『テーマ館』 第31回テーマ「2000」
二千人目の男。 SOW・T・ROW 2000/01/13 14:42:48
最初は、愛した男を寝取った女を呪い殺すためだけに、魔女になった。
それは叶えた。
彼女は、世にも不細工な女になり、男に捨てられた。
そして、その男ともう一度結ばれたが、もう私は死ねない体。老いる事無い体。
何時まで経っても年取らない私を見て、男は私を捨てた。呪い殺しはしなかった。
仕方が無いなと思った。それから、千年生きてきた。
それから、幾度も死のうとしたけど、死ねず、私は、男たちと恋をするばかりだった。
恋をしても、恋をしても、結局男達は私を化け物と罵り、捨てて、殺そうとまでした。
時には私を受け入れ、私を愛してくれる奇特な男もいたが、それもこの体をすり抜けて、
先に死んでしまった。
色々な国を周ったが、男なんて、大して変わりはしなかった。
寂しさと、温もりへの執着が、ただ強くなるだけだった。
2000年。私が魔女になって、丁度千年目の年。
私は、ハワイにいた。人々がもろもろに時計台の前で騒ぎ立てる。
いつだって、どこに国でも見られる光景。いつの世だって行われる光景。
私は、二千人目の愛する男と一緒にいた。
その人も、奇特な男の一人だった。私の言葉を笑いもせず、疑いもせず、ただ頷いてくれた。
また、この人が死ぬまでの時間を私は人生に埋めるんだ。
何て、もう、幾度も考えきった事を、考えた。
これだけ長い間生きていると、もう、大概の事には慣れて、感情の起伏など無くなっていた。
愛するなんて、言葉だけにしか存在しないような概念を求めたのは、無感動な寂しさのせい。
本当は分っている。ただ寂しいから、私は男に抱かれるのだと。
この男を、愛してなんかいないのだと。だって、彼を彼と感じた事が無いのだから。
手をつないでも、キスをしても、それは頭の中にいる様々な男達と重なる。
五十番目の男、三十二番目の男、覚えているだけの男が、重なる。
男は、もう、九十を過ぎている。もう、死を待つばかりだ。
人がいなくなった夜の海岸。車椅子に乗って二人で歩く。
その体に持たれて、皺だらけになった男の顔に自分の顔を乗せる。
「愛している」「ええ」
幾度こんな会話繰り返したろう。もう、随分前から反射的に返事を返せるようになった。
自分は、男を愛してなんかいないのだ。惰性で、寂しさで、ここにいるんだ。
男は、目を瞑り眠った。単調になった会話に睡眠が勝ったのだろうか。
ふと、私にして見れば一瞬で薄くなった額を、触った。
冷たかった。また一人、私の中に入り、私を置いていった。二千人目の死。
涙が流れた。愛してなどいないのに、何故、こんな時、決まって涙が流れるのだろう。
二千回目の涙。そして、二千回目の最後のキス。
私は、その場を離れた。止まらない涙をそのままに、離れた。
金色の指輪。二千人目の男の贈り物。それを手に取り、そっと口に入れ、飲み込んだ。
次の男の時も、私は、この男の事を、今までの男の事を、思い返すのだろう。
Before