「頭上の狼、眼下の敵」
 


−お読み頂くみなさまへ− 

 本文は、第2次大戦において、わが国日本が敗色濃厚となり、特攻作戦に依存せざるを得なくなったとき、第1次回天特攻作戦として昭和19年11月20日パラオ・コッソール水道攻撃予定に参加した伊号第37潜水艦と、第2次作戦として昭和20年1月21日ウルシー環礁攻撃予定に参加した伊号第48潜水艦の最後についての戦闘報告書に関するものである。

 上記2艦の最後については、日本海軍潜水艦史を中心とする国内関係出版物に、米国海軍発表の原資料を参考として、極めて簡単に紹介されていることはご承知のとおりである。

 筆者は、奇特な縁で、米国人アイリーン・マックラマラ女史を知る機会を得た。彼女の父親は、米海軍3等電信兵ロバート・ルイス・マックラマラで、第2次大戦中、護衛駆逐艦コンクリン(DE439)に乗り組み、奇しくも、イ37とイ48の2艦を撃沈した。

 そして、コンクリンは大戦を生き残りマックナマラは復員したが、1997〜1998ころ病死した。父親の死を悼んだアイリーンは、父親の大戦中の物語を中心として、「コンクリン物語」を出版した。戦後生まれのアイリーンは、生き残った父親の戦友に数多くインタービューをし、指導を受けながらこの本を書き、1999年に私製本として出版した。もちろん、米海軍に保管されていた、USSコンクリンの戦中の戦闘詳報も解禁の手続きを経て入手し依拠して書き上げた立派な単艦の戦史的書物でもある。

 私は、「コンクリン物語」と、コンクリンがイ37を撃沈した1944年11月19日のコンクリンの機密戦闘詳報、および、コンクリンがイ48を撃沈した1945年1月23日の同戦闘詳報を彼女から入手し、イ37とイ48の最後を知ることができた。

 私は、海軍に入り、わずか1年間ではあるが、潜水艦乗りとなり、レイテ沖の哨戒戦、回天特別攻撃隊諸作戦に従事し、考えられないような激戦を経験し、生き残ることができた。即ち、生きのこされた身として、イ37とイ48の最後の様子を原史料をもとにしてご遺族、戦友関係者に報告することを己に課せられた義務と感じ、拙文をまとめて関係者に配布するものである。

 ご慰霊を目的とする作業であるが、単独で纏め上げる力はない。加えて老骨病身にして、最初の予定を大幅に遅延した。何人かの志ある方々のご協力を頂いて簡易製本ではあるがお届けすることができた。ご霊前に捧げて頂くことが目的で、他意は全くない。

 しかし、半世紀を過ぎた今日、問題は同時代史から現代史の分類に区別されるべきではあるとしても、ご遺族にとって、この種問題の扱い方は非常に難しく格別の注意を必要とする。部数は60部用意したが、私力では限度である。したがって、ご遺族向けに若干部を手許においてあるが、すでに、生存者向けに対しては残部がない。回し読みを御願いしたいと思う。お配りした生存者分に対しても、限りある部数ゆえ、あちら立てればこちら立たずで、不行き届きに対しては、ご海容を頂きたい。 

 平成14年3月吉日
元伊号第53潜水艦航海長 山田 穣