最高裁判決の解説(暫定:12月4日改定)


道路建設事業の認可承認処分の適否を道路沿道住民が争えるかどうかが焦点となっていたこの裁判で,最高裁は周辺住民には原告適格がない,つまり裁判を起こすことができない,という道路問題では初めての判断を示しました.空港は周囲の騒音に配慮して作らなければならない(新潟空港騒音訴訟),原発は事故対策をしなければならない(もんじゅ訴訟),だから周辺住民が異議をとなえることができるのだといいます.しかし道路の場合はこの考えを否定しました.最高裁判決では表面的なことに理由づけで原審の判断は正当としているだけなので,この判決をどう解釈していいのかこれからの課題となります.とりあえず正当とされた高裁の判断に基づいて議論を進めます.

原告適格が認められるには,道路沿道住民の大気汚染や騒音の被害を受けないという利益が一般公益としてではなく,個人個人の個別的な利益として事業の根拠法規,この場合は都市計画法の中で保護されていることが必要です.この判決は,都市計画法ではこうした利益を保護していないのだといいます.都市計画の実現によりもたらされる利益,つまり都市計画法がめざす「健康で文化的な都市生活」(大気汚染や騒音の被害を受けないという利益も含む)は道路周辺住民が等しく享受する公益であって,不特定多数者の利益だから,個別具体的な利益として保護している訳ではない,ということのようです.これに対して災害防止に配慮しながら原子力発電所は電力供給という公益をめざすものだが,災害防止のための規制如何によっては周辺住民の個別具体的な利益を保護するものといえるのだといいます.

このあたりどうもよく分かりません.一般公益として健康で文化的な都市生活を築き上げようとする時に,道路沿道とそうでない地域とで著しい差異が生じたとしてもそれらを含めて一括して一般公益だというのかも知れません.そうなると沿道で健康被害を受けるというのも一般公益ということになってしまいます.なお,高裁判決では,都市計画法にいう「都市環境」とは,一般に,交通,衛生,治安,経済,文化,生活便益等広範な都市における生活環境を総称するものであって,「良好な都市環境」の中には,都市施設の付近住民の生命,身体を保護する趣旨を含むものではない,ともいっています.

いずれにしても都市計画法による道路作りにおいては沿道環境に特別に配慮する必要はない,ということだけは事実として確定いたしました.道路沿道住民が行政訴訟を起こす道は閉ざされました(なお,新しいアセス法によるアセスが行なわれる事業の場合は,国会答弁などから推察して,裁判への道が開かれるものと思われますのでどんどん挑戦して下さい).

一方,被告側の建設省自身は「道路環境保全のための道路用地の取得及び管理に関する基準」という通達により,幹線道路周辺の生活環境保全を目的とした都市計画を認めており,東京でも都道調布保谷線などで実施されています.同じ道路沿道環境に関しても,お上が配慮する場合は公益であり,下々が配慮を求めると私益ということで認めてもらえない,という構図でしょうか.

 

この裁判の原告には拡幅予定地内の地権者も含まれています.その場合は原告適格が認められており,一応事業の可否についての判断もなされています.

地上の都道環状六号線拡幅については昭和22年に戦災復興計画により都市計画決定済みであることから,旧法下で決定された都市計画が新法の中でどのように扱われるかという点が最大の論点でした.

都市計画法は1972年(昭和47年)に全面改定されています.その際,旧法により決定された都市計画は新法の都市計画とするとの規定が盛り込まれています.判決は旧法の下で適法,有効に決定された都市計画に基づいて事業を行なう場合は,施行者はその都市計画が新法に適合するかどうかを判断することなく,直ちに事業認可承認申請をすればいい,としています.そして建設大臣も事業が都市計画に合致しているかどうかを審査して認可承認すれば足りるのだそうです.つまり,都市計画が決定されたときに適当と判断されれば,その後の情勢が変化して,都市計画法が改定されたとしても都市計画の内容を改める必要がない,ということを意味します.さまざまな手続きを踏んで決定されたとしても計画はあくまで計画です.状況の変化に対応させてその時代時代に最もふさわしいものへと変えていく余地が残されているから計画なのではないでしょうか.判決はこれを否定しました.

この判決の結果,極めて異常な事態が生じてしまいました.大臣は事業が都市計画通りかどうかだけを判断するだけで許認可を与えるのです.つまり都市計画の内容が適切かどうかの判断はしていません.私たちは都市計画決定の段階ではそれを争うことはできません(最高裁判例).単なる計画であり青写真のようなものだというのがその理由です.裁判は事業の認可承認時に初めて起こすことができます.しかし許認可を与えるかどうかは,事業が都市計画通りのものかどうかを見て判断すればいいのですから,都市計画が適切かどうかを争う機会が一切ないということになってしまいます.都市計画の決定は議会の承認を必要としませんから,民主的手続きで策定されるものではありません.都市計画事業により生きるも死ぬも完全に行政の裁量次第で国民はそれに従うしかない,ということになります.

 

地下高速道路中央環状新宿戦時行は,都市計画と公害防止計画との整合性についてが争点となりました.

私たちの主張は,これらの事業は事実として大気汚染物質の放出量を大幅に増加させるなど公害を拡大させるものであって,公害防止計画に適合しない,というものです.しかし,残念ながら公害防止計画には環状道路等の整備がその施策とされているため,その点のみをとらえて中央環状新宿線建設計画が公害防止計画に適合しているという高裁判決をそのまま支持しています.

 

以上,要するにお上に楯突こうとしても法律はそんなことに耳を貸すようにはできていないからむだということです.こんな法律の下で,どこもかしこも道路だらけとなり,人々の健康が損なわれ,豊かな自然は失われ,国土は荒れ放題ということになるのだろう思います.無念です.

 

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