第41回テーマ館「飛行機」



ともだち Koh [2001/09/03 16:07:13]


 今日、ぼくは初めて飛行機に乗った。ぼくのお友達の美砂ちゃんと一緒に。
 美砂ちゃんと美砂ちゃんのママは、お仕事のせいで遠くにいるパパのところにお引っ越しする
んだって。ぼくは美砂ちゃんのお友達だから、一緒に連れてってもらえることになったんだ。
「みて!くもがしたにみえるよ!」
 美砂ちゃんに言われて、ぼくも窓の外を見る。
 驚いちゃった。そこには今まで見たことのない風景が広がっていたんだ。
 ふわふわの真っ白な雲が、前に美砂ちゃんと行った海のようにどこまでも続いている。そし
て、信じられる?七色の虹が、まんまるに見えるんだよ。
 でもね、雲も虹もすぐに消えちゃった。代わりに見えたのは、キラキラ光る海と小さな小さな
おもちゃのような街。海ってね、お空から見ると、波がないんだよ。不思議だね。
 それからも、美砂ちゃんとぼくは、ずーっと窓の外を眺めていたんだ。少しずつ少しずつ、地
面が近くなってくる。
 美砂ちゃんのパパがいる街まであと少し。
 …がくん。
 もうすぐ着くと思っていたら、突然飛行機がバランス崩しちゃったんだ。窓の外は、次の瞬間
真っ赤になって……。

 ぼくはいつのまにか眠ってしまったみたい。気が付いたら、ひろーい場所にいたんだ。緑色の
ビニールシートの上に、ぼくは寝かされていた。
 どうしてこんなところにいるんだろう。美砂ちゃんは?どこに行っちゃったの?
 ぼくをひとりぼっちにしないで。寂しいよ。早く迎えに来て。
 そう思っていたらね、美砂ちゃんのパパの顔が見えた。パパはぼくの焦げ茶色の頭を撫でてく
れたけど、すごく哀しそうだった。
 ねぇ、美砂ちゃんとママはどうしたの?
 でも、パパは答えてくれない。かわりに、そっとぼくを抱っこしてくれた。
「……よく、無事だったね……」
 パパはぼくを抱いたまま静かに泣いていた。パパの涙がぼくの顔に当たる。
 ぼくはそれで知った。美砂ちゃんとママは、ぼくを置いてどこか遠い場所に行ってしまったん
だって。
 ぼくは、ひっそりと泣いた。

 飛行機雲が浮かぶ青空を背に、小さな女の子と母親らしい女性の写真が飾られていた。
 その脇に、寂しげな顔の小さな焦げ茶のテディベア……

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