全面敗訴の不当判決(1999年11月25日,最高裁)


平成一一年一一月二五日 第一小法廷判決

 平成八年(行ツ)第七六号 都市計画事業認可処分等取消請求事件

 

要旨:

   都市計画事業認可処分等の取消訴訟と事業地周辺地域居住者等の原告適格

 

内容:

  件名 都市計画事業認可処分等取消請求事件(最高裁判所平成八年(行ツ)第七六号平成一一年一一月二五日第一小法廷判決,棄却)

  原審 東京高等裁判所

 

主    文

 

     本件上告を棄却する.

     上告費用は上告人らの負担とする.

 

理    由

 

 上告代理人G,同Wの上告理由第一点について

 一 本件は,被上告人が都市計画法(平成三年法律第三九号による改正前のもの.以下「法」という.)五九条二項に基づいて東京都知事に対してした環状六号線道路拡幅事業の認可処分及び同条三項に基づいて首都高速道路公団に対してした中央環状新宿線建設事業の承認処分(以下,これらの処分を「本件各処分」という.)が違法であるとして,右各事業の事業地内の不動産につき権利を有し又は同事業地の周辺地域に居住し若しくは通勤,通学する上告人らが,本件各処分の取消しを求める事件である.

 二 行政事件訴訟法九条は,取消訴訟の原告適格について規定するところ,同条にいう当該処分の取消しを求めるにつき「法律上の利益を有する者」とは,当該処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者をいい,当該処分を定めた行政法規が,不特定多数者の具体的利益を専ら一般的公益の中に吸収解消させるにとどめず,それが帰属する個々人の個別的利益としてもこれを保護すべきものとする趣旨を含むと解される場合には,このような利益も右にいう法律上保護された利益に当たり,当該処分によりこれを侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者は,当該処分の取消訴訟における原告適格を有するものというべきである.

 三 右の見地に立って,本件訴えについての上告人らの原告適格について検討する.

 1 都市計画事業の認可又は承認(以下「認可等」という.)が告示される(法六二条一項)と,(1) 事業地内において当該事業の施行の障害となるおそれがある土地の形質の変更,建築物の建築,その他工作物の建設を行うこと等が制限され(法六五条一項),(2) 事業地内の土地建物等を有償譲渡しようとする際には,施行者に優先的にこれらを買い取ることができる権利が与えられ(法六七条),(3) 認可等をもって土地収用法二〇条の規定による事業の認定に代え,右告示をもって同法二六条一項の規定による事業認定の告示とみなした上,都市計画事業を同法の事業に該当するものとみなして同法の手続により土地の収用,使用をすることができるものとされている(法六九条以下).これらの規定によれば,事業地内の不動産につき権利を有する者は,認可等の取消しを求める原告適格を有するものと解される.

 2 これに対し,事業地の周辺地域に居住し又は通勤,通学するにとどまる者については,認可等によりその権利若しくは法律上保護された利益が侵害され又は必然的に侵害されるおそれがあると解すべき根拠はない.すなわち,法の目的を定める法一条,都市計画の基本理念を定める法二条,都市計画の基準を定める法一三条,認可等の基準を定める法六一条等の規定をみても,法は,都市の健全な発展と秩序ある整備を図り,健康で文化的な都市生活及び機能的な都市活動を確保するなどの公益的見地から,都市計画施設の整備に関する事業の認可等を規制することとしていると解されるのであって,これらの規定を通して事業地周辺に居住する住民等個々人の個別的利益を保護しようとする趣旨を含むものと解することはできない.法一三条一項柱書き後段が当該都市について公害防止計画が定められているときは都市計画は当該公害防止計画に適合したものでなければならないとしているのも,都市計画が健康で文化的な都市生活を確保することを基本理念とすべきであること等にかんがみ,都市計画がその妨げとならないようにするための規定であって,やはり専ら公益的観点から設けられたものと解すべきである.また,法は,公聴会を開催するなどして住民の意見を都市計画の案の作成に反映させることとし(法一六条一項),都市計画の案について住民に意見書提出の機会を与えることとしている(法一七条二項)が,これらの規定も,都市計画に住民の意見を広く反映させて,その実効性を高めるという公益目的の規定と解されるのであって,これをもって住民の個別的利益を保護する趣旨を含む規定ということはできない.そうすると,本件各処分に係る事業地の周辺地域に居住し又は通勤,通学しているが事業地内の不動産につき権利を有しない上告人らは,本件各処分の取消しを求める原告適格を有しないというべきである.

 3 以上と同旨の原審の判断は,正当として是認することができ,原判決に所論の違法はない.右判断は,所論引用の最高裁昭和五七年(行ツ)第四六号平成元年二月一七日第二小法廷判決・民集四三巻二号五六頁及び最高裁平成元年(行ツ)第一三〇号同四年九月二二日第三小法廷判決・民集四六巻六号五七一頁に抵触するものではない.論旨は,独自の見解に立って原判決を論難するものにすぎず,採用することができない.

 同第二点について

 都市計画法施行法二条によれば,旧都市計画法(大正八年法律第三六号.以下「旧法」という.)の下で適法,有効に決定された都市計画は,改めて法の規定する手続,基準に従って決定し直さないでも,そのまま法に基づいて適法,有効に決定された都市計画と認められ,法の都市計画に関する規定が適用されることになると解される.したがって,旧法の下で適法,有効に決定された都市計画において定められた都市施設を整備する事業を行う場合には,施行者は直ちに当該事業の認可等の申請を行えば足り,その要件とされる法六一条一号の適用においても,事業の内容が旧法下で決定された都市計画に適合していれば足りると解すべきである.そうすると,旧法の下においては都市計画の基準として公害防止計画に適合することを要するとはされていなかったのであるから,旧法の下において決定された環状六号線整備計画は,その後に定められた公害防止計画に適合するか否かにかかわらず,現行法下においてもそのまま適法,有効な都市計画とみなされるものというべきであり,右整備計画に適合するものとしてされた環状六号線道路拡幅事業の認可に違法はない.

 右と同旨の原審の判断は,正当として是認することができ,原判決に所論の違法はない.右判断は,所論引用の判例に抵触するものではない.論旨は,独自の見解に立って,又は原判決を正解しないでこれを論難するものにすぎず,採用することができない.

 同第三点について

 法一三条一項柱書き後段は,前記のとおり,都市計画が公害防止計画の妨げとならないようにすることを規定したものと解される.そして,公害防止計画とは,「当該地域において実施されるべき公害の防止に関する施策に係る計画」のことをいうのである(公害対策基本法(昭和四二年法律第一三二号)一九条一項)から,そこで執ることとされている施策を妨げるものであれば,都市計画は当該公害防止計画に適合しないことになるが,法一三条一項柱書き後段が右施策と無関係に公害を増大させないことを都市計画の基準として定めていると解することはできない.そして,原審の適法に確定した事実関係の下においては,中央環状新宿線建設計画が本件公害防止計画の執ることとしている施策の妨げとなるものでないことは明らかであるから,右建設計画は,本件公害防止計画に適合するというべきであり,法一三条一項柱書き後段に違反しない.

 以上と同旨の原審の判断は,正当として是認することができ,原判決に所論の違法はない.論旨は,独自の見解に立って原判決を論難するものにすぎず,採用することができない.

 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する.

(裁判長裁判官 遠藤光男 裁判官 小野幹雄 裁判官 井嶋一友 裁判官 藤井正雄 裁判官 大出峻郎)

 

ホームへ戻る