創作ダンス
香りはミステリー(創作ダンス)
松野 里香と浜 奈津子は女子大創作ダンス部に属している。
ダンス部にはいくつかのチームがあり、部内で1,2を争う実力の持ち主である二人はそれぞれのチームリーダーとして活躍している。
松、ニックネーム“リカ”のダンスは妖精の踊りとでもいおうか清らかさ、静けさ、妖艶さが魅力的でチームのメンバーはみな彼女を慕っている。
浜は通称“ローザ”とよばれておりリカと対照的で小悪魔の踊りとでもいおうか情熱的で明るいダンスを得意としており、
やはりメンバーのだれもがローザに憧れをもっている。
他にも3つチームがあるが部内の発表会であれ、外部の大会であれ、いつもリカとローザのチームはダントツに印象的なパフォーマンスをみせ、
観客や審査員を魅了した。

互いにライバルである二つのチームメンバーは、それぞれのリーダーに傾倒するあまり、時として相手のリーダーやチームを批判することがある。
「あんたたち、ドタバタと情熱を勘違いしてない!」
「なによ!、あんたたちの踊りは上品ぶったカマトトダンスだわ!」
しかしリカとローザ当人は決して仲が悪くはなく逆にリカはローザをローザはリカを好いている。
お互いに自分に欠けているものをもっている相手を尊敬し目標にしているくらいである。 

リカはなぜローザのことを好きなのか考えてみたことがある。
ローザの容貌や性格、ダンスの技術や表現力など、自分に足りないものをもっていることは無関係ではないかもしれないが、どれをとってもそれが決定的な理由ではないように思われた。 
ひとつだけ「そんなことで好きなはずがない」と自分で打ち消したくなるような理由に思い当たった。 
ローザの“匂い”である。 
どうもそれは理性では認めにくいが無意識レベルで決定的な理由なのかもしれない。

リカはあるときローザに
「ねえ、あなたってバラの花のようないい香りがするわね」といったことがある。 するとローザは
「ほんとにそうなの? 私は自分では一度もそんな香りを感じたことはないけど・・・。 
「それよりリカ、あなたこそちょうどジャスミンの花のようないいにおいがするわ。」
「まあ、不思議ね、私も自分ではわからないんだけど・・・。」
二人は互いに、それが全てではないにしろ、相手の匂いに惹かれていたのだ。
なおかつ、それぞれ自分の発する匂いは自分では分からないでいたのだが、それはちょうど、
ニンニクを食べた人は自分がニンニク臭いことが分からないというのと同じなのかもしれない。
チームのメンバーたちも自分たちのリーダーがいい香りを発することには気づいていたが
それは使っている化粧品からくるのであろうくらいにしか思っていなかった。
しかしあるとき以降、それは使っている化粧品やなにかからのものでなく、まさに本人の体が発する匂いであることを疑えなくなった。

合宿の折である。 たっぷり汗を流して練習を終わり、全員で大浴場に入った。 
そして風呂を上がり、脱衣場でスッポンポンのままポーズをとったりしてふざけているときだれかが言った。
「やっぱりリーダーのいい匂いはリーダーの体のにおいだわ、 だってさっき使ったセッケンやシャンプーは無香料だったし、
私たちも同じものを使ったけど私なんかなにも匂わないのにリーダーのそばにいくといいにおいがするわよ!」
「えっそうなの、どれどれ」、「リーダーちょっと失礼」、「あらほんとだわ!」
とみんながリーダーのそばによりクンクンし、だがリーダー自身は自分のにおいが嗅ぎ取れず怪訝な顔をするばかりであった。

ある大きな創作ダンス発表会があり、めずらしくリカのチームとローザのチームが合同でひとつの作品を演じることとなった。

観客も審査員もこん然一体となったジャスミンとローズの香りに酔いしれたことはいうまでもない。


松野里香と浜奈津子の体はそれぞれジャスミンとローズの香を発していて、ともに自分の香りは感じないというはなしでしたが、まずは嗅盲について、続いて香水に不可欠なジャスミンとローズについて話します。

松野里香と浜奈津子の体はそれぞれジャスミンとローズの香を発していて、ともに自分の香りは感じないというはなしでしたが、まずは嗅盲について、続いて香水に不可欠なジャスミンとローズについて話します。

@特定の匂いを感じない嗅盲について

正常な嗅覚でも、順応といいますが、ある匂いに長時間曝されることによって起こる鼻がバカになって感じなくなる現象はどなたも経験することですが、嗅盲とは特異的無嗅覚症のことです。 
視覚に色盲があるように、特定のニオイが感じられない嗅覚異常で、さまざまなニオイに対して存在することが報告されています。 
例えばアーモンドのにおいといわれる青酸ガスのにおい、ムレた靴下の匂いのイソ吉草酸、腐ったたまねぎみたいなメチルメルカプタン、樟脳のにおいのカンファ、腐った魚のような匂いのメチルアミンなどを感じない人がいます。
そしてなんとムスク系の香料では20〜30%が嗅盲であるという報告もなされています。

A花香の女王、ジャスミンとローズについて
ジャスミンの畑
写真は香楽塾卒業生の女性がグラースで10月に撮ったシャネルのジャスミン畑のようすです。
ジャスミンは右に書いたようにモクセイ科の植物で和名は中国美女の名前の(ソケイ)”素馨” となっています。
インド北部が原産とされていて、冬の花木でよく見かける(オウバイ)”黄梅”、ジャスミンティーにも用いられる(マツリカ)”茉莉花”もジャスミンの一種です。

ローズの畑左下の写真は私がグラースで撮ったローズの摘み取り風景です。 ばらは数え切れないほどの園芸品種がありますが、香料用のバラはセンチフォリア種とダマセナ種が2大品種というところです。 日本に自生する品種としては茨城県以北から北海道に分布するハマナスがポピュラーです。
ジャスミンもローズもこれらを配合しない香水はないといわれるほど大切な花香香料となっています。