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猫は知っていた cinos [2019/07/07 07:16:43]
手をあげてる置物を一瞥して店に入った来たのは猫耳帽子をかぶった若い男だった。
「ちょっと、ダメじゃないか、勝手に入ってきては」私は厳しい声を出した。
「いや、高木くん、いいんだ、この人は」と先輩が苦笑いした。「この人は」
「猫探偵、猫田猫之介だにゃん」男は両手をグーにして体の横で折り曲げてる。
「ねこたんてい?」
男は自己紹介を終えると満足したのか、店の真ん中の床の血まみれの死体に顔を近づけて
見ている。好奇心いっぱいという感じだった。
「先輩、この男は」先輩に尋ねると、先輩はじっと男を見たまま答えた。
「自称猫探偵だ。事件のあるところに猫あり。彼は難事件をいくつも解決している」
「!!」
男は部屋の中をきょろきょろしている。落ち着きがない。とても真面目に事件を調べてい
るようには見えない。
「なんせ猫語が話せるんだ。現場で猫から話を聞いて犯人を指摘するって話だ」
猫語が話せる?
「んな、馬鹿な」
冗談を言ってるのかと思ったが、先輩の顔は真面目だった。
「でもこの現場、猫はいないけどな」
「いえいえ」と男は先輩の言葉に反応すると、ウィンクした。「そこで猫は見てました
にゃー」
男が指さした先には、店の入り口の右手をあげてる置物、招き猫か。
男は招き猫に顔を近づけて何かつぶやいた。大きくうなずきながらまた何か言う。まるで
招き猫と会話しているかのような。って、まさか。
男は招き猫の頭をなでると私たちに向き合った。
「猫は知っていた! 犯人はあのウェイターです。彼が殺したにゃん」男は赤毛のウェイ
ターを指さした。
「ち、違います、私ではありません」ウェイターは頭を大きく振って否定した。
「いや、君が彼をナイフで刺した。招き猫は教えてくれた。事件は解決、私は帰るにゃー」
「え、帰るって。探偵なら推理とか、証拠とか、動機とか」
「それは君たちの仕事。犯人がわかればあとは簡単だにゃー。ではさらばにゃ」
猫探偵は手を振ると去っていった。