4-3 香りの流行
以上流行現象の本質が一般にはみえない社会的モノサシと自分の中心的モノサシとの乖離と一致にあることをみてきた。 次に香水の分野における流行をながめてみたい。 香水の分野でもいろいろな香りが市場に出て、あるものはヒットしあるものは話題にならずに消えているので、たしかに流行した香りというものがある。 しかし香水の場合は次の理由により大多数の人が認め得るほどの現象としての流行がない。 @先ず香水はその必要性と経済面の制約から使う人の数が少ない。 Aそして他人の使っているものを観察する機械が少ない。
Bそのうえ一般の人は香水の香りのこまかい識別能力が小さいので変化の認識がむつかしく。
Cさらに香水は、一つの香りを自分の香りとして愛用するものという考え方があり、サイクルが長い。 などの特殊な事情がある。従ってよく売れた香水と言えども香りそのものなのか、ブランド名や容器デザインや商品コンセプトであるのか不明確である。 そこで商品レベルではなく、調香上の流行として、専門的立場でながめてみよう。
近代香水の歩みは1889年ゲランのジッキー頃から始まったとしてまだ80年くらいしかたっていない。その間に世に出た世界の名香をながめてみて調香上の大きな流行は二つではないかと私は思う。 1つは1921年シャネルNo.5を先頭とするアルデヒドキャラクターを導入したアルデヒドタイプの流行であり、もう一つは1945年にその芽として出たバンベールに始まり、1960年代に開花したグリーンをキャラクターとする流行である。 これら2つのタイプは完全に一時代を風靡しそして現在でも香水の分類上にジャンルを持つほどに定着している。 この事実と流行学をドッキングするとアルデヒド時代もグリーン時代もいわゆるモノバナレ時代に流行している点をみのがせない。アルデヒドにしろグリーンにしろ一種革命的な調香でありこれが世に認められるのはモノバナレ時代をおいてないのではないか。 バンベールは1945年ではなく1960年代に出ればNo.5タイプと同様バンベールタイプとして史上に残ったのではないか。 グリーンの流行についてはその理由として自然回帰思想の反映であるとする多くの論弁をみるが、私はこの考え方はみかけの相関を原因とみなす式の誤りをおかしているように思う。 グリーンの流行はあくまでも新しさ、創造性のある香水が、それを容認できる時代に出たということだと思う。 もう一つ調香上の流行となったものにジャスミン系のニューケミカルの使用があり現在この香料も完全に定着した感がある、これも1965年頃開発され何か新しい調子が求められた良い時代に出たものと言えるのではないか。 そしてこの素材はグリーン時代の一役をもにないまた調香上の利便性も獲得し今日ピークを示しているようにおもえる。
以上、流行現象の本質を調べ、香りの良し悪しをいう時、流行学的アプローチが必要である点を指摘したが、最後に香水を一つの芸術作品としてとらえこれは言うなれば美学的アプローチである。