野鳥をめぐって


「東京の鳥」を書いてから4年近くが経過したが,藤前干潟や三番瀬問題に少しだけ首を突っ込んでいる内に,また鳥について書いて見たくなった.毎月の締め切りがないので,どういうことになるのか分からないが,折に触れて書き足していこうと思う.文章はともかく図はできる範囲でということにならざるをえないだろう.(1999年4月17日)

と思って始めたが,なかなか書けない.東京へのこだわりをやめて自由に書こう.「続・東京の鳥」を改題.


野鳥をめぐってE ホオジロガモ 2002.2. 

気付いたら1年ぶりだ.年賀状を機会に気合いをこめて,というほどの出来ではない.

昨年12月,福井県を訪れた.土曜日,1日かけての会合が終わり,翌日は朝から新しく購入したスポッティングスコープを担いで歩き始める.海岸から川の上流へ.しかし,あまりの寒さで2時間ほどでめげてしまう.そもそも会議の格好というのもこの寒さには致命的だ.信念に反するが歩いて回ることは断念し,レンタカーで予定通り三方五湖に向かう.何年か続けてアカハシハジロが飛来したのはもう30年近く前のことだろうか.その時以来,一度は訪ねてみたいと思っていたあこがれの地だ.

途中の海岸にはあちらこちらにカモの群れを見かける.同じ種類ごとに集まっているのが面白い.

三方湖は意外に開けたところだった.水も思っていたほどきれいではなく,カモも少ない.しかし,カンムリカイツブリ,ミミカイツブリ,などのカイツブリ類,ウミアイサ,ミコアイサなどの海ガモ類をすぐ近くで見ることができた.ホオジロガモもその一つだ.決して珍しい鳥ではないが,太平洋側では見るチャンスは少ないので,それなりに嬉しい.

それにしても周囲の環境がなんとなく気になる.道路もいいし,住民のための立派な施設も散見される.もちろん原発によるものだ.ニュースでは美浜町が新たな原発の誘致を決定したと報じている.これ以上,なにを発展させようというのだろうか.

カモたちは,原発だらけなどということを全く知らずに毎年この地に集まって来るのだ.


野鳥をめぐってD ミサゴ 2001.2.

田舎暮らしになって,学生時代のフィールドを訪れるチャンスが増えた.昨年6月に赴任した直後,近くの湖で早速ミサゴの歓迎を受けた.下面が白い大型のタカで,空中でホバーリングしながら探した水面の魚を,急降下して足でつかみとる姿は中々迫力がある.周囲が公園として整備されてしまったが,今なお自然が残るこの湖に大いに期待をもって次はカモの訪れをまった.

10月,ちらほらとカモが集まりだす.しかし,秋が深まり冬になってもいっこうに数が増えない.かつて水面を覆いつくさんばかりにいたカモがほんのわずかしかいないのである.確かに種類も豊富だが,この惨状は一体どういうことなのだろうか.近くのいくつかのポイントでも同様である.

地元の人の話だと10数年前からだという.環境の異変を感じさせる.なんとも不気味である.


野鳥をめぐってC クロツラヘラサギ 2000.12.

先月19日,たった半日であるが再び台湾で鳥を見るチャンスを得た.帰国当日,日曜日の午前中.まず台北市内の華江雁鴨自然公園に向かう.ここで初めて台湾のバードウォッチャーに出会い,すっかり意気投合した,彼らの一人からは,新品同様のフィールドガイド(中国語版ではあるが)を定価で譲ってもらった.普通の本屋では買えないし,日曜日で台湾野鳥資訊社は閉鎖しているから入手不能のはずだっただけに,まずこれで大いに気を良くする.次いで,2組の夫婦(?)に車で別のところに連れていってもらう.昨年訪れた關渡自然公園の干潟を対岸の杜子島から見るのだ.前回はマングローブにさえぎられて見渡すことができなかった干潟を堪能する.とはいえ,鳥の数はそれほど多くはなく,コガモ、ハシビロガモ,マガモなどのカモ類,アオサギ,ゴイサギなどのサギ類はいるものの,シギチドリは多くない.彼らも苦手らしく,シロチドリがわからず,ホウロクシギをダイシャクシギと見誤っていた.もっとも台湾の図鑑によればホウロクシギは珍しいらしい.超珍種としてクロトキそっくりで尾(正確には翼端)が黒いトキが数羽いた.オーストラリアシロトキらしいが,彼らの話によれば動物園から逃げたものとのこと.双眼鏡しかなかったため望遠鏡をもっている彼らに出会えたのは極めてラッキーだったし,かれらの親切には感謝のしようもない.

台湾で驚かされたのはバードウォッチング熱の高さである.私を案内してくれた人は台北市野鳥学会の解説員らしく,行き交う多くの人達と挨拶していた.素人の関心も高いらしく,数十人ずつの5組ほどを分かれて指導している団体にも出会った.

その次の週,26日には航海に出るため那覇にいた(船上にて執筆).午後,漫湖をめぐる.ちょうど干潮のため,干潟が広く出て,渡りの時期ほどではないが,多数のシギチドリが見られる.ホウロクシギ,チュウシャクシギ,オグロシギ,アオアシシギ,キアシシギ,アカアシシギ,トウネン,ダイゼン,ムナグロ,ハマシギ,シロチドリ.

そして最大の収穫はクロツラヘラサギ7羽である.20数年前に馬込川(静岡県)で1羽見て以来である.今回も12倍の双眼鏡しか持ち合わせていないが,その特徴を十分捉えることができた.そして最大の驚きは,この日が日曜日で,しかも午後のちょうどいい時間であるにも関わらず,このクロツラヘラサギを楽しんでいたのは私一人だけだったことである.日本のバードウォッチャーにはもう台湾のような熱気はないのだろうか.


野鳥をめぐってB シロハラクイナ 2000.1.

この鳥を台湾で見たのは昨年3月のことだ.台湾大学の真新しい講義室で開かれた学会の会場からちょっと抜け出して周りの鳥を楽しんだ.何種類かはどうしても判別がつかないが,ムクドリの代わりにハッカチョウ,オナガの代わりにカササギといった鳥相は興味深い.シロハラクイナは会場ビルの隣は実験圃場を低く飛んで横切った.台湾では珍しい鳥ではないようだが,警戒心が強く中々見つけにくいだけにうれしかった.

緑の少ない台北市内にあって台湾大学のこの環境は貴重だ.将来に残していってほしいと願うと同時に,もう少し都市の緑を増やす努力が必要なのではないかと感じた.日本の現状を見るととてもそんな他人のことを言える立場ではない,という気もするが.


野鳥をめぐってA アホウドリ  1999.6. 

1998年6月29日,1ヵ月近く昼夜の別なく続いた調査を終えて帰路についた船は,夕刻,最高の夕焼けの中,南硫黄島の見える海域に達し,ついに日本,それも東京に戻って来てしまった.あとはもう鳥を見るしか楽しみはない.30日,船長にたのんでコースをほんの少し変えてもらう.孀婦岩(そうふがん)は14時30頃,鳥島は17時20分頃になるとのこと.それまでは翌日が締め切りのクルーズレポート作成にあてる.

晩飯の時間に近づいたのでビールでもと思って立ち上がったら丸窓の外に鳥島.なにやってるんだ.レポートなんかにかかずらわっている場合ではない.慌てて双眼鏡をつかんで後部甲板へ(なぜかビールもしっかり).憧れの鳥島を前にして,海の上に目をこらす.そう,前回は夜で見えなかったのだ.お膳立ては充分,いつでも出てこい.まさにその目の前にアホウドリ幼鳥が現れた.全身まっ黒でミズナギドリに似ているが,幼鳥とはいえどっしりとした存在感のある鳥だ.鳥島方向へ飛び去るまで1分もあっただろうか.鳥島を間近にアホウドリを見る喜び.一人で大騒ぎをして祝杯を上げた.

アホウドリは大量の乱獲がたたって一時は絶滅したのではないかと言われるまでに減少してしまった鳥である.それが意ある人達の大変な努力により1000羽以上にまで回復した.やがて本土沿岸でも普通に見られるようになるかもしれない.これだけの危機から脱した背景には,その繁殖地の鳥島が絶海の孤島で人の手の届かないところにあったことと無関係ではない.アホウドリという一つの種類を保護するのではなく,生態系全体の保護が可能だったのである.

愛知万博などの様々な環境保護運動の中でオオタカがシンボルになっている.どのように受け止められているだろうか.その営巣地周辺のわずかな保護区の設定では無意味であり,ある区域の中の自然を自然のままに保護する中で,自然とオオタカも保護される.そういう形でなければ本当の自然保護にはならない.貴重種をその種だけ保護しようとしても不可能なのだが.


野鳥をめぐって@ ハシブトガラス  1999.4.

不覚にもカラスに襲われた.

久しぶりにおとずれた東大の三四郎池.シメの鋭い地鳴きに気をとられ,その姿を探し求めていたときだった.後ろからとんできたカラスに,突然左耳をつっつかれたのだ.幸い怪我をするほどではなかったが,ハシブトのあの頑丈なくちばしで耳たぶをまともにやられていたらたまったものではない.

背中を見せるとまた攻撃されそうなので,まっすぐ見据えてしばらく観察を続けた.すぐ目の前,1〜2メートルの所で木の枝を激しくつつき,葉っぱを引きちぎり,ガーガーという大きな声を上げて威嚇する.時々飛び上がるが,すぐに戻ってまた同じ動作を繰り返す.どこか近くに巣があって繁殖準備中なのだろうとは思うが,キョロキョロ探し回る余裕はない.その内,つがいのもう1羽も現れ,挟み撃ちのような形になってしまった.形勢不利.じりじりと後ずさりして,隙を見て逃げ出した.

それにしてもカラスが多い.池の周りだけでなく,構内のいたる所でカラスが騒ぎ回っていて,落ち着いて鳥を探すどころではない.カラスの増加は間違いなく人間が出す残飯によるものである.繁華街のゴミをカラスが活動開始する夜明け前に収集するだけでカラスが激減することは大阪で実証されている.増えすぎたカラスはこれまた一つの自然破壊である.積極的な対策が必要である.


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