『テーマ館』 第31回テーマ「2000」


流星二千 はなぶさ 2000/01/23 17:08:18


      流星を二千個数えたらきっと夢が叶うと言われたので、私は友達と私の車
      で出かけた。街から離れた海沿いの展望台に駐車をして外へ出た。けれど、
      友達は寒いと言って車の中で熱い烏龍茶を飲んでいる。車の中じゃ良く見
      えないから出ておいで、と言うけれど、あんたが数えればいいでしょう、
      と言って出てこない。

      それならいいよ、と私はコートに深く身を沈めて展望台の階段を上がった
      ら、風が私を迎えてくれた。今日は本当に寒い夜だこと、と囁くように言
      ってみた。白い息が空中に消えていくのを眺めてみると、その背景の黒い
      宇宙との間には雲一つも掛かっていないことを実感できた。本当に寒いか
      らなのか、私の目の前には私が吐く息意外には何もない。

      きっと数えられるよ、と友達は言ってれたので、私もその気になってここ
      まで来たけど、そいつは寒さにめっぽう弱くて、今は私は一人で見つめる。
      一人で見つめると私の魂が体を離れて、衛星軌道上に浮かんだような気持
      ちがしてきた。ひとつ。

      私の見つめる部分よりももっと上の方に現れて消えた。視界ぎりぎりのと
      ころでかすかに残った光の記憶を反芻してみる。やっぱりひとつ。

      風は地球の表層で私を守り、そして邪魔する。冷たい風が私の眼球を撫で
      ていったら、目を開けているのが辛なって目を閉める直前にもうひとつ。

      閉じた後の暗くて、点滅するイメージの中で数える。やっぱりひとつ。

      数時間が経過して、私は十五の流星を数えた。東がちょっと白み始めたと
      きにやっと友達が私の後ろから一緒に見つめていることに気が付いた。私
      は友達を抱きしめて、こうすれば暖かいよ、と言った。友達も笑って私を
      抱きかえしてくれた。二人で流星を数えた。

      でも、結局は丁度二十で明るくなってしまった。眠くなった目をこすりな
      がら、またもと来た道を車で帰る。友達は熟睡していて、夢路をたどる。
      遠くに靄に白くなった街が見えてくると、私は実感した。

      あの中のどれかが彼だったんだ。二千の流星を数えることを教えてくれた
      彼が、私のために流した星をちゃんと受け止めることが出来たんだ。私は
      きっと前に進むことができる。

      もう二千なんてどうでもよくなっていた。

Before