インターネット討論会ディーゼルYES or NOでの発言
ディーゼル車NO作戦をめぐって東京都が設定したインターネット討論会に遅ればせながら5件の発言をいたしました.途中で文体が変わってしまう恥ずかしいものですが,そのままここに掲載します.
ディーゼル排ガスは毒ガスという認識を 1999年10月23日
初めて投稿いたします.
広辞苑によれば毒とは,生命または健康を害するものです.ディーゼル排ガスは喘息や肺がんの原因となるなど,人々に健康被害を引き起こしますから毒です.毒性を有する気体を毒ガスといいます.ですからディーゼル排ガスは毒ガスといわざるを得ません.毒ガスの使用は,人々が殺しあう戦争という場面でも禁止されています.平和な世の中で野放しになっているのは異常なことです.都内では7万5千人以上が公害病に認定されています.18才以上で認定対象外の人を含めれば,患者の数はこの何倍にもなるでしょう.その大部分がディーゼル車により引き起こされている考えられます.オウム事件をはるかに上回る規模の毒ガス被害です.
ディーゼル車にさまざまなメリットがあることは承知しています.いますぐ止めろといっても無理な面があるのも当然です.しかしどのような立派な目的があっても,一方で多くの人々に健康被害という犠牲を強いている以上,ディーゼル車に頼らない社会を作り出していこうとするのは当然のことです.
ディーゼル車の排ガスを今すぐガソリン車なみに浄化することはできません.そうであったらとりあえずできることからやらなければなりません.それがディーゼル車NO作戦なのだろうと思います.この作戦はまだまだ不十分です.とりあえずの取り組みとして無理ではないものを掲げているに過ぎません.だからといって黙って現状を眺めているよりはやったほうがいいに決まっています.積極的に推進していただきたいと思います.
提言「ディーゼル車による健康被害の調査を」 1999年10月23日
国立環境研究所の研究で,ディーゼル排ガスによる喘息発症のメカニズムがかなり明確になってきました.その中で,ディーゼル車による喘息では,通常のアレルギーと異なり血中IgE量の上昇がなく,代わりにIgG1が上昇することが示されています.ということは,喘息発症に対するディーゼル車の寄与の推定にはIgG1量の測定が有効であることを意味します.
実はこうした調査の可能性について,担当研究者のS氏(一応匿名にします)にお聞きしたことがあります.氏は一介の薬学出身の研究者のいうことなど中々取り上げてもらえないのです,と苦笑していらっしゃいました.しかし,ディーゼル車NO作戦を展開している東京都なら十分そうした調査を行う資格も能力もあるのではないでしょうか.というより,そうした調査でディーゼル車による健康被害が明確になれば,この作戦に異議をとなえる人達に対抗する上での有力な材料になるのではないでしょうか.
東京都では18才未満の公害病患者に医療費補助を行っています.そうした患者さんたちや,沿道に住んでいてリスクの高い人達と,空気のきれいなところに住んでいる人達とでの血中IgG1量の比較という疫学調査をぜひ実施していただきたいと思います.
健康被害者の声を 1999年10月23日
先に行われた公開討論会「ディーゼル車をどうする!」に参加しました.会場から発言しようと最前列の中央に座っていたのですが,一瞬の躊躇があだとなり発言の機会が得られず,不満がのこりました.ここのところの一連の投稿はその時のうっ憤を晴らすという意味もあります.
さて,この討論会,事前にパネリストの名簿を見てすぐにこれはおかしいと気付きました.ディーゼル車問題の一方の当事者である健康被害者の代表が入っていないのです.大気汚染問題は二酸化窒素や浮遊粒子物質の濃度の問題ではありません.人々の健康被害の問題ですそれを被害者そっちのけで,数値だけで議論していては正しい結論に達するとは思えません.
認定患者だけでも75000人以上もいるのです.東京都におかれましては,ぜひ被害者の声を積極的にくみ取り,被害者を救済し,新たな被害者を生まないような積極的な施策をお願いいたします.
道路建設は大気汚染対策にならない 1999年10月23日
石原知事は,東京ルールやディーゼル車NO作戦など,積極的な大気汚染対策を進めている点,高く評価できる.しかし大気汚染対策の一環として道路建設をあげてのは大きな矛盾である.都内の渋滞は東京都に用事のない通過交通を排除すれば解消できる,だから現在ある環状線のさらに外側に環状道路を作ればいい,というのが理屈である.一見最もらしいこの理屈は実は間違っている.
首都高速道路都心環状線のケースを見てみよう.湾岸道路ができて神奈川と千葉とが直結されたことで,都心環状線の渋滞はどうなったか.実は全く変わらなかったのだ.中央環状線葛飾江戸川線ができたときはどうだったか.この場合も渋滞緩和効果は全く認められなかった(詳細はhttp://www2s.biglobe.ne.jp/~kanroku/JS-7.htmlを参照していただきたい).中央環状線,外郭環状道路,圏央道がすべて完成したら問題は解決するだろうか?それは幻想である.
たしかにほんの数パーセントの交通量削減で渋滞は緩和できる.しかし,これらの例は道路ができても新たな交通が発生して,適正な交通容量を数パーセント超過したあたりで飽和してしまうことを示している.潜在的な交通需要がそれだけあり,新たな道路建設によりそれが喚起されるのである.
私が取り組んでいる,池袋,新宿,渋谷を結ぶ道路として建設中の中央環状新宿線の場合を見てみよう.1時間ごとに更新される東京都の大気汚染状況地図で見れば明らかなように,都内でも最もひどい汚染状況のところに,都心交通の迂回路を作ろうとしているのである.これでなぜ大気汚染対策となるといえるのだろうか.
私の試算によれば,この道路がもたらす都心の渋滞緩和を最大限に過大に見積もった時の窒素酸化物の削減量は年間183トン,この道路建設による新たな交通による排出増加量は最少に見積もっても360トンとなり,明らかに汚染状況を悪化させるのである(詳細はhttp://www2s.biglobe.ne.jp/~kanroku/JS-6-2.htmlを参照していただきたい).
不況下の現状では必ずしも交通需要が大きくなく,渋滞の緩和が期待できるという意見があるかもしれない.不況だからこそ公共投資が必要であるという考えもあるだろう.将来を見据えて今こそ首都圏の道路網整備を行うのだ,という考え方も説得力がある.そうした意見は重要であるが,道路建設を大気汚染対策の一環として位置付けるのは止めていただきたい.
沿道対策も必要である 1999年10月23日
都内の大気汚染状況を改善するためには,ディーゼル車対策は絶対に必要である.しかし,これまでのところ,ガソリン車への転換,排ガス処理装置の開発など,ディーゼル車単体の過大としてのみ語られている.
先に述べたように被害者の立場を考慮するならば,単体としての問題だけではなくディーゼル車がたくさん通る道路そのものの問題,沿道の問題も避けて通れないのではないか.道路建設については先に述べたが,ここでは沿道対策について意見を述べることとする.
東京都が発表している大気汚染状況地図を見れば明らかなように,大気汚染は面的な広がりを持ち,東京都心部(23区,およびその周辺を含む)は極めて厳しい状況にある.しかしその中で忘れてはならないのは,幹線道路沿道では,地図で示された数値を超えるひどい汚染状況にあるということだ.そこに住まざるを得ない人,そこを通らざるを得ない人は深刻な影響を受けているのだ.ディーゼル車NO作戦などといってもその効果が現れるまでにはまだ何年もかかるだろう.認定患者7万5千人という数字は,そんなものを待っている余裕がないことを示している.汚染のひどい幹線道路沿道だけでもなんとか早急に手を打たなければならない状況にある.
具体的な対策としては環境施設帯(この語は昭和49年建設省都市局長,道路局長通達に基づくものを指すのだろうが,基づかないものでもいい)の設置,大気浄化装置の設置である.
環境施設帯とは沿道環境保全のための植樹帯等の施設である.植物には汚染物質を浄化する能力があることが知られているが,現在の沿道にみられるようなわずかばかりの植樹では効果は期待できない.車道を一部削ってでもそうした施設を作るべきであろう.
大気浄化装置はなんといっても土壌を利用した装置であろう.汚れた空気を厚さ40cm程度の土壌層を通過させるだけで大部分の汚染物質をほぼ完全に除去するこの装置は,ほぼ実用化されており,沿道の植樹と共に整備すべきである.
こうした施策は既存の道路でも可能であるが,新設の道路でこそ容易に実現できるはずである.私が関わっている首都高中央環状新宿線建設と都道環状六号線拡幅のケースでは,地下式の高速道路なのだから,排ガスを無処理のまま45mの換気搭からまき散らすなどという計画を改め,土壌を通過させて完全に浄化して沿道に排出すれば,かえってすばらしい沿道対策となるのである.これと拡幅分に環境施設帯を設置して植樹することを組み合わせれば完璧である.ディーゼル車による被害をなくすためにはユーザーやメーカーに対策を求めることも必要だが,東京都として独自にできることは積極的に取り組むべきではないか.
過去に学べ 1999年11月5日
以前に発言した際の返信にお答えする余裕もなく,次々と掲載されるご意見に圧倒されている内に,ご返事を差し上げる機会を逸してしまいました.何人かの方には失礼いたしました.
ここのところ(というよりずっとかもしれません)活発な意見交換がなされているわりにはすれ違いの議論も多いように感じます.そもそも議論の前提としてディーゼル排ガスは悪であるという認識が共有されていないこと,そして公害問題等に対してこれまで日本でどのような対応がなされどのような結果を生じてきたのか過去の経験を充分に認識していないことが,その背景にあるように思えます.
前者については,外国での研究例がこの討論会でも紹介されていましたし,日本では国立環境研究所で相当綿密な検討がなされています.後者は1994年に「粒子状物質を主体とした大気汚染物質の生体影響評価に関する実験的研究」という報告書がまとめられています.確かにどなたかが指摘したようにあの研究は動物実験であり,直ちに人間に当てはめることはできませんが,現に似たような症状の患者が汚染地域には多くいて,動物実験で再現できるということはディーゼル排ガスを規制する充分な根拠となりえると思います.その上は,531で指摘したように疫学調査で実証する必要がありますが,現時点では東京都がそれを実施するのが一番現実的だと思います.
さて,そのようにかなりの程度疑わしい汚染物質が人々の生活の中にたれ流されている場合,これまでどのように対応してきたのか,過去の例を検証してみましょう.
代表的なのは水俣病の場合,患者の公式発見は1956年のこと,すぐにチッソの工場排水に疑いがもたれました.1959年には政府の調査団が有機水銀が原因との報告を出しましたが,即日解散.以後1968年にアルデヒド製造設備の運転を停止するまで,有害排水はたれ流されてきました.政府が公害病と認めたのはその直後です.つまり,現に多数の患者がいて,かなり疑わしい原因が表面化しているという状況の中で,因果関係が完全に解明されたわけではないという理由から10年以上もの間,きちんとした対策もなされず新たな患者を生み続けてきたのです.
他の公害事件も似たりよったりです.
同様の例は薬害にも見られます.妊娠中の女性が飲んだ睡眠薬が原因で子供に障害が発生したサリドマイド事件.最初の副作用情報を受け取って販売停止措置が取られるまでの期間がスウェーデンでは10時間,日本では10ヵ月でした.マラリアの特効薬を腎炎患者などに投与して失明者が続発したクロロキン薬害事件では,副作用を知った厚生省の役人が自分自身服用を中止しただけでなんらの措置も取らなかったため,その後10年間も患者が発生し続けてしまいました.これらはいずれも因果関係が明確ではないという理由で対策が遅れたのです.
新しいところでは薬害エイズがあります.危険性を知りながらそれを隠蔽して多くのエイズ患者を生み出してしまいました.
ディーゼル車も全く同じです.危険性が指摘されていながら充分な対策を取らないまま,むしろ税制面では推進してきたという状況は,これまでの幾多の悲惨な歴史からなにも学んでいないことを示しています.なるほど因果関係は完全に解明されたわけではないかも知れませんが,充分な疑いを抱くに足るだけの証拠は上がっているのです.そして現に多くの人々の健康が蝕まれ苦しんでいるのです.そんな状況をなんとかしたいという東京都の政策はむしろ遅すぎるくらいのものです.
東京都が提唱する「ディーゼル車NO作戦」は,あしたから直ちにディーゼル車の運行を停止せよ,などという無理なものではありません.すべて実現可能なものです.その政策を否定しようとする態度は,水俣病など多くの公害事件,薬害事件をまた再びディーゼル排ガスで繰り返そうとしているのと変わりありません.「ディーゼル車NO作戦」は新規道路建設の抑制(534),沿道環境保全(536)など,すぐにも実施できることを含まない不十分なものではありますが,これをきっかけに大気汚染問題を皆が真剣に考えるようになり,再び安心して東京の空気が吸えるようになることを願って止みません.
長文失礼いたしました.