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50球のチューリップ 



去年の秋、今の家に引っ越してきたとき
まず植えたのが「50球のチューリップ」の球根でした。
全部違う花たちが、最初の春を祝ってくれることが楽しみだったこの冬に、
私が今まで知らなかった大雪が降り、
まだ芽もでていないのっぺらぼうのコンテナにも、
こんもりと雪が積もったことを思い出します。
春、
暖かくなるにつれ、ぐんぐんと伸びだしたみどりの茎の先に
ようやく蕾が見え出したのは、4月も半ばになってからで、
最初に咲いてくれたのは、濃いローズピンク色したネグリダでした。
「チューリップの花の中には親指姫が住んでいる!」
とメルヘンな梶井基次郎のようなことを考えている私は
それぞれの花に、違う性格をした親指姫がいるように思えるのでした。
花もまた、人のようであるものですから。

'98 MAY
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