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入道雲とかき氷、そして金星珈琲店!

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「星街のコーヒー店で一度流星コーヒーを飲んだりすると 
星降る夜なんかとっても飲みたくなるのよ」ヒデヨシ
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ますむらひろしさんが描く、「アタゴオル」という架空の森の国が舞台となったシリーズは、
ヒデヨシという名の、大酒のみで大ぼら吹きの大猫が主人公の、不思議なコミック。

困ったちゃんのヒデヨシをめぐる、心優しき人たちを描いたそのストーリーは
東北の豊かな自然の静けさと、science fantasyの夢見ごこち、
そして宮澤賢治のヒューマンなテイストを持っています。

不思議な不思議な植物が多く出てきて、
表現に厳密さを要求するなら、Bioscience fantasyのほうが的確なのかナ。

もう何冊もシリーズが上梓されていて、そのうちの何冊かは
茉莉花の本棚にも並んでいます。
『アタゴオル物語』とか『アタゴオル玉手箱』とか。

どのお話も、広い広い空の果てで、キラキラと輝くしずくのしたたりが、
一滴一滴時を刻むような、
そんな不思議な時空の流れを感じさせ、
むくむくとわき上がる白い白い入道雲とかき氷の、
子どもころの夏休みの感覚を思い出します。

一番好きなのは、『アタゴオル玉手箱』の第4巻の「銀色の花粉」。
星街にある金星珈琲店に、ヒデヨシと月見姫が、流星珈琲と銀河珈琲を飲みに行くお話です。
途中、銀しぶき海からやってきた切手屋も加わり、その3人で
黄色の看板に青い文字で「金星珈琲店」と書かれた、それだけが目印の
ひっそりと営まれるその珈琲店を捜します。
やっと見つけて銀河珈琲を頼んだ3人は、店主から、
心のインクがまぢらないように、離れて飲むように言われ、
その通りにして飲み終えた時、
3人はそれぞれ、渦を巻く銀河のイメージに包まれ、
それが消えたとき、頭の上に世界で一枚だけの切手が現れます。
世界でたった一枚の自分だけの切手。銀しぶき海の切手屋はこの切手のために
金星珈琲店を長年捜していたのでした。
さっそくアタゴオルの森の友達に、ヒデヨシは手紙を出します。
惜しげもなく、世界で一枚きりの切手を使うヒデヨシに切手屋はビックリします。
それもそのはず、その切手には、とびきりステキな仕掛けがあって……。

『アタゴオル玉手箱』偕成社 ますむらひろし
『アタゴオル物語』サンコミックス ますむらひろし
『イーハトーブ乱入記』筑摩新書 ますむらひろし

(MAI.11.2000)
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