第41回テーマ館「飛行機」



ミッチー takarada [2001/08/30 21:19:37]


訪れてほしくない日がやってきた。
今日の夜、飛行機恐怖症の秀郎がジャンボに搭乗する事になるのである。

三十も半ばに差し掛かった秀郎は先月結婚した。
妻の麻子は二十七。友人の紹介で知り合った。
また新婚旅行の事で一悶着あったのは式の夜であった。

「ふざけるな! 何を今更!」
「秀郎さんが飛行機嫌いなのは何回も聞いたし、新婚旅行も国内でいいと思ってたけ・・・」
「俺が飛行機に乗れない理由はよく知っているじゃないか!」
「そうだけど・・・言い訳がましいとは思っているけど、私どうしても行きたいの」
「お前何回もあそこに行ってるじゃないか。ミッチーマウスなら東京行けばいるだろ」
「結婚したら2人で行きたいって昔からの夢だったのよ」

秀郎が飛行機嫌いな理由。
それは今から十二年前に大切な妹を亡くしたからであった。
海外旅行好きな妹はアジアを貧乏旅行中に逝ってしまった。
小型のセスナ機が強風の為に墜落してしまったのだ。
妹の体も帰ってはこなかった。
強風の為に火のまわりが早く、何もかも跡形もなく消し去ってしまった。
それ以来、秀郎は飛行機に搭乗する事を拒否してきた。ただただ怖かったからである。

「わかった。今回だけだぞ」
「ほ、ほんとうに!嬉しい!ありがとう」

初夜にも関わらず朝まで説得された秀郎はついに麻子の涙ながらの訴えに屈した。
やはり一生に一度の新婚旅行だからと自分を宥めた。

それまでの恐怖は離陸が終わり水平飛行になったら消え去った。
乗ってみればそんなもんかとも思った。

「遠い昔に乗った時よりも揺れが全然ないな」
「これ最新型のジャンボよ」
「最近の飛行機はスチュワーデスがみんなミッチーマウスなのかい」
「この飛行機だけよ。親会社がディルニーなのよ」
「それと飛行機嫌いな人を和ませる効果があるらしいのよ」
「寝るときの毛布代わりがミッチーのぬいぐるみていうのもバカにしてるなー」
「いいじゃない。秀郎は被らなくてもミッチー顔だからね」
「ふん、俺は寝るぞ!(俺はミッチーはあまり好きじゃないんだ・・・)」

六月十日付け読切新聞朝刊。
「昨夜未明、18:50分成田発ロンサンジェルス行きのジャンボ旅客機ボージング777が太平洋
上で墜落。生存者はなし。みなミッチーマウスのぬいぐるみを着ており体の損傷はひどくなかっ
た。ただ一名だけ損傷が激しかった乗客は名簿から倉田秀郎と判明。彼だけがぬいぐるみを着て
いなかった理由を現在調査中である・・・。」

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