更新日 2001年08月29日


エンジンオイル粘度分類とオイル特性




オイル缶に表記されているAPIサービスマーク
円の内側が、SAE(米国自動車技術者協会)によるオイル粘度分類


 エンジンオイルを選ぶ上で一般的にもっとも重要とされるのがSAE表示と呼ばれる粘度(オイルの硬さ)分類です。

 一般自動車用に市販されているほとんどのオイルが「マルチグレード」といわれるオイルで、例えば「10W−30」などの表示がこれを指します。
 自動車の取り扱い説明書にも、このオイル粘度を指定しており、「10W−30もしくは10W−40のマルチグレードオイルを御使用ください。」などと書かれています。

 さて、このマルチグレードのオイル分類は、一般的に「最初の○○Wの○○の数字が小さいほど、エンジン始動性やエンジンが温まっていない状態でのレスポンス(反応)がよく、後ろの数字が大きいほどエンジンが熱くなってもオイルががんばってくれる。」と言われていおり、例えば「10W−30」より「5W−30」のほうが、寒い時期に向いていて、また「10W−30」より「10W−40」のほうが、性能の高いオイルと判断されるようです。

 これら一般的な話は決して間違いではありませんが、ここでは、SAE分類について説明すると同時に、オイル特性について少し専門的な説明をします。

※注意 本解説はガソリンエンジンのオイルです。(ディーゼル用オイルは除きます)





1.SAEエンジンオイル粘度分類について



SAEエンジンオイル粘度分類

SAE粘度記号
(●●W−○○)
粘度A 〔mPa・s(cP)〕
・低温粘度(規定℃)
粘度B 〔mPa・s(cP)〕
・ポンプ吐出限界粘度(℃)
動粘度(100℃)
〔mm2/s(cSt)〕
 0W 3250以下(-30℃) 6000以下(-40℃) 3.8以上
 5W 3500以下(-25℃) 6000以下(-35℃) 3.8以上
10W 3500以下(-20℃) 6000以下(-30℃) 4.1以上
15W 3500以下(-15℃) 6000以下(-25℃) 5.6以上
20W 4500以下(-10℃) 6000以下(-20℃) 5.6以上
25W 6000以下(- 5℃) 6000以下(-15℃) 9.3以上


SAE粘度記号
(○○W−●●)
動粘度(100℃)
〔mm2/s(cSt)〕
HTHSV (150℃ 10sec-1)
〔mm2/s(cSt)〕
20 5.6〜9.3 2.6以上
30 9.3〜12.5 2.9以上
40(0W/5W/10W) 12.5〜16.3 2.9以上
40(15W/20W/25W) 12.5〜16.3 3.7以上
50 16.3〜21.9 3.7以上
60 21.9〜26.1 3.7以上


用語解説
 
・粘度(μ)  簡単に言うと「液体(流体)のドロドロ具合」を数値で表わしたもので、数値が大きいほど「粘り」がある。
 一般的な液体は、温度によって粘度が変わるため、粘度を表わす場合は、その温度も表記される。
 単位は〔mPa・s〕もしくは〔cP〕を用いる。(mPa・sは、SI単位系で「ミリ・パスカル・セコンド(秒)」。以前はcPは「センチポアズ」だったが、同数値。)
 ちなみに、水の粘度は20℃、1気圧のとき、1.002mPa・s。
 
・動粘度(ν)  粘度(μ)を密度(ρ)で除した値で、単位は〔mm2/s〕もしくは〔cSt〕。
(〔mm2/s〕はSI単位系で平方ミリメートル・パー・セコンド。〔cSt〕はセンチストークス)
 難しい話はともかく、粘度同様、数値が大きいほど「粘り」がある。 
 
・HTHSV  高温高せん断粘度(条件指定)のことで、せん断(剪断)とは簡単に言うと「断ち切られること」で、せん断粘度が高いほど油膜が強く、油膜切れしにくい。
 単位は動粘度と同じであるが、特定の条件による数値であるため、動粘度と数値比較は出来ない。


数値の見方
 
・低温粘度  粘度番号によって測定温度が異なるため、単純に比較が出来ないが、もともと規格なんてものはそんなもの。
 この数値に関する判断としては、15W以下と20W以上で大きな差を設けている点である。
 
・ポンプ吐出
 限界粘度
 オイルの低温時性能として「低温粘度」よりわかりやすいのはこちらのほう。
 この規定(6000cPのポンプ吐出)は一般的なエンジンブロックを想定したもので、自動車メーカーはオイルを指定するにあたって、外気温度との関連をこの数値+10℃で指示しているようである。(外気温が−20℃の場合は、−30℃にあたる「10W」を指定)
 
・動粘度  動粘度はW数値、高温数値のどちらも100℃による数値ですので、両方を踏まえて考えるとよい。(といっても、W数値は参考になりませんが)
 一般的に、エンジンが温まるとエンジンオイルは80〜100℃ほどで潤滑するとされている。(当然、エンジンを酷使することによって温度はどんどん上昇します。)
 この数値が大きいほど「硬いオイル」ということになる。
 
・HTHSV  用語解説で述べたとおりですが、注目したいのは粘度番号40以上は「3.7以上」であるということである。
 





2.マルチグレードオイルの製造方法によるオイルの特性



 マルチグレードのエンジンオイルを製造する場合、ベースとなるオイルに添加剤をブレンドすることによって高温粘度を高めるのが一般的である。
 これは、例えば10Wのベースオイルに添加剤を投入することにより、10W−30や、10W−50といったオイルを作ることを意味し、0W−50のオイルを作る場合は、ベースオイルには0Wを使うということである。
 このため、20W−50と5W−50を比べた場合、ベースオイルの動粘度が異なるものを使用しているため、同じ高温粘度50であっても、添加剤による性能で引き出されている性能である分、高温性能は20W−50のほうが優れていることになる。(ベースオイル20Wから10W−30を作るような添加剤配合は一般的にはおこなわれない。添加剤は温度上昇による粘度低下を抑える目的で配合されているため、ベースオイルが硬ければ、少ない添加剤で高温特性を出すことが出来る。)

 また、この添加剤はベースオイルの高温特性を向上させる目的だけでなく、耐久性(酸化防止性など)に代表されるオイルの総合特性を持たせるために多くの成分が配合されるが、逆に、ベースオイルの性能が高ければこれら添加剤に頼る割合が減るため、ベースオイルの性能も重要となってくる。
 このベースオイルは、大きく分けて「100%化学合成オイル(100%シンセティック)」、「鉱物オイル」、「半化学合成オイル」の3種類に分類できるが、このうちエンジンオイルとしてもっとも基本性能のよいものは「100%化学合成オイル」である。

 100%化学合成オイルの場合、ベースオイルの製造の段階で、自由度が大きいため、より目的に沿ったオイルにすることが可能であることから、一般的に高性能オイルを作りやすいとされる。
 




3.SAE以外の分類



 もともとSAE分類はオイルの低温性能と高温時の動粘度について分類された規格であり、オイル自体の総合性能などは、APIサービス分類や、ILSAC(イルサック)による分類、ASEA(ヨーロッパの自動車メーカーが定めたCCMCの改訂版)などでも区分されている。


その他の分類
APIサービス分類  エンジンオイルの「潤滑作用」「洗浄分散作用」「冷却作用」「防錆作用」「密封作用」の各種性能を総合的に判断した分類。
 下よりSA、SB,SC,SD,SE,SF,SG,SH,SJ(SIは無い)と定められているが、実際にはSEグレード以上のものが市販されている。
 最上級のSJグレードは1996年に定められた規格である。
 これら規格はオイルの総合性能を比較するうえでは参考になるとはいえ、SG以上であればなんら問題はないと思われる。
 
ILSAC
(イルサック)
 1993年に定められた「省燃費性」についての規格。
 GF−1、GF−2といった表記がされ、数字が大きくなるほど「省燃費性」が良いとされる。
 規定内容は粘性抵抗などのようである。(詳細は不明。すいません)
 
ASEA(CCMC)  ヨーロッパの自動車メーカーが定めた分類規格。G4とかG5と表記されるようである。(これも詳細は不明。すいません)
 





4.各種分類では分からないエンジンオイル特性



 これまで説明した分類では、オイル性能の一般的な目安は分かるものの、オイルの持つ本来の性能までは判断できないことも事実である。
 もちろん、普通のエンジンであればSGグレード以上でSAE分類がメーカー指定(通常は10W−30か10W−40といったところ)であればまず問題は起きないと思われるが、そうはいっても「より気持ち良いフィーリング」を求めたい場合や、あるいはスポーツ走行、エンジン部品の交換(強化パーツの組み込み)などの場合、エンジンオイルに対する要求もシビアになるため、目的に応じたエンジンオイルを選択したくなる。

 また、先に説明したSAE分類を見ても、「SG/10W−30」に分類されるオイルでも、メーカーや銘柄によってその性能(特性)には大きな幅があることも事実である。

 このような理由からか、最近、オイルメーカーによってはSAE分類やAPIサービス分類とは別に、エンジンオイルの特性表を公開している場合もあり、これらのデータからオイル特性を知ることが出来るようになってきた。

 ここでは、各種分類では分からないオイル特性について、各種特性を紹介するので参考にして欲しい。


動粘度(40℃)
(mm2/s cSt)
 SAE分類では指定されていない「40℃」での動粘度。
 40℃という温度は一見、エンジンにとってあまり関係のない温度のような感じもするが、実際、走行中のオイルパン温度を考えると、この40℃近辺での動粘度は無視できない数値である。当然の事ながら、この数値が高いほど「硬いオイル」となる。
 このため、エンジンによってはこの数値がエンジンレスポンス(反応)に影響を及ぼす場合があるため、特に小排気量エンジンでは注目したい数値である。
 
動粘度(100℃)
(mm2/s cSt)
 SAE分類でも指定されている「100℃」での動粘度。
 通常、エンジンが温まった状態でのオイル温度は80〜100℃といわれるため、この数値が大きいほど「硬いオイル」であり、そのぶん、エンジンのレスポンス(反応)も悪いことになり、「エンジンが回らないオイル」ということになる。
 但し、ターボチャージャーなどを搭載したエンジンの場合、場合によってエンジンオイルは150℃近く(それ以上もある)までになる場合もあるため、この数値とHTHSVの数値に注目したい。
 
粘度指数(VI)  40〜100℃での動粘度の変化率を示す値で、粘度変化が大きいほど数値は小さくなる。
 
流動点(℃)  オイルが冷えて固まる(凝固点)から2.5℃高い値。
 実際には特に必要となる値ではないのだが、この数値が低いほど低温(特に始動時の外気温)に強いといえる。
 
低温粘度(℃/mPa・s)  SAE分類と合致している項目であるが、設定温度はSAE分類に準ずるため、比較する場合は同じ低温値(W)のオイル同士である必要がある。
 この数値が大きいほど粘りがあるのだが、この数値は小さいほど回転負荷がかからないことになる。
 この値はオイルの性能を比較する上で重要であり、5〜15Wの場合、3500cP以下を満たす粘度を温度で区分しているSAE分類に対し、メーカーによってはこの数値を公表しているため、10Wであっても、-25℃での粘度が既定値の3500cPをはるかに下回る「低温時性能」の高いオイルも存在する。
  
HTHSV(mPa・s)  150℃でのせん断粘度の値で、この数値が大きいほど、油膜切れが起きにくいオイルであり、特にターボエンジンにとってはこの値が重要になる。
 SAE分類では、10W-40の場合、2.9cP以上に規定されているが、大排気量ターボや改造を施したターボ車用に向いたオイルには5.0cP以のものもあるほど。
 また、ここで注目してほしいのは、いくらHTHSVが高くても、SAE分類では100℃での動粘度によって分類されてしまうため、安直に「40より50のほうが高性能」ではないという点で、HTHSVが高い数値を持つオイルであれば、あとは使用するエンジンにあった動粘度を選択するべきとなる。
 
全塩基価(mgKOH/g) オイルに含まれるアルカリ性物質の量で、これは酸性中和剤などによって数値が上がり、消耗によりもともとの数値より下がっていくが、あまり参考にはならない。
 
せん断安定性(%)  メーカーによって測定方法が異なるため、一概に比較はできない数値であるが、この数値が小さいほど高温時の油圧低下が起きにくい。
 





5.望まれるエンジンオイル特性



 当たり前のことであるが、エンジンは小排気量から大排気量、ターボチャージャー付きやそうでないものなど、多種多様であり、また、求められる性能もスポーツユースから、通常使用、省燃費など、これまた多種多様である。
 このような状況の中、全てにおいて最高の性能を引き出すオイルというものはなく、目的に応じた特性を持つオイルを選択することになる。

 また、これまで述べてきたように、SAE分類はオイルの粘度を区分したものであり、これは高性能オイルの場合では目安にしかならない。
 このため、特にスポーツ性能を目指すためには、SAE分類ではなく、4項に記したオイル特性の各項目に注目して、目的に応じた選択が必要となる。

 正直な話、メーカーの指定どおり、まめにオイル交換をしているのであれば、やはりメーカーの指定するオイルを入れてさえいえばまずトラブルも発生しない。
 APIサービス分類もSGグレードであれば、そんなに問題もないであろうし、メーカーが特に指定しない限り10W-30で十分だと思われる。(4リットルで3000円くらいのもの)

 しかし、「より気持ちいいフィーリング」や「更なるパワー感」「回しつづけてもヘタらない持続性」を望むのであれば、例えノーマルエンジンであっても、高性能オイルの効果は絶大であるのも事実である。
 しかし、この「高性能オイル」という言葉が語弊を生むケースが多く、1万円以上もする高出力ターボエンジン用オイルを1300cc程度のNA(自然吸気:ターボなし)エンジンに入れた場合、2000円以下の安物オイルより遥かに性能が低下する場合も多々ある。

 また、燃費はオイルによる部分も多くあり、特に動粘度の高いオイルを入れた場合、レスポンスの低下だけでなく、燃費の悪化にもつながる。

 また、冬場の寒い時期では、低温時の動粘度によるレスポンス変化は大きく、これも「10Wより5Wのほうがよい」という単純なものではなく、低温粘度の実測値(SAE分類ではない)とポンプ吐出限界粘度、流動点からオイルを選択すべきである。

 最近では、各オイルメーカーもこれらオイル特性に関する数値をカタログに表記するようになっているし、また、FET社やトラスト社は以前より、これらオイル選択のためのデータを細かく公開している。

 クルマ好きにとってオイルの選択は非常に興味の尽きないところであり、巷では色々な情報(有益なものもあるが、大抵は根拠のないウワサだったりする)が飛び交っているが、自分のエンジンと走行内容に沿ったチョイスをしてみたいものである。






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