1999年7月26日(月)、駒沢...夏季東京都中学サッカー選手権、第3ラウンド。
勝利の女神はいつも気まぐれである。
ゲームを支配しつつも、終了直前に同点ゴールを許し、延長に入った直後のVゴール負け。
誰もが、予想だにしなかった幕切れに、肩を落とし、大粒の涙を流しながらピッチを去る
府中市立第六中学校サッカー部のイレブン...
一昨日の優勝候補の一角、東京朝鮮中高等学校との壮絶な試合の疲れが残っていたのかも
知れない。
しかし、結果は現実として受け止めなければならない。15才の子供達には辛い事だろう。
「負けちゃいました、すみません...」
一人の子が僕の所に来て、頭を下げた。
「謝る事なんかないんだよ。たくさんの素晴らしい試合を見せてもらったよ。ありがとう。
顔を上げて前を向きなさい!」
そう答えた僕の声も、自分でも分かるほど震えていた。
2日前の7月24日(土)、昭和中グランドでの第2ラウンド。
東京朝鮮中高等学校vs府中六中
この試合は僕が今まで見た、国内外のどのゲームよりも印象深いものであった。今大会の
全てを見ていないので迂闊な事は言えないが、おそらく今大会のベスト・ゲームと言って
いいかも知れない。
正面から、力と力がぶつかり合った一進一退の展開。その中で、時折見せるT君とS君の
切味の鋭い個人技。
オフサイドぎりぎりから飛び出した相手を、果敢なセーブで止めるGKのY君。
統率されたディフェンスで、東京朝鮮中の攻撃を跳ね返す府中六中に対して、高目からの
プレッシャーで、府中六中の突破を許さない東京朝鮮中!
張り詰めた雰囲気が全体を覆い、次の試合を待つチームの子供達さえ息を飲んで、展開を
見つめている。
35度の照り付ける太陽の下、お互い集中を切らす事なく、0−0のまま、60分が過ぎ
延長へ...10分間の延長でも勝負は付かず、PK戦へ...
2本を止めた、Y君に応える様に4人目まで全て決め、4−1で府中六中がPK戦を制す。
しかし、PK戦は次ラウンドへの進出を決める、抽選に過ぎない。
両チームが勝者だった。
府中六中FC...約半年間見続けて来たが、いいチームである。
荒削りなのがいい! しかし、もちろん選手一人一人のスキルは高い!
これには理由がある。この地域に多くの小学生のクラブ・チームがあった事、本来ならば
地元のユース・チームに入部したであろう子が、セレクション方法に疑問を持ち、学校の
クラブを選択した事、等々...である。
フォーメーションはオーソドックスな4−4−2(4−4−1−1)。
攻撃は、強引とも思える単独のドリブル突破等の個人技、最終ラインからサプライされる
ピンポイントのロング・パス、中盤でのショート・パスから相手ディフェンスを縦に切り
裂く等、バリエーションに富んでいる。
そして安定したディフェンス・ライン。スイーパー、センターバック、両サイドバックが
状況に応じて入れ替わる様は、見ていて快感さえ覚える。更に、セットプレーでの失点は、
ほとんど皆無...カンポスを思わせる、思い切りのいい飛び出しと、鋭い読みで抜群の
PK阻止率のキーパー。
「いいチームですね。こういうチームをコーチしてみたいです!」
外交辞令的な面も含まれていると思うが、こう声をかけられる事が何度もあった。
彼等の夏は終った。
大半の子供達は高校に進学しバラバラになっても、サッカーを続けて行くでしょう!
しかし僕は...もっともっと彼等が一緒にフィールドを走る姿を見たい!
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