題名未定


題名「サマータイムトラベル」
また暑い夏が来た。
なんとなく就職して、なんとなく働いて、
なんとなくお見合いして結婚して子どもが生まれた。
中間管理職にもなったし、ローンで一軒家も建てた。
でも何かが違う、そう思った40歳の夏。
ドイツでワールドカップが行われた2006年の夏だった。
(Cinos   Jul 06 (Thu) 05:20 2006)

上司は良い顔をしなかったが、少し長めの夏季休暇を取った。
20代で係長に昇進したときは同期の桜と騒がれもしたが、
あれから十年と少し、今では同期の部長もいるし、社長の令嬢とくっついて専務となったやつもいる。
まぁ、こんなもんだろうと思っているが、妻はそれに文句をつける。
だれそれは出世したのに、が口癖だ。
しかもその比較対象が近隣一帯だから始末が悪い。
そもそも妻は、他人の事をとやかくいえるような器量ではないのだ。
結婚当初は確かに並よりは上だったかもしれないが、
ここ十年で取り繕うことなどとっくにやめてしまっている。
自分は努力を放棄して、他人に求めるのだから呆れてしまう。
ただ、そうはいっても結婚した以上、養っていく義務があるし世間体というものもある。
人より優れているなどと言うつもりはないが、世間一般程度の甲斐性くらいはあるつもりだし、これはそのための休暇だった。
彼女の実家に息子を連れていく予定を立てている。
同郷だし、帰る故郷がひとつなのは手間がかからなくていい。
その事だけは、ひそかに彼女の両親に感謝している。
(Es   Jul 06 (Thu) 23:37 2006)

息子は公立高校に通っている。
それなりに名の通った私立高校も受験するにはしたが、面接で私が失言してしまった。
私のせいで落ちたと妻は私を時々思い出したように非難する。
息子もそう思っているようだ。
息子は最近いつもいらだち、暗い顔をしているが、高校でいじめられていないか、それだけが心配だった。
(しのす   Jul 13 (Thu) 01:53 2006)

同じような日々の繰り返しだが、ポジティブに考えれば、家族ともども健康で大した事件もない”平穏な日々”というところか。
決して今の暮らしに不満があるわけではない。
夫婦仲が悪いわけでもない。息子と会話がないわけでもない。それなりに笑いもするし、怒りもする。
だが、この空虚な気持ちはなんなのだろうか。なにかが欠けているような気がする。なにかを忘れているような気がする。
そんな思いはいつからあるのだろうか、それすらもはっきりしない。
もしかすると若い頃から、その心の穴はあったのかもしれない。若い頃のがむしゃらな自分がそれを認めまいとしていたのかもしれない。
天井を見つめながらソファの上で私はとりとめのない思いをめぐらせていた。
(大津庵   Jul 13 (Thu) 04:55 2006)

「ボール、そっちいったぞ!!・・ディフェンス固めろ!!」
高校2年生の頃、私はサッカーにあけくれていた。その当時、サッカーよりも野球の方に人気があったのだが、私は世間の流行などに惑わされたくなかったし、何よりもボールをがむしゃらに追いかけていた方が好きだった。
「おい!1年!しっかりボールを見ろ!」
副将だった私は、上級生が受験の為抜けるので、残された仲間に対していつも以上に熱が入っていた。
いや、それだけではなかった。
サッカーグランドの外で、いつも練習を見に来る女子がいた。
・・・当時、私と同じ高校に通う・・・現在の妻だ。
彼女はいつも練習を見ていた。雨が降っていても・・・そんな彼女が愛しく思えた。
「・・・テレビ、見ないならきってよね。」
冷たい女性の声。テレビからはサッカーの試合中継が流れ、サポーターたちの声がスピーカーを壊す勢いで叫んでいる。
テレビが消される。妻は何も言わず寝室へ姿を消していった・・・これが、あの愛しい彼女のなりの果てだった。
ソファーから体を起こし、タバコに火をつける。天井へ消える煙を見つめながら、私は明後日からの妻の実家行きの計画を立てていた。
できるころならば、実家よりも、あの時代に戻りたい。
ガラスのように繊細な彼女逢いたい、そして、何事にも熱かった自分の心に
戻りたい・・・
(ジャージ   Jul 13 (Thu) 23:32 2006)

そんなことを思いながら、いつのまにか私は寝てしまっていた。
「ほら、おきてよ。こんなとこで寝ちゃったの?」
私はこの一言に違和感を覚えた、最近妻は私に対して「よ」など付けていなかった気がしたのである。なぜかそのことがひどく気になったが、会社に行く時間であろう、私は起きることにして目を開けた、そこにいたのは、いつもの妻であった、いや、少し若くなった気もした、しかし最近妻の顔をしっかりと見ていないせいだと思い私はいつものとおり会社に出かけた
龍神   Jul 25 (Tue) 23:17 2006)

家を出てから足が止まった。
ちょっと待てよ…。
振り返ると『メゾン・ド・ポワゾン』と書かれたアパートが建っていた。
これは新婚の時に暮らしていたアパートだ。
今出てきた部屋の前には白地の板にピンクで
『山神裕介(ハート)美智子』
と書かれたプレートが掛っている。
結婚したての時に手作りで作ったものだ。
部屋の前には昔カギをかけてなくて盗まれた新品の赤い自転車も置いてある。
夢を見ているのだろうか。
ドラマとかであるように頬をつねると、痛い。夢ではないようだ。
(しのす   Jul 26 (Wed) 04:40 2006)

私は我を疑いながら、集金しなければいけない事を忘れ、
自分の部屋の郵便受けにすがりついた。
そこには朝刊が配られたままになっているはずだ。
私は新婚当時から、郵便受けから朝刊を取り、出勤時の電車の中で新聞を読む
事を日課としていた。
これが現実なら・・・
私は朝刊の一面を見た。・・・そして絶句した。
「チェルノブイリの被害拡大?3ヶ月たったなおも復旧の目処たたずっ  て・・・原発事故は18年前だろ?!」
日付は平成ではなかった。【昭和61年7月10日】・・・私が結婚して
間もなくの日付だ。
私は同年5月に妻と結婚。翌年には係長に昇進し、その1年後に息子が誕生
する・・・
「こんな・・・こんな事ってあるのか・・・」
「おや?何かお困りですかな?」
背後から声が聞こえた。振り向くと白髪の見慣れない男・・・老人が立って
いた。夏だというのに、その場には似合わない燕尾(えんび)服を着ている
「メゾン・ド・ポワゾンですか・・・いいアパートですな。この時代には」
「あ、あなたは?」
「私ですか?・・・私は粕原福一(カスハラ フクイチ)と申します。
 ・・・あなたの望みを叶える者です。」
老人、粕原はそう答えた。・・・望みを?叶える??
(ジャージ   Jul 28 (Fri) 00:33 2006)

【訂正】
一行目:(誤)集金 → (正)出勤
(ジャージ   Jul 28 (Fri) 00:35 2006)

私の頭は完全に混乱状態にあった。
いったい何が起こってるのだろうさっきほっぺはつねったはずである
が、チェルノブイリなど今やなつかしいコトバであることは否定できなかった
いや、チェルノブイリとか等もはやどうでもいい。
それよりも問題なのはこの男である。
ここまでのことを私は何とか冷静になり考え、老人に訪ねた
「ここはどこなんだ?」
老人は少し笑みを浮かべてこう答えた
「あなたの望みの世界ですよ、私はあなたが心のなかで描いていた夢をあなたのために再現してあげたのです」
老人は少し笑みのまんま、そうさらりといった、会社に行くことなど頭の闇にほうむりさられていた
(龍神   Jul 29 (Sat) 23:30 2006)

もしかしたらこの老人、頭がおかしいのかもしれない。
かかわらない方がいいのかも。
しかし今朝の妻の様子、盗まれたはずの自転車、そして何よりもこの新聞という証拠から老人の言っていることは事実だと思えた。
あたりを見回してもなくなったはずの喫茶店があったり、立っていたはずのビルがなかったりしている。
ドッキリではそこまでできないだろう。
老人を信じることにした。しかし…。
「信じられないけど、信じるよ、かす−」
「粕原です」老人は満足そうにうなずいた。
「でもどうせかなえてくれるなら、この時代ではなくてもっと前にしてくれないか」
「え、前とおっしゃいますと」老人は意表をつかれたという顔をした。
「17歳の夏がいいんだ。1983年の夏が」
(しのす   Jul 31 (Mon) 04:04 2006)

「残念だったね、裕介ちゃん」
背後からかけられた声にふりむくと、フェンスの向うに年若い少女の姿が見えた。
紺色のセーラー服の少女は涼風を受けながら、長い髪をおさえている。
「えっ」
「昨日の試合、私、みっちゃんと応援にいってたんだ」
「みっちゃんと…?」
上映中の映画を途中から視聴しているかのような違和感に頭が上手く働かない。
「みっちゃんて…美智子か……」
問い返す、というより自分の考えを確認するためにもらした言葉に、少女が過敏に反応する。
「うわー、もう呼び捨てにする仲なんだ、妬けちゃうなー」
冗談めかして、笑みを浮べる。
デジャヴュ。
既視感とでもいうのだろうか。
その笑顔に見覚えがあるような気がした。
「悠…悠姉ぇ」
なんで忘れていたのだろうか。
彼女の事は自分にとって良い想い出じゃない。
でも忘れて、それで無かった事にして赦される類の想い出ではなかった。
だって、彼女は俺の所為で…。
俺の所為で……なんだ?
とっても大切な事なのに、頭の中に霧がかかったようで思い出せない。
くそっ…思い出さなきゃいけないことなのに…。
じゃないと……悠姉ぇが……。
「えっ、ちょっとヤだ、なんで泣いてるの…ひょっとして試合の話しタブーだった?」
「えっ…泣いてる?」
悠姉ぇ。
1学年上の幼なじみ朝霧悠呼の言葉を受けて、初めて自分の目元が生暖かいのに気がついた。
「山神く〜ん!」
遠くから手を振って、ショートカットで小柄な可愛らしい少女が駆け寄ってくる。
「小林さん…」
クラスメートの小林美智子。
よく練習に顔を出し、ハチミツレモンなどの差し入れもしてくれる。
快活で優しい少女だった。
練習が終るのを待っていたふたりと一緒に夕暮れの川原を歩いて帰る。
自宅が駅ふたつ先の彼女を改札口まで送っていくためだ。
「キャァー」
ズサッ。
目の前の悠姉ぇがバランスを崩して土手の芝生を滑っていく。
「!」
はっとして、前をみると何事も無かったかのように。
悠姉ぇはコンクリートで固められた30Cmほどのブロックの上を平行棒の選手のようにステップまじりで歩いていた。
なんだ?
放課後から度々変な感覚が生まれている。
予知夢だとでもいうのだろうか?
まさか、だいたい眠ってもいないのに夢なんてみるわけがない。
ただ、危険だと思って、声を掛けようとした瞬間―
ステップして着地した彼女の軸足が滑ってバランスを崩し、芝生の方に上半身が傾いていた。
彼女の手を掴もうと駈け出す。
サッカー部じゃ一番のスピードスターで俊足が売りの俺のタイムは陸上部のスプリンターと比べてもなんの遜色も無いものだ。
絶対に間に合わないタイミング。
それでも必死に手を伸ばすと、呆気ないほど簡単に彼女の手を掴まえていた。
「えっ」
バランスを崩した直後の彼女の身体を抱き抱えていた。
「いやー失敗しっぱい…ちょっと恥ずかしいな」
照れて笑みを浮べた悠姉ぇが慌てて身を離す。
「ねぇ…どーして?」
隣を歩いていた小林さんが追いついてきて不思議そうに口を開いた。
「えっ…何が?」
「なんで、朝霧先輩が危ないってわかったの?」
「えっ?」
「だっておかしいよ、私があっと、思ったときには山神くんの背中がはるか遠くにあったんだもん。
それまで隣を歩いてたのに」
「そんなわけないだろ?
俺は悠姉ぇのバランスが崩れたのをみてから、駆け出したんだぜ。
たぶん、動体視力と俊足の所為だろ」
「そっかー」
小林さんは一応納得したようだが自身が納得しきれなかった。
自分でも絶対に間に合わないという確信があったのだ。
(Es   Jul 31 (Mon) 23:52 2006)

添削
平行棒→平均台
(Es   Aug 01 (Tue) 00:21 2006)

「どうですかな?」
ふとふりかえるとまたあの老人が立っていた小林さんをみたら不自然な格好でとまっていた
私はこの短時間に不思議な体験をしすぎて感覚がにぶっているのかそのことをあまり気にとめなかった
「もしかしてさっきのもお前が関係してるのか?」
私はたぶんそうであろうと思いながらにとりあえず老人に聞いてみた
すると老人はまたあの笑みを浮かべながら
「ええ、あなたが朝霧さんを助けることを希望したように感じたんでね」
と答えた。
いったいこいつは何者なんだ・・・そう俺は思っていた。
しかし今はそれを聞くときではないという心ももっていた。
今聞いたら今のすべてが消えてしまうような気がしていたのである
「では私はこれからも見守っていきますので…」
「やっぱり山神くんって足速いんだね」
いつのまにかさっき不自然にとまっていた小林さんが話し始めていた
(龍神   Aug 01 (Tue) 22:51 2006)

「あ、ああ、私・・・いや、俺はサッカーで鍛えているからね。」
私は何とか会話をつなげた。
「その能力を勉強にも生かしたらいいのにね。」
「朝霧先輩、恩人の山神君に対して失礼ですよ!」
悠姉ぇと小林さんとの会話・・・今現実にあるのに懐かしい。
小林美智子―この世界では、私とただのクラスメイトであるが、数十年後には私は彼女と結婚することになっている。・・・そうか、彼女はこんなに明るい子だったのか。
「どうしたの?山神君?さっきから私の顔を見て・・・」
私の視線に気づいたのか、美智子・・・いや、小林さんは不思議そうに首をかしげた。そんな彼女に答えるように悠姉ぇが口をはさむ。
「あ、さっきねぇ、祐介ちゃんったら、みちゃんのことを・・・」
「悠姉ぇ!!」
私は高校2年生として、彼女たちと家路についた。
何十年かぶりの実家。立て直す前の一軒家。若き日の両親がそこにいた。
夢ではない。これが私の目の前の現実であった。
夕食をすませ、部屋に戻る。私の世界では骨董品のダブルラジカセ、漫画やスポーツ雑誌、作りかけのプラモデルなどが散乱していた。
「なつかしいなぁ・・・」
ラジカセに手をかけたとたん、再びあの老人が現れた。
「こんばんは。山神様」
「見守る・・・って、私のプライバシーを覗くって事ですか?」
「これは失礼。ちょっと説明と注意事項を・・・と思いましてね。」
粕原はコホンと一回咳払いすると、私の使っていた勉強机のイスに腰を下ろした。
「あなたは何者なんです?」
「まぁまぁ、山神様、それをこれから話すところです。・・・私は【思い出
支援センター】の支援専門員です。」
聞きなれない名称に私は首をかしげた。しかし現実、彼は私を希望の時代につれてきたので、嘘の話ではなさそうだ。だが、今後私はどうなるのか?何をするべきなのか、私は少しでも多くの情報を入手したかった。
「あなたは、ここでは高校2年生として生活してください。そして【忘れていた何か】を見つける事。その手助けをするのが・・・」
「【思い出支援センター】の仕事ってわけですか?」
「そうです。そして、気をつけていただきたいのは、あなたが未来人―つまり平成時代の人間である事を他人に知られない事。また、他人に未来を伝えてはいけないこと。」
注意事項ということもあり、老人の目は鋭く私を睨み付けていた。
「もし、守れなければ・・・」
「その時は、全ての時代において、あなたの存在はなくなります。」
老人・粕原の言葉に私は凍りついた。もし小林さんに、自分の未来の妻であることを話したら・・・
「私はいつでも山神様を見守っております。・・・では、おやすみなさい。」
老人は私の前から消え去った。
忘れていた・・・何かを見つける・・・。
(ジャージ   Aug 02 (Wed) 00:16 2006)

「裕介ーっ。起きろっ」
家の外から声が聞こえた。
時計を見ると5時半。いつの間にか眠っていたようだ。
窓を開けて外を見ると、下にジャージ姿の日向がいた。
「日向、なんで高校のジャージなんか着てるんだ。この年になって」
日向はきょとんとした顔をしている。
「何寝ぼけてんだよ。朝練だろ。早く行かねぇと川縁さんにぶっとばされるぞ」
朝練。川縁さん。
部屋の中を見まわして思い出した。
あっ、そうか、17歳の夏にもどったんだった。
しのす(名前をクリックすると1983年の情報が)   Aug 10 (Thu) 06:15 2006)

「どうした、今日はいつになく動きがいいじゃないか?」
「えっ…そうですか? 自分じゃわかりませんが…」
「あぁ、まるでプロのFWみたいな動きだった。
ゴール前のサンクチュアリ(聖域)とか嗅覚とかシックスセンスとかあるだろ?
あーいう話しがあながち冗談に聞えないような動きだったな」
「そんな大仰な」
だいたい大きなイベントの記憶ですらあやふやなのに、こんなフラグにもならないイベントの練習や試合の結果や経過をいちいち覚えているわけではないのだ。
確かに一部過去の記憶を持っているし、時として強力なフラッシュバックで情報を受けるときもあるが、基本的に私はESPなわけでではない。
付け加えるなら、爆発的に身体能力が上がったという事もなかった。
ただ強いていうなら、感が良くなった気がする。
しかし、それは先輩のいうようなシックスセンスでなく、経験則という表現がちかいだろうか?
それは、裏打ちされた未来。
予”感”でなく予”測”。
「白組攻めるぞ」
ボランチの日向がルーズボールを拾い声を上げた。
いっせいに流れるように動き出す。
今年が最後の3年で構成された赤組。
当然、レギュラーが多い。
11人のうち7人がレギュラー。
対して白組のレギュラーは私と日向、MFの八代。
三名で中央を固めているが戦力不足は否めない。
後輩、つまりルーキーの篠原は天才肌のFWで新入生ながらレギュラーの逸材だが、
いかんせんフィジカルが弱い。
60分が過ぎた頃から運動量が目に見えて落ち、精彩を欠いている。
それはしかたのないことだろう。
中学でたてのひよっこがレギュラーのなかでプレーをするだけでもきつい筈である。
思春期の1年の差はでかい、私たちにしても3年との接触プレーは圧倒されるほどではないものの、同学年やひよっこのあたりからすれば強く感じる程だ。
いうなれば、A代表対列強代表と言った図式だろうか。
「プレーの最中に考え事とは余裕だな裕介」
ボールをトラップした瞬間、主将の川縁さんがつめてくる。
ボールを左足で引いて、距離を離す。
「やだなー何いってるんすか」
「そうか、てっきり朝霧の事でも考えてるのかと思ったぞ?」
「そんなー先輩じゃあるまいし♪」
「くっ…この!」
甘いな。
ちょっとした挑発で、冷静さを失うなんて。
若いっていいなー。
まっ、私も当時から、その事に気がついていた訳じゃなかったのだが。
「図星すっか」
「う、うるさい」
冷静さを欠いて、猪武者のように突っ込んでくる先輩をかわす。
一度ふってしまえば、大型DFの川淵が私の最高速についてこれる道理などない。
スピードは私のライフライン。
私と補欠の選手の境界線が100m11秒フラットの足なのだから。
何しろ、単純なテクニックという意味ではレギュラー陣の中では高いほうじゃない、
U15のメンバーにも召集がかかったというひよっこの篠原にも遅れを取るだろう。
まぁ、あれは特別だ。
教えてやる道理はないが未来のフル代表の不動の9番だったのだから。
日韓の大会で引退したが35歳の花道で、ベスト16まで日本を押し上げる原動力となった時の英雄なのだから。
不思議と今の私に妬みはない。
サッカーは大學まで続けて、ずっとレギュラーだったが実業団からのオファーはなかった。
それ、だけだ。
今もプロになりたいわけじゃない、が、あの頃よりも多くの事が見える。
身体能力の向上もなく、動きが違って見えるのはその所為だろう。
全てが楽しい。
勉強も好きではないが当時よりもおもしろく感じる。
ただ流されるように生きていた当時、いや、つい最近までと比べて日々が充実していた。
「先輩!」
篠原の右手が上がる。
サイドを上がる私の右側を1年の篠原が切りこんでくる。
75分過ぎ、残り時間あと5分。
最後の気力を振り絞ったのだろう。
いい根性している。
肩で息をし、苦しいだろうに前半同様の動きを見せている。
不思議と2年も同じチームにいながら、篠原にボールをだした記憶がない。
むろん、FW同士ということもあっただろう。
私はハイボールを味方に流せるような大型のポストプレーヤーじゃないし、彼のようにMFもこなせるような器用さを併せ持っていた訳でもなかったのだから。
それでも当時の私は妬んでいたのだろう。
苦笑を浮かべる。
私が、未来のA代表に?
たぶん、周囲が見えてなく、本当の意味でチームメイトも信頼していなかったのだろう。
私は彼じゃないし、彼になる必要もないのだ。
他人と比べて生きる事に何の意味があるだろう。
競うことと、比べることではその意味に天と地ほどの違いがあるのだろう。
スリーバックのDF、川縁さんを除いたふたりがシュートコースを消してつめてくる。
パスコースががら空きだな先輩方。
篠原を半ば無視して、プレスをかけてくるその目には迷いが一切ない。
なるほど、昨日までの私がラストパスを出さないのは周知の事実って訳ですか?
思いっきり右足でテイクバックをとる。
「馬鹿か裕介、周囲を見ろ!」
八代が声を上げる。
私にアドバイスなど無意味と喜色満面の笑みで構える先輩方。
その笑みを掻き消すように、ふりおろした右足でボールを蹴らず、左足でふわりとふたりのDFの頭上をこすようなループパスをキーパーと篠原の間に落とす。
「なっ?」
誰が発した言葉だろう。
ただ敵味方、ほぼ全ての人間が異表をつかれ、キーパーすら棒立ちとなった空間の中、篠原だけが落下点に足を伸ばしていた。
ピー!
ピッピッピー!
ゴールと試合終了の笛が同時になる。
お前は天才だよ、篠原。
ここ数ヶ月、自分にパスなど出したことないだろう私のパスに反応できるのだから。
ただ、それでもこのゴールの功は私にあるだろう。
ファンタジスタですら、生涯最高のパス、魔法は一度っきりだと言う。
篠原以外の全てを欺いたこのアシストは生涯の誇りになるだろう。
なにしろ、大学卒業するまでサッカーをしていたが、
他人の記憶所か、自分の中で印象の強い想い出のシーンなどなかったのだから。
「先輩!」
どんっと背中に重みを感じる。
「ばか、懐くな暑苦しい」
今はなんだかピッチを吹き抜ける風が心地よく感じられた。
(Es   Aug 11 (Fri) 11:30 2006)

このまま高校生でいてもいいんじゃないかとも内心で思いながら
その試合帰り、わたしは日向の家に泊まりに行っていた。中に入ると八代もきていた。
「さて、この三人が集まったら、やっぱりこれでしょ!」
といって、蒲田行進曲のビデオを取り出してきた
三人で日向の家に集まり、色々な映画を見ることが俺らの中ではやっていたことをビデオを見た瞬間に私は思い出していた。
そして、三人で、見ていた。私は完全に心から高2に戻っていた。
(龍神   Aug 12 (Sat) 22:58 2006)

蒲田行進曲―深作欣二監督作品で、松竹キネマ蒲田撮影所を舞台にくりひろげられる三流役者と大部屋役者の友情物語であった。三流役者ヤスが、憧れの役者・「銀ちゃん」こと倉岡銀四郎の為に「新撰組」の「池田屋階段落ちのシーン」をやってみせたのが私の心の中で大きく残っている。
同監督は暴力的な作品をつくりながらも、その作品を通じ社会に多くのメッセージを送っていた。彼が作品をつくる度に、私は食い入るように見に行った覚えもある。
しかし・・・いつのころからだろう・・・彼の作品に対して思いが変わったのは・・・。
自分の息子が『バトルロワイアル』が見たいと行った時、私は大声で怒鳴った事があった。当時息子は小学校高学年か、中学生だったかと思う。
どちらにしても、子の親としては、あの作品は見せたくないと思っていた。
内容が過激すぎる、教育上良くない・・・世間の考えと私は同調していた。
しかし深作欣二は、本当にただ娯楽としてあの作品を作ったのだろうか・・・
子の親となり、彼の作品を見なくなってしまったが、今こうして学生の頃の自分に戻って思うことは、彼の最後のシリーズ作品となった『バトルロワイアル』を見てみたい。そして、彼の社会へのメッセージを受け止めたい・・・
「おい、祐介!」
誰かが私の名を呼んだ。日向だった。
「なんかお前さぁ〜、最近ボーっとしてる事多いなぁ」
日向は私の頭を軽く叩きながら言った。隣では八代が大きないびきをかきながら寝ていた。
「あ、いや、いろいろと考え事をしていて・・・」
「お前が考え事?どうせスケベなことだろ」
からかう様に日向はそう言って笑った。ビデオは有名な場面――私の記憶にある池田屋階段落ちのシーンになっていた。
そのシーンを見ながら日向は私に言った。
「なぁ、祐介。・・・お前、命かけてでも守るものはあるか?」
「はぁ?なんだよ日向、いきなり・・・」
いつもはサッカーや映画、時にはスケベな話で盛り上がるのに、その時だけ違った。日向の顔は真剣だった。そんな彼の顔を見て、私は彼をからかう気にはなれなかった。
「あぁ、そうだなぁ・・・命をかけてとはいえないけど、俺が守るとしたら、 学校のサッカー部かな?」
「祐介らしいな。さすが次期・主将!」
「なんだよ!うちの部は最高なんだぜ?篠原なんか、ぜったい成長するはずだ しさ!」
おっと、篠原の名を出したら、あの老人がイエローカードを持って出てきそうだ・・・私は言葉を選びながら日向と語った。
「じゃあ、そういうお前は、何を守るんだ?」
「俺か?」
しばらくの沈黙。ビデオはいつしか終わり、スタッフロールが流れていた。
「俺・・・小林のためなら、命かけていい!」
小林――俺は思い出した。そう、日向は親友であり、いつしか恋敵にもなっていた事を――日向は私の後の妻であり、この時の同級生でもある小林美智子が好きだったのだ。
「俺、夏が終わるまでに小林に告白しようと思うんだ・・・」
日向は真剣な表情で私を見つめていた。私は何も言い返すことができいでいた。どうすればいい。・・・美智子――小林さんは私の未来の妻である事を彼に打ち明けるか・・・
――あなたは高校2年生として生活してください。
――他人に未来を伝えない事。
――すべての時代において、あなたの存在がなくなります。
老人・粕原の言葉が脳裏に蘇る。そんな事はできないのだ。
暑い夏の高校生活・・・もうじき夏休みを迎える・・・。
(ジャージ   Aug 21 (Mon) 01:13 2006)

夏休みが始まり、ごろごろして、1日を過ごすのが日課になった頃
突然小林から電話が来た
「もしもし、小林だけど話したいことがあるの。今から家に来てくれない?」
「わかった!すぐいく」
―――――家に着く
(まゆ   Jun 20 (Wed) 18:49 2007)

「はっ!!」ゴロゴロしてる間に夢をみていたようだ。なんという夢だ。
夢の続きを見ようと再び目を瞑るが、なかなか寝付けない。というよりも夢から現実に引き戻されたことに気がついた。
「アツい!!激アツだ!」全身が汗びっしょりになっている。ここだけスコールかと見まがうほどのびしょ濡れぶりで、睡魔も逃げ出すクソ暑さに部屋はサウナ状態だったのだ。
扇風機の弱風に吹かれ快適なゴロゴロタイムを過ごしていたはずなのにこれは一体どういうことだと部屋の扇風機に視線をとばすと、そこには沈黙した扇風機が頭を垂れていた。
「おいおい、タイマーにした覚えはないぞ」と一人ボヤキながらダイヤルを回すが、反応はない。何度もダイヤルを回してみる。しかし、やはり反応はない。
「マ、マジか!?なんてこった!」機械に対しての古来よりの修理方法”叩く”を使用してもまったく効果はない。
「かーちゃーん!かぁぁちゃーん!!扇風機壊れたよー!かあちゃーん!」何度も母親を呼ぶが返事はない。
「母ちゃんは買い物行ってるぞぉ!」庭でゴルフの素振りの練習をしていた父親の返事が返ってきた。オヤジがいたのは想定外だった。
「お、オヤジ!扇風機壊れたんだ!」その辺にあったウチワで涼をとりながらおれは父親の哲夫に助けを求めた。
「カタチあるものいつかは壊れる。これは世の常だ。いたしかたあるまいて。」哲夫は落ち着き払ってそう言うとドライバーをさきほどよりも強くスイングした。それはいままで振るっていた軌道よりも数ミリずれていたらしく、奇跡的に物干し台の下のコンクリの部分に激突してひんまがった。
「うわっ!なんてこった!」さきほどの落ち着きは嘘のように、今度は逆に落ち込んだ哲夫であった。
「すげーな・・・オヤジは予言者か?」
「うおぉぉん!うぉおぉぉん!」声をあげて泣き崩れるオヤジを後にしてオレは外出することに決めた。こんなサウナ状態の場所にいていくらウチワで扇いでも意味はない。世間は夏休み、だれかの家にころがりこんで涼にありつくか。
(おっさん   Jun 23 (Sat) 09:30 2007)

そこで家を出て、日向の家に向かった。
また映画でも見ようとおもったのだが、
途中で買い物袋を持った悠姉ぇにばったりと会った。
「どこ行くの、裕介ちゃん」悠姉ぇの明るい笑顔に私はなぜか胸が熱くなった。
一体、どうしてだろう。
彼女との間に何かがあったはずだが…、思い出せない。
「友達の家に涼みに行くんだ」
「そう」悠姉ぇはちょっと首をかしげると、
「今からみっちゃんがうちに来て、一緒にかき氷食べるんだけど、どう、来ない?」
(しのす   Mar 14 (Wed) 23:21 2012)
修正
(修正   Jul 16 (Mon) 09:15 2012)

「行かない。でもラブホなら行く!」
(能代   Dec 16 (Sat) 03:23 2017)


続く

な ま え

メールアドレス

はなしのつづき


 

戻る

文書中のタグ、および空改行は無効になります。
また、半角仮名文字は使用しないようお願いします。