第33回テーマ館「天使」


エキストラ じょにい [2000/05/04 11:13:24]


はい、それじゃあ、シーン#6。大沢健が崖から海に飛び込む、からね。
スタントなしだから、スタッフ頼んだよ。ネットのワイヤーは大丈夫か?OKね?
は〜い・・・アクション! カメラ、パンしてよ。健、ためらいがちに足元を見る。
後ろを振り返り、ちょっと首をすくめる。カメラ、健の首をアップ!
そうそう、おおげさなくらい、なまつばゴクンと飲んで、躊躇する、足元ふらつく、
カメラ寄って寄って・・・ そこで健、背中から、ぐ〜っと倒れ込む、倒れ込む、
・・・って、座り込んでどうするんだ! カット! カット!
ちょっとちょっと、渡辺君! 負い込まれて逃げ場を失った健が、へたりこんでどうするの?
しっかりしてくれよぉ、予算少ないんだからさぁ。フィルムだってロハじゃないんだよぉ。
「あのぉ・・・」
なに? どうかした? オレちょっと言いすぎたかも知れないな、今。
いや、申し訳ないね、ははは。 どうも単発ドラマってのは、しょうに合わないんだよね。
今の、間をとったんでしょ? わかってる、わかってるって。
だいじょうぶだって。途中に頑丈なネット張ってあるし、まさかってときには、いや、ないけどさ、
もしもってときには、下にボートいるから。スタッフもいるし、ね?
もう1度、テンションあげて、1発で決めてもらっちゃえると、助かるんだなぁ・・・。
もうすぐ昼だし、ね? 気分よく、メシでも食おうよ? でしょ?
「いや・・・そうじゃなくて、高いところから飛ぶのって、撮影では初めてなもんで・・・」
あ? 今までいつも、あぶないのってスタントマンだよね? そうだよね?
渡辺君、クラスの俳優さんだと、次のスケジュールとかギュウ ギュウで、ケガしたらもう、
損害賠償もんになっちゃうもんね。うんうん。だいじょうぶ! わかってるって! ははは。
「・・・飛ぶのは別にいいんです。ただ、それを撮影されるのってのは、ちょっと・・・」
どういうこと? オレが監督じゃ、ヤってこと? ねぇ? カメラどうすんのよ?
何のために、4台いるのよ? え? このシーンのためにじゃないの?
「・・・いや、あとから、みなさんに迷惑かけることになるんで、多分・・・」
迷惑? どうして? ひょっとして飛べるとか? ははははッ! 
渡辺君は飛べちゃったりするかもね♪ うんうん。それくらいできなきゃ、プロじゃないよね?
「・・・一応はプロですから飛べますが・・・」
あそう? やっぱり飛べるんだ。ははは・・・。
それじゃぁ、今みたいな感じで、軽〜く飛んじゃってもらえないかな? ね? ね?
「・・・いいんですね?」
OK!OK! バンバン飛んじゃってよ、もう♪
は〜い、シーン#6、テイク2。 健が崖から飛ぶ。いきま〜す・・・アクション!
健、ためらいがちに足元を見る。後ろを振り返り、ちょっと首をすくめる。
そうそう、おおげさなくらい、なまつばゴクンと飲んで、躊躇する、足元ふらつく、
カメラ寄って寄って・・・ そこで健、背中から、ぐ〜っと倒れ込む、倒れ込む・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
もんじゃ焼き「でんでん」店内。
「源ちゃん、この間の渡辺健介のドラマの撮影、途中でドタキャンになったんだって?」
「・・・。」
「あんた、また言いすぎたんじゃないのぉ? この間、オレんとこで撮影したドラマの女優、
源ちゃんのドヤしは逆効果だって、ボヤいてたよ? だめだよぉ、ヤツら、あっての仕事なんだからさぁ。
もうちょっと、そこらへん、オトナにならんと・・・」
「・・・。」
「で? 上の方のドタキャン理由ってなんなのよ? 教えろよ!」
「・・・。」
「ちょっとぉ〜、〇竹撮影所っからの付き合いじゃない、他言は無用にするからさぁ、ね?」
「・・・渡辺が、おちないんだよ。」
「おちないって?」
「海にさ・・・岸壁から落ちるってシーンの途中で、落ちなくてさ・・・」
「渡辺って、高所恐怖症だったとか? そりゃ〜ないわな。とっくに本あがってたんだし・・・」
「・・・飛ぶんだよ・・・渡辺がさ・・・」
「・・・? あんたの言ってること、よくわかんないや。落ちないとか、飛ぶとかって、どっちなのよ?」
「・・・だから、落ちないの。・・・飛んじまうんだよ・・・」
「またまたオレのことをからかって! オチはなんなのよ、え?」
「・・・素性がバレたら、やばいってことで、ドタキャンしたんだよ・・・」
「素性? 渡辺のか?」
「・・・ああ。」
「素性って・・・警察とかか?」
「・・・それだったら、まだ、フォローもきいたかもな・・・」
「どこどこどこ、どこにバレたらヤバイのよぉ?」
「・・・NASAとか、そういう特殊な機関だろうな・・・あれは・・・」
「・・・・・・・・」
「・・・あいつは、プロだったんだよ。飛ぶのが。・・・立派な羽根だったよ・・・」
「・・・源太郎? あんた、たった焼酎3杯で酔うようになったのか?」
「・・・・・・オレは、とんでもないものを撮らされちまったよ・・・天使だとさ、ははは・・・」