The Quiet Masquerade

〜静かなる仮面舞踏会〜
【Part.1】【Part.2

Last Enlightened: 2001/09/22

ブラザー 気にすることはない
シスター 心配はいらないさ
言ってごらん 何でもしてあげるよ
君は吸血鬼 僕も吸血鬼

――ペット・ショップ・ボーイズ 『ヴァンパイアズ』




Thre are no such things as Vampires...


 ヴァンパイア。貴方が思い出すのはブラム・ストーカーの古典でしょうか。カトリーヌ・ドヌーヴが胸に掛けていたアンクでしょうか。トム・クルーズが演じたレスタトでしょうか。
愛を訴えながらキアヌ・リーヴスの前で滅んでいったコッポラのドラキュラ? 黒人のハンター、ブレイドとスタイリッシュな死闘を演じたフロスト? それともホワイトウルフのスタッフも好きだという“D”?

 ゲームの中ではどうでしょう。それは今まで、ダンジョンの奥底に潜む高位のアンデッドであり、プリーストたちの祈りの力で退散させられる負の生命力を持った怪物であり、様々な弱点から結局は冒険者たちに倒される存在でした。
 そのヴァンパイアになる――アメリカでこのゲームが出た時は、さぞTRPGファンは驚いたことでしょう。

 『Vampire: The Masquerade』(以下V:tM)は1991年、White Wolf社からStorytelling Gameと銘打って発売されたRPGです。今までにない斬新なコンセプトと濃密な背景設定、美麗なアートワークが人気を博し、サプリメントや他シリーズ、92年の2nd Editionへの改定へとシリーズを広げてきました。ファンサイドの活動も盛んで、ウェブサイトもかなりの数が存在します。
 海外RPGではかなりの人気シリーズで、日本のホビーショップにもよく並んでいます。雑誌でもちらほらと紹介され続け、日本でも熱心なファンの間には静かな人気を博してきました。そうでなくとも名前ぐらいは聞いたことのある方もいるでしょう。今はなきRPGマガジンでもリプレイや紹介記事が載ったりしました。ログアウト誌でも『粋なゲーマー養成講座』で一回題材にされたころがありました。現在は消滅しましたが、ホワイトウルフ社の公式ファンクラブ『Camarilla』の日本支部もほんの一時期ですが96年〜97年頃に東大のサークルを中心に活動していました。(支部の一部の方は現在の翻訳陣に名を連ねています)
 翻訳の話は前からあったようです。文庫版RPGが盛んだった頃にかのグループSNEも訳したがっていたそうですが、文庫の抄訳形態では許可が下りなかったとかなんとか。
 そして世紀末。シリーズが広がり、世界設定も新たなドラスティックな展開を見せる中、多くの人に親しまれたV:tM 2nd Editionを改定した2nd Revised(事実上の3版、以下Revised)が新たなディベロッパー陣のもと98年に発売され、日本でも夢と思われていた翻訳が決定。営業形態の変更に伴い、スザク・ゲームズ作品の編集元であったアトリエ・サード自体が発売元に。今やクラシックとなっているストーリーテラー・シリーズの記念すべき第一作目が日本語で遊べる日が来たのです。
 値段は確かに\6,000と高いですが、苔むした墓石を思わすあの表紙も、体裁もフォントも内容もそのまま。未訳時代から慣れ親しんでいる人には訳語で幾つか気になる点があるでしょうが(カマリリャやトレメールや黒手団など)、翻訳はほとんど問題がありません。
 

Yes, we are Vampires!

 V:tMの背景は我々の住む現代世界の鏡像です。しかし、ワールド・オブ・ダークネスの現代は闇がもう少し深く、その向こうに何かが蠢いています。
 そして、遥かな古の時代から13の氏族に分かれ、世界を影から操ってきた吸血鬼たちがいます。永遠の生の中で彼らは選んだ人間たちを抱擁し(格調高くこう呼ぶのです)、自分の子孫として増やしてきました。PCとなるキャラクターは全員、各氏族やより小規模な血脈、あるいは氏族なしの、比較的最近に闇の生を受けた血族(Kindred、ヴァンパイアは自分たちをこう呼びます)として舞台に上るのです。
 国産ゲームだと『ガープス・妖魔夜行』にちょっと似通っているかもしれません。(正確には妖魔夜行が似ているのでしょうが。) それに、悲しきかな血族は、善い妖怪たちのように人類を護る為に団結してはくれないのです。

 血を全て吸い尽くされ、親の血潮を一滴受けた時から、変化が始まります。抱擁された時点でその人物にとっての時は止まります。外見は永遠にその時のままですし、年は絶対に取りません。
 再生能力を持つ血族は血を消費すれば瞬時に傷を治せ、切り落とされた腕も再生できます。様々な内臓器官が停止するので視覚も聴力もより研ぎ澄まされます。疲労しない筋肉はいつでも全力を出せます。
 血族の平均的な能力値はただの人間より高くなっており、血を用いて更に一時的に伸ばすこともできます。打撃全般に人間より耐性を持っており、Revisedからは頭を狙っていない銃撃は殴った程度の傷しか与えられません。負傷は血を用いて瞬時に回復できますし、そのうえ大きなダメージを受けて休眠状態に陥っても、いつかは再び目覚めます。心臓に撃ちこまれた杭も動きを止められるだけです。
 完全に倒すには剣で立ち向かった末に首を切り落とすか、正確に頭を狙って撃ち抜くか、日光や強い炎で焼き尽くすか、血族たちにのみ伝わる神秘の力で完全に滅ぼすしかありません。十字架や聖なる印も本当の信仰を持っていない限り効力を持ちません――彼らは十字架が生まれる前から存在したのですから。

 このようにこのゲームでは、現実世界の吸血鬼にまつわる伝説全般のあるものは取り入れ、あるものは無視し、「WoD世界におけるヴァンパイア」をしっかり定義しています。我々が漠然と思い浮かべるヴァンパイアとは多少違う点もあるわけです。
 そして、各氏族が伝える、幾つもの系統がある【訓え】と呼ばれる超常能力が血族にさらなる力を与えます。我々が馴染み深いような、動物への変身や魅了の力は、この【訓え】一部として表現されているわけです。作成時に長所短所として取れる弱点や、各氏族が抱えている固有の弱点で、鏡に映らない、故郷の土が必要、などの一般に知られている吸血鬼の弱点も表現できます。

 貴方の夜の友人は人間の頃は何をしており、なぜ吸血鬼の一族に迎えられ、普段の夜は何をして過ごしているのでしょうか? 個性的なキャラクターを創造したいなら、クリエイティヴィティの入る余地は多いにあります。さらにルールブックやサプリメントで紹介されている氏族や血脈も、非常に個性的なものばかりです。典型的な氏族のイメージだけに捕らわれずにキャラクターを創造してくれと勧められていますし、様々なコンセプトが考えられるでしょう。
 キャラクター作成においても、数字に捕らわれることなく、生きた一人の人物を創造してくれと指針にあります。まあ滅茶苦茶細かくて長い設定を考える必要はなくとも、貴方なりの方法で命を吹き込んでくれということでしょうか。

 何より、このゲームではヴァンパイアを演じるのです。とびきりクールですよね?
 

What to enjoy in the Night?

 さらに、キャラクター作成の段階では【背景】と呼ばれる部分で、血族自身の能力以外の部分を表現できます。貴方の夜の友人は既に街の公子に紹介されたいっぱしの若輩かもしれません。決して姿を見せない人気作家として昼の世界でも有名なのかもしれません。街の実力企業を電話一本で動かせる影響力を持っているのかもしれません。師に恵まれ大いなる知識を有していたり、豪邸に数多くのグール――血を飲み干されずに血族の血潮を与えられた人間をこう呼びます――の召使いに傅かれて優雅に暮らしているのかもしれません。
 こうした設定を完了し、貴方の夜の友人は闇の生を受け、夜の世界の舞台に上ることになります。
 血族はかつては10万人に一人、現代では2万人に一人程度とも言われています。都会でも、ひとつの街には概ね数十〜百程度しかいません。きっと何か理由があって父に抱擁されたのでしょう。(実際、長いキャンペーン的な史劇をやるなら、プレリュードとして抱擁されるシーンから始めるのも勧められています)
 そして、表の職業の顔をを持つにせよ持たないにせよ、夜の生活を楽しみましょう。時間は永遠にあり、貴方は多くの特別な力を持ち、人間たちの知らない真実を知っているのです。この街も世界も、影から血族たちが支配しています。そう、ずっと昔から。そして貴方はその特典を甘受できるのです。
 世代の若い血族は能力や訓えのレベルに上限があるのですが、経験点を用いて成長させることもできます。様々な力を極めるのもよいでしょう。

 ちなみにストーリーテラーシリーズの経験点システムは週1回セッションをやり続ける頻度を想定して作られているそうです。頻度が少ないなら、多めに経験点を上げてもよいと言われています。
 

Thirteen Clans and more bloodlines

 神の如き力を持つ13人の第3世代ヴァンパイアを創始者として、13のヴァンパイアの家系が生まれ、氏族として今日まで続いています。キャラクター作成時に世代を若くしなければ、PCは始祖から13代目に当たる血潮薄き遠い子孫になります。その下の14、15世代の子も現代では存在し、吸血鬼としての力がさらに弱まっています。
 キャラクターのコンセプト決定の重要な要素となるこのクランによって、どの【訓え】が伝えられているのか、どんな弱点があるのか、特徴的な気質などが決まっています。
 詳しい解説はここでは省きましょう。ルールブックや他のサイトさん等を参考にしてみてください。(at To seek Enigma of Night
どれもが個性的な氏族ばかりです。また、それぞれが設立の時より現在まで続く血塗られた歴史や確執を抱えており、永劫の闘争が続く理由も述べられています。
 歴史が浅く(血族の歴史においてですが)、世代や訓えのレベルの幅もより狭い、血脈(ブラッドライン)という集団に属するヴァンパイアを作ることもできます。サプリメントではよくこれが紹介されています。また自作も許されていますし、海外のウェブサイトではオリジナルの血脈があちこちで掲載されているようです。
 実はこの氏族と血脈、血脈から氏族に成り上がった所があったり逆に没落したり、創始者が活動していたり眠っていたり滅んでいたり謎だったりと区別が曖昧です。「血族社会に影響を及ぼすほどの影響力を持っていること」「第三世代のヴァンパイアが創設者であり、存命であること」が氏族の条件とされているようです。(創設者が既に滅んでいる氏族も幾つかありますが。)
 従って、オリジナルの血脈は可能ですが新しい氏族を作るのは正しいV:tM世界では無理となりますね。
 

And, what to do in the Night

 では吸血鬼としてせねばならないこと、直面する問題はなんでしょうか。大地を汚す宿敵ワームと戦うワーウルフやアセンションの道を探求するメイジと違い、ヴァンパイアには明確な外部の敵や目的がありません。

 まず血族は毎日の不死の生を人間たちの間に潜んで過ごしていかねばなりません。夜しか活動できませんし、吸血行為をどのように考えているのかにせよ、どうにかして血を補給しなければ生きていけません。そして一部は血族が影で操っているとはいえ、定命の人間に正体を明かしてはなりません。魔狩人は存在し、しかもその数を増やしているのです。平均して血族は人間より強力ですが、全ての血族が1対1で人間に勝てるわけではありません。そして血族1人に対し、人間は数万人もいます。

 そして、遥か昔に黒き死の天使ウリエルがカインに告げた親殺し・子殺しの呪いは今も続いています。互いに相容れない考えを持ったカマリリャとサバトの二大派閥は創立以来ずっと戦い続けており、謎めいた他の派閥も存在します。更に、各氏族は五千年以上の歴史の中で多くの確執を抱えており、互いに何度も争ってきました。その上、同じ氏族の中でも権力闘争や様々な争いが起こります。そしてそれら全てに、影の聖戦ジハドが謎めいた影を落とします。血の薄い年若いヴァンパイアたちにウリエルの呪いがどれほど効果を及ぼしているのかは分かりませんが、影響を及ぼしているのは確かです。

 最後に、全ての血族は自分の中にもう一つの敵を抱えています。無作法なネオネイトを蔑む優雅な長老も、抱擁されたばかりの何も知らない雛も同じです。
《獣》です。内なる獣性に屈してしまった時、ヴァンパイアは仮面を脱ぎ捨て、見境なく辺りを襲い、誰かまわず血を貪ります。強い自制心で抑えることはできますが、体内の血が少なく飢えている時は、抵抗も難しくなるのです。永遠の生を簡単に滅ぼす火への本能的な恐怖も克服せねばなりません。
 人間の心を保ち続けている血族は《人間性》という数値を持っています。中にはワールド・オブ・ダークネスの平均的な人間よりも高潔な心を持っているヴァンパイアさえいるのです。
 邪悪な行為を行い、判定に失敗して良心の呵責を忘れた時、人間性はどんどんと下がっていきます。低い人間性は他の行為にも影響し、徳に関する判定で振れるダイスの上限も減ります。昼間の眠りも深くなり、人間と変わらない外見も徐々に奇形や不自然な点が目立つようになります。そしてどんな悪行も気にしなくなり、遂には内なる獣に屈服した完全な怪物へと化してしまうのです。そこにいるのは高貴なる夜の貴族ではなく、ただのモンスターです。そうした存在はプレイヤーの手を放れ、他の血族たちの手で葬られます。そして―― 邪悪な行いを自ら行わずとも、数百年、さらに長く生きたヴァンパイアは、いつしか人間の心を忘れるといいます。
 かつては追加ルールだった啓発の道――人間性の道に取って変わるもの――もRevisedでは基本ルールに掲載されました。サバトや独立氏族の中でもとりわけ年経たヴァンパイアが従っているこの道を進むなら、人間の持つ良心にとらわれる必要はまったくなくなります。しかし、彼らの哲学は人間であることを完全に捨て去り、またその教えの中には我々人間から見て明らかに邪悪で異質なものもあります。血を消費して人間らしく振舞うことも一切できなくなります。

 このように、ヴァンパイアとして生きる闇の生は平坦ではありません。そう、ここはワールド・オブ・ダークネスです。暗黒の世界は悲嘆と苦悩と困難と、解き明かすことのできない永遠の謎に満ちています。でも、だからこそ――貴方と心を共にする分身がしっかりと持っている何かが、永遠の夜においても不滅の輝きを放つのではないでしょうか?
 

Origin of the Damned

 血族達の始祖は聖書の偽典ともいわれる旧き書、世界各地に写本だけが散らばっているヴァンパイアの聖典『ノドの書』に記述されています。
 兄を殺し、天上神から、そして遣わされた四大天使から呪いを掛けられたカイン。その3人の子(4人の説も)、後に親を殺す13人の孫‥‥氏族の創設者となった13人のアンテデルヴィアンは、今ある13氏族のリーダーとは一部異なっているともいいます。カインの子と孫、曾孫の正しき名と互いの親子関係については矛盾した伝説が幾つも伝わっており、現在ではどれが正しいのか窺い知ることができません。
 父の中の父カインは行方をくらまし、宿命を求めて世界へ散らばった古代のヴァンパイア達は様々な伝説となり、人間の文明を助けてきました。四大文明の発祥に始まってギリシャやローマ、そして人間の歴史が始まり、中世暗黒時代があり、魔女狩りがあり、文芸復興と産業革命があり、今世紀があります。そしてPCとなる若い血族が活動する世紀末の現代があるのです。V:tMのヴァンパイア達は今を生きているだけではありません。五千年以上に渡る歴史があり、その過去を時を超えた身として生きており、それゆえに重みがあるのです。
 キリスト紀元が始まる数千年前にノドの書は書かれたと言われていますが、血族の発祥は聖書に近いところに属します。サバトの黒手団のリーダー、4人の織天使の一人(本当に強力なメトセラです‥‥)も、ルス記の登場人物だと言われています。後になって東洋にも焦点が当てられたり、様々な国や文化が登場してはいますが、ワールド・オブ・ダークネスの世界は基本的には西洋文明を中心に回っています。この点は割り切るしかありません。
(まだ世界設定が整備されていなかった頃からの最初の作品である、V:tMシリーズは特に。そのため、世界の全てをヴァンパイアが握っているような錯覚に陥りがちです。)

 現実世界にも存在する人物や神話の幾つかは、V:tMの歴史ですり替えられています。他の氏族とは違う神話を持つセトの信徒が崇めるセト神もヴァンパイアです。先代のロンドンの公子、ヴェントルーのミトラスは古代ペルシャにおいて自身が神と崇められていました。アステカ文明で戦神ウィツィロポチトリとして知られていたのもバアリの始祖です。スフィンクスも謎掛けが好きなマルカヴィアンでした。イシュタル、ネルガル、ティアマット、エンディミオン、大天使ミカエル、意味ある名を持つメトセラもいます。古代ローマを始め、偉大な帝国の数々に仕えた将兵出身の長老も多くいます。
 北欧の人間たちがヴァルキリーと呼んだ戦士たちは、ブリュンヒルデというギャンレルに率いられた血族でした。串刺し公ヴラド・ツェペシュはその恐怖の治世のあとツィミースィに抱擁され、今でも古城に住んでいるといいます。ロビン・フッドの伝説もある年経たギャンレルが作ったのではないかと言われています。伝承に出てくる妖婆バーバ・ヤーガはロシアを数千年間影から操ってきたノスフェラトゥのメトセラです。黄金の夜明け団のアレイスター・クロウリーはマルカヴィアンです。シカゴのアル・カポネはヴェントルーの一員として活動しています。マタ・ハリはアサマイトだったと伝えられています。ハインリッヒ・ヒムラーは今でもナチスの残党を率いています。人間の仮面を被っていた我々の世界の有名人は、もっともっといることでしょう。

 基本ルールにおいては存在が噂されているだけであった古の者、メトセラやアンテデルヴィアンも、後に世界が広がり、長老のPCで遊ぶルールやシナリオ集、設定集が出るにつれ、徐々にその名や姿が明かされています。中には数値的データが公開されている血族もおり、出会っただけで死ぬような強さだったり紀元前から生きているような恐ろしい古の吸血鬼も存在します。
 とはいえ若い世代の血族の物語には直接登場することは少ないでしょうし、彼らは闇の深奥の秘密の向こうに在るべきでしょう。
 

Thousands of Nights passed

 V:tMのキャラクターはルール上では8〜13世代となりますが、それより高い世代、数百年の時を過ごしてきた長老たちで遊ぶことも可能ではあります。2nd用のサプリメント『Elysium』が専用ルールを解説し、Revised用に改定された『Vampire Storytellers Handbook』の中でも触れられています。
 初期状態で10世代である彼らはキャラクター作成の段階から技能や訓え、背景に割り振れる点が多く、能力値の上限も上がっています。長老専用の背景も用意されています。世界を動かす力を持つ年経た血族は真に強力なのです。
 しかし代償も大きなもの。若い血族たちの上限である5を超えた能力値を持てば狂気をさらに抱え込むことになります。世代が高く、地位や名声が上がればそれだけ、敵も多くなります。莫大な自由割振り点を得られる年齢の背景を取れば人間性も下がります。数世紀を生きてきたヴァンパイアは、かつて人間であったものをいつしか忘れてしまうのです。
 また、自然と焦点が当てられるのも力を持つ古き者たちのパワーゲームになりますし、V:tMWoDの背景世界全体の詳しい知識も必要になります。V:tMは基本的には、比較的若い血族で遊ぶゲームとして捉えてよいでしょう。
 

Basic System

 ストーリーテラー・シリーズの基本システムはシンプルです。基本的に1〜5の幅を取る能力値+技能をダイスプールと呼び、プールの数だけダイスを振って目標値以上が幾つ出たかで成功数を計ります。『シャドウラン』と同じですね。目標値は基本がだいたい6で、修正も加わりますが『シャドウラン』の戦闘時のように目標値の煩雑な計算はありません。
 ここに各ゲーム固有のルールが加わります。V:tMなら血族たちが持つ各種の【訓え】や<體血>、狂乱や<人間性>などです。ワーウルフならレイジ(業怒)やグノーシス(霊力)、月の精霊ルナから与えられたギフト(授け)の力などでしょうし、メイジには各スフィアに分かれた魔法があります。
 そして大きな特徴はどのシリーズにも、第一のGolden Rule(黄金律)として「ルールなんかない」とはっきり書かれていることです。状況に合わせて能力値と技能の組み合わせの例がいろいろ書いてありますが、それらは全て「指針」なのです。交渉関係のルールでも、素晴らしいロールプレイの結果を、決してダイスの目で邪魔しないでくれとはっきり書いてあります。
 もちろんシステムの根底に関わるようなルール――例えば戦闘時に《体力》ロールで行うダメージ減少をいきなり《容姿》でやり始めたらそれはまずいでしょうし、応用となる部分でセッションの方を優先しろということでしょう。こうした全体的にゆるやかな点が、ストーリーテリング・ゲームと自ら銘打った、ふつうのTRPGとは一味違う演劇指向のセッションを作り出す助けとなります。

 なお、LARP(Live Action Role Playing, 読み方はラープ?)というライブRPG用のルールもMind's Eye Theatre (MET)と題し、各シリーズ毎に出ています。ストーリーテラー・システムを大幅に簡略化した形式で、判定はジャンケン、自分の状態や持ち物などをカードで表したりします。
 このLARP、海外では盛んらしいのですが日本では住宅環境のせいかまったく見かけないのでよく分かりません。
V:tM用のルールブック『THE MASQUERADE』を見ると、広い貸しきりの場所に舞台を整え、週末の夜、自分のPCである血族風の思い思いの衣装で集まり、身振り手振りを交えながら、一夜の物語を過ごしていくようです。よくJGCのような大規模イベントでやっている、何人かでチームを組んで各部屋を回ってミッションを遂行するライブRPGをもっと本格的にしたものなのでしょうか。海外には、このLARPやそのための都市設定を扱ったサイトも幾つかあります。
 なお、後年になってV:tM用のLARPルールは『LAWS of the Night』という名で再販されたようです。13氏族の詳細を描いた各Clanbookが現在はRevised版がぞくぞくと刊行されているのですが、巻末に並ぶデータ付きのテンプレートには、LARP用のシートも一緒に掲載されています。  

How Storytelling?

 基本システムの上にある人間性の消失や徳のルールによって、V:tMでは吸血種族として生きることの悲哀を演じることができます。それではそれ以外の、ドラマチックな物語を補強するルールはどこにあるのか。
 まず、他シリーズと同じようにV:tMには意志力があります。最大値を使って判定をする他に、現在値を消費することで自動成功を買ったり、困難な状況下での行動を可能にすることができます。(PCとなる血族は、意志力は高めにしておくべきだとも言われています。)
 では肝心のロールプレイを促す仕組みはどうでしょう。キャラクターのコンセプト決定時に決められる【内面】に従った行動を取ったとき、ボーナスとしてSTは意志力を回復させてよいことになっています。その程度です。
 そう、最近のTRPGのように、カッコいいロールプレイをするとボーナスがもらえるようなルールはV:tMには特にありません。ルールブックやサプリメントの美しいレイアウトやフォント、豊富なイラスト、もう一つの世界を作り出した深い設定、ムード、それら様々な要素の集合から吹いて来る世界の風と雰囲気が、自然とロールプレイを促すようになっているのです。
 そういう意味では、“ロールプレイする仕組みをシステムに組み込んだゲーム”――例えるならば『天羅万象・零』ではなく、“ロールプレイする土壌を作るゲーム”――例えるなら『深淵』のようなゲームに近いとも言えるでしょう。
 もしかしたら本当に素晴らしいセッションを自然に作るには、後者の方がいいのかな‥‥とも、思えます。






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---Bar from V:tM2nd---

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