召使いからのご挨拶
王様のお世話をしておりますと毎日いろいろな事が起こります。 王様現る
ここでは、これまで印象に残った王様のお話を披露したいと思います。
(1998.10)
王様は年少者を引き連れてふらりとこの地へやってまいりました。
当時は痩せていて、ひもじさすらにじみ出ておりました。
おそらく本当にひもじかったのでしょう。
年少者とともに、雀の餌場めがけてよじ上ったり、
落ちたパン屑を細々と食べて暮らしておりました。
そんな哀れな王様達に、私たちはおもしろ半分にパンを投げたり、
蒲鉾の切れ端を投げたり、ハムを投げたりしていました。
王様と年少者は、我先にと投げた物に飛びついていましたが、
おなかの空いていない時は、王様がいつも後ろで
年少者を優しく見守っている様子でした。
まるで母親のように年少者を見守っていたので、
私たちは王様のことをご婦人と勘違いしておりました。
年少者はひっかいたり、かみついたりと土地の者を
かなり困らせておりましたが、王様はいつもゆったりと
芝の上に体を横たえ、その姿を眺めておりました。
入国審査
性別不明の王様達を見ているうちに、私どもは
この地になじめるかどうか入国審査を行おうと決めました。
テスト1:木の上にかまぼこをつけました。王様はなんなく召し上がりました。
テスト2:鉄の棒の上にも刺し身をつけました。王様は今では考えられないほどの
バランス感覚を発揮して鉄棒を上手に渡りました。
テスト3:意地悪な者が木の下に水をはったたらいを置き、木に刺し身をつけました。
年少者は血気盛んに木に登りましたが、注意力散漫だったため、
着地は水の中でした。
それを見た王様は、「急いてはことをし存じる」とばかりに注意深く
刺し身を口にくわえた後、しずしずと木から下りてきたのです。
なんという落ち着いた立派な態度でしょう。
バケツの中のとぐろ
数々の厳しい入国審査が続いていた頃、最後に残った王様
そんな愛おしさに免じて、仮ビザを与えて住まわせておりましたが、王様の隠された過去
この地に住み着いた王様でしたが、御殿はまだありませんでした。
なぜなら、王様には隠された過去があったようだからです。
ある日の夜、王様がお気に入りの車の下に入ろうとしたとき
道行く青年が王様に向かって「ぴーちゃん、ぴーちゃん」と
呼ぶのです。それもずいぶん親しげにです。
私はそばにいましたが、暗くてその青年は気がつかなかったようでした。
ところが、王様はその青年の呼び声をふりきって、
逃げるように車の下に隠れてしまいました。
そのとき、王様の本名は「ぴーちゃん」で、
帰る御殿があるのかもしれないと思ったのです。
いずれお国へ帰るかもしれないので、
御殿の建立はしばらく待とうということになったのです。
御殿0号
この地に来て既に半年ほどたっていましたが、
王様は、領地の隅っこにある椿の植え込みや
ガレージの車の下などで暮らしておりました。
それでも1日中この地に居るわけではなく、
祖国へもちょくちょく足を運んでいる様子でした。
このままここに居着くのか、祖国に帰るのかもわからぬまま、
寒い冬が近づいてきたので、籐籠にタオルをしいたベッドを用意しました。
王様はそのベッドですやすやお休みになりました。
1年半くらい王様は籐篭のベッドをご愛用なさいました。
それでも外です。よく堪え忍んだものです。
御殿1号
籐篭のベッドがボロボロになった頃、古くなった焼却炉を横に寝かせて
屋根付き御殿をこしらえました。中にはタオルを敷き、雨に濡れることのない
かなり豪華な御殿1号となりました。
その御殿1号で王様は2年くらい暮らしました。
王様大病す
御殿1号に暮らしていた頃、王様は大病をなさいました。
権力抗争を繰り返し、しょっちゅう怪我を負って帰ってきた頃でした。
ある日突然、王様は元気がなくなり、
御殿の中で寝てばかりいるようになりました。
いつもおいしそうに食べるご飯も余り食べず、
すぐに御殿に寝に入ってしまうのです。
1日たっても寝ている。2日目も寝ている。
周りのものもさすがに心配になって、御殿をのぞき込みました。
すると、たいそう御加減の悪い様子でした。
とうとうご飯も食べなくなり、御殿から出ようとしません。
助かりそうもないからあきらめようと心ないことを言うものもいました
その言葉にがっかりした私は、その夜、夢をみました。
王様が御殿1号の下にぽっかりあいた土の穴の中から上を見上げて、こういうのです。
僕はまだ死なない、だから助けて
王様の看病
私は心ないもののことなど忘れて、次の日に病院に駆け込み、王様ご快復
次の日も、次の日も苦い薬を飲ませ、鯛の刺身を食べさせ、御殿2号
大病から奇跡的に回復した王様は、ますます丈夫になられ、王様の外交
真の王様となってからは、外交にも力をお入れになり、王様のおなら
王様が大病になられたとき、
膝の上に乗せて歌を聞かせてあげたことは既にお話しました。
そのせいでしょうか。王様は、膝の上が大好きです。
寒い冬の朝、膝の上で10分も眠ることもありますし、
立ち上がって毛繕いを始めることすらあります。
ところが、あまりに心地よいせいでしょう。
ときどき気がゆるんで音のしない毒ガスを放出されます。
顔がひん曲がるほどすごい臭いですが、決していやな顔をせず、
王様にはにこにこと接するよう心がけておりますです。はい。
大奥の世界
英雄色を好むというのは猫の世界も同じようです。