゴルン、紫の番兵アーレム、鏡の大公ルドラウ、戦士の大公アロセス、角の大公セイシュドーマ、吐息の大公タンキン、瞳の大公モーン、歌の公女イェロマーグ。
更には麗しき魔族の五公女、竜巻の公女ピスケール、蒼き死の公女ルハーブ、黒衣の公女パルガ、盾の公女リグレイ、忠誠の公女ラプティーク。
流石の諸侯も神の軍勢には勝てぬ。ある者は討ち死に、ある者は虜囚、ある者の行方はようとして知れず。魔都ヴァランティアは開城し、魔族帝国の最期の時。
さりとて魔族は不死なる身、巨人によりて封印されり。術は多々、鎖は太く。いかな魔族も逃れられぬほどに。いかな諸侯も蘇れぬほどに。
かくて女王紀の世、指輪の女王ギャルレイが荒れた地上を癒す。
されど愛する剣の王は既におらず、哀しみの女王は再び空へ、北天の不動星へ。女王の治世はあまりに短く。
次なるは
女王の下僕、巨人たちの創世の時代。森と山と、大地を造り、巨人たちは眠りにつかん。
後を継ぎしは巨人の影、
今より一万の年の昔、巨人の七王国も滅び去らん。
最後なるは
通火の妖精騎士は七色の部族。
即ち白妖精スギラント・レクシアス、闇の妖精クラディス・ラオパント、黄金の妖精ドロウクレア・ケアヌス、赤き瞳の輝きの妖精キラルキア・イルジナス、青き風の妖精ヴァイケルファン・ハウヌス、緑の森の妖精ドゥープーラン・ドゥートリアヌス、そして紫妖精ジェブヴェリエル・コルネイアなり。
蘇りし魔族、退化せし土鬼を打ち破り、妖精騎士は人の子を導かん。地に栄えしはアルリャ=イルエ、輝ける七つの大都。九千の年の平和の時。
されど五百の年の昔、熾烈なる戦起これり。
冥界の大公を名乗る魔族テンバウラン、封印を脱す。大公が狙うは妖精王の印、後継者の指輪。
指輪の大公ミソロンギと配下の妖精騎士、これを破るも深く傷つけり。龍王、土鬼、魔族が大地を走り、世は乱れり。
大公は地上を去り、疲れし妖精騎士達も眠りにつかん。
最後の妖精騎士が人の前より消えてより、既に二百の年が流れん。
そして今の世、妖精代末期。命短し人の子の世。
人の崇めしは世を去りし十二と一つの巨神、プラージュの狩猟と漁労の神々、ライエルの農業と自然の神。さらには、土着の守護神となりし力なき魔族。さりとて、力ある諸侯の復活を願う暗き信仰もまた。
大地に残されしは巨人の造りし都に砦、妖精騎士の古き王国。さりとて、知恵なき人の子にその意味は分からず。
書物に記されしは十二と一つの星座の魔法。これも、人の子にあらざる危険な技。血の代償を払いてもなお、失うものの多き技。魔法使いのみの知る禁断の技。
世にありしは幾多のもの。眠れる巨人に堕落せし土鬼、細工師の大ヴァルハン族、地の小鬼ヴァルト。馬の民チェタリ。魔族の下僕の黒魔。謎めく龍王の子ら。ティオールの守る冥界よりのもの。野を駆ける獣たち。
そして何より、我ら人の子。運命に縛られし定命の者。
天には太陽、担いしは戦車の王サイベル。夜を支配せしは原蛇エセス。闇に舞いしは銀の月、無垢なる舞姫テルティスなり。北天には不動星、地を見つめしは十二と一つの星座。
地に眠れしは魔族の諸侯。神征紀より二万年、巨人の封印もさすがに緩む。
ある者は眠り、ある者は復讐に狂い、ある者は自らの影を操り、復活の時を早めん。我ら人の子の夢の中にさえも、諸侯の影は忍び込まん。
高名なる『モールの魔道書』に記されし著名なる諸侯は九十と一騎。されど忘るるなかれ、諸侯の数は三百余騎。
色星は巡り、時は流るる。
生まれしもの幾多、消えしもの幾多。
この世界にて、我ら人の子、如何に生きるか?
答えはさらに探さねばならぬ。
定めは星のみぞ知るところなれば。
――『ア・ルア・イーの魔道書』《色星の書》より
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