『テーマ館』 第31回テーマ「2000」


ルナ ゆびきゅ 2000/01/03 01:28:12

      まどろむ大地を見下ろしながら、わたしは遠く彼方から吹く夜風に身を任せていた。藍色の波
      は深海の秘密をわたしに囁くように冷たい岸に打ち寄せ、生まれたままの姿の岸壁でトランプ
      のカードのように乱れた。毛むくじゃらの白い犬がビルの固い影の中で悲鳴をあげ、これが災
      いの元とでもいうように、自分の足を見つめた。手紙が届く間隔が長くなっていることを心配
      する親は、娘の声が夜を吹き去ってくれることを期待して眠れない。風のように言葉を交わす
      クローバーは、その小さな傘にのしかかる闇にふいに悪い予感を憶えて、呪文にかかったよう
      に息を殺した。

      わたしは何度見ただろうか? 
      山の影、獣の影、家の影、飛行機の影、人の影、人の影。決して二千回などではない。
      何度見ただろうか? 
      数多の人の目に太陽が燃え上がり、ささやかな酸素が彼の頭脳を突き抜けるのを。
      あなたは何度見ただろうか?
      神々の名における金属の手のひらが、わたしを乱暴につかみとり、カモメの翼さえひるがえら
      ない重い闇の底に放り込むのを。そしてクローバーの葉をあたため、毛むくじゃらの犬に自ら
      の心臓の場所を思い出させ、波頭に七つの色を与え、手紙の入った郵便箱を照らす太陽を高く
      差し上げるのを。
      あなたは何度見ただろうか?

Before