『テーマ館』 第31回テーマ「2000」


真魔人 ミレニアム   −序章ー ひふみしごろう 2000/02/16 12:12:16


      眼下に人の流れがあった。
      夜の闇の中、通りを彩るイルミネーション、溢れかえる人の洪水。
      ”彼”はそういう眺めは嫌いではなかった。うねるような光の奔流、さながら一つの大きな
      生き物のようなゆっくりとした、しかし、しっかりとした・・・・意志・・・といったよう
      なものか・・・・・
      ”彼”はテラスに静かに佇みながらその流れを眺めていた。だが、視線系能力者の証である、
      ミラーサングラスの下の虹色の瞳は何もうつしてはおらず、ただ、眼下の流れと同じように、
      その光はゆっくりとゆらめいていた。

      2000年正月、それと前後して世間ではある種の者達があらわれだした。
      ありていにいってしまえば、犯罪者・・・・小さな犯罪から大きな犯罪、そう、食い逃げから
      殺人まで、さまざまな犯罪を犯す者達。
      たしかに、犯罪者というのはどこにでもいる。だが、彼らはそういった普通の犯罪者とは区別
      して考えられた。まるで正気をうしなったような犯罪時の態度、犯罪前の彼らの生活スタイル
      とのギャップ・・・しかし、そういったことが彼らが他の犯罪者と区別される理由ではなかった。

      ・・・他と分けられるその理由、彼らはすべて自らを”魔人ミレニアム”と名のっていた・・・

      ”彼”は眼下の流れから顔をあげると、ミレニアム・フェスティバル、のシンボル、ミレニ
      アム・タワーの光に装飾された姿を見つめた。だが、光の洪水の中からひとつだけぬきんでた
      その姿は、”彼”には、むしろ夜の闇のなかで、ぽつんとたっている頼りなげなロウソクの
      ようで、むしろ苦笑を誘った。

      ・・・・すべては”彼”の思惑通りにすすんでいた。”彼”の能力により、巷には”魔人ミレ
      ニアム”達があふれていた。大概は、”彼”の能力と自らの自我との板ばさみにより、正気
      を失っている者が多かったが、中には”切り裂きジャック・ミレニアム”や”怪人2000
      面相”として独自の覚醒を果たす者もあった。まさに、ミレニアム・フェスティバル、そして
      ”彼”には、そういった”彼”の能力に関わった者達が、いま、”彼”と同じ眺めをどこかで
      同じようにして眺めている、という確信があった。だから、”彼”は選んだのである、今とい
      う時、ここという場所を・・・

         ・・・・真の”魔人ミレニアム”の覚醒の場所に・・・・・

      「・・・たまらないな、この眺めは・・・そう思うだろ?・・・ハルカ・・・・」
      ”彼”がそう呟くと、”彼”の後ろに、かしずくようにして立っていたその女性は眼下の眺め
      を見るが、ただ「・・・さあ・・・」と答えただけで、じっとその光の奔流を眺め始めた。
      「・・・イトセの連中にも、進化することをやめた連中にも、俺の出した結論を分からせなけ
      ればならない・・・」
      その時、”彼”は眼下の人の流れの中に、こちらを見上げる懐かしい顔を見たような気がした
      ・・・かつての同僚、そしてかつての友・・・・・
      「・・・五月雨、流星・・・・」
      ハルカと呼ばれた女性が、不思議そうな顔をして”彼”を見るが、”彼”はただ「・・いや、
      なんでもない・・・」とつぶやいて再び視線を眼下に戻す。だが、もうその視界の中にその
      顔を捉えることはできなかった・・・・
      ・・・RRRRRRR・・・
      その時、ハルカの携帯が鳴り響いた。彼女はそれを取り出すと二言三言、話して、
      「準備ができたそうです。」
      と、鞄からなにかのスイッチのようなものを取り出した。
      ”彼”はそれを受け取ると、眼下の人の流れから顔を上げた。真っ直ぐにむけられたその虹色
      の瞳からはもうなんの感情も読み取ることはできない。
      「・・・いいだろう,流星・・・・止められるものなら、止めてみせろ。」
      ・・・”彼”はそう呟くと、スイッチを押した・・・・

      ・・・・刹那の閃光、地を揺るがす轟音・・・そして、恐怖・・・・ミレニアム・フェスティ
      バルのシンボル、ミレニアム・タワー

                    ・・・崩壊・・・

                               <おわり>
Before