第33回テーマ館「天使」


ライトアップ Lepi [2000/05/23 22:20:05]


夜の都会の上空を、二人の下級天使が飛んでいた。
もっとも、本人がそう仕向けない限り、天使の姿を人間の
目が捉えることはない。
「どうだい、この変わり様は」
天使の一人が下界を見下ろしながら言った。
「ちょっと100年ほど居眠りしただけで、大変な変化だ」
「フフ、あんたが眠ってる間に、見てて退屈しないほど色々あったわよ」
「ちぇっ、起こしてくれよ……それにしても、こんなに明るくちゃあ
 俺たちが姿を見せても冴えないなあ」
「そうよねえ。今はどの家にも、私たちの頭にあるような光のわっかが、
 部屋ごとにぶらさがってるのよ。そのうち人間たちだって、一人一人の
 頭上にも光の輪を載せて歩くようになるわよ」
「そうなったら、後は翼と後光ぐらいか……」
「ところがね、人間たちは自分に翼や後光がない代わりに、無生物に
 やらせちゃったのよね。ほら」
二人の天使のそばを、ジャンボジェット機が通過していく。
「主の御力でもお借りせぬ限り、一度にあれだけの人数を運べないな」
「それにほら、あの建物、光ってるでしょ? 近頃の人間たちは
 建物とか橋とかに後光を背負わせて喜んでるらしいわ。
 ライトアップとか言うらしいけど」
二人の下級天使は天界へと戻るべく、どんどん上昇していった。
天界への門をくぐる直前、二人はもう一度地球を振り返った。
「何とまあ、自分の国そのものをライトアップしてしまうとはなあ。
 こればかりは我が主でもお出来になるかどうか……それにしても、
 国そのものをライトアップしてどうしようと言うんだ?」
二人の視線の先には、莫大な電力消費によって夜の地球に
くっきりと浮かび上がった、日本列島の姿があった。