『テーマ館』 第31回テーマ「2000」
魔人 ミレニアム ひふみしごろう 2000/02/14 21:52:19
「・・・・仁牟礼 亜美さん、27歳、・・・事務員、ね・・・ふーん・・・・じゃ、小噺君
逮捕しちゃって。」
「・・・はい・・・・」
「うげえええ、ちょ、ちょっと待って。」
轟警部補の言葉に”仁牟礼 亜美さん 27歳(自称)”は大げさにのけぞった。
「ちょ、ちょっと待ってくださいよ、刑事さん、一体、仁牟礼君が何を・・・」
石田館長があわてて僕が手錠をはめようとするのを止めようとする。だが、轟警部補は困った
ような顔をすると、小さく溜息をつき、館長にむきなおった。
「石田さん、仁牟礼さんはいつ頃からこの博物館に?」
「え?・・・たしか、初めて予告状がくる一週間ぐらい前だったから・・・一ヶ月くらいかな」
・・・おいおい・・・・
「で、ですが刑事さん。仁牟礼君は、たしかにいつのまにか私の机の中の鍵を持っていたり、
掃除の度に防犯カメラを壊してしまううっかり屋ではありますけど、仕事自体は真面目にやっ
てくれてるんですよ」
おいおいおいおい!!
だが、轟警部補は、もう一度小さな溜息をつくと、噛んで含めるように石田館長に言う。
「石田さん、仁牟礼さんの名前をばらばらにして別の意味のある言葉にしてください。」
「・・・・え?・・・・」
「だから、に む れ あ み・・・・・」
だが石田館長は、すぐにはピンとこなかったらしく、20秒ほどしてようやく・・・
「・・・み・・・・みれにあむ・・・・」(にむれあみーーー>みれにあむ)
「な・・・なんでわかったのよおおおお!!!!」
”仁牟礼 亜美さん 27歳(自称)”の絶叫が空しく響いた・・・・・・馬鹿・・・・
もとはといえば、3週間ほど前、この私設の村雨治五郎コレクション博物館に、爆破予告を記
した予告状が魔人ミレニアムなる人物からとどけられた。だが、館長の石田氏はこれを本気に
せず、うっちゃっておいたそうだ。すると、それから1日平均10件の割合で予告状(なかに
はクリスマスカードや年賀状も含まれていた)が届けられるようになり、この度、よう
やく警察に通報するつもりになったらしい。そこで、とりあえず事情を聞きにきた僕達が、椅
子に上って監視カメラをいじっていた見るからに怪しい女性に質問したところが冒頭のくだり
になる。
「ところで、爆弾ってホントに仕掛けてあるのか?」
「ふっふっふ、さすがは世界に誇る日本の警察、よくぞ我が正体を見破った。」
「いや、だから・・・」
「しかし、すでに聖なる炎は仕掛けられた。もう誰にも我が鉄槌を免れることはできぬ。」
・・・・・・だめだ、会話にならない。すでにどっかイっちゃっている。その時、ガラスケース
を眺めていた轟警部補が、僕の肩をつっつく。
「なんですか?」
「2000年におまえ達は恐怖を知るうううう!!!ひーっひっひっひ」
かまってもらえないからだろうか。いきなり”魔人ミレニアム”がひときわ大きな声をあげる。
だが、僕はかまわず、何故か嫌そうに頭を抱えている轟警部補のほうに振り向いた。見ると
ケースの中では仁王像が体育座りをしている彫刻があった。いかつい仁王のせつなそうな表情
がいとおかし。
「小噺君、2000のごろあわせ・・・・」
「え?」
すぐに警部補の言っている意味に思い当たる。2000年の恐怖・・・まさか・・・、しかし、
石田氏のつぶやきがその思いを裏付ける。
「あれー?こんな作品あったっけなー?」
2 0 0 0 −−−> ニ オー マル マル(仁王 丸まる)
*体育座り = 丸まっている
・・・・・・駄、駄ジャレ魔人・・・・・・
「げっ、これ時限爆弾じゃ・・・・」
石田館長、体育座りの仁王像に耳を近づけると慌てて離れる。たしかに像から時計の刻む音
がする。
「だーっはっはっはっは!!!その仕掛けは我が名のもとに・・・」
だが、轟警部補は無造作に像をつかむと、ひっくりかえしたりして眺めた後、底のほうを
いじった。後ろから覗きこむと、”むらさめじごろう”とひらがなで書かれた”む”の字の下
の方で、良く見ないと分からないようなスイッチが押されている。
ニア
ミ レ ニ ア ム −−−> ( 見れ NEAR む )
( ”む”の近くを見ろ )
・・・・・・(絶句)
・・・すべてが終わった・・・
”魔人ミレニアム”は後からやってきた僕達の同僚に連れられ、去って行った。
夕闇の中佇みながら、警部補のつぶやきがすべてを代弁する。
「・・・なんなのよ、一体・・・」
・・・・たしかに・・・・・
<おわり>
Before