第33回テーマ館「天使」


1粒の・・・ じょにい [2000/06/10 02:09:43]


「それでは、これから始めます。まず1番から5番、中に入りなさい」

「全員に聞く。得意なジャンルを述べたまえ。1番から、名前とエリアとジャンルを。」
「1番、UG37EP。神戸。希望です」
「2番、UG32EQ。金沢。伝統です」
「3番、UG38EW。沖縄。労りです」
「4番、CL19AF。北海道。誇りです」
「5番・・・」
「待ちたまえ。4番。おまえは随分と旧式だな。北海道か、アイヌか?」
「はい。曽祖父の代からです」
「ほぉ、おまえの曽祖父とは?」
「はい。キ七白です」
「おぉ、キか・・・これはまた懐かしい。犬は元気か?」
「はい。お陰様で。ですが純潔種が少なくなっております」
「ふむ。野犬と交わるものが多くなっておるだろうかな。できるだけ守りなさい」
「はい」
「次、5番」
「5番。伊豆大島。潤いです」

「下がってよろしい。別室にて控えなさい。次、6番から10番。中に入りなさい」

「お疲れでございました。いかがですか? 今年の者たちは?」
「うむ。やや平凡すぎるような気がするな。ところで、この近年、恋愛を得意ジャンルと述べる
ものが少ないような気がするが、どうだ?」
「はい。おっしゃる通りでございます。適性検査でも、恋愛に向く者はほとんど該当するものが
おりません」
「それはなぜだ?」
「約1名、やり甲斐がない、と回答した者がおりました」
「その者は今どこに赴任しておる?」
「はい。埼玉におりました」
「すぐここに呼びなさい」
「いえ、それが・・・」
「どうした?」
「やはり、やり甲斐がないと申しまして、羽根を折ってしまったのでございます」
「なに? 羽根を折ったのか・・・ もったいないことを・・・その者はHEARTをいくつ持
っておった?」
「それが、1つしか持っておりませんでした。最初の適性検査でNoと出たのですが、なぜか残
ってしまったのでございます」
「その者がおれば、天使たちの間にも、もう少しよい刺激があったことであろうな」
「は? と申しますと?」
「その者は、おそらくわたしの息子の子だ。つまり孫だ。わたしの系譜はみなHEARTが1つ
なのだ」
「それでは、その者が・・・」
「そう。その子こそ、人間にとっての天使だったはずの者だ」
「では、もう人間には天使は・・・」
「現れないであろうな。仕方があるまい・・・。もういい。今回も適任者はなしだ。いや、あの
4番だけは、こちらに渡らせてもよかろう。あの者は曽祖父からの歴任だ。あの者には1粒あげ
なさい」
「かしこまりました」

「おお、CL19AF。おかえり。どうじゃった?」
「大ジイ様、1粒いただいて参りました」
「そうか、もらえたのか。そうかそうか、よかったのお」
「はい!」
「では、明日の朝、空から落としてあげなさい」
「ですが、少し不安があります」
「なんじゃ?」
「私の友人のJY91SXという者が、こんなものを落としても仕方がないと言うのです」
「・・・その者は今、いずこにおる?」
「裏の小川の横に広がる草原で寝ています」
「その者は、羽根はついているのだろうな?」
「いいえ。彼は27年前に羽根を折ったそうです」
「・・・羽根を折ったとな。CL19AFや。明日その者に、頂いてきた1粒をあげなさい」
「なぜですか、大ジイ様?」
「その者には、まだやるべきことが残っているはずじゃ。その者にしかできないことがのう」

 翌日の朝、CL19AFは、やっともらってきた1粒をJY91SXに手渡した。
 この1粒が広がるまでには約3年がかかるという。それまで人間界に天使が現れることはな
い・・・・・・・。