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〜夜の力満ち〜
Part.1】【Part.2】

Last Enlightened: 2001/09/22

 前頁で挙げた主要6シリーズの他に、サブシリーズとして独立のシステム、半ばサブシリーズ的なサプリメントが幾つか出ています。
 

Vampire: The Dark Ages

『ヴァンパイア:ザ・ダークエイジズ』。時は12世紀、舞台は暗黒時代のヨーロッパ。まだ夜を照らす灯火が古城から漏れる蝋燭の光しかなかった頃。農夫たちが闇の中の存在をまだ信じていた頃。まだカマリリャもサバトもなく、13氏族のヴァンパイアがそれぞれ活動していた時代を扱った作品です。
 バイゴーン(去りしもの、Bygone)と呼ばれるグリフォンやペガサスといった伝説上の生き物も存在はしますが、あまりそちらの色の濃くない歴史ものに近いダークファンタジーになっています。イラストや装丁も当時の雰囲気たっぷりです。また、刊行当時、ストーリーテラー・システム史上、最もシステムが整備されたといいます。
 

Werewolf: The Wild West

『ワーウルフ:ザ・ワイルド・ウェスト』。時は大西部開拓時代。拳銃を下げたカウボーイたちが馬を駆っていた頃、ガルゥたちも荒野を駆けていました。ある時は白人を、ある時はネイティヴ・アメリカンを助け、そしてもちろんワームの尖兵と戦わなければなりません。
 熱い題材なのですが、肝心の世界背景がそれほど載っておらず、あまり人気がないようです。
 

Mage: The Sorcerer's Crusade

『メイジ:ザ・ソーサラーズ・クルセイド』。時は15世紀のヨーロッパ。ルネッサンスの文芸復興で華麗な文化が花開き、海の果てに船乗りたちが乗り出す頃。結成された頃のトラディション、現代のテクノクラシーの原型となったオーダー・オブ・リーズンの戦いを描く作品です。『大航海時代』の頃と言えばイメージが湧くでしょうか。
 

Kindred of the East

『キンドレッド・オブ・ジ・イースト』、東方の吸血鬼たち。東洋にスポットが当てられた1998年Year of Lotusの一環として出されたこの作品は最初はV:tMのサプリメントであり、後に実質上の独立シリーズとなりました。
 主人公は中国や日本、アジアの夜に生きる東洋の吸血鬼、鬼人。死して黄泉の国から帰ってきた彼らは輪廻の道から外れたため、他者の「氣」、万物を構成する元素をすすって生きねばなりません。内なる闇と調和し、天地と一体になるべく長い修行の旅が始まります。
 

Mummy: the Resurrection

『マミー・ザ・リザレクション』。独立サプリメントです。元々出されていたサプリメントに登場するマミーはエジプトのホルス神とアメンティの都の女王イシスに作り出された不死の戦士でした。
 レイス:ジ・オブリビオンのシリーズ終了による設定変化を受け継いだこの作品に出てくるマミーは少々違いがあります。冥界に嵐が吹き荒れ、死者の都アメンティが滅んだ頃。オシリス神が目覚め、古代人の霊魂と死したばかりの現代人の霊魂が融合した新たな戦士が生まれます。彼らアメンティは太陽神ラーの宿敵、セト神を堕落させた強大な蛇神アポフィスと戦います――このアポフィスが他の種族たちがワームと呼び慣わす存在らしいのです。
 2001年Year of Scarabに発売された作品です。
 

Exalted

『エグザルテッド』。こちらも2001年に発売されたまったくの独自シリーズの新作。
 記録の残らぬ昔、旧きヴァンパイアたちが一なる都エノクから世界に散り、人狼たちが人間を導き出したよりさらに昔。WoD世界の古代は謎に包まれていました。そこに光を当てたこの新作は、なんと既存シリーズとの設定リンクがほとんど表に出ない独立した超古代ファンタジー物だったのです。
 PCたちは神の力を受け継いだ英雄エグザルテッド(追放された者、尊き者の意)となって、邪悪な帝国と戦います。東洋シリーズを手がけたMelissa女史のイラストが満載。どうもイメージソースを日本のアニメや漫画作品に多く取っているようで、10作まで出たあの有名コンシューマーRPGや月に代わっておしおきするあのアニメにも影響を受けているらしいのですが‥‥? 本国での人気はどうなのでしょうか。
 

 これら各シリーズのサプリメントを抱え、関連商品は数百を軽く超える(!)数に及んで多岐に渡っています。そう、マニアが揃えて喜ぶ典型的な設定ゲームなのです。遊ばなくても読んでるだけでいっぱいいっぱいになってきます。ダメなゲームですね。(笑)
 各シリーズはたいてい名詞+コロン(:)+副題という独特なネーミングスタイルを取っており、サプリメントも同様のものが多いですね。ちなみに長い名前のサプリメントも多いです。WoDV:tMYoLのように頭文字で表記するのが通例になっています。

 有名作品は海外書籍を扱う大きなゲームショップなら手に入りますし、今は【SKYSOFT】などのオンラインショップを使う手もあります。かの【TRPG.NET】にもskysoft informationにて詳しい説明があります。
 海外のRPGの中では、イラストや装丁などビジュアル的にはかなり美しい部類に入ります。一から英語全訳に挑まずとも、これを機にひとつ記念に買ってみるのもいかかがでしょうか。
 


Pale Moon

And, The East in Darkness?

 WoDの舞台はもうひとつの歴史を持つもうひとつの地球です。展開はアメリカやヨーロッパがおおむね中心ですが、当然、目を転ずれば東洋世界も、我らが日本もあります。
V:tMが好評を博し、他シリーズや設定集が出るに連れ、アメリカ以外の設定も光の元に明かされるようになりました。初期の頃はいい加減なリサーチの元に作られた設定もあったようです――例えば、ワーウルフのカナダ設定『Dark Alliance: Vancouver』には、ブシという東洋のヴァンパイアの氏族が紹介されています。まあ、いわゆるガイジンが適当に考えた誤解の甚だしいオリエンタリズムに溢れていたようです。他にもあちこちのサプリメントでガキ(餓鬼?)の名が出てきます。しかし、後年になって発売された『Kindred of the East』では、これらは東洋のヴァンパイアである鬼人(Kuei-Jinn)の中の一門が、西洋の血族に誤解されていたものであった、と説明がついています。(つまり、もう忘れてくれという白狼神のお告げです)
 思うにシリーズが多方面に広がり、世界が舞台になり各地の歴史や文化とも関連が深まるに連れ、途中からリサーチも深く行うようになっていったのではないでしょうか?

 確かに東洋を扱った作品群は一見、いかにも偏見に満ち溢れているように見えました。『Kindred of The East』の赤いカバーの中央に堂々と金色に光る「氣」の文字。ワーウルフの遠い仲間、東洋の変身種族を扱った『Hengeyokai』にでかでかと下手な漢字で書かれた「変化妖怪」の字や、裏表紙で読者を招いているチャイナ服の狐のお嬢さん。そして日本で国辱ものとしてとてもとても評判の悪かった巻頭マンガ「月獣戦隊ガイアマン」などなど‥‥
 しかし、第一印象に縛られずに目を通してみると、これらの作品は実はきちんとした考証の元に真面目に作られていることが分かります。少なくとも我々が――例えば、ナイトシティに君臨する悪名高いアラサカやシャドウランナーの前に立ちはだかる日本企業群、ニッポンテックの金輪産業に期待し、裏切られなかったような「わざと誤解を増幅させたトンデモナイ日本」ではないのです。鬼人の体内の氣は陰陽の法則に、その鬼道の技は木火土金水の五行に従っていますし、西洋と対照的な輪廻転生の哲学も登場します。
 ただ、誤解とは別の意味で、海外の人が作ったものですから根本的なセンスの違いはありますし、もちろん間違いもあります。その辺が受け入れられない人もいるでしょう。
 なお、考証を頑張ってはいても、人名の不自然さだけは回避しがたいようです。例えば現代でも江戸城の闇の中には、関ヶ原の時代から幕府に仕え、不死の生を得て今なお東京を見張っている鬼人のリーダーがいますが‥‥名前がHAKARIとなっています。第零機動隊の創設者もほんとの名前はオカモト・ゲイチンです。どうしましょう。筆者は知識がないので分かりませんが、欧米以外の人名の名前にも不自然なものはあるような氣がします。

 上でも触れましたがYear of Lotusに『World of Darkness: Hong Kong』と共に、極東の見えざる都市を描いた『World of Darkness: Tokyo』も出ています。西洋/東洋のヴァンパイアにガルゥと変化妖怪、テクノクラシーの一派であるザイバツにトラディション・メイジたち、シャドウランドに住まうレイスにチェンジリング、さらに人間側の勢力として第零機動隊まで‥‥東京は下で述べるクロスオーバーの天国なのです。
 東京なのに成田空港も書いてあったり(第零機動隊が西洋からの侵入を見張っています‥‥)、山手線円内の都心部の地図がなんだかちょっと歪んでいたりするのですが、徳川の時代から記述のある日本の歴史や、名所案内はかなり真面目です。御茶ノ水の三省堂書店や、新宿東口のALTA前の記述まであります。(!)
 

East meets West?

 上で述べた東洋の勢力は、最近の展開ではどうやらおおむね西洋と住み分けをしているようです。
 WoDの世界に住んでいる血族は約4万人、東洋の鬼人は約2万人。西洋では支那鬼(Cathayan)として知られる彼らはカリフォルニアに攻め込んだり元気なようですが、ヴァンパイア以外は自分たちの領域を守っています。
 ワーウルフを含む変身種族シェイプシフターの東洋版として変化妖怪がおり、彼らは西洋の同族がガイアと呼ぶ存在を緑玉の太母(エメラルド・マザー)と呼び、彼らの方法で仕えています。
 東洋世界にもメイジがおり、神道のようにトラディション・メイジの分派として分類される者も、アセンション・ウォーに加わらずに自分たちの道を歩んでいる者もいるようです。東洋のテクノクラシーはファイブ・エレメンタル・ドラゴンズと呼ばれ、西洋とはあまり仲がよくないとか。
 最近のサプリメントでもこうしたアジアの魔術師たちやモンゴル帝国時代の血族/鬼人が描かれたりと、東洋に関しては引き続きちらほらと紹介され続けています。
 

Cross Over

 また、これらの超自然の存在たちは皆同じ世界に生きています。細部が微妙に違いますがStorytellerシステムは基本は同じですし、クロスオーバー用のルールもありますので、ひとつのセッションの中でそれぞれがPC、あるいはNPCとして登場することも可能です。
 また各種族、各勢力によって考え方や偏見があるので敵となることも多いでしょう。遠き父祖の復讐を果たすため、密やかに戦い続けるヴァンパイアがいても、街の外の荒野から眺めるワーウルフにとっては人間の街を支配するただの邪悪な存在であり、人間性が低ければ無条件でワーム感知の力にひっかかるというわけです。
 実際、発売されたサプリメントにはクロスオーバーを狙ったものもあります――不死者達が治めるシカゴがガルゥの攻撃で陥落する有名シナリオ『Under a Blood Red Moon』や強大な力を手に入れた魔術師と古代のメトセラを倒すべくメキシコの地下に挑む『The Chaos Factor』など。また、『World of Darkness: Hong Kon』『World of Darkness: Tokyo』などの都市設定は、最初からすべてのシリーズで使えるようクロスオーバーを意識して書かれています。
 ちなみにクロスオーバーでやろうとすると、夜しか活動できず、他にも様々な弱点を抱え、しかも同族同士で互いに争っているヴァンパイアが相対的にかなり弱くなるそうです。夜の世界の主ではなかったんでしょうか。(笑)
 


Pale Moon

Reckoning, Revelation, and Next ... ?

 発売以降、WoDシリーズでは各年ごとにテーマを決めた展開が進んできました。異端審問のレオポルド会や政府機関など人間側のサプリメントが出たYear of the Hunter(狩人の年/1996)、超自然の存在の盟友たちを描いたYear of the Ally(盟友の年/1997)、我らが東洋の設定が明かされたYear of Lotus(蓮の年/1998)‥‥
 そして世紀末。Year of Reckoning(清算の年/1999)――には第6のシリーズ『Hunter: the Reckoning』が発表され、WoD世界を揺るがす大事件がいくつも起こりました。それはYear of Revelation(啓示の年/2000)――正確には何を示していたのか未だ不明――にも続いています。
 夜の世界に潜んでいたものたちに気付いた人間たちが遂に反撃を開始し、インビュード・ハンターたちはその数を急激に伸ばしています。しかも彼らの中には真の信仰を持っていたり、血族たちの力が一切効かない者もいるのです。
 影界にある死者の国シャドウランドには冥界の主たるカロンが帰還し、ヴァンパイアたちの伝説の都エノクが陥落しました。これによりカマリリャよりサバトより古い歴史を持つセクト、トゥルー・ハンドは壊滅したといいます。伝説の怒れるアンテデルヴィアンが復活し、ラヴノス氏族の血族は一週間で全滅しました。血の薄い第14、15世代の血族たちが誕生し、彼らは昼間でも歩けるといいます。
 サバトの攻撃が狂乱の度合いを増す中、ギャンレルーはカマリリャを脱退し、マルカヴィアンの幻視者たちはカマリリャ崩壊の予兆を見ました。血族たちが恐れるゲヘナはもう始まったのでしょうか? 迫るアポカリプスの刻を防ぐべく戦い続けるガルゥたちは、至天戦争が終結したメイジたちは?
 2000年12月、アメリカでは『Werewolf: The Apocalypse 2nd Revised』が出ました。この中で幾つかの謎が解き明かされ、ガルゥたちがアンセリオスと呼ぶ赤妖星の輝きは増しています。そして――新たなミレニアムとなる2001年はYear of Scarrab(スカラベの年)となりました。エジプトで戦い続けるセトの信徒とマミー、故国奪回に乗り込むサイレント・ストライダー。カマリリャに奪回されたニューヨーク。これらの秘密が語られようとしています。
 一時期のサプリメントの広告にはよくこんな謎めいた文句が書かれていました。

「大洪水よりも前 インペルギウムよりも前
暗黒世界は在り そこには何かがいた」


 この謎も2001年に明かされました。6月に、上でも述べた新作『Exalted』(尊き者、の意)が登場したのです。舞台はWoD世界の歴史が始まるさらに過去の神話の時代。黄金時代の終わりとなった数千年の大いなる戦いで敗北し、形を変えて生き長らえるのを余儀なくされていた存在たちが転生し、復讐のために戦う神と英雄たちの物語。意外なことに既存シリーズとのリンクはほとんどない独立作品となりました。
 そして2002年には、華やかなる大英帝国、ホームズやジャック・ザ・リパーが活躍したあの時代の不死者の世界を描いたV:tMの独立サプリメント、『Victorian Age: Vampire』の登場が発表されています。世界が終わることなく新世紀を迎えた暗黒の世界には、これから何が起こるのでしょうか?

 
 


Pale Moon

You can hear, the whisper from Night...

 さて、シリーズ全般に渡って述べてきましたがいかがだったでしょうか。概説しただけでもこれだけあり、ご想像の通り、WoDシリーズは膨大な情報量を抱えています。日本ではその一端が紹介され始めたばかりです。万人向けのゲームとはどうやっても言い難いですし、設定ゲーム特有の取っ掛かりにくさは大きな弱点です。
 しかしその全ての設定の使用が必須という訳ではありませんし、その一部分に光を当てるだけでも、十分に楽しめます。
 それに、このコンテンツを御覧になっているなら、貴方は広大なWoD世界の何処かに惹かれ、その続きを自分で創りたいと思っているのでしょう。
 その余地は十分にあります。闇の深奥に秘せられた十万の謎を、夜の世界の彼方で起こっている百万の物語を、全て知っている必要はないのです。それこそが、夜の力満ちる世界に生きていることを実感できる瞬間なのですから。

 さあ、澄み切った夜からのささやきに耳をすませ、蒼白い月の照らす先に目をこらしてみましょう。貴方を待っているものは、確かにそこにあるはずです‥‥




ようこそ永遠の夜へ。汝、汝を待つものを見出すであろう。


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---Bar from V:tM2nd---

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